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第13話 過負荷粒子




(温かい……とても心地良い温かさだ……心が安らぐ…そもそもここはどこだ?俺は確か地下7階で姐さんと特訓で……)


 目を覚ますと後頭部に柔らかな感触がぼやけた視界には二つの大きな山が見える。辺りは綺麗な黄色の世界だった。


「あら?目が覚めたぁ?」


「……この声は真冬さん?」


「そうよぉ。党夜くんを膝枕して看病しているのは真冬お姉さんですよぉ」


「……膝枕?」


(意識がハッキリしてきた。膝枕がホントなら後頭部の感触は真冬さんのむちむちな膝か……で目の前の山は真冬さんの胸…えぇぇ胸!?)


 今置かれている自分の状況を理解した上で党夜は混乱する。人生始めての膝枕を経験しこの後自分がどのような行動を取るべきか見失っているのだ。結局解法が見当たらなかったので成り行きに任せることにした。つまり膝枕続行!


「怪我の方は大丈夫?もう痛みはないかなぁ?」


「あっ!あれ?俺生きてる?姐さんの過負荷量子体(アニマ)込みのパンチまともに食らったんですよ?」


「さすがに死なれても困る。手加減してやったんだ」


 答えは真冬とは別の方向から聞こえた。この空間にいるのは党夜を含めて三人のはずなので、今のは未桜だ。未桜は真冬の正面にあぐらをかいて座っている。こういう一つ一つの振る舞いが姐さんというイメージを形成しているのではないだろうか。脱姐さんへの道はまだまだ遠い。


「手加減っていっても俺気絶したんですよ?一歩間違えれば死んでましたよ?」


「党夜が一歩間違えずに覗きをしなければこんなことにはならなかったと思うぞ?そのへんどう思う?」


「俺が全面的に悪いです。すいません」


 未桜に突っかかるも覗きの一件を持ち出され素直に謝ることしか出来ない党夜。確かに覗きは犯罪だ。犯罪だめ絶対。でもここまでの仕打ちかあるのか?と少し釈然としないがこれ以上は口に出さない。同じ目には合いたくないからだ。


「分かればいいんだ。どっちにしろ過負荷粒子(アニマ)は一度生身で受けてもらうつもりだった。早いか遅いかの差でしかない」


「ちゃんとした特訓の一環だったんですね。てっきり私怨だけで殴られたと思いましたよ」


 いずれする特訓だったと知り党夜は少し安堵する。が真冬がとんでもないことを言う。


「まあちょっとミオは力を入れ過ぎてた気もするけどねぇ。過負荷粒子(アニマ)を生身で受けれるなら別に殴る必要もないしぃ」


「え?どういうことですか?」


「だから過負荷粒子(アニマ)を生身で受けれればどんな形でもいいのよぉ。全身に過負荷粒子(アニマ)を流し込むイメージ?みたいな方法もありなのぉ。てかこっちが一般的な方法なんだけどねぇ。これを洗礼て言うの」


「やっぱり私怨じゃないですか…」


 真冬からの詳しい説明を聞いたことで党夜はガクッと肩を落とす。あの一件でも憂さ晴らしで過激で手荒の方法で洗礼をされたのは間違いないようだ。


「甘いぞ党夜。近いうちに党夜にも任務をしてもらう。戦闘になるようなことはないと思うが可能性はゼロじゃない。しかも党夜お前はDoFの移し鏡だ。万が一のために今日の特訓で私の攻撃を耐えれるだけの忍耐を身につけてもらう必要がある」


「甘いって言われたらそれまでなんですよね」


 党夜は「甘い」と言われることには滅法弱い。もちろん甘党だからスイーツは大好きだ。だからか時に爪が甘く、自分に甘いことがある。それを自身で自覚しているが故か「甘い」と言われると言い返せなくなる。あの人にもよく言われたのも理由の一つでもある。


「それよりこの黄色い光の結界みたいなのは何なんですか?」


「これは私の治癒結界ですよぉ。肋骨とか粉々で臓器を傷つける恐れがあったから治癒したのよ。結構危なかったよ。ふふふ」


 真冬はあっけらかんな態度だが、党夜のあらゆる汗腺から汗が吹き出てくる。


(肋骨が粉々!?臓器を傷つける!?聞き間違いだよな?ね?そうだよね?俺ガチで死にかけてたわけ…?)


「そんな顔しなくても大丈夫ぅ。もう完治したはずだからねぇ」


「え?肋骨粉砕骨折してたんですよね?」


「う〜ん…私の能力は特殊でね。まあ党夜くんが使えるであろう“再生”には遠く及ばないんけど。いずれ教えてあげるわ私のことも…」


 言葉から察するにワケありな話なのだろう。党夜はすぐに悟りこれ以上の追求をやめた。真冬がいずれというならその時を待とうと党夜は思った。


「んんん…それよりいつまで真冬に膝枕してもらうつもりだ?もう完治したのだろ?」


 あの事件からとてーも機嫌の悪い未桜は咳払いをし、早く真冬から離れろと言わんばかりに強めの口調で言う。党夜は瞬時に真冬の膝枕(オアシス)から離脱し、無意識に正座の姿勢をとる。 


「順序は逆になったが訓練の詳細を説明しよう。まず党夜には過負荷粒子(アニマ)を習得してもらう。これが出来ないようでは話にならんからな。何でも能力を使えばいい訳じゃない。能力の使用にも限度があるからな。それを補うために過負荷粒子(アニマ)が必要不可欠なんだ。

 過負荷粒子(アニマ)を習得するには二つの方法がある。一つ目は自力で何とかする。誰の手も借りず独力だけで過負荷粒子(アニマ)を身につける方法だ。だがこれは非常に難しい。出来るのは極わずかな天才と言われる奴らだけだ。私も試したが出来なかった。まあ銀の弾丸(うち)にいるので言えばあのバカと真冬ぐらいだろう。」


「え?真冬さんすごいじゃないですか!」


「たまたまよたまたまよ。なぜか出来ちゃっただけ」


 先程から党夜の中で真冬への評価が右肩上がりである。あのバカとは誰なのか気になるところだが今のところは関係なさそうなのでスルーする。


「そして二つ目が対象者に無理やり過負荷粒子(アニマ)をぶつける方法。私達は洗礼と呼んでいる。洗礼の種類についてはさっき真冬が説明した通りだ。簡潔に言うと外部から過負荷粒子(アニマ)をぶつけて活性化させることで過負荷粒子(アニマ)を使える状態にする。こっちが一般的だな」


「銀の弾丸のメンバーだけでなく能力者は大体通る道ね。今回はかなり荒療治だった気がするけどぉ。ふふふ」


 真冬はさっきのシーンを思い出しているようだ。党夜としては忘れてほしい限りである。


「だが洗礼はその人の過負荷粒子(アニマ)を活性化させるだけ。そこから使用できるようになるかどうかは本人次第な。どっちにしろ最終的には独力になるが洗礼ありならすぐに身につくだろう。では今からは本格的に過負荷粒子(アニマ)習得の特訓だ」


 党夜は未桜の説明を一つ一つ頭の中で咀嚼し完全に理解した。そこでずっと疑問に思っていたことを口にする。


「質問なんですけど……良いですか?」


「なんだ?」


「えっと……過負荷粒子(アニマ)には種類ってあるんですか?俺はこれまでに三人の過負荷粒子(アニマ)を見たんですが、どれも違うように見えたんです。三人の中でも姐さんのやつが特に輝きとか密度とかが濃かった気がしたんですけど…」


 未桜が目を見開く。その目には驚きと関心が込められているように見える。


「ほほぉ…それが気付いたのか。さすが移し鏡だな。種類とは違うが、能力者の力量で過負荷粒子(アニマ)の質が異なる。強者になればなるほど輝きや色が濃く深くなる。私以外の二人とは誰だ?」


「俺を襲ってきた女の人と桃香さんです」


「桃香のやつを見たか…じゃあとりあえず目標は桃香レベルだな。桃香は『能力(アビリティ)』の性質上、ここでは非戦闘員として扱われている。だがな正義のヒーローに憧れてるとかで一通りの戦闘訓練は(こな)している。党夜の目標としてはうってつけだな」


 あの日のことを思い出す。桃香の動きを追うので精一杯だった党夜としては非戦闘員だとは未だに信じられない。以前真冬も桃香は戦闘力は乏しいと言っていた。しかし桃香のレベルは党夜からすればまだまだ遠い。


「あのレベルが目標なんですか?めちゃくちゃ強かったんですけど…」


「モモちゃんは頑張り屋さんだからねぇ。ヒーローになるんだっ!って気持ちで必死に訓練してたからぁ。党夜くんも頑張ろう!」


「そういうことだ。始めようか」


「はい!」


 ここまで聞いてきて思ったことは、やはり姐さんは生粋の姉御肌だということだ。この人についていこう、と心の中で決心する党夜であった。


「では過負荷粒子(アニマ)を出してもらう。第一段階としては全身に過負荷粒子(アニマ)を発生させてみろ。イメージがとしては“気”や“オーラ”をそれらを纒う感じだ」


「オーラを纒う…纏う……纏う………」


 全身に力を入れ集中する。


(目で見て、この身で受けて感じた過負荷粒子(アニマ)の感覚を思い出すんだ。あの煌めき…色めいた美しさ…温かさに力強さ…それを纏う!)


 ふぉーん


 党夜の全身から光の粒子のようなものが纏わりつく。未桜らのと似た光。これが過負荷粒子(アニマ)だと党夜は理解する。


「筋がいいな。まだまだ甘さはあるがな。そのまま維持してみろ」


「はい…」


 この状態を維持するためさらに集中する。集中が途切れたら終わりだと瞬時に悟る。維持するのと発散させるのは違う。出ていこうとするものを抑える配慮も必要だ。なにより力加減が難しい。


 そして5分もしないうちに…


「はぁ……はぁ……はぁ……もう無理」


 党夜はその場でガクッと膝をつき肩で息をする。呼吸もかなり荒れている。党夜は運動神経は悪い方ではないがこれは別だ。脳が酸素を求めて必死に肺と心臓を動かしているのがよく分かる。


「いやいや驚いた。すぐに纏えたのも驚いたが、それよりも初めてなのに5分も保つとは…さすがだな」


「そうねぇ。普通なら30秒保てば及第点なんだけどねぇ。やっぱりDoFの力を引き継いだだけの素養があるのよ。将来が楽しみねぇ」


 そんな党夜の様子を見ている未桜と真冬はかなりの高評価をつけているようだ。


「はぁ…こんなにしんどいものなんですか…」


「直に慣れる。反復練習あるのみだ。この調子なら午後には組手ぐらいは出来るようになるんじゃないか?」


「そうね。封印のこともあるからもう少し苦労するかと思ったけど、午前中にある程度型はつくと思うわぁ」


「これを反復練習っすか…」


「弱音を吐くな。ほら十分休んだだろ?もう一度やってみろ!」


「ほえぇぇ……」


「心配しなくても、また倒れたら私が膝枕で看てあげるわよぉ。頑張れっ!」


 未桜からの叱咤と真冬からの激励をもらい、午前の訓練が終わるまで党夜は纏っては休憩の無限ループを味うことになった。




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです


第14話は土曜日18時投稿予定です

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