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リベルタ  作者: 絡繰ピエロ
第五章 クエスト開始、それと……
15/35

後編

「僕個人としては、君達と争うことをしたくないな」

 肥えた男は両手を広げ、同意を求めるように語っていた。

「こちら側は、その子を渡してくれさえすれば危害は一切与えない」

「…………」

 そんな男にイグニスとメアリは、話は聞こえてるものの真に受けていない。右から左状態である。

 そして、二人は怪しまれないぎりぎりの距離まで近づき、察されないよう警戒し、平常を装いつつ秘かに作戦を立てていた。

「とりあえずオレが突撃するから、後に付いて来てくれ」

「あんた馬鹿じゃないの? 真剣勝負さえ一度もやったことのない私達がそんなことしたら返り討ちになってお終いでしょうが」

「ならどうしろっていうんだよ」

「それは私が考えるから、あんたはあいつの気分が削がれないようにてきとうに相槌を打っていて」

「はいよ」

 イグニスは彼女から与えられた役割に専念する。

 メアリは考える。どうすればあの男に負けなくて済むのかを。

 先程も言ったが、正面衝突で倒せるほどの経験はなく、それ以外の手段を用いなければ負けてしまうだろう。

 男のキャバシティについては考えない。考えるだけ無駄だからだ。それならこちら側の力を最大限にまで引き出し、相手がキャバシティを出しても敵わないようにしてしまえばいい。

 イグニスの力を最大限に引き出す方法。もし一度だけでも実戦の経験があればある程度の作戦は立てられただろう。

 しかしそれがないとなると、実践でどのように動いてくれるのかわからない。そのため、自分の考えたものがイグニスの足枷となってしまう可能性が生まれてしまう時がある。

 それだけは避けたい。

 相手の力量はどれくらいかは全くわからないが、仲間の力を抑えていいことはないはずだ。

 その結果、メアリが考えたものはとても幼稚なものだった。

「私があの男を引き付けるから、その隙に男の後ろに回り込んで攻撃して。不意打ちをしかけて」

「……わかった」

 イグニスはすぐに承諾してくれた。よかったと思う半面、自分もしっかりとしていかなきゃと感じた。

 引き締まった表情をした二人を見た男は、それが自分の言っていたことが通じたと錯覚したらしく、

「おや、ようやくその子を渡してくれる準備ができましたか?」

 満面の笑みを浮かべ、呑気に尋ねた。

 だが返答は思っていたものと全く違う、少女の嘲りを含んだ声色だった。

「誰もそんなこと言っておりませんが。何、勝手に話を進めてるんですか? もしかして相手のことを気にせず一人で暴走するお方でしたか。すみませんがこちらは一切この子を渡す気なんてございませんので」

 メアリの言葉に、男は静かに腰に装着していた曲刀を抜き取った。それは刀身と柄の両方に反りを持っており、刀身の幅が広く作られている。

「そうですか、交渉決裂ですか。とても残念です」

「ハッ、何が交渉ですか? そもそもそんな交渉なんて始まってないし、こっちは最初っから話を聞いてなんかなかったですけど」

 男は強い歯ぎしりをし、額に青筋を浮かばせる。

 それでも冷静を保とうと、男は強引に笑みをつくる。

「それなら不本意ですが、強行手段を取らせて頂きます」

「遠くでギャンギャン吠えてないでさっさと来なよ、雑魚」

 彼女の言葉に男の理性が飛び、全力で走りだした。彼の視界にはメアリしか映らず、彼女を切り刻むことしか頭の中になかった。

 男がメアリに向かって走っている最中に、イグニスは森へ走り、回り込むことに専念する。

 男の攻撃は単調だった。曲刀を振り上げ、斜めに斬りつけては再び振り上げるの繰り返しだ。

 これなら、訓練の時に見たカイルの動きをマネれば簡単に避けれる。そのため、避けることに加えて、保護すべき少女の位置も考えて行動をした。

「ほらほら、避けてるだけじゃねえで反撃してみなさいよ」

 安い挑発には乗らない。武器を出す瞬間にやられる可能性がとても高いからだ。

 それに、反撃ならイグニスがやってくれる。

 信頼があり、安心を生む。メアリは冷静に相手の攻撃を読み、確実に避け続ける。

 その時、男が動いた。繰り返しだった攻撃から、真横の軌道に変えたのだ。

 もしも武器を出していたならば、カイルのように受け止めることができただろう。しかし今は武器は背負っているため、受け止めることはできず、背中で受けるような危険な行為などもっての他だ。

 だからメアリは、大きくしゃがんで避けることにした。

 真横に振られた曲刀は、彼女の頭上の僅か上を通過していき、近くにあった木に当たり、傷口を作って、

「!?」

 爆発した。爆発は木を飲み込み、爆風を生んでメアリを吹き飛ばした。

 彼女の体は倒れると、メイスの重さで地面を引きずっていく。勢いが止み、すぐに体勢を直すと、目の前で曲刀を頭上まで振り上げた男の姿があった。

 やばいと感じ、横に跳躍するとさっきまでいた場所に強い一撃が放たれていた。メアリは着地すると男と距離をとるように、再び跳躍する。

「どうですか? 僕のキャバシティの力は」

「ちょっとは驚いたけど、それほどでもなかったわね」

 心臓はうるさいほどの心音を立てていたが、ここで相手に弱音を見せては台無しだ。だからポーカーフェイスを貫き通す。

「で、あんたの実力ってこんなものなの? 残念ね」

「……すぐにそんな口叩けなくしてあげますよ」

 男が走り、メアリに近づいてくその時、彼女の目が肥えた男の後ろに出てきた一つの影を捉えた。

 イグニスだ。彼は鞘から刀を出しており、今にでも攻めれる体勢になっている。

 メアリは僅かな安堵を、あと少しだから頑張らないとと自分を自信づける。

 再び、男の単調な攻撃が始まった。メアリはそれを冷静に避ける。

 変哲もない攻撃の最中に、男が呟いた。

「僕の後ろにいる男のことがそんなに気になりますか?」

「――――!!」

 思わず絶句してしまった。どうして気付かれたのか、そのことで頭の中はいっぱいになってしまった。

「ふん。気付くなっていうのが無理なんですよ。あの男が最初にいた男を呼んでくるわけでもなく、一緒に立ち向かってくるわけでもなく、そして貴方あなたの行動が決定的でしたね。避けるだけで一切の攻撃をして来ず、先程にはあの男を見ただけで安心していた」

 全て読まれていた。

 自分の幼稚な考えでは通用しなかったという悔しさが溢れてくる。

「おや、動きが鈍くなりましたよ。まあ、そちらの方が殺しやすくて嬉しいのですが」

 メアリはすぐにイグニスに作戦がばれていたことを伝えなければならないと思い、思考する。だが、想像と反してイグニスが駆け始める。

 思考は続けるが、先程から男の攻撃に少しの変化が生まれ、簡単に避けることができなくなっている。そのせいか、あまりいい答えが出にくい。

 来ちゃダメでイグニスは止まるだろうか。いや、もっといい答えがあるはずだ。それを出さなければ、自分も危うくなってしまう。

 早くしないとという気持ちが焦りを生み、泥沼に沈んでいく。

 メアリが考えていると、イグニスは肥えた男の後ろに立ち、刀を振り上げていた。肥えた男は、獰猛な笑みを浮かべた。

 嫌な予感がする。背筋に寒気が走り、気持ちの悪い汗が額にべっとりと出てくる。

 避けさせないと彼が危険だ。だが、何を言えば彼は無事に避けることができるのか。避けてだけでは遅過ぎる。退いてと言っても、彼の体勢からは無理があるだろう。

 ならば、ならばと様々な言葉を思いついては消していく作業を続ける。しかし、いい言葉が出てこない。

 作戦はばれていたって言えば止まってくれる? 男の攻撃を防いでと言えば無事に防いでくれる?

 もはや願いになっているメアリの思考と反対に、イグニスが力強く刀を振り下ろした。

「いただき!」

 肥えた男が嬉々とした声と共に、振り返りながら曲刀を薙いだ。

 メアリは現実をから背けたくなり、目を強く閉じた。悲しみでいっぱいになった胸に、一つの音が差し込んだ。

 それはイグニスを斬って起きた爆発音なんかではなく、甲高い金属音だった。

 メアリは恐る恐る目を開けると、男の曲刀を受け止めているイグニスの姿が目の前にいた。

「おいおい、オレをなめんなよ。この程度でやられるほど軟じゃねえぞ。だから……悲しそうな顔してねえで、勝って思いっきり笑おうぜ」

 メアリは自分の頬を叩いて気合いを入れる。そして、下がった。

 肥えた男の顔が大きく歪めた。両手に力を込めて押そうとするが、イグニスの片手に抑えられてしまう。

 イグニスは、沈黙したまま男を正面になるように徐々に動く。そして、

「――――!?」

 口の端を大きく上げたのだ。瞬間、男の背筋が凍った。

 何が起きるのかわからないが、距離を取るべきだ。思考してすぐに後ろに跳ぶ。

 跳ぶ寸前、曲刀が紙のように抵抗なく斬れた。イグニスのキャバシティが発動したのだ。

 男は攻撃に捲き込まれなかったことに安心した。

「いやいや、危ないところでしたよ。君が笑みを作っていなかったらどうなっていたことや――――」

 男の言葉はここで途切れた。

 後ろからメアリがメイスで脇腹に重い一撃を打ち込んだからだ。

 ボキボキと骨が悲鳴を上げた後、男の体は宙に浮きあがり、何回も地面を跳ねていった。進んだ先にあった木にぶつかり、勢いが消えると男は立ち上がり、口から血を吐きだした。

 地面に血溜まりができ、一度だけ睨むと男は逃げるように去って行った。

「勝った、んだよね?」

「まあ負けてはいないだろうな。あの子を保護できたんだし」

 メアリは力が抜けたのか尻餅をつく。地面に両手をつき、心の底から安心して、

「よかったー」

 呟いた。

 

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