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ハッピーエンドと新たなライバル

 問題を解決するには大きく分けて2種類の方法がある。

 自分から積極的に前へ出て行く方法と、時間が解決してくれるのを待つ方法だ。

 それは問題によって変える必要がある。

 今回の場合、選択したのは前者の方法だ。

 理由は周りの人間に迷惑をかけられないから。

 私は問題を抱えたまま見て見ぬふりをして普通に生活出来るほど、器用な性格はしていない。

 これ以上の『待ち』は私が関わる全ての人に迷惑をかける可能性が高いのだ。

 吹奏楽部のみんなには私の調子の悪さで練習において迷惑をかけてしまうだろうし、忙しい両親に代わり長女として家事や弟妹たちの世話をしなければならないのだから悩みを引きずってはいられない。

 加えて、楓花と会えない時間をすぐにでも無くしたい思いもある。

 昔、中学生の頃に実験したインゲン豆の発芽実験のように差が出てきてしまうのだ。

 日光を当てた苗と当てない苗の比較は見た目にも顕著に現れる。

 つまり、楓花がいるのといないのとでは生活が違う。

 そういった意味では私の中で彼女は太陽のような存在なのだろう。



 部活が終了し、家へ少しだけ帰宅が遅くなることを連絡してから、私はいつもとは違うバスに乗った。

 幸い、今日は両親の帰りが早いらしく私が帰宅しなければ弟妹たちがお腹を空かせてしまうこともないようだ。

 部活終わりの体には心地よいバスの振動に揺られること15分。

 停留所から歩いて5分の場所に楓花の住むアパートは存在する。

 秋の夕方はすっかり日も落ちてしまって、夜に近い暗さになっていた。

 それでも、何回も足を運んだことのある場所へ行くルートを間違えることはない。

 なんてことないアパートの一室だった。

 女の子の一人暮らしだというのに、大したセキュリティもない建物である。

 女子高生がこんな場所で一人暮らしとなればストーカーに付きまとわれる可能性もそれなりにあると思うのだが、良くないことが起こらないのは隣人同士で親しくしているからだそうで。

 親友からすれば、ハラハラさせられるのだが本人は全くお構い無しである。

 だが、今回はそれが好都合だった。

 もし、楓花が高級マンションに住んでいたとして、1階のロビーで拒絶される可能性が無いとは言えない。

 そんなことをされたら私は1カ月ほど立ち直れないだろう。

 階段を登って2階にある彼女の部屋のドアの前まで行く。

 深呼吸をすると、インターフォンのボタンを押す。

 今までボタンを押すだけでこんなに緊張することがあっただろうか。

 しばらく待っていると、部屋の中でごそごそという音がして、続いてガチャリと開錠される音がした。

 軽く開いたドアの隙間から少し寝ぼけた楓花が顔を覗かせる。


「はーい、どちらさま……え」

「やっ、やっほー……」


 寝起きなのか訪問客が誰かを確認していなかった楓花が私の顔を見て固まる。

 顔がみるみる朱に染まり、唇が軽く震えているのが見て取れた。


「風邪はどうですか」

「あ、うん…………」

「げ、元気そうだね!」


 私も私で気の利いたことを1つでも言えれば、まだ場の雰囲気が軽くなるのだろうが、頭をフル回転させても大したことは言えなかった。

 やっと思考が追い付いたのか、楓花は我に帰えると反射的にドアを閉めようとする。


「ご、ごめん、有栖っ」

「あ、ちょっ……楓花」


 だが私もその反応を予想していなかったわけではない。

 学校に来ていない時点で、拒絶されるような予感があったからだ。

 こんな時のための手段は想定してある。

 それは閉まるドアの隙間へ悪質セールスマンの如く右足を突っ込むことだった。

 すると、ドアはローファーのお陰で完全に閉まることなく、なんとか楓花と話が出来る。

 そう思っての行動だったのだが。


「いぁっ!!」

「へ?」


 思い切り閉められたドアに挟まれた私の右足にはビックリするくらいの激痛が走った。

 余りにもドアの閉まる勢いが強かったのか、切断されてしまうと錯覚を受けるほどである。


「…………っ、くぅ」


 本当に痛い時は声すら出ないと聞いたが、本当だった。

 足を押さえてそのままうずくまるが、足のズキズキした痛みをどこに逃がして良いか分からない。

 その様子を見た楓花が慌ててドアを開けて駆け寄ってくる。


「有栖大丈夫!? ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」


 いつもおっとりして落ち着いている彼女からは想像出来ないほどの焦りを含んだ声に申し訳無くなり、大丈夫という意思を伝えたいのだが、如何せん足が痛すぎて声が出ない。


「とりあえず入って!」

「…………ん」


 楓花の肩を借りて、頷きながら部屋に入る。

 室内は相変わらず綺麗に片付けられていて、弟たちに散らかされる我が家とは雲泥の差である。


「早くベッドに座ってっ」

「うん……」


 楓花は制服でも普段のゆったりとした私服でもなく、部屋着としてねずみ色のパーカーを着ていた。

 久しぶりに見る楓花の部屋着姿に新鮮さを覚えると同時に、痛みが少し和らいでそんなことを考えられるようになっている自分の余裕に気がついた。


「どうしよう、有栖に怪我をさせちゃった……こんな時はどうすれば────119番かなっ、あっ、まず冷やさなきゃ!!」

「……ふふっ」


 私より楓花が焦っていることに何だか可笑しくなってしまう。

 少し意地悪かもしれないが、楓花の慌てた顔は可愛かった。


「あ、ありす?」


 ついさっきまで声も出せないほど痛みに苦しんでいた人間が突然笑い出せば誰だって怪訝な顔をするだろう。

 そして、それは楓花にも当てはまった。


「いや、大丈夫。痛みでおかしくなったと思った?」

「う、うん……ちょっとだけ」

「大丈夫だって。ほら、足も大したことない」


 紺の靴下を脱いで右足を見せる。

 多少赤くなっているとはいえ、怪我までには至っていなかった。

 更に楓花を安心させるために、足の指をグーパーと閉じたり広げたりする。


「はぁ……良かったー。わたし、有栖のぉ…………っ、ひぐっ」

「え、楓花っ!?」

「うっ、ぐすっ、有栖にぃ! また、迷惑を……っ」


 あれだけ慌てたかと思えば、今度は泣き始めてしまった。

 楓花の泣き顔を見るなんて、小学生以来だろうか。

 私はポケットから白い布地に水色の糸で刺繍されたハンカチを取り出すと、彼女の頬を伝う涙を拭き取ってやる。


「う、うっ……ありすぅぅぅ!!」

「あー、よしよし。泣かないでよ、楓花」


 涙を拭くのを止めて、楓花に好きなだけ泣かせることを選んだ。

 胸に顔を押し付けてくる彼女の背中を抱いてやると、シャンプーの良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 それから涙が止まるまで、私はひたすら背中をさすってあげるのだった。



 10分ほど経っただろうか。

 ようやく泣き止んだ楓花は、顔を真っ赤にして黙りこんでしまった。

 その赤さは、多分泣いたことだけが原因ではないのだろう。

 高校生にもなって友人の前で泣いてしまったら、私も恥ずかしく思うに違いない。

 このまま永遠に静寂が続くように思われたが、私は何も言葉を発することなく、ただ彼女が話せるタイミングを待った。


「あの……有栖」

「ん? 何、楓花」

「お、怒ってる?」

「怒ってないよ」

「私のこと嫌いになった?」

「なってないよ」

「…………うそ」

「嘘じゃないよ」


 楓花の質問に、私はゆっくりと丁寧に答えていく。

 あまり会話になっていないが、とても気分が安らぐ時間だった。


「…………これでも?」

「え、うわっ」


 ベッドに座っているところを、優しく、それでいて強引に押し倒された。

 一昨日のように、私の目の前には思い詰めたような楓花の顔がある。

 改めてまじまじと顔を見ると、少し疲れているような印象を受けた。

 楓花も悩んで悩んで、苦しかったのだろう。

 私のためにそこまで考え抜いてくれる存在は単純に愛らしかった。


「嘘だよ……だって私、キスだけじゃなくて、こんな風にもっとスゴいことしちゃうかもしれないんだよ? そんなの有栖には迷惑だよ……」


 スゴいこと──それは詳しく聞かなくても押し倒されて上から覆い被さられている今の状況を鑑みてみれば分かることだった。

 それでも私は焦らないし、ましてや身の危険なんて感じない。

 変に余裕が生まれている。


「楓花だって嘘つき。キスするのにだって人の寝込みを襲うような臆病さんに、あれよりスゴいこと出来るはずないね」

「うっ……そうだけど。あの、もしかしてキスしたこと怒ってる?」

「怒ってるに決まってるじゃない! あんなのノーカンにしたいところよ!!」

「え……」


 楓花の顔が一気に色を失うのが分かった。

 あぁ、もう大好きな人にこんな顔をさせてはいけない。

 私は力の抜けた拘束から抜け出すと、座り直して彼女と向き合った。


「私のファーストキスはもっとロマンチックにしたかったの。夜景をバックにとか、夕暮れの海岸でとか。こっちが風邪引いて朦朧としてる時なんて最悪よ」

「へ……あ、そ、そういうこと?」

「あー、もう3回目以降は、もっとドラマみたいなキスをするんだからね。楓花も良い場所とか考えといて!」

「う、うん……分かった…………あれ、3回目って────」


 言い終わる前に楓花の体を抱き締めて彼女との僅かな距離をゼロにした。

 唇が重なる感触は私を温かく満たしていく。

 1回目はいきなり過ぎて何も感じる暇が無かったけれど、今は分かる。


「私は楓花が好きなんだ」

「私もよ、有栖」


 慌てていても泣いていても楓花だけれど、やっぱり彼女には笑顔が似合う。

 つまらない倫理観が私だけではなく楓花の頭も一緒に悩ませるのならば、そんなものとは仲良くする必要なはない。

 何も考えず、楓花のことを優先する。

 簡単なことなのにすぐに気付けなかった。

 それは果たして私が悪いのか、それとも楓花の伝え方が悪かったのか。

 本当にどうでも良いことで。

 結局、2人結ばれてハッピーエンドになったので問題なかった。



 少し落ち着いて、楓花が温かいココアを出してくれて。

 飲み終わると、私たちはベッドを背もたれに並んで座った。


「えへへ、ズル休みしちゃったー」

「やっぱりそうだったんだ」


 楓花が私の肩に頭を乗せてくる。

 となりに楓花がいること、腕に押し付けられた柔らかい胸、甘えてくるような声。

 私はすべてにドキドキしていた。

 お互いの好意を確認しあった後だと、全ての触れ合いが私を惑わせることになる。


「朝起きたらね、何だか学校に行きたくないなーって。体調とかは問題ないんだけど、足が進まなくてー」

「私はてっきり風邪をうつしちゃったかと思ってヒヤヒヤしたんだから。未来にもいじられたし」

「ごめんねー」


 もう楓花は何を言っても無駄なくらいに浮かれているようで、満面の笑みを崩すことはなかった。


「でも、明日からは絶対に休まないよー。有栖と1秒でも一緒にいたいから」

「う、うう……そんなことをストレートに言われると照れちゃうな」

「私で照れてくれるなんて嬉しいなー。明日から勉強も部活も頑張らないと」

「楓花は頑張りやさんだもんね」

「有栖には負けるよー」

「そんなことないって。一人暮らしって大変でしょ?」

「そりゃ私が望んでやってることだからねー」

「望んで?」


 そういえば私は楓花が何故一人暮らしをしているのか知らない。

 両親が仕事の都合で引っ越しをしなければならないことは聞いていたが、楓花はどうしても白百合学園に通いたかったのだろうか。


「それは白百合に絶対通いたかったから?」

「そうだよー。だって有栖が通ってるしー」

「そ、それでだったの?」

「うん。考えてみれば私はあの時から有栖のことが好きだったのかもねー。自分がどこの学校に通うかじゃなくて、有栖がどこの学校に通うかの方が重要だったから。それで両親にわがまま言って一人暮らしを許してもらったの。幸い、白百合は進学校だったから両親も喜んでくれたし」


 私はそこまで深く愛されていたのか。

 もちろん親友として楓花と一緒にいたかったけれど、私だったら一人暮らしをする勇気はないかもしれない。


「白百合でも一緒に勉強して、時々お出掛けもして。結構、アピールしてたんだけど有栖ったら気づいてくれなくてー。そればかりか私の方が有栖にドキドキさせられてた」


 思い返してみると、私も楓花には色々なことをしてきた。

 無意識だったけれど、私も楓花のことが相当好きだったのだ。

 それは友人としてではなく恋人として。

 鈍感なだけで、私も楓花と同じだった。


「有栖と一緒にいたくて、一緒にいたくて……色んな人に嫉妬もしたなー。赤羽根さんとか霧崎さんとか。特に霧崎さんは、もしかしたら付き合っているんじゃないかって思ったくらい」

「霧崎と私が? また、何で」

「…………だって、霧崎さんのことパートナーとして選んだんでしょ?」

「それは部活の中だけだから!」


 楓花がまさか霧崎に嫉妬していたのかと思うと笑ってしまう。

 勘違いというのは恐ろしい。


「私が好きなのは楓花だから」

「じゃあもう1回キスして」

「いいよ……んっ」

「んふっ、有栖……」

「楓花……」


 唇が触れ合うだけのキスだったが、それで十分だった。

 名前を呼ばれる度に頭の中がとろけるような感覚に陥る。

 その感覚はとても心地よくて、それを求める私たちは何度も何度も名前を呼び、好きを伝え合うのだった。




 付き合い始めたからといって、私たちの関係が劇的に変化するわけではない。

 本当は毎日デートをしたいくらいだが、2人とも部の長なだけあって放課後は忙しいのである。

 そもそも思い返してみれば、今までも過度なくらいスキンシップは取っていたので何が変わるわけでもない。

 だが、そういった時間は取れないにしろ目に写る景色がやけにキラキラしているように見える。

 それは私の心が晴々としている証拠で、簡単に言うと浮かれてしまっているのだろう。

 いつもと変わらない朝食を作りながら鼻歌が出てしまい、弁当は無駄に彩りの良いおかずを揃えてしまう。

 普段は退屈な通学時間も、今日はいつ楓花と会えるかを考えていると楽しくなってくる。


「おはよー、有栖」

「あ、楓花。おはよ──って、楓花!? あ、あの、みんな見てるんだけど……」

「見せてるんだよー」


 先にバス停へ到着していた楓花が私を見て抱き着いてきた。

 学園前のバス停は登校中の生徒が多く、かなり注目を集めてしまっている。

 なんだか歓声と悲鳴が混ざっていて、場の雰囲気が独特になっていた。


「楓花、とりあえず学校へ行こう」

「うん、じゃあ手を繋ごうか」


 そうやって向けられた手を握ると、柔らかくて温かな感触が私をドキドキさせて同時に、幸せにもさせる。

 多少視線を集めてしまっても、こんな気持ちを味わえるなら良いかなと思ってしまう。

 私も楓花に負けず劣らず浮かれてしまっているようだ。

 恐るべし、恋の力。


「おはようございます。捧部長」

「おはよう、霧崎」


 でも、よく知った後輩の前では流石に羞恥心が働いた。

 霧崎と校庭で出会ったところで、私は緩やかに楓花の手を離そうとする。


「ん?」

「有栖、駄目」

「え、あ、うん……」


 だが、楓花にそれを阻まれた。

 より力強く握られて、手を離すことが出来ない。

 しかし、物理的に離せないのではなくて、寧ろ楓花の目が真剣そのものだったので離せなかったのだ。

 どうしたものかと迷っていれば、霧崎は私たちの様子を見てニッコリと笑った。


「どうやら、問題は解決したようですね。捧部長、小鳥遊先輩、おめでとうございます」

「へ……?」


 霧崎の言葉の半分は分かったが、もう半分は分からなかった。

 おめでとうございます、とはどういった意味なのだろうか。

 横を見ると、楓花も困惑している。


「結ばれたんですよね? その、ライクではなくラブ的な意味で」

「えと、霧崎?」

「違うんですか」

「そうだよー」


 私に問われた言葉に返答したのは楓花だった。

 いや、楓花さん。

 確かにそれはそうなのだけれど。


「だから、霧崎さんもあまり有栖のことを独り占めしないでね?」


 こんな攻撃的な楓花は見たことがない。

 だから、普段の温厚な彼女しか知らないであろう霧崎にはインパクトが強いはずだ。


「そうですね……確かに小鳥遊先輩が不安に思われるのも無理はありません…………ここは、私と捧部長がそういった関係にならないことを証明しなければ」


 霧崎はぶつぶつと独り言を言うと、少しお待ち下さい、と私たちに言い残して走って行った。

 1分ほどして戻って来たのは、霧崎ともう1人。


「お待たせしました。紹介します、私の親友で────恋人の、ほら」

「あ……は、初めまして……あの、うん、えと……あ、ほ、ほしっ、星瀬川――――瑠衣です……」


 人見知りも人見知り。

 恐ろしく顔を赤くして、小さな声で囁いた声は周囲の声に消されて聞き落しそうになっていた。

 視線も出来るだけ目を合わせないようにして、人が苦手なのかなと思ってしまう。


「瑠衣、そんなに怖がらなくても良いのよ?」

「だ、だって、こんな有名人と、そんな……私が」

「いや、そんな有名人じゃないって。初めまして、星瀬川さん」


 私が声をかけると、ビクッと体を震わせて、彼女は目を伏せてしまった。

 うーん、こんな感じで実生活に影響は出ないのだろうかと思ってしまう。


「むむ……」

「どうしたの、楓花?」


 私が困っていると楓花が隣で唸っていた。

 最近になって発覚した楓花の焼きもちの性格が発動してしまったのだろうかと、勘繰るが嫉妬されるようなことはしていないと思う。


「あの手……恋人つなぎ……」

「え?」


 楓花の言葉に後輩たちの手を見てみると、確かに指と指を絡めるような手のつなぎ方をしている。

 俗に言うところの恋人つなぎ、である。


「あれ、したいの?」

「うん」


 楓花は私の同意を待たずに、指を絡ませてくる。

 急なことだったので、少し驚いたがその名の通り恋人になったのだから、そんな風なつなぎ方をしても良いかなと思い、私も指を絡ませる。

 普通につなぐのとは違った温かさがそこにはあった。

 改めて私たちが恋人になったことを感じさせる。


「じー」

「あ、あの……小鳥遊先輩? わた、しが何か粗相でもしましたか?」

「じー」


 完全に怯えている星瀬川さんと彼女を凝視する楓花。

 恐らく楓花は星瀬川さんをライバル視しているのだろう。

 恋人関係になった時、あれだけ甘えてきたのだ。

 世界中のどのカップルよりも深い関係になりたいと思っているのかもしれない。


「じぃー」

「す、すみません! わたし、急ぎますのでっ」

「あ、瑠衣。すみません、お先に失礼します」


 猛スピードで校舎へ駆けて行く星瀬川さんを追いかけて、霧崎が走って行く。


「ははは、霧崎も大変だなぁ」

「ねぇ、有栖。私たち、これからいっぱいデートに行って、いっぱい思い出作ろうねー!」

「う、うん」


 その目には炎が揺らめいているように見えた。

 どうやら私の予想は当たっていたようである。

 霧崎をライバル視することは無くなったけれど、別の意味でライバルができた楓花なのであった。


次回で最終回。

後日談的なことをやりたいと思います。

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