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第12話 表か裏か

お待たせしました

8日ぶりの更新です

どんな話だったっけな?と思った人は第11話を読み返すといいかもです



「はぁ…はぁ……ちょっと待って…」


「待てと言われて待つやつがどこにいる!」


「はぁ…未桜さん!ちょ、ちょ、許して…勘弁して…ください…」


 未桜が連続で右、左と撃ち出す正拳突きをギリギリのところで見切り避け続けている。一発一発に殺意が込められているのがよく分かる。しかも目が真剣(がち)である。躊躇いのない攻撃を避けるのが精一杯で息が完全にあがっている。しかしここまでのようだ。


「死んで償えぇぇぇぇ!!!」


 ドンッ!! バキッ!! と。


 鳴ってはいけない音が室内に鳴り響いた…




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




 なぜこのような事態に陥ってしまったのか。俺、天神党夜は薄れゆく意識の中で昨日の夕方から振り返ってみる。


 昨日の夕方、真冬に送ってもらった俺。そこで結夏は真冬さんと遭遇。しかし真冬は結夏が通う星城女子中・高等学校のOGであることが判明、しかも超有名人らしく結夏の憧れの先輩だったらしい。その後…


「古夏先輩、もしよかったら晩ご飯をご一緒にどうですか?」


「うーん、お誘いは有難いんだけどぉ…今日は遠慮させてもらうわ〜。今からまだ予定があるの。ごめんなさいね。また次の機会にお願いしていいかなぁ?」


「は、はい!もちろんです!是非お越しください!」


 結夏の誘いを丁重に断った真冬は次の用事のため派手なスポーツカーに乗って帰っていった。俺達は見送った後は家に入った。


「ふぅ…腹減った。結夏、今日の晩飯なに?」


「シチューだよお兄ちゃん。今日本当はお兄ちゃんの番だったんだからね」


「うっ…すまん。代わりに俺は何をすればいい?明日の当番を代わればいいのか?それとも風呂掃除か?」


「別にいいよ。今度また古夏先輩を連れてきてくれれば、ね!」


「……」


 食事当番や風呂掃除などの肉体労働は免除されたもののそれよりも高難易度ミッションを叩きつけれる結果となった。真冬さんなら頼めば来てくれる気もするが出会って一日で甘え過ぎな気がするな。自分の甘さは理解しているつもりだけど。この甘えに甘えてはいけない…


「真冬さんも言ってたけど、いずれな」


 などと誤魔化すことしか出来ないのであった。その後、予定通り結夏が作ったシチューと市販のパンで晩ご飯を済ませ交代で風呂に入る。いくらなんでも妹相手に欲情しないし、ラッキースケべも起きない。今後も結夏のサービスシーンはないだろう。ないぞ!ないったらないのだ!


 この2日間で信じられないほど疲れた俺は明日のハードと予想される訓練のため早めに寝ることにした。一応10時間ほど睡眠してたらしいが、気絶と認識している俺の脳は回復しているそうに思えない。そもそも気絶している時って睡眠と同じ効能があるのか?謎である。しかしぐっすり眠れたことを考えると気絶≠睡眠ではないかと思う。


「お兄ちゃん!今日朝からバイトなんでしょ?もう起きないと間に合わないよ!」


 平日は基本的に結夏に起こしてもらっている(起きるとは言ってない)が休日は俺の自主性に任されている。だが今日は俺が昨日頼んで起こしてもらったのだ。


「ほーい。もうそんな時間か…」


「えっ!?お兄ちゃん起きたの?」


「起きたのがそんなにおかしいか?」


「だっていつも起こしても起きないじゃん!なんで?なんで?」


「朝からテンション高いな。バイトは遅刻するわけにはいかねぇだろ。それだけ!」


「あっそ。じゃあご飯食べよ」


 俺が起きたことに結夏はとても驚いたようだ。毎朝起こしても起きないのに、今回はきちんと起きたのが信じられないらしい。心外だ。俺だってやるときはやる。ホントだよ?いやホントに。未桜さんが怖いとかそんなんじゃない。決してない。


 どんな訓練か分からないがハードだと推測しているので朝食はいつもよりガッツリ食べた。そして予定より少し早く家を出ることにした。


「いってきます」


「お兄ちゃん、いってらっしゃい」


 結夏に一言告げてたからオフィス街に向かう。最寄りで駅までは歩いて行くことにする。自転車で行ってもいいんだが、ただ駐輪場のお金を出すのをケチっただけである。


 “SILVER MOON”のビルから一番近い駅は俺の最寄り駅から4・5駅先だ。電車に揺られること約20分、そして徒歩10分したところで目的地に着く。


「やっぱりデカいなこのビル。まさか地上(・・)のビルは云わば裏方で表向きなだけな訳だしな。誰もそんなことおもいもしねぇーよな」


 などとポツリと呟きビルの中に入っていく。回転式ドアを通ってビル内部に入ると広いロビーがある。休日だというのに“SILVER MOON”の会社員だと思われる人達がぼちぼちいる。だから余計に俺の存在がすごく浮いている。そこで思い至る。


 あれ?来たのはいいけどどうやっていけばいい?受付か?でも銀の弾丸ってここの人って知ってるのか?どーすんだよ


 とりあえず受付のお姉さんに銀の弾丸について触れずに尋ねてみることにする。


「あの…天神党夜という者ですけど…えーっとですね…アポは取っているんですが…何か聞いてませんか?」


「天神様ですね。承っております。下へのご用事ですね?申し訳ありませんがしばしお待ちください」


「あっ……はい」


 まさか受付のお姉さんが下のことを知っているとは思わなかった。でもよく考えれば知っていて当然か。真冬さんや姐さんだって上の人達に気付かれず下に行くのは至難の業だ。それは不可能ということではない。長期的にみて気を緩めることなく毎回気を配ることが至難の業だと思うだ。ここは自分達の本拠地である。ここですら警戒していた体がもたないだろう。上の人の中に事情を知る者が数人いると考えて良さそうだ、などと考えていると…


「おはよう〜党夜くん。早かったわねぇ」


 初めて会った時と同じ白衣姿の真冬さんが挨拶をしてきた。おそらく受付のお姉さんから連絡がいったのだろう。


「おはようございます真冬さん。いえ遅刻するわけにはいかないですから」


「ふふふふ…そこよそこ。党夜くんは遅刻魔だと聞いていたけどぉ…どこかで情報錯誤があったのかなぁ?」


 悪戯な表情を浮かべそんなことを言う真冬さん。


「え?玲奈ちゃんから聞いたんですか?」


「誰からとは言えないなぁ。情報規制がかけられてるからねぇ」


 その返答が答えになっていることは真冬さん自身も分かっているはず。一応先方との約束を守る(てい)はあると保険をかけているに過ぎない。俺もそのことを察したのでこれ以上の追求はしない。そもそも玲奈ちゃんだって冗談半分で伏せるように言ったに違いない。


「それで今から俺はどうしたらいいんですか?」


「あっ!そうねぇ、とりあえず下りよっか」


 真冬さんの提案で地下に下りることになった。“SILVER MOON”のロビーは回転式ドアの正面に受付があり、その横にエレベーターへの通じる通路があるいったオーソドックスな作りをしている。その通路の手前には駅の改札のようなものがあり、改札は従業員の持つIDカードか受付で貸し出し発行してもらえるIDパス(仮)で通ることができる。


 俺はまだそのIDパスを貰っていないので真冬さんの後ろを“駅の改札をお母さんの後に続く子供”のようについていく。そのまま通路を歩くと少し拓けた場所に出た。そこには通路から見て両側左右対称に合計9台のエレベーターがある。平塚ヶ丘でも上位の会社だ。従業員数も半端じゃない。その従業員が朝の通勤してくるとなると9台では足りないぐらいだ。だから“SILVER MOON”では部署をグループに分けて、そのグループごとに朝の通勤時間をズラスことでそれを解決した。グループの通勤時間はローテーションになっているらしい。あるグループだけが常に一番早い通勤時間になることを避けるためのローテーションだ。


 下へと通じるエレベーターはこの中にある。見ると左側に5台、右側に4台である。これでは左右非対称だ。右側に5台ないと左右対称にならない。ならばどういうことか?それは5台目がちゃんと存在するから。


 真冬さんは右側の一番奥の壁の前まで歩き立ち止まった。そして胸ポケットからIDカードを取り出した。ここで説明すると胸ポケットとは服の胸部に縫い付けてあるポケットではなく、文字通りお胸のポケットである。おっぱいポケットだ。漫画やアニメだけだと思ってたが実際目にするとすげぇエロい。


 胸ポケットはさておき…真冬さんは取り出したIDカードを壁に押し付ける。ピッ!という電子音が鳴ると壁だと思っていたところが突然開いた。壁の置くにはエレベーターがあったのだ。うん、からくり屋敷みたい。これは外部の者への対策なので“SILVER MOON”の従業員は認知しているが彼らの持つIDカードでは起動しないので問題ない。


「さあ行きましょ!」


「やっぱすげぇ〜っすねこの仕組み」


「うちの(ヘッド)の頭がお子ちゃまなのぉ。だからこんなからくりならまだあるわよ」


「俺好きですよ」


「彼の前では言わないでねぇ。調子に乗るから」


「あはは…分かりました」


 などと雑談しながらエレベーターで地下に下りる。初めて見た時は驚いたどころの騒ぎじゃない。興奮したと言っても過言じゃない。行きは気絶していたから記憶がなく、帰りにエレベーターに乗って降りるて振り返ると壁だったからだ。壁をすり抜けたかと思ったよ。昔のゲームでよくあったバクみたいだと。

 

 あと俺は未だ銀の弾丸(シルバーブレッド)(へっど)には会ったことがない。玲奈ちゃんからはある種忠告紛いのことをされた。気をつけろと…だけどなぜか親近感を感じる。てか男ならからくりに心躍るのは仕方ないんじゃないか?


 エレベーターは地下6階で止まる。降りると見覚えのある場所だった。俺が初めて来たところ、保健室らしき部屋のある階だ。歩き進める真冬の後をついて行く。


「とりあえず党夜くんには特訓のために着替えてもらうわぁ。今の格好じゃ動きにくいと思うからぁ。更衣室にそれ用の服があるから勝手に使ってくれていいからね。更衣室は突き当りを左に行ったところにあるから。私は先に行くから着替えたら7階に来てねぇ」


「了解です。何から何までありがとうございます」


「お礼なんて必要ないよ〜じゃあまた後でねぇ〜」


 そう言って真冬さんは来た道を引き返す。今考えれば疑うべきだった。古夏真冬という人物について俺は何も分かっていなかったことに気付かされる…


 言われた通り突き当りを左に曲がるとちゃんと扉があった。だが数は二つで両方更衣室と書かれた札が付いている。ここで選択を迫られる。どちらを選ぶべきか…どう考えても男と女別れていると考えていい。定番中の定番のテンプレだ。間違えて女子更衣室を開けてしまうパターン。しかし俺は騙されない。


 なぜなら更衣室の字が青と赤で色分けされている。そして真冬さんは俺を更衣室まで案内しなかった。これを踏まえると導き出される答えは一つ。赤が女で青が男だと普通は考える。だがそれはトラップ。常識に縛られた行動こそ真冬さんの手の上で踊ることになる。つまり青の方に入ったら女子更衣室でラッキースケべからの地獄を見ることになる。


 つまりだ。答えは赤が男で青が女である。ふふふふ真冬さん、俺はそこまで甘くない(・・・・)ですよ。


 ガチャ


 俺は赤色で更衣室と書かれた扉を開ける。そこで目にしたものは下着姿の姉川未桜だった。黒を基調とした激エロ下着を着た姐さんがそこにいたのだ。俺が入ってきたことに気付いたらしく、振り向き顔を少し赤らめる。


「…ここまで大胆に覗きをするやつだとは思っていなかった…まさか……私を犯すつもりだったのか?まあ理由などどうでもいいか。この状況こそが真実だからな…党夜…覚悟は出来ているんだろうな?」


「いや姐さん……いやいや……未桜さん、これには深い事情がありまして……」


「言い訳は聞かん。とりあえず…出ていけぇぇ!」


 ゴツン!!!


 鳩尾(みぞおち)に姐さんの強烈な一撃を喰らい反対側の青で更衣室と書かれた男子更衣室の扉にぶつかる。そしてバタン!!と女子更衣室が閉じられた。


 何とか気絶を免れた俺はお腹をさすりながら更衣室で用意されていた服に着替える。ウエットスーツのようなものだった。きっと何らかの機能が付いているのだろう。しかしかなり薄手だが大丈夫か心配だな…着替え終わりエレベーターホールに向かう。ただその足取りは重い。もちろん先程の事故のことでだ。


 エレベーターはすぐに来たのでそれに乗り込み7階のボタンを押す。一階下なのですぐに着いた。エレベーターは地下7階の表示を示し止まり扉が開く。そこは一階全てが一つの空間となっており、体育館のでかい版みたいな感じ。天井までは約10メートルほどの高さがあり、壁はタイルを敷き詰めた風になっている。特殊金属で作られたいるらしく衝撃吸収や防音など多種多様な要因に対して対処されており、訓練施設として使われているらしい。


 ここにいるのは俺を入れて三人。もちろん真冬さんと姐さんである。真冬さんはさっきと変わらず白衣を着ている。姐さんは俺と似たウエットスーツ風の服を着ている。ウエットスーツ風ということは…露骨にボディーラインが出ている。初めて会った時からスタイルが良いと思ったいたが予想以上の迫力である。俺の周りのお姉さんは皆ボンキュッボンだあるのは不思議だ。


 だが今はスタイルなどどうでもいい。それよりも姐さんからの殺気と殺意がピリピリしていて居心地が悪いからだ。相当お怒りのようだ。マズイ…非常にマズイ…


「遅かったわね党夜くん。何か(・・)あったのかなぁ?」


「いやぁ色々とですね。俺の早とちりで姐さんに迷惑を少々…」


「…………」


 真冬さんはすでに何があったか見当がついているようだ。きっと俺の深読みの深読みで勝手に引っかかっただけ…なんだと思う。あと黙って睨んでいる姐さんの目が怖すぎる。


「まあね、まさか党夜くんが女子更衣室に突っ込むなんて思わないわよねぇ……普通(・・)青の方が男だと思うよねぇ。ふふふ」


 今確信しました。真冬さんが俺をハメたことを。俺の認識が甘かったようだ。


「分かってたんですか…」


「未桜の様子を見ればすぐに分かるわよぉ」


「御託はいい。早く訓練を始めるぞ。行くぞ!!」


「えっ!?」


 姐さんはそう言うや否や殴りかかってきた。しかも全身が輝いている。両手は他よりも濃くより輝いているように見える。しかしこれ以上考察している時間はない。


「ちょっと…え?『過負荷粒子(アニマ)』!?」


「さすがに過負荷粒子(アニマ)は知ったいるか…」


 会話をしながらも姐さんの攻撃は止まらない。俺は避けることに必死だった。


「……てかそれって生身で受けたら死ぬんじゃ…?」


「ああ……当たりどころが悪ければ死ぬかもな」


「えぇぇぇ!?やっぱり!」


「避ければ済むことだ!」


 フェイントを織り交ぜながら繰り出される連撃を既のところで躱す。当たれば死ぬ。今目の前から死が襲いかかる。


 ここで冒頭に戻る。


「はぁ…はぁ……ちょっと待って…」


「待てと言われて待つやつがどこにいる!」


「はぁ…未桜さん!ちょ、ちょ、許して…勘弁して…くださ…い…」


 未桜が連続で右、左と撃ち出す正拳突きをギリギリのところで見切り避け続けている。一発一発に殺意が込められているのがよく分かる。しかも目が真剣(がち)である。躊躇いのない攻撃を避けるのが精一杯で息が完全にあがっている。しかしここまでのようだ。


「死んで償えぇぇぇぇ!!!」


 ドンッ!! バキッ!! と。


 鳴ってはいけない音が室内に鳴り響いた…




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです


第13話は土曜日18時更新予定です

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