表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/73

第47話 裏の世界

長らくお待たせしました

本日より再開します

期間が空いてしまったので第46話の最後や登場人物紹介を再読することをおすすめします


では第三章スタートです



『出来ることなら全てを救いたい


 でも矮小な自分では不可能だろう


 ならどうすればいい


 多を守るため個を切り捨てるしかないのか


 いや違う


 個を守るため自身を切り捨てればいい


 その選択が間違っていないと言い聞かせながら』




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜



 組。極道。ヤクザ。暴力団。


 言い方や成り立ちや構成などは様々ではあるが、一般的な認識で総括するのであれば、おっかない兄ちゃんの集まり。ふざけた言い回しにはなるがヤンキーのマジもん。と言った風に捉えられるかもしれない。


 それらは組織を形成し、暴力などを背景に活動しながら収入を得る者達をそのように呼ばれる。個人間の繫がりとして絶対的権威である親分と追随者である子分の関係が広く社会で見られる点を示すものであるものとする。その上でやくざを特徴づけている別の内部要因として、集団の共通目的、成立の社会的条件、存続のための経済的活動、社会的価値基準から逸脱した副次文化等がある。


 組織のトップは親分、親父、総長、オジキ、組長などなど各々組織によって呼び名は違うし、その下に控える若頭、最高顧問、幹部、舎弟などが控えていることが多いだろう。


 どの組織もほぼ共通点といえるのが、親分に当たる人物を“親”と立て、その下の者達は皆“兄弟”とみなす家族構造だろう。だからこそ兄弟の誰かが何かをすれば、兄弟同士で助け合い、時には仇討ちをしたりすることもある。


 しかし実態というのは詳しく知られていない。それもそうだろう。この世の中にはそのような組織がゴマンと存在する。全てを一括にしてしまうことなど出来ない。それぞれがそれぞれの組織に誇りを持ち、己が親とした者を崇め、その者のために命を張っている。


 だからこそ自分たちが背負っている組織を虐げる者には暴力で解決しようとすることもあろう。それにより組織間の抗争も生まれる。中には一般市民にも被害が及ぶものや、一代で終わるものもあれば、二代三代と渡って争うこともあるだろう。


 全ての組織は似ているようではあるが、似て非なるものであるのだ。一般人からすれば恐怖の対象であることは確かだろう。それでも必要悪として存在する組織も多々ある。先祖代々引き継がれてきた組織を子孫が、また血筋から離れ信頼ある“息子ら”が組織していることも。


 後ろ指を指されることを避けるため、組の若い者達が慈善活動に勤しむ組もあるらしい。ごみ拾いを始め、たむろする若者の注意などもするらしい。つまり組が大きければ大きいほど、組の権力があればあるほど、その組が根付いた街で悪さをする若者が減るとも聞く。


 そういった例も含めて、彼らは社会において悪と決めつけるのは早計だと思う。悪であってもそれは必要悪なのではないか。偏見を捨てることは難しいが、今一度考え直すことをお勧めしよう。


 なんせ、


 風霧組こそ平塚ヶ丘に居を構える必要悪だったのかもしれないから。





〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




「手筈通り言ってるんだろうな?」

「もちろんです」


 最低限の灯りだけを灯した一室で、声を抑えながら話す二人の人影が締め切ったふすまの障子に映る。一人は横柄な態度で、もう一人は頭を下げていることが伺える。


「ならいいんだがな。ただでさえ組の中にはお前を信用する者が少ない。中には密偵じゃねえかと疑う者もいる始末だ。こっちでも裏を取るが構わねえよな?」

「はい。お手数お掛けします」


 頭を下げている男は返事の際に顔を上げるだけで、それ以外では常に額を畳に擦り付けるような姿勢を取っていた。


「あと何か気になる点はあったか?」

「今のところは特に何も……強いて挙げるとするならば、組内が少しばかりピリピリしていることでしょうか」

「ははっ、それもそうだろうよ。あんなことになれば、ピリピリしても仕方ねえ。といってもまさか身内に裏切り者がいるなんて、あの仲良しこよしな組長さんは思いもしねえだろうがな。まあ疑心暗鬼になったら、それはそれでこっちのもんだ。どう転んでも旨い脂身はうちが総取りだがな」

「そうでございますね」

「だからこそ失敗は許されねえ。後戻りなんて以ての外。上手く行けば、約束通りお前の席は用意しておく。後腐れのねえようにやりな」

「お気遣い感謝します」


 感謝の意と共に男は額を畳にめり込むほど一段と低い姿勢を取った。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




「今日のHRはここまで。部活動がある者は手を抜くことなく励むように!帰宅する者は寄り道せずに帰るように!ではさようなら」


 今日も何事もなく一日が過ぎていく。ゴールデンウィークも終わり、教室内の浮かれたムードは明けに実施された中間テストによって引き締められ、これといった行事もなく日々刻々と学業に勤しむ生徒の姿がここ、平塚ヶ丘高校で見られた。


 春も終わりに近づき、差し迫る夏を目前とした校内ではうちわを持参する男子や、汗で流れた化粧を直すためトイレへ駆け込む女子も出てくる。


 部活動に属する者の中には夏の大会に参加する者が多くいる。大会に向けて練習に力が入る。一年生にとっては高校での初めての大会であり、二年生にとっては去年から一年間の練習の成果を出す大会となり、三年生にとっては高校生活最後の大会になりうる。


 三者三様ではあるが、入学当初や進級当初に比べると襟元を正し、気が引き締まっていることだろう。テスト終わりで気を抜く者はいるが、それでも度を越すような者は稀だろう。


 中でも重たい空気を醸し出す生徒もまた稀だろう。


「今日で何日目だ?」


 そう呟くのは表情が硬い男子生徒、天神党夜だった。


「あれから20日、約3週間ね」


 答えるのは党夜の前の席に後ろ向きに座っていた女子生徒、平塚紫である。後ろ向きで背もたれ部分に肘を立てて座っているので、必然的に足は開かれている。平塚ヶ丘高校は制服、女子はもちろん指定のスカートを着用している。


 正面に党夜が座っていなかったら万が一があったかもしれないが、今そんなことは紫にも党夜にも頭にない。


「みんな連絡は?」


 次に発言したのは党夜から向かって右前方、紫の左に椅子を持ってきて話に参加している女子生徒、伊織楓だ。


「メールも電話もダメだった」

「私も」

「みんな同じってわけね」


 6月も中旬にもなろうかという現在から遡ること約3週間前、党夜からすれば魔の中間テストとなったテスト最終日のことだ。その日、党夜らの幼馴染である風霧陣が担任である水無月玲奈に放課後呼び出されて以来登校していない。


 次の日、玲奈から陣の欠席が告げられるが、党夜達は違和感を覚えつつも普段通り学校生活を過ごした。放課後に三人ともが陣に「大丈夫か?」とメールを送りもした。しかし返事が来ることなく、その上翌日も陣は学校には来なかった。


 その日も玲奈から告げられたのは陣の欠席の旨のみ。党夜が理由を訊くも納得のできる説明がなされないまま、ずるずると今日まできてしまった。今日までにも電話とメールはするものの、返事は得られないまま既に3週間。


 クラスメイトはもちろん、校内で発足した風霧陣ファンクラブの面々も陣の欠席に大きな疑問を抱きながらも何も出来ずにいたのは言うまでもない。


「家に行くか?」


 党夜はそう切り出す。しかしこれはこれまで何度も提案した案であった。そしてその度に却下された案でもある。


「それはダメだってことになったじゃん。あのジンが私達に返事もしないぐらいのことよ?これまでに一度でもあった?やっぱり……」

「お家事でしょうね」

「「………」」


 紫の言葉を楓が引き継ぎ言う。三人がその結論へと辿り着くまでに時間は掛からなかった。というよりも二日目の時点で気が付いていた。


 風霧組。陣の父親である風霧銀次(かざきりぎんじ)を組長とする一派閥。平塚ヶ丘界隈でも有名な組の一つで、その本拠地である風霧邸には銀次に忠誠を誓った“兄弟”が多くいる。


 党夜も紫も楓も陣の実家である風霧邸には何度も足を運んだことがある。三人とも初めて訪れた時は驚きを隠せなかった。塀が、家が、庭が、全てが大きかったことだけでなく、陣が帰宅するだけで多くの“兄弟”が出迎えるのだ。まるで映画のワンシーンのような光景である。


 組の規模を知っているだけに今回の陣の不登校はきな臭いものを感じる。楓は中学からだが、党夜と紫は小さい頃から見知った仲であるが、これまでこんなことは一度としてなかった。正真正銘今回は初めてなのだ。だからこそ誰もが動けずにいる状況に陥っている。


「待つことしか出来ないのか」

「そうね。ジンを信じて待とうよ」

「風霧くんならきっと大丈夫」


 三人は無力だった。大切な友達が何かに巻き込まれているはずなのに、何も出来ない。陣の家全体で何かが起きていたとしたら尚更だ。一介の高校生では簡単に足を踏み込んでいいものではない。


 しかし党夜は納得できない。陣が自分達を頼ってくれないなんて見当違いな想いは抱かない。そうではなく紫や楓はまだしも、自分には二人にはない力がある。大切な人から受け継いだ力が。


 自分にとって分不相応な力であることは十分自覚しているし、この前の日向モールの一件でも思い知ったばかりだ。大きな力を持ったが故の過剰なまでの自信が仇となったあの事件。解っていたはずなのに、無意識の内に自分なら解決出来ると高を括っていたあの日。


 反省したはずの党夜であったが、それでもなお今の状況に納得できない。どうしても解決はなくても、自分なら力になれるのではと考えがちらつく。自分だけで無理だとしても、未桜なら、涼子なら、月夜見なら。銀の弾丸のメンバーなら手を貸してくれるのでは?そうすれば解決の糸口を見つけ出せるのでは?そう思わずにはいられない。


(相談すべきか……)


 何度も思考を重ねつつも、最後の決断には至っていない。陣が登校しなくなった日以降も党夜は銀の弾丸の地下施設には行っていない。真冬から呼び出されてから呼び出しもない。あったのは涼子から顔を見せてほしいという旨を伝えるメールと、未桜の日向モールの件で力になれなかったという謝罪のメールのみ。


 日々の過負荷粒子による自己鍛錬は欠かさず行っていたが、どうしても身に入らない。こんな状態で未桜に訓練を見てもらうわけにもいかず、銀の弾丸から足が遠のいていた。


「進歩なしか……」

「仕方ないわよ。家のことなら私達じゃどうしようもない。ジンから連絡を待つのみね」

「そうなるわね。風霧くんを信じましょう」


 結局はここで落ち着く。落ち着いてしまう。停滞する議論に党夜は煮え切らない何かを抱えていた。


「じゃあ帰ろトーヤ」

「部活はないのか?」

「今日は休みって先輩から連絡あったから」

「そうか。伊織は?」

「私は図書室に用事があるから、先帰ってていいよ」

「オーケー」


 各々予定交換をしたら、身支度を済ませ、教室を後にする。教室を出たら党夜と紫は昇降口に、楓はそれとは逆方向にある図書室へ向かうので、ここで別れることに。


「紫、頑張りなさいよ」

「はい?」


 その前に楓は紫の耳元で呟く。女同士の話があると悟った党夜は何も言わず距離を取る。何故だがこういうところだけは気が利く党夜だった。


「部活もなくて二人っきりの下校でしょ。寄り道でもしてさ。ね?」


 楓の言葉に紫は耳を真っ赤にして身悶える。紫のウィークポイントを的確についた一撃だった。


「そういうことだから。頑張りなさいよ紫。じゃあね。天神くんもまた明日ね」


 そう言って手を振り楓は去っていった。残されたのは茹で上がったタコのような紫と、状況を理解出来ずにいる党夜。


「なんだか解らねえけど……帰るか」

「……うん」


 楓のお陰で?二人っきりになった二人は昇降口へと歩を進める。先程から紫が言葉を発しないことで二人共無言になる。紫は心の中で思う。


(楓のやつ、絶対図書室に用事なんかない。この状況を作って楽しんでるに決まってる)


 全くもって紫の一方的な被害妄想なのだが、判断のしようがない。因みに楓はというと。


(やっばり紫をイジるのは面白いな。日向モールデートから特に。いつも愚痴を聞かされてるお返しね、ふふふ)


 意外と腹黒かった。それでも図書室に用があるのは本当であったと、楓の名誉のために記載しておこう。


 そんなこんなで党夜と紫は外靴に履き替え、校門へと向かう。紫が所属する陸上部は休みになったが、他の部活はそうではない。授業が終わり、活動を始める運動部員が多く見られる。


 そんな運動部員達の掛け声を耳に入れながら、党夜と紫は校門を抜ける。自転車置き場に立ち寄らなかったのは、党夜愛用の自転車がパンクしてしまい、今日は徒歩通学になったからだ。朝にそのことに気がついた党夜が、遅刻してきたのは言うまでもない。


 そして二人が帰路につこうとした矢先、道路脇に止めてあった一台の車から一人のきちっとしたスーツを着た青年が出てきた。その青年は真っ直ぐと党夜と紫の方へ向かってきて、話しかけた。


「お久しぶりです。党夜の坊っちゃん、紫のお嬢」


 こうして楓の言うとおり、寄り道を余儀なくされる党夜と紫だった。




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などがありましたら教えていただけたら幸いです


第48話は土曜日18時投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ