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第3話 水無月玲奈



「それは……私も『能力者』だからだ」




 放課後、生徒指導室まで呼び出された党夜だったが、そこでは遅刻の件を早々に切り上げ、なぜか『能力者』についての話をする玲奈。

 そして玲奈が自ら、自分が能力者であると自白するところまできている。


 そして現在。玲奈の告白が、自分の予想通りのものだったことで、党夜はリアクションをとれずにいた。


「んん?驚かんのか?それとも、驚きすぎて脳の処理速度を超えてしまったか?」


「いや、確かにビックリしましたよ。まさか自分の担任が能力者だなんて…」


「にしてはリアクションが薄い…いや、ほとんどなかったように思うが?」


「驚き過ぎてリアクションが取れなかったのもあったけど、内心そーじゃないかなぁ…と思ってたんで。これまでのことを考えると、納得できることも多々あるし」


「ほぉ…では私が能力者であると薄々気付いていたわけか?」


「確証があったわけじゃないっすよ。でも、今回先生が、能力者について話をし始めた時点で、ほぼ確信的ではあったんで」


 (ほぉ…なかなか出来るじゃないか…)


 やはり自分はこの教え子を見くびっていた。玲奈は反省し、認識を改めるべきだと思った。

 しかし、それによって新たな問題が浮上した。

 

「ということはだ。貴様は私が能力者だと日頃から疑ってたわけだ?」


「いやいや、疑ってたわけじゃないっすよ。少し人間離れしてるなぁ……ぐらいの認識でしたから」


 人間離れしてるから結婚出来ないのでは?とは口が裂けても言えない。


「可能性として私が能力者であると考えていた。それは間違いないな?」


「……?……そうですけど」


 党夜は質問の意図が掴めない。

 玲奈はそんな党夜を畳み掛けようとする。


「つまり、私が能力者かも知れないと思っていたにも関わらず、貴様は毎日毎日あのような舐めきった態度をとっていたわけだな?ああ?」


 言葉にされてようやく党夜は玲奈が言わんとすることを理解した。しかし気付くのが遅すぎた。


「……えっと……それはですね……ええ」


 雲行きが怪しくなる。だが党夜にはこの場を切り抜けるだけの話術も経験もなかった。


「本当にふざけたやつだ。罰はまた後日、おって知らせる」


「そんなぁ〜」


 (終わった………)


 党夜は抵抗する間もなく処刑宣告を受けることになった。今は何より玲奈の笑顔が何より恐ろしかった。


「はぁ……貴様にはいつもいつも頭を抱えてばかりだよ……」


「すいませんね、手の掛かる生徒で。てか先生、能力者なんですよね?なんでうちの学校に務めてるんですか?能力者なら能力者専門の教育機関がありますよね?」


「ああ、そのことか……」


 党夜はなんとか機転を利かせ話題をすり替えることに成功した。

 しかも、党夜がすり替えた話題は玲奈にとってあまり良いものではなかったらしい。


「えーっとだな…確かに教育者になるにあたって、その手の教育機関から要請は来た。だが、丁重に断らせてもらったよ」


「なんでですか?」


「能力者になりたてはもちろん、天狗になっている能力者(ガキども)の相手をするのが面倒だったからだ。お前らでさえ手の掛かる教え子だというのに、能力者の教え子なんて…考えただけで嫌になる」


 基本的に能力者は10歳までに能力に目覚めると言われている。能力に目覚める、というのは脳が能力演算領域に干渉し、自分が能力者であると自覚することに相当する。例外はもちろんあるが、遅くても小学校を卒業するまでに素質があるものは能力に目覚める。


 よって、政府は能力者を正常(・・)に育成するため(と言われているが8割は監視するため)、能力者専用の教育機関を設置した。中高一貫校のような仕組みで、6年間の教育期間が設けられており、一般教養に加え能力についての教育を受けることになる。


 ちなみにこの教育機関に入学するためには勉学としての入学試験は必要としない。入学するための必須条件はもちろん能力者であることなので勉学に関して度外視しているのだ。


 そのため入学試験がない代わりに、能力検査と呼ばれるものが行われる。

 検査される内容は以下の二つである。

 ・当人は能力者であるか

 ・当人の能力について


 これに該当するものだけが入学が許されるのである。つまり能力者を語った一般人は門前払いされるのである。それだけでなく、この手の成りすましは法律上で禁止されており罪に問われる。


 一見成りすましは無意味な行動に思われる。後天的に能力に目覚めることはないと言われているので、たとえ能力検査をすり抜けて入学して生活したとしても能力に目覚めることはない。


 ただしハイリスクノーリターンな訳ではない。この手の教育機関には能力者についての機密情報が数多く保管されている。その情報にはとてつもない価値がある。裏社会で高く取引されているのだ。だから一攫千金の狙うバカが続出する。中には本物の能力者をスパイとして学園に入れる者もいるほどた。

 

 このような教育機関が設置されてから、まだ日は浅い。能力者にきちんとした能力の使い方を教え込むには、能力者である教師が必要十分だからだ。一定数の教師を集めるのに時間が掛かったのは、想像に難くない。


 それだけ能力者でありながら、教師になりたいと思う人が少ないのである。そのため、一般的な教師に比べたら、何倍もの給料を設定されているらしい(正確な数字は明らかにされていない)。


 玲奈が言いたいのは、例え目の前にいくら金を積まれても、面倒ごとが多い能力者に教えたくない。能力者の“の”の字も知らないガキの方が幾分マシだ、ということである。


「まあ、折角一般高校に務めたにも関わらず、面倒ごとを背負ってくるヤツはいるがな……」


 玲奈は肩を落とし、ボソッと呟く。党夜の耳には聞こえないであろう声量で。


「てか、先生の能力って何ですか?」


「能力者に能力について聞くことはタブーとされている。以後気をつけるように。タブーでなくても教えるつもりは毛頭ないがな」


「そんなぁ…」


「貴様が知る異能系の漫画やアニメの中で、自分の力についてペラペラしゃべる奴はどんな奴だ?」


「………」


「そういうことだ」


 つまり、自分の内を無闇に晒すヤツはバカとザコしかいない。そんな奴らと自分を一緒にするな。ということだ。


「だが、教えてやらんことはないぞ?」


「マジ?」


「ああ、知った後に貴様が生きているかは保証はできないが」


「ははは……」


 (笑えねぇ冗談だ……)


 党夜は冷や汗を流しながら、苦笑いに徹することしか出来なかった。


 玲奈も笑みを浮かべていたが、この話の趣旨について話していなかったことを思い出し、表情を改める。


「おっと、まだ肝心な話をしていなかった。なぜこんなに長ったらしく私が能力者について説明したのか…理由がある…」

 

 玲奈がここまで懇切丁寧に能力者の話をしたのにはもちろん理由があった。とても重要な理由が。

 

 玲奈は、今までにまして真剣な表情で党夜を見つめる。玲奈もなかなかも美女だ。見つめられたら、恥ずかしさで目を寄らしてしまうだろう。しかし、玲奈の真剣さが伝わったのか、党夜も顔を引き締めた。


「それはだな……天神……」


『…最終下校時刻まであと少しです。校内にまだいる生徒の皆さんは、速やかに身支度を整え帰宅してください。最終下校時刻まであと少しです。校内に…』


 玲奈の話を遮るように、下校を促す校内放送が流されるのであった。時間切れのようだ。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




「今日はこの辺りにしておこう」


 玲奈がそう話を打ち切り、今日のところは解散になった。すでに時刻は5時半を過ぎている。最終下校時刻が6時なのでこれ以上学校にはいられない。

 教師といえど、最終下校時刻後まで生徒を捕まえておくことはあまりよろしくない。


 党夜は玲奈に挨拶を済ませ、生徒指導室をあとにする。外はまだ明るい。部活の連中はすでに練習を終え、帰路についているか、部室でおしゃべりをしているかだろう。


 党夜は昇降口に向かい靴を履き替え自転車を取りに行く。自転車置き場で愛車に乗り、家に帰る。


 (今日はやけに一日が長かった……)


 そんな感想を思い浮かべながら、校門に差し掛かった時…


「トーヤ、今帰り?玲奈ちゃんとの密談は下校時刻までには終わったみたいね」


「密談じゃねぇよ。面談だ面談。いや面談でもねぇよ!説教だよ!」


 声をかけてきたのは、言うまでもなく紫だ。部活終わりに部室棟でシャワーを浴びてきたのか、髪が少し湿っており、今はトレードマークのツインテールではなく下ろしている。

 

 紫のことが気になっている男子からすれば、教室で見る時よりも、艶っぽくあり色気があるように見える今の紫はギャップ萌えというやつだろう。党夜も例外ではないが、これでも幼馴染だ。見慣れたといえばそれまでだ。


「そーですか。その分だと特に問題なさそうね。じゃあ、行きますか」


「はぁ……どこにだよ……」


「もちろん、トーヤオススメのパフェを食べに行くに決まってるでしょ」


「はあ!?今から?」


 党夜には何が決まってるのか分からない。しかし紫の中ではすでに、パフェを食べに行くことは決定事項らしい。言わずもがな、党夜のおごりで。


「当たり前よ。約束したでしょ?」


「約束?そんなもんして……あっ!昼休みのやつか!あんなもん無効だろ!」


「はいはい文句言ってないで急ぐ!ほら行くよ!レッツゴー!」


「おい、勝手に決めんなよ!ってか鞄ぐらい自分で持てよ……」


 「持って」の一言もなく紫は自分の鞄を党夜の自転車かごに入れる。そして先頭にたって歩き始める。


「部活で疲れたの。男の子なんだから自分から言い出さないと……甲斐性ないわね……」


 なぜか逆に説教される党夜。この状況で、党夜は自転車に乗ることは許されない。しかも、紫の鞄がかごに入っているので、紫を無視して自宅に帰るなど以ての外。紫の鞄をそこらに置いていくなどしたら、明日からどうなることかわかったもんじゃない。


 結論。紫の後を付いていかなければならない。


 (はぁ……やっぱりこうなるか……)


 今日、何度目かのため息を吐いき、自転車をひきながら紫のあとを歩く。


 (てか、あいつ店の場所知ってんのか?はぁ……)


 党夜のため息はしばらくの間、止まることはないだろう。 




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