パラレルワールド
初投稿&突発ネタです。
深いことはなにも考えていないので矛盾点や意味不明な点が多いと思いますがご了承ください。
巷ではよく“傍観者”というのが流行りらしい。
「モブに転生したので主人公の進める物語を面白おかしく傍観してやるZE☆」や「モブに転生したはずなのになんで私がイケメンたちと関わりを??傍観者でいさせてください~」という物語がよくあるがモブとは一体どのようなキャラを指すのだろうか。
そもそもモブとはWik○さんによれば群衆や群れという意味を持つ英単語であり、群衆が登場するシーンを「モブシーン」と呼んでいた。
そのモブシーンに登場する群衆状態になったキャラクターを「モブキャラクター」と呼び、モブキャラクターは原則として名前を持たず、「群衆」として扱われるらしい。
すなわちモブとは画面内で立ち絵もなく、黒い影でよく使いまわしされる男子生徒Aや女子生徒Bを指すようである。
まぁ、現実世界では名前が無いなどよほどの事情がない限りあり得ないだろうし主役もモブもないのだろう。
だがしかし、この学校という集団生活を余儀なくされる場において華のある目立つ人とそうでない人に分けることができてしまう。
そして、例えばこの学校生活が物語になったとしよう。
そうすれば間違いなく目立つ人々が主役となり、そうでない人々は学校という場の雰囲気をつくるためのモブへと変化を遂げるのだ。
そんな私は仮にこの世界が物語になった場合、間違いなくモブキャラにジョブチェンジするだろう名もなき一女子高生である。
逆に物語の主役となる人物がこの学校に通う者なら誰でも一度は耳にしたことのある名の生徒、園谷 楓である。
園谷さんを一言で表現するのであれば、その…アレだ……、乙女ゲームのヒロインだ。といってもこれまた巷で流行りの「乙女ゲームに転生しちゃいました」な主人公ちゃんとは違い、私には前世の記憶なぞないのであくまで“っぽい”である。
彼女の周りには六人のアイドルも顔負けのイケメンたちが集まる。
一人は生徒会長で俺様気質というありきたりキャラな九十九 蓮会長。
二人目は寡黙で硬派な剣道部部長、楠 大和先輩。
三人目はへたれわんこな後輩キャラ、瀬戸内 悠利君。
四人目にみんな大好きツンデレ男子な桐生 拓真君。
五人目はメインヒーロー爽やか系王道幼馴染キャラの及川 俊介君。
そして最後に敬語腹黒キャラの鈴鹿 葵君である。
…ここまで聞くと彼女は逆ハー狙いの悪女なのではと思ってしまわなくもないが彼女には幾つか不明な点がある。
それはイケメン逆ハーレム構成員の誰とも甘い関係にならないところだ。
確かに彼女は他の誰よりもイケメンたちと親密な関係にあるようだが決して友達以上の関係だとは周囲から見ても思えないほどの付き合いっぷりだ。
ならば、転生乙女ゲーヒロインに時々見受けられる「モブキャラ男性を好きになっちゃったから邪魔な攻略キャラたちを他の女の子に押し付けちゃわないと」という考えなのか。
いやいや、それにしては彼女は攻略キャラに自分から積極的に関わりに行った。
普通なら惚れられてしまうかもしれないそんなリスクを負ってまで自分から声をかけにいかない。
様子を見て目をつけられてしまったらその際に作戦を実行するはずだ。
となるとやはり、一種の逆ハー狙いと考えていいのだろうか。
ここはあくまでも現実世界だしゲームのようにくっついたらそこで全てが終わるわけではない。
この先も社会人として生きていかなければいけないのにこんなところで男を囲って人様に悪い印象を与えるのはあまり良いとは思えない。
それに比べて友人ならば生涯のパートナーとして共にあることは出来ないが六人のイケメンを欠かすことなくキープし今後とも永い付き合いをすることが出来る。
やるなっ!園谷さん!!
……ここでひとつ、皆さまに勘違いしないでいただきたいのは、これはこの世界が乙女ゲームの世界で園谷さんが前世記憶持ちの転生者だったら面白いのにと私が勝手に妄想した夢物語だ。
実際にはこんなことはあるはずないしあったとしてもイケメンをキープしたところで園谷さんにはなんのメリットもない。(そこら辺の頭の軽い娘なら顔のいい男と仲のいいことが自分のステータスに繋がるのだろうけど)
いつも通りこんなことを妄想していたある日、なんと園谷さんが急に行動し始めたのだ。
なんでもイケメンたちの恋のキューピットを始めたらしく次々とカップルが成立していくではないか。
しかもお相手の女の子たちはどの子もとても美人もしくは可愛らしいという言葉がぴったりな女の子たちだった。
そのおかげもあって彼らがお付き合いを始めても他の女子生徒たちは手を出さず目の保養と言わんばかりに見守るだけだった。
そして、とうとう園谷さんの周りにいたフリーなイケメンは鈴鹿君ただ一人となった。
私的には幼馴染の及川君が残るとベタで面白かったのだが彼はスポーティな可愛らしいショートカットの後輩とお付き合いを始めたらしい。おめでとう。
ここまでくるとやはり有力な線は「モブキャラが好きになった」か…などと妄想しつつ放課後、誰もいなくなった教室で一人夕焼けを見ながらポテチを食べていた。
こら、そこ!友達のいないボッチな子とか思わなくて良いから!!
ポテチの袋がカスだけになってきたので袋を口につけ残りカスを食べてしまおうとしたその時たっだ。
ガラッとけたたましいほどの音をたて教室の扉が空いたではないか。
び、びっくりした。扉が壊れるかと思ったし、何より私の大事なポテチの残りカスがこぼれる所だった。
私がポテチの袋から口を外し扉の方へ目をやると、そこにはなんとさっきまで私が妄想のネタにしていたお二人、園谷さんと鈴鹿君が立っているではないか。
もしかして誰もいない教室で密会しようとしたけど私がボッチでポテチ食べてるから邪魔だと?ならばしかたない、お腹も空いた所だしポテチも食べ終わる所なので何も見なかったことにして早めに退散することにしよう。
今日のご飯はなんだろな~、なんて考えつつポテチを食べきり帰りの支度をしようとするが
「~~っ!!やっと見つけた!小動物系ものぐさ少女!!!」
園谷さんはそう叫ぶやいなや私を抱きしめてきた。
あ、あれ?はじめましてだよね、今…??驚きのあまり意味不明な言動に何の反応も示せないでいると横から大きな手が伸びてきて園谷さんの体を引き離す。
「園谷さん?強く抱きしめすぎです。あといきなり大きな声を出すので彼女が驚いてしまっているではないですか」
わぉ、こいつは驚きだ。
私は思考こそこんなだが表情筋は固まっているのではないかと言われるほど動かなく周囲の人間は私の表情が読み取れないのに。
そしてさらに考えていることの半分でも口に出せば良いもののものぐさな性格のせいか話すのが億劫で今では無口キャラと言われるほどである。
要するに私は人様に考えを読み取らせにくいのだが…。
「ですから僕は最初に伊吹さんはBクラスの生徒ではと言ったではないですか」
「でも、何回も別の日別の時間帯に行ってもBクラスにいなかったしゃない!だからあんたも他のクラスっていう意見に納得したんでしょ!?」
「別に納得したわけではありません。ただ、あなたが他のクラスだと強く言うのでそれに従ったまでです。それに、今だってBクラスに探しに行こうと言ったのは僕だったではないですか」
「そんなに言うならもっと早くに言えばよかったじゃない。そんなんだから最初に告白しようと決意してるのに一番最後まで残ってんのよ。」
「はぁ。…誰のせいだと思ってるんですか」
そんな私を放置して口論を始めるお二方。
あの、この会話からするとお二人は私に用があって私を探していたようにお見受けするのですが。
もうこの際、このマンモス学校(一学年十二クラス四十人学級)においてなんで私のことを知っているのか等の疑問はおいておきます。
良いんですか、口論止めないと帰っちゃいますよ、私。お腹も減ったし。
「っ!あぁ、すみません伊吹さん。このうるさ、いえ賑やかな方のせいで用件を伝えていませんでした」
「あぁ、フラれたらいいのに」
ぼそっと意味のわからない言葉を吐いた園谷さんを睨みつつ話を続けようとする鈴鹿君。
この二人、こんなやり取りするんだ…いや、モブだからさ、今まで遠目で二人を見ることはあってもこんな風に話すことなんてなかったから。
なんて言い訳めいたことを考えていると私の耳にとんでもない言葉が聞こえてきた。
え?今何て?私耳鼻科行かないとダメかな。
驚きすぎて固まってしまった私に対して鈴鹿君はクスリと笑うと再び同じ言葉を口にした。
「伊吹透さん、僕はあなたのことが好きです。よろしければ僕の恋人になってはいただけませんか?」
はいっ!?この人一度ならず二度までも言いましたよ!!?
え?何??私のことが好き…そんな馬鹿な。
今まで何の接点もなかったしそもそも好かれる要素もない。一目ぼれされる要素すらもないし。
もしかして鈴鹿君ブス専とか?でもそんな噂は聞いたことがない。
鈴鹿君くらいイケメンなら今まで付き合った子だって片手じゃ数え切れないほどいるでしょうし…。
なら罰ゲームとか?
ああ!!そうだそうに違いない!園谷さんが見張り役で本当に告白するか見に来たんだ。
普通なら影とかで見守ってるはずだけど、これは、その、あの…そう!良心だ!!
相手の女の子が本気に受け取らないように二人で来たんだ。
なんだ~、すごく焦ったじゃないか。焦って損した。
あまりこういった罰ゲームはおすすめしないが周りがリア充で嫌気がさしたのだろう。
大丈夫だ、私も非リア充だから仲間だよ。
とりあえずなんて答えたら正解なのか分からないのでお辞儀をすることで別れの挨拶として帰ることにした。
二人に向かって礼をし鞄を手に取った瞬間鈴鹿君が私の手を掴んできたではないか。
「返事は?」
え、YESかNOか聞くまでが罰ゲームなのですか。
何のゲームで競ったのか知らないがこれでは私にとっても罰ゲームではないか。
理不尽にもほどがある。私にもそのゲームをさせろ。絶対に勝ち残って見せる。
手を離せオーラを出しつつ鈴鹿君を睨んでいると園谷さんが鈴鹿君の手を叩いて私をかばってくれた。何このさっきと逆パターン。
鈴鹿、落ち着きなって。伊吹さん勘違いしてるだけだから。
園谷さんは鈴鹿君に向けてそう言うと私の方へ向き直る。
「伊吹さんは信じてないかもしれないけれど、鈴鹿は本気で告白してるのよ。」
ね、信じてあげて。園谷さんは小首を傾げ可愛らしく言ってくるが全く意味がわからない。
だって好きならなぜ園谷さんの周りに集まっていたのか、それより普通に私の方へ告白しに来た方がよほど疑われずにすんで建設的だ。
「あ、伊吹さんまた変なこと考えてるでしょう?知ってた?伊吹さんって瞑想するとき少し眉間に皺がよるクセがあるんだよ。」
クスっと笑うと園谷さんは私の眉間へと手をやりぐりぐりと皺を伸ばしていく。
今日初めて顔を合わせたのに彼女は何故私のそんなクセまで知っているのだろうか。
自分でも気付かないしましてやクラスの友達にもそんなこと言われたことないのに。
「鈴鹿が私のもとへ来たのは告白を成功させる確率を上げるため。そして、今こうしてついて来てるのもそのためだよ。」
「すみません、伊吹さん。こうして告白に友人を連れてくるなんて男として恥ずかしいのですが背に腹はかえられないので…」
園谷さんの後に続いて鈴鹿君は頬をかきながら恥ずかしそうにいった。
「伊吹さんはきっと鈴鹿が一人で告白しに来ても真に受けなかっただろうし、そもそもお近づきになろうとしても裏があると警戒したでしょう?だから一発勝負で鈴鹿をアピールしに来たのよ。」
「ねぇ、伊吹さん、お腹はすいていませんか?」
鈴鹿君がそう聞いてきたので素直に頷いておく。私は食欲には忠実な女なのだ。
そう、よかった。鈴鹿君はほっと息をつくと自分の鞄から何やらおいしそうなクッキーを出すではないか。もしかして話の流れからしてそれを私にくれたりしちゃうのか!期待を込めた目でクッキーをガン見しているとどうぞと手渡してくれた。
鈴鹿君超いい人。
私は丁寧にラッピングされたリボンを解きさっそくクッキーを頂くことにした。
サクッ
「!!!」
何だ、このクッキーは!硬すきない優しいサクサク感にくどくない甘さ。
とても私好みのクッキーだった。
今の私の表情ならきっと誰でも変化が読み取れると感じるほどに自分でも表情筋が動いているのが分かる。
今までいろんなお店でクッキーを買ってきたけれどここまで私好みの味、触感は初めてだ。
このお店なら他のお菓子もきっと想像以上に美味しいのだろう。
でも、近場のお店は穴場まで全て行ったけれどこのクッキーに出会わなかったということは決して近くにあるお店ではないのだろう。
となると通うのが大変だな。交通費も含めて出費が痛い…。やっぱりバイト始めるしかないかなぁ。
私がもんもんと考え込んでいると目の前の二人はガシっとお互いに手を強く握り合ったではないか。
なんだそのスポ根ものの友情は。
「長かったですね。高一の夏からなので…約一年でしょうか。」
「ええ、あなたはよくやったわ。毎日毎日欠かさず練習して腕を上げた甲斐があったわね。」
「ここまでこぎ着けたのはあなたのおかげだと認めましょう。きっと僕一人でしたら声をかけることもままなりませんでしたから。」
こうして互いに健闘を讃え合うと私の方へ声をかける。
「どう?そのクッキー、すごく美味しいでしょう?」
園谷さんの問いかけに私はすかさず首を縦に振る。
ええ、ええ美味しいですとも!なので私にこのクッキーを作っているお店を教えてください!!!
「それね、鈴鹿の手作りなのよ。」
園谷さんの爆弾発言と共に私はまたしても大きく表情を変えてしまった。
あぁ、明日はきっと顔面筋肉痛だ。
さて、伊吹さん。それでは交渉しましょうか。鈴鹿君はにっこり笑ってそういうと私のクッキーを持っていない方の手を優しく握ってきた。
「伊吹透さん。僕と付き合ってください。お付き合い願えるのならば僕はあなたのために毎日昼食及びデザートをお作りすると約束しましょう。」
な、なんだって!!なんて魅力的な誘いなんだ。
睡眠より三度の飯が好きな私にとって、それはとても抗いがたい約束だ。
しかし、鈴鹿君と付き合うことになれば面倒事がついて回りそうだし…でもこのクッキーを作ったってことはどうやったのかは知らないが私の好みの味付けを知っているってことだよね。
「どうする?伊吹さん。鈴鹿の料理はどれも伊吹さんのことだけを思って調理されたものだからあなたの口にとても合うはずよ。なんていったって私自らが伊吹さんの口に合う調理法を鈴鹿に伝授したのだからね!!」
なんで園谷さんが私の味覚事情を知っているのですか!
初対面なのに私の思考回路を読んだりするし園谷さんなんだか怖いよ。
鈴鹿は優良物件よ!もう、この先これほどまでにあなたの味覚を熟知した男は現れないでしょうね!!そうしたらあなたは絶好な機会を逃したと今日のこのことを生涯に渡って後悔するでしょう。園谷さんは私に向かってこう言い高笑いをした。
少し言いすぎなのではと皆さんなら思うかもしれないが私は後悔する自分の姿がすんなり想像できる。
それほどまでに食は私の人生において重要なもので幸せに生きるか否かはこれ一つにかかっている。
私がここまで食にこだわっていることを知っているのかは本当に謎だがここは話に乗るしかない!
女は食い気だ!!
私が頷くことで了承を示すと鈴鹿君は初めに園谷さんがしたようにぎゅうっと私を抱きしめた。
「これからよろしくおねがいしますね!透さん!!」
「…こちらこそ、葵君。」
鈴鹿君は今までに見たことないほどに幸せそうな笑みを浮かべてほほ笑んだ。
「腹黒家庭的男子×小動物系ものぐさ無口女子のカップリング完成~!!」
今にも鼻歌を歌いだしそうなほどに上機嫌で教室を抜け出した少女、園谷楓。
実は彼女は伊吹の妄想通り前世記憶持ちの転生者である。
「いやー、それにしても神様には感謝だわ。まさか私が転生を経験するなんて…」
しかし、伊吹の妄想は二点外れている所があった。
まず一点目は、ここは乙女ゲームの世界ではあるが同時にギャルゲーの世界でもあるのだ。
しかも、ゲームのときから同じ世界だったわけではない。
いわゆるパラレルワールドというやつだ。
二点目に彼女、園谷楓は決して逆ハーを狙っていたわけではない。
なぜなら彼女はNLCP厨であるからだ。
自身の好きな男女をカップリングさせ、悶えるのが彼女の生き甲斐なのである。
ちなみに、彼女は女の子至上主義なため、ギャルゲー攻略対象である彼女たちに見合う男に仕立て上げるためビシバシと野郎どもを教育していったという。
しかも彼女の野望を叶えるには幸いにして、ギャルゲー主人公である男子生徒は少なくともこの学校にはいなかったのだ。
「やっと、念願の乙女ゲー『恋の季節』とギャルゲー『ゆる恋』の攻略対象カップリングがお目にかかれるのね!!私が相性等全てを考慮して掛け合わせたカップリングたち。どんな甘い学校生活を私に見せてくれるのかしら!彼女たちの物語はこれからだっ!!」
テンション高く拳を天へとつきだす少女。…ちなみにその後、「女の子たち泣かせたらあいつら殺す」とドスのきいた声で呟いた言葉は幸せ絶頂期を迎える彼らに届くことはなかった。