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第2話 能力者

 



 考えれば考えるほど追い詰められるので、とりあえず考えるのを止め、無心で午後の授業を受ける。無心なので授業の内容が頭に入っていないのは言うまでもない。そのまま放課後パートに入る。


 うん、嫌だ。本当に嫌だ。帰りたい。今すぐにお家に帰りたい。しかしそんな気持ちを打ち砕くように帰りのHRで玲奈から釘を刺されている。


「…以上で帰りのHRを終わりとする。部活の者はサボらず部活動に励むこと。帰宅部の者は寄り道をせず帰宅すること。あと天神、貴様は身支度を済ませた後、生徒指導室に来るように。ああ、来なかったら分かってるよな?ではさようなら」


 てなわけで完全に逃げ道を失ってるまである。すでに頭痛に襲われている。それほど党夜にとって玲奈は脅威なのである。あの場で玲奈を挑発した過去の自分を殴ってやりたい。


 出来るだけ時間を掛けて身支度を済ませる。面倒ごとは後へ後へ先延ばしにするのは世の常ではないだろうか。大概のことは先延ばしにすることで時間が解決してくれよう。しかし今回はそうは問屋が許さない。小さな抵抗を諦め、生徒指導室に向かう。


 放課後だけあってグラウンドでは運動部が部活動に励んでいる。その中には陸上部の姿も。紫もあそこにいるだろう。

 陣は帰宅部なのですでに学校にはいない(はず)。彼は自宅の敷地内にある道場で剣道を嗜んでいる。幼少期から剣道続けている陣は、かなりの腕前と聞く。イケメンで剣道とかテンプレ幼馴染である。


 この学校は空から見ればH型をしている。東には教室があるE棟が、西には職員室や食堂などがあるS棟が存在する。名前は単純に東と西を英語にしたの時の頭文字だ。そして2つの建物は一本の通路で繋がっている。今まさにその通路を抜けてS棟に入った。


 生徒指導室はS棟の一階、職員室に隣接している。隣接はしているが中では繋がっておらず、別々の扉から入ることになる。党夜は生徒指導室の前に着くと、深く深呼吸をする。この扉の奥には玲奈が待ち構えているだろう。


 ゴクリ…


 喉も渇いてきた。党夜がここまで玲奈を恐れている理由は数え切れないが少なくとも恐怖の対象であることは変わりない。入ることを躊躇していると中から…


「天神ぃ、そこにいるのだろ?早く入ってこないか!」


 これだ。なぜか玲奈は俺がここにいることを感知しているのだ。以前にも似たようなことがあった。

 分からないことは恐怖に繋がる。生死に関わらないことであると理解していても怖いものは怖い。なぜか怖いというやつだ。


 ガチャリ


「天神です。失礼します」


「やはり来ているじゃないか。全く…そこに座りなさい」


 言われた通り玲奈と机を挟んで反対側の椅子に座る。生徒指導室は10畳ほどの広さに、机が一つ、椅子が二つと簡素な作りになっている。

 これから起きることを考えると、まさに警察署の取調室を連想させる。それを意図しているかは定かではない。


「何から話そうか…とりあえず、貴様の遅刻癖から言及しようか?毎朝遅刻してきてまともに登校も出来んのか?」

 

「すいません、どうしても起きれなくて、起きても二度寝してしまって…癖なんですよねぇーははは…」


「妹さんに起こしてもらってるのではないか?結夏さんと言ったかな?」


「…な…先生がなぜそのことを?」


「天神ぃ、私を舐めるなよ?可愛い生徒のことをきちんと把握していない先生は先生ではない、これが私の持論だ」


 (いやいやいやいや…だからって可笑しいっしょ。学校内ならまだしも、学校外、しかも家庭内のことまで知られてるとか…俺の人権やらはどこへ行った?)


「心配するな、ここまで詳しく把握しているのは天神、お前だけだ」


 (なにそれ?なんで満面の笑みでそんな恐ろしいこと言えるの?どうしてなの?俺そんなに問題児ですか?心配しかないよ。)


 そんな慌てる党夜の姿を見て、玲奈はほんの少し頬を緩めた。


「というのは冗談だ。本当にからからかい甲斐のあるやつだな」


「冗談にしてはたちが悪いですよ。てかどこから冗談なんですか?俺の家庭内のことを知ってる理由説明になってませんよね?」


「学生は細かいことを気にするな。そんなことを考えてる暇があれば学業に励むべきだ」


 結局、なぜ玲奈が俺のことに詳しいのかは分からないまま、また玲奈の謎が増えるだけだった。

 こんな強引に話題を切り捨てられたら、もう追求できない。党夜は大人しく諦めることにした。  

 

「遅刻については大目に見てやろう。気をつけるように!でだ、これからが本題(・・)だ。能力者についてお前はどこまで理解している?」


「え?遅刻のことで呼び出されたんじゃなかったんですか?はぁ…能力者っていやぁ、普通(・・)なら使えないすげぇ力を使う連中のことでしょ?」


「うん、まあ大雑把ではあるが認識としては間違ってない。では、先生として優しく丁寧にそのすげぇ力を使う能力者について教えてやろう」


 優しく丁寧。嫌な予感しかしないんだが…お手柔らかにお願いしたい所存である。


「能力者……奴らの出現はここ半世紀のことだ。人を超えた存在。超人類とも呼ぶものもいる。それほど特質で異質なんだ。能力者ってやつは……」


 それぐらいなら、一般常識として党夜も知っている。特質で異質。だからこそ、一部の者からは妬み、忌み嫌われていることも。


「能力者はその名の通りそれぞれ『能力(アビリティ)』を持っている。その仕組みについては知っているか?」


「自分とは無関係(・・・)なことなんで、さっぱりです…『一対一の原則』ぐらいならなんとか、ってレベルですね」


 玲奈は少し顔を顰めた。が、党夜が気付く間もなく真剣な表情に戻した。


「仕方ない。それを知ってるだけでも良しとしよう。そうだな、まず『能力(アビリティ)』について説明しようか。この調子だと長くなるが問題ないな?」


「……もちろんです」


 長話になるから続きは後日、などとそんな甘い話ではないようだ。この場で断るという選択肢は当然存在しない。長期戦を宣告されてしまった今、党夜は覚悟を決めることしか出来なかった。


「『能力者』は基本的に一人の『能力者』には一つの『能力(アビリティ)』である。これが『一対一の原則』と言われている。が、正確にはこれは正しくない」


「っ…………!?」


「その様子だと貴様も誤解していたらしいな。本来の『一対一の原則』はこうだ。『能力者』は基本的に一人の『能力者』に一つの『能力許容殻(フォルダー)』を持つ、だ」


「……能力許容殻(フォルダー)?」


「ああ、一つの能力(アビリティ)といっても一種類の力しか出せないのではない。自分の持つ能力(アビリティ)をきちんと理解し把握することで多種多様な力に応用し発揮きる。かの有名な能力学者、フォルディー・ルセンブル氏はそれを証明した」


 能力学者とはその名の通り、能力者について調べる研究者のこと。その中でも、フォルディー氏は特に有名で、これまで数々の功績をあげている。


「フォルディー氏は、能力者には体内に能力を収める器のようなものがある、と仮説し研究したという。結果、残念ながら仮説は誤っていた。目に見える(・・・・・)器は存在しなかった」


「ん?てことは目に見えない器には気付いた。それが能力許容殻(フォルダー)ってことですか?」


 一瞬、玲奈は大きく目を見開いた。バカではないと思っていたが、自分の教え子の頭のキレに玲奈は少し関心した。


「ほぉ……鋭いな。その通りだ。能力許容殻(フォルダー)に気付いたことで、その中に区分けされた『能原体(ファイル)』に当たりをつけることができた。能原体(ファイル)があるから、多種多様な力を発揮できるわけだ。例えば…」


 玲奈が上げた例を簡潔に纏めると以下の通り。


 例えば、火を操ることができる『能力許容殻(フォルダー)』を持つ『能力者』がいるとする。 


 まず、己の『能力(アビリティ)』がどのようなものか、理解・把握をし、基礎的な『能原体(ファイル)』を設定する。


 今回の場合ならまず火を出すこと。火を出す『能原体(ファイル)』を設定し、『能力許容殻(フォルダー)』に保存することで、初めて発現可能な自分の『能力』となる。


 それを繰り返し、応用し、火に纏わる様々な『能原体(ファイル)』を設定していく。もちろん、いくらでも設定できるわけではない。


 人によって『能力許容殻(フォルダー)』の許容量は違うし、設定する『能原体(ファイル)』が複雑になればなるほど容量が大きくなるからだ。必ず限度はあるということ。

 

「……つまり能力者といえど、何でもありのチート性能ではないということだ」


 (能力(アビリティ)を使えるだけで十分チートだよ)


 そんな党夜の心を読んだかのように玲奈は続ける。


「もちろん能力者でないとこのようなことが出来ない。それにも理由がある。能力者の脳は一般人とは比べのものにならない程発達している。特に演算機能については群を抜いている。学者達はそれを『思考演算領域』と呼んでいる。能力に関する演算だけは普段とは別のところで行うことで脳の負担を減らしていると考えているらしい。これは一般的な脳ではほぼ不可能だそうだ」


 また初めて聞く単語が出てきた…そう思ってきた党夜であったが、頭の中で整理しながら玲奈の話を聞いていた。


「能力者はその思考演算領域を駆使することで、能力(アビリティ)の発動に必要なプロセスを完遂させる。座標設定や力加減などをな。慣れた奴ならわざわざこんなことしなくてもノータイムでかましてくるのもいるがな」


「いちいちそんな面倒なことしてるんですか?」


「当たり前だ。適当にぶっ放すだけの脳筋ならまだしも、緻密な演算をしないと発動しない繊細な能力も数多く存在する。まあ、長くても1秒あるかないかだがな。これ以上必要となると、よっぽどレアな能力か、訓練不足の新人(ニューピー)の二択だ」


「なるほど…」


「あとは『過負荷粒子(アニマ)』だな。能力者はこの過負荷粒子(アニマ)と呼ばれるものを体に纏うことで自己強化が出来る。詳しい説明は割愛するが、簡単に言えばオーラやら気とか言うやつだ。体が輝くんだ。もちろん一般人には見えないがな。それに一般人相手なら能力(アビリティ)を使わずして過負荷粒子(アニマ)だけで十二分に倒せるほどの力がある。上級者の中には過負荷粒子(アニマ)だけで能力者を蹴散らす奴もいるそうだ。それほど万能なんだよ」


 玲奈にしてはなかなか懇切丁寧な説明だと思う党夜。しかし、それは感心ではなく関心に寄っている。

 なぜ玲奈はここまで能力者について詳しいのか?その理由には党夜も薄々見当はついている。だが確認せずにはいられなかった。


「なんで先生はそこまで能力者について知り尽くしてるんですか?」


 党夜の投げかけた疑問に対する答えは簡素なものだった。そして、党夜の予想通りのものでもあった。




「それは……私も『能力者』だからだ」




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです

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