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第60話 本来の予定表

後書きにも書きましたが一応前書きにも書かせて頂きます

次回は明日日曜日18時に投稿予定です

お間違えのないようお願いいたします





「あの明晰な古夏さんが何の手も打たなかったと本当にそう考えてるんっすか?」


 気付いてない振りですよね、と再度確認するかのように聖は未桜に問いかける。未桜は改めて今回の作戦、いや今回の作戦に至るまでにあった会議から思い返す。違和感は確かにあった。


 単独任務が多い銀の弾丸で珍しく総動員戦だった点。

 任務内容が対象の抹消にも関わらずスバルが担当しない点。

 その対象が天神党夜の知人であった点。

 普段とは違う古夏真冬の強引さが見られた点。

 銀の弾丸の頭が会議に横槍を入れてきた点。

 

 パッと考えられるだけでもこれだけ。挙げ始めたらキリがない。それほどまでに異質だった今作戦。いつものように冷静沈着な姉川未桜ならば見逃さなかったであろうそれらの点を、丸ごとごっそり脳の隅っこへと追いやっていた異常さ。追いやらせた空気感。


 原因はもちろん天神党夜、七瀬涼子両名が銀の弾丸を抜けたことに起因していることは火を見るより明らかなことだろう。

 

 そうだ、本来なら何処かのタイミングで気付けたはずだった。ヒントはすぐ目の前に転がっていた。なのに気付けなかったのは、聖の指摘通り未桜がのヒントを見逃していたから。


 視野狭窄状況になっていた未桜の視界に映り込まない、視覚の死角だったから。だから未桜は気が付かなかったし、気が回らなかった。目まぐるしく展開された設計図にある決定的な穴を取り逃がした。


 党夜の脱退は未桜の思考停止を引き起こすには十二分な威力を備えており、未桜はそのことを認識しておらず、しかし第三者は正確に把握していたからこそ、ここまで用意周到に物事が進んでいた、進んでしまった。


 気づけばもう取り返しのつかない、取り替えも返品も両替すら許容出来ぬまでに進行してしまったから。


「私が気付かないことまで計画の内だったと……そう言いたいのか?」

「恐らくそうっすね。姐さんの心理から導かれる行動全てが古夏さんが想定の枠から一滴も漏れることなく、もれなく的中したってことっす。恐ろしいったらありゃしないっすわ」


 絶対に敵に回したくないのは古夏さん一択っす、と聖は冗談混じりに本音を吐露する。その言葉には畏怖と尊敬が捏ね上げたものだと未桜は悟る。


「私は真冬の(てのひら)の上で踊っていた哀れなピエロか……」

「そこまで卑下することはないと思うけど……」

「ははははは………情けないな……まだまだ修行が足りないようだ……昔から心理戦はどうも苦手でな」

「そういうのは役割分担っすよ。一人で全部こなせるなら言うことはないっすけど、現実的には不可能。なら一人一人役目似合った演目て全力投球が効率的っしょ?」

「効率的か……そうだな……」


 全くだ、と未桜は小さな声でこぼす。


「変更した……いや当初から練られていた予定(さくせん)を聞こうか」

「はい。風霧銀次が風霧組組長の座を退いたらしく、それにより抹消対象の消滅。よって作戦続行不可との判断っすね」

「なるほどな……だからこそ、“風霧組組長である風霧銀次”を消すことが作戦の旗印にされていたわけだな」

「言い訳できる抜け穴を始めっから用意していたわけっすね」


 納得はできないが、把握はしたという表情を見せる未桜。


「で、これからどう動けばいい?」

「まず俺はそこで寝転がってる党夜を抱えてこの縫戸組敷地内から出るっす」

「涼子も来てるのだろ?ってことは……」

「ええ、七瀬さんの回収は向こうのグループが実行するとのこと」

「二手に分けたのはこのためか……」


 向こうのグループとは水無月桃香、明日原飛鳥のことだ。


「で、私は」

「これは事前に知らされていた通り、ポイントF-8で姐さんが能力を使うっすね。そのポイントならほぼ取りこぼしたなくこの敷地内全てを能力の影響下に置けるっす」

「そこは変更なしなのか」

「らしいっすね。だから言ったじゃないっすか。能力は使ってもらうって」

「そうだったな……」


 未桜は何かを諦めたかのように、ぼそっと呟く。もう自分が何を言おうと変わることのない、普遍で不変な作戦。抗うために気力を絞るのは効率が悪いといった、実に未桜らしい判断だ。


「あっ、一つ変更点があるとするならば」

「なんだ?」

「姐さんが指定のポイントに着く頃には俺らが党夜と七瀬さんを回収と退去が済んでるはずっす。なんで敷地内に残されるのは俺たち銀の弾丸とは無関係な者だけ」

「それは、つまり……」

「ボスからの伝言っす。確か……“サクラくんのことだ。嵌められて心底腹が立っているだろ?だからこそ、後始末は任せたよ。能力を使わない選択肢は与えてあげられないけど、それ以外なら好きにしていい”ってことっす」

「つくづくふざけた男だ」


 抗うことを止めたが、それでも十分な納得を示したといえばそうではない。現にあの上司らしい高圧的な物言いには腹が立ったし、聖の特徴を捉えたモノマネが癇に障ったし、意外な特技を見せられ辟易(へきえき)とした。


 だから、正確に言うならば「つくづくふざけた男達だ」なのかもしれない。


「ああ、それと“君の力の前に震え上がる群衆を見れないのは非常に残念だ”とも言ってたっすね」

「ふんっ。聖、私からも言伝を頼む。そうだな……“今回は真冬の顔を立ててお前の言う通りに動いてやる。それと、見たければここまで来てみろ。その腐った根性叩き直してやる”とな」

「伝言ゲームじゃないんっすよ?伝える俺の身にもなってくださいっす……」

「知らんな」


 言伝を言い終えると未桜は聖に背を向け、歩き始めた。指定のポイントに向かうのだろう。一方、聖は地面に寝転がる党夜を抱え上げて未桜とは逆方向に進む。


「最後にいいっすか?」

「なんだ?」


 未桜も聖も振り向かず、背中合わせのまま話す。


「腹いせも程々にしてくださいっすね」

「それは聞けぬ相談だな」

「はぁ……そうっすか……ほんと同情するっすよ」


 聖が一度振り返った頃には既に未桜の姿を捉えることができなかった。聖は思う。


「姐さんの力を受けるのは御免被りたいっす」


 そう言うと党夜を抱えているにも関わらず、移動速度を上げ、いち早くその場から離れようとする意志が見受けられた。





 一方、涼子サイドでは。



「地響きと轟音が絶えない……党夜さんが戦ってる?やっぱり駆けつけたほうが……」


 駆ける足を一度止め、激しさを増す地響きと轟音の震源地であろう方向へと目を向ける。その方角は今歩を進めていたそれとは真逆。十中八九この現象の原因は党夜が縫戸から仕向けられた刺客との戦闘によるものだと、涼子は当たりをつけていた。


 その推論は正確には正しくない。これは党夜と縫戸からの刺客ではなく党夜と未桜の戦闘によるものだから。しかし今の涼子はそのことを知る術はない。そして全てが終わった後にこの真実が伝えられることになる。


 党夜の相手が未桜だと知らない涼子はここで選択を迫られる。現在涼子は清澄沙澱を倒し、縫戸邸へと向かっていた。それはもちろん党夜との合流を兼ねているのだが、それよりも銀次の安否が肝心な点だろう。


 涼子は銀次が置かれている危険性を理解していた。あの突如襲ってきた銃器の嵐の中で涼子は冷静に銀次の能力“無敵の要塞(アヴァロン)”について考察していた。


 目の前で狭る弾丸が過負荷粒子の壁に弾かれた瞬間を見ていれば、凡そその能力の性能に当たりをつけることができるだろう。外部からの影響を遮断できる。少なくとも物理に関しては。


 しかし問題はそこではない。事前に聞かされていたもう一つ風霧組が現在進行形で抱えている問題。それは裏切り者の存在だ。


 裏切り者を特定し、奇しくも消すことになるのだが、その方法がこの縫戸組との抗争へ候補者を連れ行くことだった。その作戦が裏目に出たことは涼子も飛ばされた後に気付いたのだ。


 銀次が裏切り者が誰なのか特定していない段階で、自分と党夜が飛ばされ、結果的に銀次が残されたこと。現在、銀次が裏切り者と共にいること。


 だから涼子は沙澱を倒し、直ぐに縫戸邸へと駆けたのだ。党夜か自分、どちらでもいいから取り返しのつかない事態になる前に駆けつけるために。


 だが、刻々と状況は変わりつつあった。それは背後から聞こえてくる戦闘音。尋常ではないかその音は涼子を不安に駆り立てる材料になった。党夜の身が危ないのではないかと。


 戦闘音に加え、過剰な程の過負荷粒子が感じされる。涼子は日向モールでの党夜の覚醒を見ていない。資料や報告書の字面では判断できない。ならばこの過負荷粒子の量に危機感を感じても何らおかしくない。


 もう一度言おう。涼子は党夜が未桜と戦っていることを知らない。


 ならば涼子が足を止め、移動から思考へとシフトするのは致し方ないことだとも言える。


(どうすればいい……誰か正解を教えて……)


 他力本願だと場違いな指摘をする阿呆も、そもそもこの場には涼子しかいない。なら決めるのは涼子以外あり得ない。考えろ考えろと自分に言い聞かせる他ない。


 どれだけ考えたのか。それはほんの数刻だった。それでも長考に思えてならない。気付けば、遠くで鳴り響いていた戦闘音が消えていた。


(えっ……?まさか……)


 嫌な予感が脳裏を(よぎ)る。


(嘘だよね……)


 党夜が勝った。だから戦闘音が鳴り止んだ。そう考えてもいいだろう。党夜の成長を、力を間近で見てきた涼子にとってその思考が普通であると言える。


 でも、初めに浮かんだのは党夜が倒れ込む姿。信頼し、敬愛する少年が負けたビジョンが真っ先に浮かんでしまった。


 先程までどちらに行くべきか悩んでいたからこそ、マイナスの方へ、悪い方へ悪い方へと考えが及んでしまったのかもしれない。負のスパイラルに陥る。


 日向モールの事件の時に悔いたはずだった。私が駆けつけていれば、少なくとも力にはなれたはずだと。つい数週間前の自責の念が蘇る。


 袋小路になった涼子のマイナス思考は止まらない。止まらないからこそ、この場から動けない。党夜がいる場所へ駆けつけることもできない。そんな状況でいきなり襲われれば、反応が遅れるのは必然と言えた。

 

「……………え?」


 バサッと頭上の大木から人の影が落ちてくる。涼子の目の前に着地すると拳を打ち出してきた。涼子は反応が遅れるが、なんとか迎撃しようと咄嗟にあるだけの過負荷粒子を纏い反撃に応じる。


 そこまできて、襲ってきたのが誰なのかを目視した。見覚えのある姿で、以前にも手を合わせたことのある相手。自分よりも背が低く、小柄な少女。その少女は涼子の反撃に驚き、僅かに目を見開くが、その後口元を緩ませる。


(桃香さん……ああ……そうか……)


 拳と拳がぶつかり合うまでのコンマ数秒の間に涼子は思い至る。何故水無月桃香がここにおり、涼子に向けて拳を振るうのか。銀の弾丸と自分が敵対関係にあることをこの瞬間まで忘れていた 。


 時間の流れが遅く感じられても、時間は待ってくれない。拳と拳がぶつかろうとしたその時、不可思議な現象が起きた。


(えっ……?)


 涼子の拳が桃香の拳をすり抜けた。いや、拳だけではない。そのまま桃香の身体ごとすり抜けたのだ。まるで涼子が今相対していたのが残像、もっと言えば蜃気楼のようだと。


 涼子は知らない。以前、この現象が我が身に起きていたことを。沙澱(さおり)の不意打ちから守ってくれた力であることを。


「流石の再現力ですね……明日原さん」


 背後から声が聞こえた。その声は紛れもなく桃香の声だ。いつの前に回り込まれたのか。そもそもさっきまで自分が何を視ていたのか。判断できない。


 涼子は今拳を振り抜いている。それは隙だらけであることを意味する。つまりは急所である首元もまた然り。


「かはっ……」


 桃香が振り下ろした手刀が涼子の首裏を捉えた。その一撃は意識を刈り取るには十分な威力で、それでいて後に後遺症が残らないように加減されたものだった。


 後ろから一撃をもらった涼子は意識を失い、前へと倒れ込む。が、涼子が地面に倒れることはなかった。倒れる前に身体を支える者がいたからだ。


「よっと……全く無茶するね。水無月ちゃんも、七瀬ちゃんも」


 燃えるような赤のツインテールがトレードマークの少女。明日原飛鳥だ。


「これが手っ取り早いですからね。さっきまでは敵対していましたから、話し合いでは時間を食われます。それにあの幻覚の手助けがあってこそでしたが?」

「まあね。今回は水無月ちゃんの補佐官ですから私。よしっ、私達も急いでここから脱出しよう。未桜先輩の力に巻き込まれたらただじゃ済まないよ」

「ですね」


 こうして涼子もまた無事回収された。





〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




「ふざけやがって……」


 つい言葉が、感情が、不満が漏れる。周りには誰もおらず、一人になったことで吐き出される罵詈雑言。


「何が好きにしろだっ!」


 気に食わない。何でも知ってると言わんばかりに、強いくせに高みの見物で、状況を俯瞰してるだけに過ぎないくせに、しゃしゃり出てきては場を乱す。それでいて美味しいところは根こそぎ持っていくあいつが。


 そして、何よりも。そんなあいつの思惑に気付きもせず、感情剥き出しにして、踊っていた自分が気に食わない。党夜のことで頭が一杯で周りが見えていなかった自分が情けなく、この上なく許せない。


「ちくしょう……」


 悔恨の渦が巻き起こる。身体の中で捻じれ、荒れ狂う感情の嵐を制御せず、本能のままに想い続ける。どうせ静まるのだから。


「ここが、ポイントか……」


 何も考えずとも作戦前に見た地形と割り振られた番号は頭に叩き込んでいた。例え他のことに気が取られていても、道に迷ったり、ポイントを見失うことはなかった。


 しかし、それでも見失うものは確かにあった。指定のポイントには辿りつけても、奴の真意には到達できなかった。結局は振り出しに戻る。


「ああ……止めだ止め」


 袋小路に迷い込んだ感情に蓋をする。自分の力とはいえ、前回使ったのはいつのことだっただろうか。すぐには思い出せない程に過去のことだとだけ解った。


 それでも焦りはない。皮肉にもこの力は、自転車の乗り方よりも忘れることができないぐらい、身体に染み付いている。使った回数などしれている。なのに身体はきちんと覚えている。


 それほどまでにこの能力との相性が良すぎた。


「ふぅ……」


 必要もない深呼吸を入れ、能力に備える。発現すればその時点で勝負は決する。恐ろしい干渉力を持つそれは常人では抗えない。


 そして移動したこの地点はここら一帯の中心点。多くの人の気配が感じられる。この時点で巻き込まれるのは必然。だが、躊躇うことはない。能力を使う、それもまた必然なのだから。


 過負荷粒子を解放する。普段のように肉体強化のような付加的なものにではなく、正真正銘異能を発現するために。


「“極寒世界(フリージング)”………」


 唱えた言の葉はたったそれだけ。しかし変化は一瞬だった。木々の葉には霜が降り、初夏には見られない現象が次々と起こった。


 ここから行われる一部始終を見た上で、万が一生き残ることが出来た者がいるならば、こう口にするだろう。


 “雪女”と。




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などがありましたら教えていただけたら幸いです


未桜の能力チラ見せ

能力詳細は明日に持ち越し!


前書きにも書きましたが

第61話は明日日曜日18時投稿予定です

お間違えのないようお願いいたします

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