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第1話 天神党夜

 



 この世に二種類の人間がいる。それは“持つ者”と“持たざる者”。地位、名誉、金、権力……それらを持っているか否か必ず二分される。


 それは異能でもまた然り。普通の人間では到底成し得ない強力で究極な力を持ち、人類という枠から外れた存在。後に、ヤツらを纏めてこのように呼ばれるようになる……『能力者』と……




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




ー4月15日 午前8時頃ー




「お兄ちゃん!朝だよ!早く起きないと今日も遅刻するよ!」


「お兄ちゃん!ほんとに知らないよ?私、起こしたからね!?」


「ちゃんと戸締まりして学校行くんだよ!?じゃあ私行くから!行ってきまーす!」



 毎朝恒例のやつである。俺、天神党夜(あまがみとうや)は朝に弱い。学生の大半はそうだと思いたい。だから俺は普通であって、俺だけ特別なはずがない。普通なんだ。普通最高。


 なんて自分に言い聞かせながら、なんとかベッドからの脱出に成功。とりあえず、一階の洗面所に向かう。階段を降り、洗面所に行く前にリビングの様子を見る。もちろん妹の姿はない。言葉通りすでに学校に行ったのだろう。


 天神結夏(あまがみゆいか)は三歳違いの俺の妹で、星城(せいじょう)女子中学校に通う中学二年生。ショートカットがよく似合い、目はぱっちり、150cmと少し小柄だがどこに出しても恥ずかしくない可愛い妹である。


 父親は俺たちが子供頃に亡くなったらしく、母親も俺たち二人を養うため夜遅くまで働いているので、基本的には俺と結夏で家事をこなしている(といってもほとんど結夏がやっているが)。なので結夏はそこんじょそこらの専業主婦の人たちよりも家事のスペシャリストと言えるだろう。


 もちろん学校でもなかなかの目立ちっぷり。もともと可愛い上に、学業では常にトップ5には入っており、今年からは生徒会役員にも任命されたらしい。部活動ではバスケ部に所属、すでにレギュラーの座も獲得しているほどの実力者。ほんと無双してやがる。


 比べて、俺はというと平塚ヶ丘(ひらつかのがおか)高校に通う高校二年生。容姿はもちろんのこと、学業も運動神経も家事も何もかもが人並みで、何ができるわけでもない平凡な高校生である。

 

 うん、男の俺の説明とか要らんよな。だけどこれだけは覚えといてくれ。俺が超絶甘党であることを。


 そんなこんなで、洗面所にたどり着くと、いつも通り洗顔を済ませる。朝、冷水で顔を洗わないと完全に目が覚めないのは俺だけだろうか?いや、そんなわけない!(反語)


 その後、リビングに行き、買い置きしておいたチョココルネと缶コーヒー(コーヒーというよりはカフェオレ)で簡単に朝食を済ませ、自室に戻り用意をし学校に向かう。


 平塚ヶ丘高校は、そこそこの進学校なので遠くから通っている生徒も多い。そのため電車・バスはもちろんのこと、自転車通学も認められている。

 

 党夜は自転車に乗り、いつもの通学路を行く。走っても走ってもうちの学校の生徒は一人も見かけない。それもそのはず、すでに朝のHRが始まってる時間だ。


 (急げばまだ間に合う(・・・・)…)


 全力でペダルを漕ぎ(党夜はこれを“全力ペダる”と言うが全く浸透していない)、校門を突っ切り、自転車置き場で自転車を乗り捨て(もちろん施錠はする)、教室までダッシュ。


 教室の前に着くとまだ朝のHRの最中。なんとか間に合った(・・・・・)。呼吸を整え、教室の扉を開ける。


「遅れてすいまぶはっ…」


 一瞬自分の身に何が起きたか分からなかった。辺りがすこし粉っぽいな…そこで黒板消しを投げつけられたと気づく。

 

「天神ぃ、毎朝毎朝貴様は、HR終了ギリギリに登校してきやがって…そんなにも私の話を聞きたくないのか?ああ?」


 この口の悪い人は党夜のクラスの担任である水無月玲奈(みなづきれな)。黒髪ロングのクールビューティ。170cm後半と背も高く、スーツでは抑えきれないほどのナイスバディである。目つきがキリッとしていて、今のように睨まれると威嚇効果を発動させる。なんとも恐ろしい先生なのだ。

 

 静かにしてたら見た目は申し分ないくらい美しいと思う。だがアラサー間近で未だ独身なのは…訳あり物件なのだろう。


 威嚇されつつも俺はいつも通りテキトーに言葉を返す。


「いやいや、先生。そんなことあるわけないじゃないですか。俺はいつでもどこでも先生の有り難ーいお話を聞きたいに決まってるじゃないですか。」


「本当か?」


 玲奈は少し頬を赤らめた。実に嬉しそうだ。


「はい」


「本当に本当か?」


「もちろんですよー」


 今回も勝った…そう確信したのも束の間。玲奈が不敵な笑みを浮べる。その自覚なき甘さが鍵となり水無月玲奈(バケモノ)の足枷を解いたことに今頃になって気付かされた。


「そうかそうか。先生は嬉しいぞ。なら放課後、先生の話をじっくり(・・・・)聞いてもらおうじゃないか。そうだな…場所は個室がいいな…生徒指導室でどうだ?もちろん、嫌とは言わんよな(・・・・・・・・)?」


 水無月先生は満面の笑みを浮かべながら俺に問う。よく見ると、いやよく見なくても目が笑ってないことが分かった。


「…はい」


 キーンコーンカーンコーン♪


 玲奈の説教へのカウントダウンの鐘が教室に鳴り響く。そして、朝一発目の授業が始まる。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 




 朝の悲劇(・・)を心の中で整理・処分し、なんとか午前の授業を乗り越えた。一時限目だけは朝の一撃で精神的にズタボロだったのでほとんど授業の内容は覚えてないが。


 そして今は昼休み。午前最後の授業が終わると同時に、購買組と食堂組が信じられないスピードで教室から出ていく。このクラスの三分の一はその高速機動隊の連中で、残り三分の二は弁当持参者である。

 今教室には弁当組しかいない。党夜は弁当組なのでカバンからチョココルネやクリームパンなどの菓子パンとカフェオレを取り出し食事にする。


 そんな党夜に近づく人影が二つ。


 「党夜、朝は災難だったね。流石の玲奈ちゃんもついに我慢の限界、復讐の時って感じだったし。まあ、頑張れ!」


 「そーよ。こればかりはいつまでも遅刻癖を治さないトーヤが悪いわ。ユイちゃん、いまでも起こしてくれてるんでしょ?それで起きないとかアンタ何様のつもりよ?」


 党夜に声を掛けてきたのは幼馴染の二人、風霧陣(かざきりじん)平塚紫(ひらつかゆかり)だ。


 風霧陣は風霧組の一人息子で次期組長候補。本人は嫌がっているが、陣の父親で現組長の風霧銀次(かざきりぎんじ)はすでにそのつもりだとか。

 

 そんな環境で育ったにも関わらず、どちらかというと大人しいやつだ。しかし、こいつの周りは大体騒がしい。なぜか?それは陣は超のつくイケメンだからだ。


 しかもただのイケメンじゃない。学業も方も飛び抜けている。平塚ヶ丘高校の入学試験では495/500という驚異的な点数で主席合格を果たし、入学式では入学生代表に選ばれ、壇上で挨拶をするほどだ。


 その上、在校生代表として入学式に参列していた先輩(しかも複数)が陣のその姿に惚れ、いきなり告白する事件を起こした。

 

 それだけじゃない。連絡先を聞きに来る女子は数え切れず、今ではファンクラブまで発足している。聞いた話によると、緻密なルールが敷かれ、会員同士で陣に対する行動を監視しているそうだ。恐ろしいたらない。極力ファンクラブの連中とは関わり合いたくない、ほんとに。


 平塚紫は平塚財閥頭取である平塚統(ひらつかおさむ)の孫娘。父方の父がこの地の者なら誰もが知る平塚財閥のトップというわけだ。

 

 この地、平塚ヶ丘は平塚財閥によって開発された都市である。閑静な住宅街、賑わう商店街、競争率の高いオフィス街、と大都市と引けを取らない都市だ。ここまでのことなら知ってる人は知っている。だから紫のことをお嬢様だと言う人は多い。


 確かに統は紫を溺愛しているが、紫の父の平塚修(ひらつかしゅう)と統の仲が異常に悪いらしい。この親子関係の亀裂は、修が平塚財閥となんの縁もない一般家庭の嫁をもらったのがキッカケで、それ以来統と修はほぼ絶縁状態だと言う。

 

 修は妻の実家である洋食屋で働いており、今では平塚財閥とは関わりはない。そのため財閥のお嬢様と呼ばれるような豪華絢爛な生活をしているわけではないのだ。こちらは知る人ぞ知ることである。


 だからか、紫からは全くお嬢様という雰囲気はせず、しかも可愛い部類に入るので学校では人気が高い。陸上部ということもあり、基本的に髪型はポニーテール。ここも人気が高い理由の一つだそうだ。

 しかし幼馴染からすれば、こんなワガママ娘のどこがいいのか?と問いたい。もちろん口には出さないが。


 ちなみに玲奈ちゃんというのは、もちろん水無月玲奈のことを指す。しかし、本人公認ではない。以前、玲奈の前でうっかり口を滑らした生徒がいたのだが、その生徒がどうなったのか…

 当事者である党夜としては思い出したくない過去の一つである。あとは想像にお任せしよう。


「災難?災難で済んだらまだマシさ。地獄でもヌルイぐらいだ。陣、なんとかならないか?助けてくれよ。親友だろ?」


「助けるって玲奈ちゃんを宥めるってことかい?無理だよ。こればかりは僕のキャパを超えてる…党夜すまない。Good Luck!」


「うぅ…紫なら何とかならないか?俺だって結夏の目覚ましで起きたいのは山々なんだが…抗えなくて…頼む。助けてくれ。俺のオススメの店でパフェ奢ってやるからさ。あそこのパフェすげぇー美味いんだ。お前喜ぶと思うぜ?」


「食べ物で釣らないの!もちろん、そのオススメの店でパフェは奢ってもらうわよ?でも助けるかどうかは別問題。ていうか私にも玲奈ちゃんを説得とか無理。諦めなさい」


 陣は爽やかに俺を送り出そうとする。紫に至っては、言ってることが無茶苦茶だ。助けてくれないくせに、ちゃっかりパフェは奢ってもらうつもりでいる。本当のところはお嬢様なのかもしれない。


「終わった…今度こそ俺の学園生活に終止符が打たれる。この前に呼び出された時ですら、あんなことやこんなことをさせられたんだ…今回はもう想像もできねぇーはぁ…」


 先が見えない恐怖。考えるだけで食欲がなくなる。とりあえず、机に出したチョココルネ・クリームパン・カフェオレだけは胃に流し込む。本来なら大好きなはずの甘い食事なのに、全く味わえなかった。


 そして昼休みが終わる。




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです

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