第39話 先読み
6/12に前話である第38話に1パート分挿入しました
まだ改稿してから読んでない方は先に第38話から読んでください
詳細は活動報告を書いたので気になる方はチェックしていただければ幸いです
お手数ですがよろしくお願いします
「月夜見ちゃん。キミ能力者だろ?」
紫が席を外したタイミングで党夜は月夜見に尋ねる。紫がお手洗いに行ったのは党夜にとって都合の良いものだった。紫には聞かせたくない話だ。
「何でそう思うんですか?」
月夜見は党夜の質問に質問で返す。無作法ではあるが、党夜はそのことをとやかく言うつもりはなかった。なぜなら。
「その質問返しこそ答えだよ。能力者じゃなかったらそんなことは訊かないよ。直ぐに否定するはずだ」
党夜はそう言った。しかし党夜とて解っている。これでは証拠不十分であると。何事もにも絶対や100%はない。これもまた然り。この質問返しだけで判断することは愚行である。
そんな愚行を党夜は侵した。カマをかけるという裏の側面を持たせて。
「それもそうですね」
そして月夜見はそんなことだと知らず、カマにまんまと引っかかった。自身が能力者であることを認めた。
「ヨミは能力者です。でもそういうお兄さんも能力者でしょ?」
「ああ」
月夜見の問いに正直に答える党夜。そんな党夜の態度に月夜見は。
「え?」
「驚くことは何もないだろ?これから手を組むパートナーなんだ。隠し事はなしにしようと思うのは何ら不思議なことじゃないだろ?」
目を見開き驚きを隠せない月夜見。
「まあお互いに能力者だと打ち明けたんだ問題はその先。能力者に能力を訊くのはタブーなことは解ってる。でも今回はそうも言ってられない。だから月夜見ちゃんの能力を教えてくれないか?」
担任である水無月玲奈からの教え。能力者に能力を聞くことはタブーであり禁忌。だが、党夜はそれを破る。こうして土足厳禁である相手の敷居へと一歩踏み込んだ。
「お姉さんが戻ってからじゃダメですか?」
「ダメだ。あいつは能力者じゃない。それに俺が能力者だということを知らない。知られたくない。だから今このタイミングで月夜見ちゃんの能力を俺が把握した上で、作戦の話し合いに移りたい」
紫には教えられない。関わらせたくない。それは党夜が作戦を行う上での最低条件だった。
「なるほど。嘘はついてないですね」
「嘘をつくのは苦手なんだよ」
「そういう意味じゃないですよ」
「?」
月夜見の言葉の真意を掴めないでいる党夜。そしてその答えはすぐに月夜見の口から明かされた。爆弾は党夜の心に衝撃を与えるだけの十分な威力を備えて投下された。
「ヨミの能力は人の心を覗けます。今もお兄さんの心をずっと読んでました。だからお兄さんが能力者であることもお姉さんに知られたくないことも嘘じゃないって解りました。それにお兄さんの推測は半分正解ですね」
党夜の推論とは移動中に月夜見の能力が能力者を判別できる能力だと仮定したものだ。しかしそんな甘い認識では到底及ばぬ能力だった。
「つまり俺達を選んだのは心の中を読んだ上で俺が能力者だと解ったから、でいいんだな?」
これもまた党夜の仮定の一つだった。
「はい」
そして思い出す。先程自分の行った振る舞いを。
「もしかしてカマかけたことも?」
「もちろん気付いていました」
党夜は身体が熱くなるのを感じた。それもそのはず。能力を使われていたとしても、目の前に座る少女に心を見透かされていたのだから恥辱を感じるのは最もだろう。
「それにしても、お兄さん、相当な力を持ってますよね」
そんな党夜の気持ちを汲んでか、話題も戻す月夜見。
「でも封印されてる。それも解ってのことなんだよな?」
話が戻ったことで少しばかり落ち着きを取り戻した党夜は問う。心を読めたということは党夜がDoFの移し鏡であること、そしてその力が現在使えないことさえも月夜見が把握していることを意味する。
「はい。でも身体は鍛えてますよね。過負荷粒子を纏って戦えるなら十分過ぎます」
そこまで解るのか、と改めて月夜見の能力の汎用性の高さに驚く党夜。党夜が引き継いだDoFの力を評価する者は多いが、当人からすれば使えないものに価値などなく、今目の前に座っている少女の力の方が幾分も大きく写った。
「でもヨミの能力は絶対じゃないです」
そんな党夜の心を読んだかのように、というより心を読んでもう一歩踏み込んだ話題をする月夜見。
「それって……発動条件があるとか?」
党夜も未桜や真冬から能力者と能力について説明を受けていた。だから能力に様々な制約や制限があることがあるらしいと。
「はい。ヨミと直接目を合わせた人のにしか力を使えません。それもヨミの右目とです。だから何かの形で右目が使えなくなれば能力も発言しません」
「両目じゃなくて右目だけ?」
「そうなんです。以前母から教わりました。この力は月読命様の力だと。月読命様はイザナギ様が黄泉国から逃げ帰って禊ぎをした時に右目から生まれたと言われてるらしいです。ヨミの能力はその名残だとか」
「神話に沿った能力……」
能力についてはまだまだ初心者である党夜にとってはもちろん聞き覚えのないものだった。周りにも神話に則った能力を使うものはいない。
「それに半分正解と言ったのは、ヨミの能力は人の心を読むだけじゃないんです。というより本来の能力を使う上での副産物なんです」
「えっ!?」
驚きを隠せない党夜。それもそうだろう。人の心を読む能力だけでも相当厄介だ。こちらの動きを読む、つまり行動を先読みされる。戦闘を行う上で致命的なハンデを食らう。
しかしそれは単なる副産物でしかないと月夜見は語る。本来の能力は別にあると。
「本来の能力は思考の誘導。相手の心を覗いた上で、違和感がない程度に心や思考を改変・誘導させることができます」
「思考の誘導……」
聞くだけで恐ろしい能力だと解った。心やの改変と誘導。それだけ大きな能力なら媒介が右目限定の制約なんて小さく思えてくる。それほどまでに上記を逸した能力。
「てことは無理矢理心は弄れないんだね?」
「いえ……それが……出来なくはないんです。無理矢理心はを弄ることは可能です。でもそんなことをすれば心が壊れてしまいます」
「心が壊れる……廃人になると?」
「はい。無理矢理弄るわけですから、心の方が耐えられなくなります。心の強度は人それぞれですが。それに一度壊れた心は治すことができません。ヨミの能力を持ってしてもです。結果、目が虚ろになり、心ここに非ずといった感じになります。だから母にはそんな使い方をしてはいけないと耳にタコができるぐらい言われました」
党夜は顎に手を添え、思案する。対象の心を読み取る能力。それも右目限定で発現する。その上、この能力は神話内の神様をモチーフにされている節がある。
未だに能力者との関わりが希薄な党夜にとって、判断材料が少ない。月夜見が嘘をついていないと党夜は思う。
「能力の詳細は解った。なら能力を使って何とかならなかったの?それこそ月夜見ちゃんを攫った連中の心を弄ってしまえば逃げれたんじゃないのか?」
「一度はそれで逃げ出しました。ヨミに対する認識を薄めて、注意を逸らして逃げました。逃走経路は道行く人に助けてもらいながら」
その説明で党夜は敵だけでなく、道中すれ違った人に能力を使い協力を煽ったのだと悟った。
「でも向こうが一枚上手でした。捕まった後はヨミの能力の対策がなされてました。右目媒介での能力なのは言いましたよね?でもこれは相手の網膜に直接干渉する必要があるらしいんです」
「干渉?」
「はい。ヨミが能力を使う場合、ヨミの右目からは過負荷粒子の乗った周波が出て、それが対象の網膜に直接干渉して初めて効力を発揮します」
月夜見の説明を必死に頭を回転させ、理解に励む党夜。
「直接か。てことは眼鏡やコンタクトレンズを付けてれば対策できると?」
「ごく一般に使われてる普通の眼鏡やコンタクトレンズでは邪魔されません。でも、ヨミをここに連れてきた人達は過負荷粒子を弾く特殊なカラーコンタクトを付けているって言ってました」
「そんなものがあるのか」
過負荷粒子を弾く特殊素材の存在。これまた党夜の聞いたことのない情報だった。よって判断のしようがないが、月夜見が言うからには間違いはないのだと党夜は結論付ける。
「と言っても再び捕まった時は常に目隠しされていたから関係ないんですけどね」
「つまり敵さんは月夜見ちゃんの能力を日向モールで使うことで何かをしようとしてたってことか」
「だと思います」
当たりはつけられたとしても実態まで把握することは党夜と月夜見には叶わない。今解っているのは明確な敵が存在すること、助け出す男性がいること、そして月夜見の能力だけだろう。
日向モール内という限られた範囲で、月夜見から提供された限られた情報を元に、援護型の月夜見と能力を封印されたままの党夜という限られた戦力をもって作戦に移らなければならない。
その上、月夜見を相手の手に渡ってはいけないという敗北条件まで存在する。つい先日までただの高校生でしかなかった党夜には荷が重いことは明らかだろう。
(月夜見ちゃんの能力が相手に通用しないこの状況……能力戦にはどんな魔物が潜んでいるか解らない)
思い出したのは過負荷粒子での戦闘から体術まで、一から見てくれた師匠の言葉。そこでもう一つ掛けられた言葉を思い出した。
(何かあればすぐに電話してこい。そう姐さん言ってたっけ?)
「月夜見ちゃん、ちょっと」
「はい、お兄さんの思うように行動してください」
伝えるより前に党夜の心を先読みした月夜見は食い気味に答える。
「解った」
そう言うと党夜は携帯電話を取り出し、ある人物に電話を掛ける。
『現在お掛けになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため掛かりません』
「えっ!?」
電話口から聞こえたナビゲーターの声に、奇しくも誰かさんと同じ反応を見せる党夜。
(銀の弾丸の地下施設は電波が入ってたはずだ。姐さんが出掛けてる?ならなんで?)
電話が繋がらなかっただけ。言葉で表すのならただそれだけのことなのだが、党夜は正体不明な不安を感じる。
この時点で党夜が何かしらの行動に移れていれば、この後の状況は二転三転していただろう。しかし党夜はもちろん月夜見にも未来予知の力はない。
結果、心に不安の火を灯しながらも党夜と月夜見は紫の帰りを待つことしかできなかった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「全くもう……トーヤったら」
長くはないトイレへ順番待ちの列に並び、ようやくお花を摘み終えた紫は未だに苛立ちを募らせていた。といっても爆発的なものではなく、心の隅に残る程度のものだったが。
「デリカシーってものを母親の胎内に置き忘れたんじゃないの?」
だが悪態をつくことはやめれない。流石に女性に対しての一定の気遣いは持っておいて欲しいところである。その一つが生活内での自然現象。つまりはトイレであることは揺るぎない。
「それにしても……」
党夜らと一時的ではあるが別行動をとり、一人になった紫は疑問に思っていた事柄について思案する。
(月夜見ちゃんはなんで追われる身になったんだろう?借金の肩代わりとして売られた?それじゃ何か釈然としない。どこか有名な企業の社長令嬢?誘拐は誘拐でもそんな感じじゃない気がする。じゃあなんだっていうの)
月夜見の存在と事件の背景。紫はその点がどうしても腑に落ちない。自分の中にある何かが「そうではないよ」と告げているような不思議な感覚。勘に似た何かがそう呼びかける。
(それにトーヤの行動も不自然。これも何が変なのかはっきり解らないけど何かが変)
そして党夜の行動にも不自然な違和感を感じずにはいられなかった。
(トーヤは月夜見ちゃんの件について何か気付いてる。私が気付けなかった何かに気付いた上で行動しようとしてる。私を作戦から暗に切り離そうとしてるのがその証拠。トーヤが優しいことはもう解ってる。でもいつものトーヤとは決定的に違う……目つきというか気迫というか執念というか……)
昔からの付き合い、幼馴染だからこそ気付けた普段とは異なった党夜の差異。恋は盲目とは言ったものだが、この場合によってのみ平塚紫には当てはまらなかった。
普段から党夜のことを目で追っていたからなのか、それともただただ付き合いが長いからなのか。理由は明白ではないが、それらの要因で気付くことができた小さな違和感。
(とにかく戻ったら聞き出さないと。私だけ除け者にされるなんて嫌。トーヤが私を巻き込みたくないことは伝わった。私はその気持ちだけで十分。ホントこういう時の気遣いだけは達者なんだから)
改めて自分への気遣いを認識した紫は、ほんの少し頬を赤めた。トイレの一件を帳消しにしてしまうぐらいに大きいものだった。
(よし!私も気を引き締めないと!月夜見ちゃんの安全とおじさんの救出。高校生の私達には出過ぎた真似だけど、出来る範囲で頑張ろう)
そう自身を鼓舞するように言い聞かせてた時。
「あの、すいません」
背後から声を掛けられた。
「は、はいっ」
いきなり声掛けられたことでびっくりし、声が裏返った紫。振り返った先には何とも胡散臭い笑みを浮かべた若い男性の姿があった。
「簡単なアンケートを行っているのですが、少し時間を頂けませんか?」
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「はぁ……」
日向モールは二本のモール構造が十字に交錯している。その構造上、十字の交点に当たるところは中央広場として買い物客が一段落出来るように1階部分に腰掛けるためのソファーが敷き詰められている。二階から上は吹き抜けになっており、頭上を見上げれば、日光によって輝いたステンドガラスが目に入る。
そんな休息の地で先程からため息をついていたのは塙山であった。少女を解放した後、手持ち無沙汰になった塙山は何をするのでもなくこの場所に留まり続けた。
日向モールの外縁部は見張りが配置されていることは想像に難くない。少女とともに取引を受け持った塙山が日向モールの外に出れば目立つことこの上ない。塙山の見た目を確認するために、取引相手は写真の添付を要求してきたことからすぐにバレることが伺える。
そうなればどうしても少女とは別行動しなけらばならず、その上塙山はこの日向モールから出ることが許されない。行動が制限されているが故の待機。少女が何とかこの檻から逃げ出せれば、塙山も自由に動くことができる。
(大丈夫だろうか……)
やはり不安になるのは仕方ないことだろう。なんたって逃がした少女はまだ小学生だ。能力者とはいえ、まだ年端もいかない女の子なのだから。
待機とは謂わば停滞。さすれば嫌でも余計なことも考えてしまう。不安が募り、最悪な展開を想像してしまう。そんな自分の弱い部分が出てきたことを自覚した塙山は頭を横に振る。
(あの子の能力があれば、いくらでも助力を乞うことができる。あとは連中にバレなければ問題ない)
少女は一度、能力を用いて逃亡を図ったことがある。その時は捕まってしまったが、あの時とは状況がまるで違う。まず日向モールは人で溢れている。中には能力者が紛れていてもおかしくない。
一般人に助けを求めながら、運良く能力者に出会うことができれば、万が一の対抗戦力を得ることになる。塙山は少女にその旨を伝えた。加えて自分の身を最優先することも。
(あの子は心優しいからな……非情になれるだろうか)
身の危険を感じたら躊躇わず能力を使え。塙山はオブラートに包むことなくそう伝えた。少女が能力を自身で規制していることは塙山も気付いていた。その理由は知る由もないが。
いつも間にか、俯き考え耽っていた塙山。ただただ少女の身を心配していた塙山。
しかし世の中そう甘くはない。都合の良い展開はそうそう起こらない。まさに今がそれであった。
「おい」
頭上から掛けられた声に反応し、塙山は俯いていた顔を上げる。そこで見たのは、オールバックに薄い色のサングラスをかけた男の姿。
塙山は瞬時に悟る。
(しくじったか)
そんな塙山の様子を見て、オールバックの男は問いかける。
「貴様がラビットだな?」
読んでいただきありがとうございます
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第40話は土曜日18時投稿予定です




