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リベルタ  作者: 絡繰ピエロ
第三章 訓練、そして休日
7/35

前編

 翌日、三人は先日と同じように訓練をしている。

「おい、また視線が外れたぞ。意識しろよ。でもここまで続くとなるとペナルティが必要になるかな……」

「ペナルティ?」

「ああ、視線を俺から外す度、追撃の時に訓練に支障がでない程度の衝撃をお前に与える」

 イグニスは、げえと嫌そうに声を漏らす。

「とりあえずやるぞ」

 カイルの言葉に、お互いが構えを取る。

 二人の間には静けさが生まれた。

 そして、イグニスが動いた。

 イグニスの軌道にカイルが合わせるように体を動かす。

 木刀同士がぶつかり合い、辺りに衝撃が送られる。

 すぐに構え直した二人は、再び木刀を振るう。

 それが何度か繰り替えされ、七回目の時。

「くっ」

 苦痛の声と同時に木刀が飛ばされた。

 木刀を見てはだめだと思っても、癖となってしまったものはそう簡単に直せるものではない。

 視線が木刀に行ってしまう。

 そこへ、カイルが木刀を振り上げた状態で跳んでくる。

 二人の距離が五十センチメートルまで縮められると、カイルは木刀を首に向かって振り下ろす。

 やばいと感じたイグニスは、腕で首を守る。

 しかしカイルの木刀は、イグニスの腕に当たる寸前で停止した。

 あれ? と疑問を抱いた矢先に、がら空きになっていた腹部に側倒そくとう蹴りが入った。

「――――ガッ」

 強烈な蹴りに、イグニスの体は浮き、飛ばされる。

 数メートルも飛んだ少年は、地面に体が付くと、まともな受け身もできないまま転がっていった。

 地面を滑っていった少年は、勢いが納まると大きな咳き込みをした。呼吸を整え終えると、立ち上がってカイルの元へ向かう。

「おい、なんてことしてくれんだよ!」

「視線を外したお前が悪い」

「だからって限度があるだろうが」

「あれ、さっき言わなかったか? 追撃の時に訓練に支障がでない程度の『強力な』衝撃を与えるって」

「今更付け足すなよ」

「いいじゃねえか。これくらいじゃねえとそっちもの癖も直しにくいだろ。それに、あれくらいなら全然弱い方だぞ。実際の戦いだともっと痛いぞ」

 カイルの言葉に、イグニスは青ざめた。

「痛い思いをしたくなかったら強くなればいい。単純なことだろ」

「そ、そうだな!!」

 イグニスは無理やり元気を出して返事をする。

「元気を出してくれたことはけっこう」

 だが、と彼は左側に顔だけを向け、

「おーい、メアリ。そろそろ次の段階にいくぞ」



 カイルはメアリと向かい合い、そこから数メートル離れた場所にイグニスが胡坐あぐらをかいてウルドの横に座っていた。

 イグニスはカイルから、俺をよく見てろと言われているため、休息をしつつも銀髪の男を注視している。

「今からメアリの特別訓練を開始すっぞ。訓練内容は、メアリがそのメイスで俺に当てるっていうとってもシンプルなもんだ。もちろん、俺は当てられないように回避をするがな」

「あの、イグニスみたいに打ち合いはしないんですか?」

「ああ。刀ならまだしも、メイスを真正面から受け止めようとする馬鹿はいないだろ。相手が受け止めようとしたら確実に勝てるしな」

「わかりました」

「そんで、メアリが疲れたら自分から休めばいいから。始めにやり過ぎると変な癖ができちまう可能性があっから、そこらへんはそっちで頼むぞ」

 それと、と男は言葉を区切り、ほんの少しの間の後、

「今回は万が一のことを考えて、俺は二本の刀を持つことにする。別に攻めはしないから安心して攻撃してこい。まあ、受け流すために使うからそこんとこはよろしくな」

「はい。わかりました」

 カイルは走って訓練所から二本の刀を借りてもどってくる。

「そんじゃ、どっからでも来い」

 男が声を出し切った直後、メアリはできるかぎりの力でメイスを振るう。カイルの上半身を抉るようにメイスが下から襲い掛かる。

 カイルは膝を折り、しゃがむことでそれを簡単に避けた。

 銀髪の上を通り抜けたメイスは、しかし勢いを失うことなく円運動を続ける。

 勢いを消さないメアリはカイルに背中を向け、

「ああああああ!」

 大声を出して踏ん張りながら、メイスを頭上を超えて振り下ろされた。

 しゃがんだままのカイルは、その折り曲げた膝で横に大きく跳んだ。

 先程までカイルのいた場所に、メアリが重たい音と振動を生む一撃を放たれた。

 跳躍をしたカイルとメアリの距離は約五メートル。とてもじゃないが攻撃が当たる位置ではない。

 それに、無理に技を出したメアリは息を荒げて止まっている。

 つまり、ここで終了ということを示していた。

 カイルはメアリの元に戻り、彼女のでこを軽く叩いた。

「いきなり何やってんだよ。最初に言っただろ、無理はするなって」

「はあはあ。す、すみません」

「まあ、予想以上の攻撃には驚いたけどよ、あれじゃあまだまだだな。イグニスの時にも言ったが、相手からはできるだけ視線を外すな。相手によっちゃ、あの時に斬られるぜ」

「わ、わかりました」

 メアリは額から汗を流しながらも返事をした。

 その時、イグニスがウルドに向かって呟く。

「あれって差別じゃね?」

 ウルドは大きく欠伸をし、地面に倒れて丸くなった。



 本日の訓練時間に、イグニスはカイルから教えてもらうことなく終わった。

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