Episode3.正しい【のど飴】の作り方。-後日談-
「それにしても、モニカさんの声、元に戻ってよかったよね」
礼を言うキャロルに見送られ、居住区を抜けたあたりで、レフィがそう言いました。
「そうですね。わたしも依頼料をいただきましたし、満足です」
今回差し出された報酬は、飴玉一個と交通費を差し引いても余裕でおつりが出るほどの金額でした。出演の予定が無く出稼ぎに出ているほど切迫しているらしいので少々心苦しく思いましたが、報酬はちゃんと貰わないことにはいきませんからね。くれるというなら遠慮なく貰います。特にそれがお金ならなおさらですね。
「そういえば、レフィ」
今回の件でふと思ったことを、レフィに聞いてみることにしました。
「うん? どうしたの、リリアちゃん」
「レフィはうちの店を首にされないか不安になったりしないのですか」
「えぇぇぇ!? わ、わたし首にされちゃうの!?」
唐突にほのめかされた解雇の影に、レフィがわたわたとあわてます。
「いえ、まだその予定はないですが」
「まだってことは、いつかはあるの!?」
なんでしょう。首にされたいのでしょうか、この娘。
「たとえばの話ですよ。良く調子に乗ること以外、仕事は割とできていますしね」
わたしがそういうと、レフィは小さく小首を傾げ、うーんと悩み始めました。
考えるだけの脳はあるようです。
「……なんか今すっごく失礼なこと考えられたような気がするけど、リリアちゃんの言うことに対する答えは――そんなこと考えたことなかったよ?」
あっさりとそう言い切ったレフィに、わたしは少し驚きを隠せません。
「あれだけドジをしていて調子に乗って叱られて罵倒されて叩かれて殴られても一度もないのですか?」
言っていて少しレフィにやさしくしてあげましょうか……という憐憫の情が湧いてくるほどに酷い台詞でした。わたしはそんなバイオレンスなキャラじゃないのですが。
「ちょっと言い過ぎだと思うけど……うん。だって、リリアちゃんはなんだかんだ言ってもやさしいし」
「別にやさしくなんてしてなんかないですよ」
にへらと笑うレフィの言葉に、わたしは少し居心地の悪い気持ちでそう返します。
「ふふー、でも今回リンケージに来たのだって、半分はわたしに気を使ってくれたんだよね?」
「そんなことないです」
「またまたー、リリアちゃんのことはいつも見てるから、良くわかるんだからね?」
自慢げにそういうレフィに、わたしはことさら居心地が悪くなります。
確かに、リンケージに来ようと思った一因にはレフィを連れ出そうと思ったということもあります。ふと彼女がわたしの店で働くようになってから、半年が経つと思ったので、その記念と息抜きも兼ねて、とそう思ったことがあるのも間違いではありません。
苛立ちを込めてじと目でレフィを見ると、満面の笑顔で返されました。
むぅ。今日は少し調子が狂いますね……。
何も考えていないように見えて、見るところは良く見ているのですね、この娘。
しかし、今日はあまりレフィにきつく言わないでおいてあげましょうと決めていたのもあります。今日だけは、そういうことにしておいてあげましょう。
「そうと決まれば、今日は羽を伸ばして遊びましょうか」
「うん? 良くわからないけど、わたしはリリアちゃんと一緒ならどこでもいいよ?」
「――そこがたとえ、地獄の底だとしてもですか?」
「なんでそんな重い話にしようとしてるの!?」
「冗談ですよ」
本当にこの娘はからかいがありますね。驚くレフィを見て少し満足しながら、わたしは彼女の手を引きます。
「さて、とりあえずカジノにでも行きましょうか」
「えぇ……リリアちゃん、その選択肢はないと思うんだけど……」
そんなたわいもない会話を続けながら。