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リベルタ  作者: 絡繰ピエロ
第六章 ニーナ・ドゥルール
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後編

 カイルが自宅にニーナを連れて帰る途中、メアリが、

「女の子はきちんとした生活をさせなきゃいけないんです」

 と言って、先程使用してた櫛と子ども服を渡してきた。それらはありがたく受け取り、片手に服の入った袋を、片手にニーナの小さな手を持って帰宅する。

 家に着き、カイルは扉を開いて彼女を招く。

「どうぞ、ニーナちゃん」

 ニーナは慎重に、部屋の中を覗き込む。部屋はあまり広くなく、しかししっかりと整理整頓されていた。

 ニーナが入ると、カイルは背後に立ち、静かに扉を閉める。

「まあ、狭い場所だがゆっくりしてくれ」

 彼女は辺りを見回しながら、一歩一歩時間をかけて進んでいく。ベッドの片隅に着くと、手でベッドを押し、それから座った。

「今からどうする? 俺はさっき動いたから、シャワーを浴びたいんだけど、いいか?」

 ニーナが首を縦に振る。

「そんじゃ、俺が先に入ってもいい?」

 彼女は再び首を縦に振った。

「なら、先に入らせてもらうな」

 カイルはメアリからもらったものをベッドに置き、ウルドと共に浴室に行く。服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。

 その間ニーナは、座ったまま膝に視線を固定させて一切動かなかった。カイルがウルドと戯れる声が聞こえてきたが、気にしない。

 数分後、カイルが白のTシャツと半ズボンを着て、頭に濡れたタオルを乗せて現れた。

「いやー、悪いな。そんじゃ、ニーナちゃんもシャワー浴びる?」

 ニーナは頷き、ベッドから立ち上がった。先程カイルが出てきた浴室に、彼女は進んでいく。

「あ、そうそう。俺の家のシャワー、ちょっと他と違うから説明するな」

 浴室に入り、しゃがんで視線を合わせ、

「この壁に丸い突起物があるだろ。これを回すとここがらお湯が出てくるから。わかった?」

 彼女が頷いた。

 それだけを言い、彼は浴室から出ていった。

 ニーナは汚れた服を丁寧に脱いで、説明してもらった突起物を回してシャワーを浴びる。噴水口から溢れてくるお湯は、ニーナの髪、肩、腰、足の順に流れていき、汚れを流していく。

 彼女は俯いて、ただ落ちてくるお湯を受ける。すると、扉を叩く音が二回聞こえた。

 首だけ扉の方に向けると、扉が小さく開き、

「これ、さっき渡し忘れていたな。中にタオルも入っているから使ってくれ」

 袋が置かれ、すぐに扉は閉められた。

 その後、ニーナは気が落ち着くまでシャワーに当たった。



 少女はタオルで濡れた体を拭き、渡された服を着る。白のフリルの付いたワンピースを身に纏い、ベッドのある部屋に行く。

 扉を開けると、肉料理の香ばしい匂いが漂ってきた。どうやらカイルが料理をしているらしい。

 行く場はなく、彼女はまたベッドの端に座る。

 数分が経ち、カイルが別室のキッチンから姿を現す。

「お、もう出てたのか。すまん。それじゃ、今からこれをやるか」

 言って取り出されたものは、メアリが持っていた櫛だ。

 カイルはベッドに乗って彼女の後ろに行き、正座をして櫛に髪を通す。

「あー、痛かったら言えよ? 俺、こういうのやるの初めてだからよお」

 返事は返ってこないが、大丈夫だろう。カイルは丁寧に、髪をすいていく。

 髪は徐々に隙間のない、きれいなロングヘアーになる。

「よし、こんなもん……か? もっとやるべき?」

 彼の言葉に、ニーナは首を横に振った。

「よかった。そんじゃ、飯にでもすっか」

 カイルはベッドから立ち上がり、キッチンから肉入り野菜炒めが乗った大きな皿を持ってきた。彼はそれを低いテーブルの上に置いて、キッチンに入る。次はご飯の盛られた茶碗を持ってきた。最後に、飲み物が注がれたコップを持って、テーブルに置く。

「あ、ニーナちゃんはこのフォークを使ってくれ。では、いただきます」

 カイルに続いてニーナが、小声でいただきますと言った。

 彼等は片手にフォークを持ち、野菜炒めと米を刺しては口に運んだ。ちなみにウルドのご飯は、カイルが指示を受け、別の米が盛ってある皿に野菜炒めを乗せている。

 食事が終わり、カイルが蛇口から水を出し、皿を布で洗っていると、

「お。ニーナちゃん、ありがとうな」

 ニーナが食器を運んできてくれた。

 二人は共に食器洗いを済ませ、ベッドに戻る。

「そんじゃ、今からどうする? 寝るか?」

 カイルが聞くと、ニーナはすでに目を細めて眠たそうな表情をしていた。

 彼女はベッドに乗り、そのまま横に倒れる。

「まあ、俺も疲れがあるし、早めに寝させてもらうか。じゃあ、ウルドはベッドでニーナちゃんと一緒に寝てくれ。俺はてきとうに場所作って寝るから」

 銀髪の男は床に一枚の布を広げ、横になる。大きな欠伸をし、目を閉じて眠ろうとした時。

「……おね、がい」

 震えた声が、聞こえた。

 カイルはすぐに目を開け、ニーナを見ると、全身が微かながらも震えている。

「……こわい、の。だか、ら、おねがい。一緒に、寝て」

 ニーナの言葉に、思わず息を飲んでしまった。

 こんなにも小さな子が、寝ることさえも怖くなってしまうほどのことを与えられたと知ったからだ。そんなことをした人間は、いやグループは根が腐っていると思うと、眉間にしわが寄ってきた。

 こんな顔、ニーナちゃんに見せられないな。

 カイルは立ち上がり、ニーナに背を向けて倒れる。すると彼女は服を両手で掴み、顔を埋め、そして眠りについた。

 彼女が眠ったことを確認してから、カイルは寝た。


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