中編
武器を買った後、彼等は町はずれの木に囲まれている広場にいた。
イグニスは鞘に入った刀をヒモで絡め、腰に巻いている。メアリはメイスを長い革の袋で全身を包み、袋から生えた革帯を右肩にかけている。
「よし、じゃあ今からは各自の武器での訓練をやろうと思う。で、メアリはウルドの近くでメイスを振っていてくれ。俺はイグニスと特別訓練すっから」
カイルはウルドを地面に降ろす。ウルドは地面に足を着けると、メアリの方に歩み寄った。
「そんじゃ、俺達は向こうに行くぞ」
「ういっす」
カイルは振り返って歩きだし、イグニスはそれについて行く。
彼は広場と林の狭間まで行くとしゃがみ、落ちている枝を拾い始めた。
「……えっと、何してんの?」
「見りゃわかるだろ、枝を拾ってんだよ」
カイルは片手いっぱいになるまで枝を持つと立ち上がり、イグニスと向かい合う。
「ほら、刀を抜けよ」
「え、それでオレと戦うの?」
「そんなわけねえだろ! いいから刀を抜け」
指示通りに刀を抜くと、カイルは片手から枝を一本だけもう片方の手に移した。
「今から刀で『斬る』練習をする。よく勘違いするやつが多いが、刀の刃の部分に当たるだけでものが斬れるなんてことはねえ。だから、ものに当たる瞬間に刀を引くんだ。まあカッターナイフと一緒の容量だな。刃の小さいものは引いて斬る。これが鉄則だ」
「ふーん、そうなんだ」
「そこでだ。この枝をお前が斬る練習をするんだ。ほら、やってみろ」
カイルは枝を一本持った手だけを前に出した。
対してイグニスは、木刀の時と同じ構えをする。
彼は刀を引くことだけ意識し、枝に向けて刀を振るう。刀は枝に当たり、腕を引く。すると枝は見事に斬れていた。
しかし、イグニスはよくわからない違和感を覚えた。
「まあ、最初はこんなもんだろ。注意するとすれば、腕だけでやろうとするな。全身を使って引くんだ。とりあえず今度は全身を使うことを意識しろ」
「あ、おう」
イグニスは構え直し、カイルは枝を一本片手に移した。
再び、刀が枝に振るわれる。今度は、刀を持った右手と対になっている左足を右足を軸に少しづつ後ろに下げた。
刀が枝に触れた瞬間、枝は何の抵抗もなく刀を通した。
「お、今回はよかったな。じゃあ……早いけど次の段階にいくか。次は枝を別の場所で固定させるから、それを同じように斬れ」
「ういっす」
彼等の練習は夕時になるまで続いた。
空は赤く染まり、黒になりかけている中で、広間で三人と一匹は円陣を組んでいた。
イグニスとメアリを集めたカイルは、頭にウルドを乗せた状態で口を開く。
「今日はこれでおしまいな。そんで、突然の話で悪いんだが、バルバラ森林での仕事を受理したから」
「「えっ?」」
二人は驚きの声を上げる。
カイルは一旦話を止めると、メアリが自分の意見をぶつけた。
「まだ自分達は仕事に行けるような実力はありません。もう少し訓練が必要だと思います」
「えー、それでももう受理しちゃったしー。まさか、俺一人だけでキノコ採りをさせる気か?」
「…………、キノコ採り?」
「ああ、キノコ採りだ。今回の仕事はバルバラ森林でよく売られているキノコを採るんだよ。別にそこまで難しいもんじゃねえだろ」
「……は、はい」
予想していたものより格段に難易度の低い内容に、彼女は気が抜けてしまった。
それを無視してカイルは話を続ける。
「まあ、万が一のことを考えて武器は持っていってもらう。で、服装は地味な色のものにしろ。黒とかグレーとかな。ここまでで何か質問はあっか?」
「ねえよ」「ないです」
「ならいい。集合時間は昼頃、場所は西門な」
了解と二人が答えると、カイルは背を向け、
「かいさーん」
そのまま別れていった。