サヨナラを忘れたロバ
自由を求めて逃げ回っているロバ
ひとつ逃げてほっとするけれど
エサのためにまたつぎの拘束へ
ふたつめを逃げてほっとしても
みっつめの重い荷物が待っている
そんなこんなのロバの道
ふとロバは思った
逃げ出してきただけだった
誰にもサヨナラさえしていなかった
確かに縛られて罵られて鞭で打たれた
きつくて痛かったけれど
いつもそこには誰かの息遣いがしていた
その時だけは同じ空気を吸っていた
その時だけは同じ砂利道を歩いていた
決して通じあえるものはなかったけれど
逃げる前にサヨナラを言いたい
もしかしたら何かが変わる気がした
でもロバはサヨナラの一言がどうしても言えなかった
とうとう逃げ疲れて動けなくなったロバ
たくさんのサヨナラを頑なに背負っている
それはとてつもなく重たく冷たかった
Death. ロバは思った
もし、逃げる気力がまだ残っていたとしたら次こそは
次こそはちゃんと君にサヨナラを言おう