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Episode4.正しい【惚れ薬】の作り方。‐後日談‐

    後日談


 憔悴した面持ちで店に戻ったわたしとレフィは、店の敷居をくぐった瞬間、再びぐったりと肩を落として溜息を吐きました。

 一応申し訳程度の報酬は頂きましたが、何でしょうねこの徒労感。

 色恋沙汰に振り回されるとはまさにこんなことを言うのでしょう。本当に、人の恋愛に口を出すとか、ろくなことがありませんね。

「えっと、リリアちゃん……とりあえず晩御飯作るね?」

「……そうですね。お願いします。わたしは地下に行ってきます」

 今日は無駄に疲れたのもあってなるべく早く寝たいので、売れた商品の新しい作成や在庫のチェックなどは早めに終わらせておきましょう。

 のろのろと地下への階段を下り、在庫と買い取った素材を確認しながらポーションやら毒消しやらを作業的に量産してゆきます。

 ややあって、冷温庫にぎっしりと詰まった各種魔法道具を見て、わたしは少し気が晴れて微笑みます。これで明日になればまた、お店の品揃えが充実することでしょう。

 季節柄雨が多くなってくるこの時期は素材の買取が落ち込む傾向にありますが、今年は今のところ困るほどに買取が減ってはいないのが助かるところです。

 なんだかんだで、レフィの存在も大きくなってきていることもあります。

 あまり言うと調子に乗るので本人には言いませんが、レフィは金髪碧眼の美人さんで、最近の顧客の中にはレフィを目当てで来ているお客様も居るくらいです。一度目二度目と慣れてくると接客の態度も緊張が抜けてやわらかくなってくるので、何度目で笑顔の挨拶をかけられたのか自慢比べをする救いようのない男どもも居ますし。別件で、わたしに冷めた目で見られる為にわざと愚かな質問をするお客様や、妙な素材を持ち込んでくるお客様も居ます。

 本人たちは気が付かれないようにしているみたいですが、ぶっちゃけ商人同士の情報網はそれほど甘くはありません。些細な情報ですらどこからともなく入ってくるものなのです。

 ふと、そう言えばとわたしはレシピ帳を取り出します。

 わざわざ思い出すのもなんですが、今日イーシャが言っていた惚れ薬なる代物。

 再びああいったろくでもない依頼が舞い込むかもしれません。

 先に述べた通り、魔女の領分かもしれませんが、もし作れるのであればそれにこしたことはありませんし。

 ぱらぱらとページを捲り、使えそうな素材、調合によって変化する特性を用紙に書き出してゆきます。

 惚れ薬と言いますが、要はあれでしょう。猫にまたたび的な、興奮を誘う薬でしょう?

 滋養強壮に紅人参の根っこ。人を興奮状態にするキーリカの葉。お酒の酔いに近い症状を与えるアルコルの角片。ここらへんが基本材料でしょうかね。

 他にもいくつかの素材を用意し、組み合わせを変えて分離機にかけ、メモを記しながら調合し、水溶液に浸透させてゆきます。

 調合しても成功しているかどうか、どういう効果が望めるのかが大まかにしかわからないのは不便です。一応それっぽい薬はいくつか出来ましたが、実際の効果は試してみないことには正確にわかりません。

 さて、どうしたものでしょう。

「リリアちゃーん? ご飯できたよー」

 そう考えるわたしに降ってきた天の声とはまさにこのことでしょう。

「――はい、すぐに行きますよ」

 レフィの声にわたしはこれだと確信してにやりと笑って返事を返し、惚れ薬の試作品の中から一番の自信作を手に取り、レフィが待つ夕飯のテーブルへと赴きました――。




 ――はい。以上回想終了です。


 ずいぶん長い回想でしたが、恐らくは昨日レフィの食事に混ぜた惚れ薬(仮)の効果が今頃になって効いてきたのでしょう。

 完璧にぬいぐるみ扱いされている我が身をさておきそう考えて、効果がいつになれば切れるのかと、思いを巡らせます。

「リリアちゃーん♪ ふわふわー♪」

 ……この調子だと、本日の営業は中止でしょうか。

「はふぅ……」

 しかし今回ばっかりはレフィの責任ではありませんし、仕方ないと割り切って、わたしはその後数時間にわたりレフィに抱きしめ撫で回されるのでした。




 ――魔法道具販売店リリアーヌでは、試験薬の被験者も募集しております。

  試作品作成の際には、ぜひぜひこぞってご来店を、お待ちしております。


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