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リベルタ  作者: 絡繰ピエロ
第五章 クエスト開始、それと……
14/35

中編

「あとちょっとで終わるから、お前等頑張れー」

「おー」「…………」

 カイルの応援にイグニスはてきとうに返事をし、マイペースで。メアリは黙々とキノコを摘み採っていた。

 もちろん、カイルは布袋を開いて突っ立っているだけでなにもしてない。

「ラストスパート!」

「「うるさい!!」」

 二人の怒号が飛んだ。

 ビクッとカイルの体が震え、それから片手でだがキノコ採りを再開する。

 と同時に。

「ワウッ」

 離れて座っていたウルドが吠えた。

 それに対して誰よりも早くカイルが動く。彼はすぐさまウルドに駆け寄る。

「おい、どうした」

 ウルドと視線を合わせる表情は真剣そのものだ。意思疎通したのか、カイルは上を向いて腕を組み、悩み始めた。

 しかし数秒もすると、銀髪の男はイグニス達に背を向けて走りだした。

 カイルの行動に気が付いたイグニスは、

「おい、どこに行くんだよ!?」

「子どもが誰かに襲われている。お前等も来い」

「キノコは?」

「そんなもんどうでもいい。そこらへんに置いとけ」

 言葉が終えた途端、彼の姿は見えなくなった。

 取り残された二人は顔も見合わせ、すぐに立ち上がる。

「私たちも速く行かなくちゃ」

「お、おう」

 彼等はカイルが消えていった方向に走る。が、すぐに立ち止まった。

「で、カイル先生はどこに行ったんだ?」

「……あ」

 姿が見えないのなら追うなんてことはできない。

 どうしようもなくなった二人があたふたしていると、遠くからウルドの吠える声が聞こえた。

「ついてこいってことかな?」

「そうでしょ」

 イグニスとメアリはウルドを追いかけた。



 森の道を走っていたカイルは、男の張り上げる声を聞いて足を止めた。

 ……どこにいるんだ?

 大雑把な位置はウルドから教えてもらったため、近くまではこれた。しかし対象物は逃げるために常に動く。

 だから彼は目を閉じ、耳を澄ませ、慎重に足を運ぶ。声のする方向、足音の聞こえる場所をできるだけ正確に捉える。

 聴覚に集中した結果、ザッザッザッザという足音が背後から聴こえた。

 すぐさま振り返ると、小突いたような衝撃を腹部に感じた。

 腹部に目をやる。そこには汚れた布を纏った、小さな少女が存在していた。

 少女はカイルの服を掴み、顔を沈ませながら小刻みに震え、何かを呟いている。少女の言葉は聴こえなかったが、このまま前方を向く。

「ようやく観念したか。って、はあ。なんか変な奴がいるじゃねえか」

 シルクハットを被った中年の男と丸々とふとった男が現れた。中年の男はずれたシルクハットを片手で直しながら、優しい口調で言った。

「あのー、すみませんが、その娘さんをこちらに渡して頂けないでしょうか?」

 その時、少女が服を握る力が一層増した。そのためカイルは目を細め冷静に、しかし吐き捨てるように聞いた。

「お前等はこの子とどういう関係だ?」

 大人達は少々黙り、それから答える。

「その子は私たちの店で盗難を行いましてね、ここまで追っかけてきたのであります」

 すぐに嘘だと分かった。もし話が本当なら、もうとっくにこの少女は大人に捕まっているからだ。こんな森まで逃げ続けれるわけがない。

 カイルは男二人を睨むと、背後から二人の足音が聞こえた。

「ようやく追いついた……って、カイル先生、何してんの?」

「何って保護だよ、保護。まあ、いいところに来てくれた。こいつを守っててくれ、ウルド」

「ワウ」

 カイルは少女の頭に手を乗せ、優しく撫でながらしゃがみ、耳元で囁く。

「悪いがこの犬の後ろにいてくれねえか? ちょっとあの悪者たちをやっつけるからさ」

 彼の言葉に安心したのか、少女はゆっくりとカイルから離れ、ウルドのところまで歩いた。

「おいおいおいおい、なにしてくれんですか。早くその子を渡してくれよ」

「嫌だね」

 カイルは舌を出し、相手を挑発する。

 対し、シルクハットを被った男は静かに怒りを煮え上がらせていた。

「ふざけんじゃねえよ。こっちはせっかく友好的に接してやったってのによお」

「なんだ、友好的にすりゃあ何でも許されるとでも思ってんのか?」

「そおじゃねえよ、そっちが怪我をせずにすむって意味だよ」

「はっ、笑えねえ冗談だな。俺らとやり合ったら怪我をするのは圧倒的にお前らの方だろうが」

「そうかそうか。……なら、願いどおりにぶっ殺してやんよ」

 シルクハットを被った男がカイルに向かって走り出した。

「イグニス、メアリ、その子を守れ。無理だと思ったら素早く逃げろ。あと、相手は絶対に殺すな。いいな?」

「おう」「はい」

 男は腰に隠してあったナイフを右手で取り出し、すぐさまカイルに突いてきた。

 しかしカイルは体を左に倒し、軽々と避ける。そこから男の手首を掴み、強力な締め付けをした。がっ、と男の声が漏れ、右手の力が緩み、ナイフは落ちる。

 そして。

「てめえはこっちにこいよ」

 そのまま後ろに大きく跳躍した。男の体はカイルに引っ張られ、強引に引きずられる。

 数回の跳躍の後、イグニス達が見えなくなるまで離れると腹部に蹴りを入れ、距離を取った。

 男は地面に横たわり、すぐに両足と左手を地につけ、右手で帽子を押さえた状態で見上げるような形で睨みつけてきた。

「ああ、もう許さねえ。絶対に、殺してやる」

 男は地を蹴り、カイルに接近する。その最初の蹴りを行った直後、カイルが二つの刀を鞘から同時に抜き、前進した。

 やばいと感じた男は足を止めて横に跳ぼうとし、カイルの左手の刀が右肩に深々と突き刺さった。

 ぎ、と声が漏れつつ男は歯を食いしばる。その隙に、空いた右手の刀で首元に剣先を当てる。

 男の傷口からは赤黒い液体が広がり、大きなシミを作ってゆく。

「痛え、痛えよ」

「これ以上痛いことをされたくなかったら、持ってる武器を全部捨てて降参しろ」

 カイルは軽く睨めつけながら男に言った。

 しかし、男は余裕な態度で口を開いた。

「降参? なにそれ、マジで言ってんの?」

「…………」

 カイルは無言のまま左手に力を込める。

「い、痛え! ハハハハ、マジで言ってたのかよ」

 それなら。

「俺様のキャバシティを見てからほざけや!!」

 次の刹那。男の傷口から赤黒い縄のようなものが、カイルの左手首に絡みついた。

 ……なんだ、これは?

 左手首に輪のように絡みついたそれは、身に着いただけで危害は一切ない。

 だから無視をして右の刀で攻撃しようとした瞬間だった。赤黒い縄が、まさに怪力のような締め付けをしてきたのだ。

 カイルは苦い顔をし、反射的に刀から手を放してしまう。

 しまったと思い、右手の刀を後方に投げ、男に刺さった刀を抜く。

「おら、そっちの手も傷つけたなあ」

 男の声と共に、縄のようなものがカイルの右手首に絡みついてきた。再び締め付けが襲い掛かり、抜いた刀は地面に落ちてしまった。そして、両手首についた赤黒い輪は引き付け合い、重なり、手錠の形に変形する。

 そこへ、男は左手で腰から短剣を取り出し、カイルに向かって突き刺す。

 しかし、カイルは紙一重のところで後方に跳躍をし、なんとか回避した。

「ちっ、避けやがったか。……まあいいか、ゆっくり甚振いたぶってやるよ」

 男は短剣を仕舞い、カイルの刀を拾い上げた。敵に自分の武器を使われる行為に、カイルは男を鋭い目つきで威嚇する。

「ハハハッ、そんなに触られたくなかったのかよ。でももうすぐ気にならなくて済むぜ、自分の武器で死ぬんだからなあ」

 男は狂ったように笑いながら走って近づいてくる。

 カイルは繋がれた腕をぶら下げ、俯いた。

 斬りつけることのできる距離に入った男は、右手で刀を振り上げ、

「じゃあな」

 男が声を出したその時、カイルは動いた。右膝を上げ、上半身を左に大きく倒す。

 そんなことは気にせず、男は刀を振り下ろす。

 その軌道に合わせてカイルは、足の裏で腕に蹴りを与えた。

 蹴りの衝撃で男はバランスを崩し、あひ? の声が喉から零れた。

 何が起きたかわからない顔をしている男の顎に、すかさず足の裏で強く蹴り上げた。男の体は浮き上がり、抵抗なく背中から落ちた。

 男が気絶したと同時に、赤黒い縄のようなものは液体になり、ベチャベチャと音を立てて落ちる。

 カイルは大きなため息を吐き、刀を回収する。

「今度デュランさんのとこにいって綺麗にしてもらうとするか」

 呟き、男の襟首を掴み、イグニス達の場所へ向かった。


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