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第10話 修羅場 後編



ー4月16日 午後4時00分ー




 午後の授業を無難にこなし、現在放課後。部活の者はすでに部室に向かったのだろう。教室内では帰宅部や部活が休み者が談笑している。党夜は昨日と同じ工程を歩もうとしていた。


「天神ぃ、忘れずに来いよ?」


 と玲奈に不必要とも思われる釘を刺されている。言われなくとも行くのが必然で絶対なのだ。サボったら最後どうなるかわかったものではない。

 憂鬱な気持ちになりながら生徒指導室へと向かうのであった。


 生徒指導室の前にたどり着き、扉をノックして中に入る。


「失礼します。天神です」


「来たか。そこに座れ」


 すでに玲奈は昨日と同じ椅子にすわっていた。上着を脱いで少しばかりラフな格好をして色気がある。しかしここで党夜は思うのだ。なぜこの人は結婚できないのかと…


「天神ぃ、今失礼なことを考えなかったか?」


「…え?…いや、そ、そんなことないですよ」


 ドンピシャで思考を読まれ動揺する党夜。その様子がおかしかったのか笑う玲奈。


「ははは…貴様はポーカーフェイスというのを知らんのか?心の中が丸見えだぞ」


「すいませんでしたね、感情がただ漏れで…」


「素直でいいことだ」


「それ褒めてるんですか?」


「褒めていると思うのか?」


「……」


 やはり玲奈ちゃんは厄介だ、と心に刻む党夜。


「そんな話はいい。今日は本来なら昨日の続きをしたかった。だが、少し事情が変わったようだな。天神、貴様は“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入ることにしたらしいな?」


「ええ…って情報早すぎじゃないですか?入るのを決めたの今朝ですよ?」


「ああ…今朝真冬から連絡があってな。貴様が襲われたこともな」


「真冬さんから?そういえば先生のこと“レーナ”って呼んでたような…知り合いなんですか?」


「知り合いといえば知り合いだな。腐れ縁というやつだ」


「そうなんですか…そういえば妹さんにも会いましたよ。てか助けてもらったんですよ。桃香さんでしたっけ?」


 党夜が桃香の名前を出した途端に玲奈は顔を顰める。


「あの自称ヒーローバカのことか。私に礼を言ってどうする?アイツは出来の悪い妹だ全く…」


「妹さんと仲悪いんですか?」


「あいつと仲の良いやつなどいるのかと聞きたいぐらいだな…」


「それでも実の姉妹なんでしょ?」


「くどいぞ天神ぃ…」


「すいません…」


 どんどん不機嫌になる玲奈。党夜は悟った…玲奈の弱点は桃香であること。


「あのバカの話はいい。今日は貴様に謝らなければならない。本当にすまなかった」


 不機嫌だった玲奈がいきなり頭を下げて謝罪するが、党夜には意味がわからない。


「え?玲奈ちゃん?なんのことですか?」


「玲奈ちゃん言うな!あれだ、天神お前が狙われる可能性を知っていながら忠告もしなかったことだ。しかもそれを懸念して昨日話をしたのに…あの時引き止めておけば…すまない」


 玲奈ちゃんと言われたことに一瞬怒ったが、頭を下げるというこれまで見たことがない玲奈の姿に党夜は驚きを隠せない。いつもクールでサバサバしている玲奈を見ている党夜だからこそ、このギャップにびっくりしてしまっている。


「いえ、あれは俺の甘さが招いたことですから…俺だって彼女の力を持っているのに、それを自分で使えないことに甘えてたんです」


「そうか…私も天神に甘えていたのかもしれん…力を表に出せないから簡単にバレないと思っていたからな…」


「そもそもどうして先生は俺のことを知ったんですか?」


「それも真冬から連絡があったんだ…妹の『能力アビリティ』が“魔眼”という種類のもので、その中でも希少な検眼系の魔眼だったんだ。それに天神貴様が引っかかったわけだ」


「聞きました。桃香さんが相手を見破る力を持っているってことですよね?」


 真冬から聞いた時も驚いたが、党夜はあの天然系ゆるふわ女子がまさかの自分が危惧していた力を持つ『能力者』だとはにわかに信じられなかった。


「ああ…初めあいつは残念がっていてな。もっと派手なヒーローみたいな力が良かったとか…まあそのおかげで体術を極めることに固執して肉体的強さも手に入れやがったんだがな」


「そうだったんですか…」


「話がそれたな…それ真冬から報告があり相談した結果、様子を見ることになった。銀の弾丸(シルバーブレッド)は天神が暴れだす危険性がないと判断したからだ」


「そもそも先生も銀の弾丸(シルバーブレッド)のメンバーなんですか?」


「いや、私はフリーだ。どこにも所属していない。フリーの方が何かと自由に行動できるから楽なんだ。あと本職が高校教師(これ)だから所属していると不便なんだよ。真冬とは古くからの付き合いだから、よく連絡を取っているだけだ。だから銀の弾丸(シルバーブレッド)には詳しいが、他は人並みにしか知らん」


「らしいっちゃらしいっすね」


 どこにも所属していない独身精神を貫く玲奈ちゃんらしい、と思った党夜だが口に出すほど命知らずではない。そもそも一人が楽だと行っている時点でこの人は本当に結婚したいのだろうか。一人が好きなのではないかと真剣に心配になった。

 誰か玲奈ちゃんをもらってあげて!


「とりあえず真冬は信用も信頼もできる。それは私が保証しよう。だが銀の弾丸(シルバーブレッド)(ヘッド)だけは気をつけろ!アイツだけは色んな意味で別格だからな…」


「分かりました。別格ってそんなに強いんですか?そもそもまだ銀の弾丸(シルバーブレッド)のメンバーは真冬さんと桃香さんしか知りませんし…」


「それは会ってみればよく分かる。まあアイツは気まぐれだからな…ちなみに私は…大嫌いだ!」


「そうですか…」


 玲奈が言うぐらいだ。お墨付きというやつだ。真冬はそれほど信頼に足る人物だと再認識できた。そして銀の弾丸(シルバーブレッド)(ヘッド)については謎のままだが、癖の強そうな人物なのだろう。


「要件は以上だ。ほとんど真冬が済ませてくれたからな…今日の遅刻の件は多めに見てやろう。だが次からはそうはいかんからな?」


「…もちろんっすよ」


「分かればいい。じゃあ気をつけて帰れよ」


「それ言っちゃうとまた何か起きそうな気がするんですけど…」


 遅刻については今回ばかりは事情が事情なので無罪放免となりホットするが、すぐに釘を刺される。次はないぞ、と。その上フラグも立てられた。この後が不安でしかない党夜であった。


 そしてそのフラグはすぐに回収される。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 




 無事に玲奈との密談を終え党夜は帰路につく。すでに校内にいる生徒はまばらで、運動部もすでに撤収している。部室でだらだらしているのだろうか。


 昨日からなかなかハードスケジュールでなかなか疲れている党夜は自転車をひき帰るために校門へ向かう。するとなにやら騒がしい。校門に人だかりが出来ている。


(まさか…玲奈のフラグじゃないだろな…俺そこまでトラブルメーカーじゃないぞ…)


 嫌な予感しかしない。なぜか自分の関係者のような気がしてならない党夜。

 校門に近づくにつれて声が聞こえてくる。


「…んた誰よ…トーヤに…用事よ!」


「…めんね…それ…言え…わぁ」


 言い争っているようだ。しかも党夜は言い争ったいる二人の声に超絶聞き覚えがあった。党夜はため息が止まらない。


「あの…お二人さんは何をしていらっしゃるのでしょうか?」


「トーヤ!この女の人誰よ!」


「党夜くん…この子を何とかしてくれないかしらぁ?」


 言い争っていたのは紫と真冬だった。スポーツカーのボンネットに腰を下ろす真冬に紫が噛み付いているのが今の現状だ。


「修羅場だ…リアルタイムの修羅場だ…」

「昼休みの延長線だな」

「この人は…誰だろう?」

「天神くんを狙う新手の…」

「人妻か!人妻なのか!」

「だから未亡人だって言ってるだろ!」

「紫がんばれ!」

「てかあのお姉さんスタイルよくね?」

「それ俺も思ってた!」

「男子うるさい!」


 野次馬の中にはクラスメイト面々もいたようだ。また好き勝手に話を広げていく。一部の男子生徒は真冬の体を凝視している者までいる。いやらしい目つきである。


「えーっとですね…まず真冬さん。なんでここにいるんですか?」


「うん、それはね…急用があるから今すぐうちに来てもらう必要があるのぉ。連絡しようと思ったんだけどちょうど近くに来たから迎えにきちゃった!テヘペロ」


 舌をぺろっと出して戯ける真冬。


「迎えにきちゃった!テヘペロ…じゃないですよ!はぁ…」


 もう返す言葉がない党夜はため息をつく。そこで置き去りにされていたもう一人が騒ぎ出す。


「トーヤ!ちょっと無視してんじゃないわよ!この人誰か答えなさいよ!」


「紫落ち着け!この人は…えー…親戚のお姉さんじゃなくて…奈々さんの知り合いでもなくて…バイトの先輩…そう!バイトの先輩だよ!」


 党夜はなんとか言い訳を絞り出し誤魔化そうとする。その場しのぎのいいわけである。こんなことをすればあとでしっぺ返しを喰らうのが定番だが、そんなことまで頭は回るはずがない。


「は?バイトの先輩?ほんとに?てかトーヤバイトやってたの?」


「おう、最近始めたんだよ!」


「でもさっき、(うち)に来てとか言ってたじゃん!」


「うちってのは家じゃなくてバイト先のことだよ!真冬さんの家に行くわけ無いだろ?」


「別に来てくれても構わないわよぉ?」


「真冬さんもこれ以上煽らないでくださいよ!」


 二人から別種の厄介な口撃を受け流しながら話を進めていく。


「そろそろいいかしらぁ?今バイト先でピンチなのよ…シフトがね、ちょっと…」


「バイト?…ああシフトですね?オーケーです。急ぎましょう」


 自分が真冬をバイトの先輩だと紹介したことをすっかり忘れていた党夜。そのことを思い出しこの場を凌ぐため真冬の提案に乗っかる。


「ちょ、ちょっと…今度詳しく説明してよね!」


「分かった分かった。紫じゃあまた!」


 そして党夜は真冬のスポーツカーに乗り込み学校をあとにする。紫はそれを見送るしかなかった。野次馬連中はスポーツカーが去ると同時に各々帰路についた。


「トーヤの周りはなんで女だらけなの…」


 ボソッと紫が呟く。紫なりに悩んでいるようだ。そんな落ち込む紫に声を掛ける者が一名。


「気にしない!気にしない!諦めちゃダメだよ紫!アンタは幼馴染って最大の武器があるでしょ!」


(かえで)ぇ…」


「今日時間ある?とことん愚痴聞いてやるあげるから元気出しな!ほら行くよ!」


「うん、ありがと楓」


 こうして紫と楓はお茶するために喫茶店へと向かうのだった。その後、楓は愚痴を聞かされるのだが

簡単に受け持ったことを後悔するのはまた別のお話。



 

読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです


第11話は金曜日18時投稿予定です

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