Episode0.魔法道具販売店リリアーヌへようこそ【後日談】
その日の深夜。
誰もが寝静まった道を、薄く積もった雪を踏みながら重い足取りで進む影が一つ。
さくり、さくりと黒いローブをまとった人影は王都ミランドの北西区画……孤児院や教会が立ち並ぶ道を歩き、その路地を奥へと進んでゆく。
そこにひっそりと存在する小さな墓標。
降り積む雪さえも寄せ付けずにその場所を護り続ける聖剣の姿。
ほとんどの人が知らず、周囲に人除けの結界が刻まれたグレンヘイス=アーシアの墓標。
黒いローブの人影は、その場所までたどり着くと、フードをはらりと払いのける。
すると銀色の髪が舞い、人形のように整った相貌が姿を現す。
リリア=クレスメント。
魔法道具販売店リリアーヌの店主であり、この墓標に刺さる聖剣を作った製作者のうちの一人だ。
「…………」
墓標をじっと見るリリアの表情はいつものように感情の起伏があまり見られない無表情ではなく、どこか苦々しげにゆがめられている。
「……待たせたな」
そんな背中に、唐突に声がかけられる。
「ええ。待ってましたよ――」
かけられた声の先に振り返ると、そこには同じように黒いローブをまとった人物が一人、いつのまにかリリアの背後に佇んでいた。
「――ヘイス」
フードの奥にはかつて見た時と変わらない、かつて英雄と呼ばれた今は亡きはずの冒険者の顏が、そこにあった。