一、デストロイバリアが打ち破られた!?
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎 ・望月 典馬
・紅亜 ・笠井 蛍冴
・藤谷 美虎
朝食を食べ終えることにかなりの時間を費やしたが、一応遅刻寸前のところで学校に到着することができた。
重い腹を抱えて教室に足を踏み入れた直後、HRの始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。だが、担任はまだ来ていない。
窓側の一番後ろというベストポジションの自分の席に着くと、前の席の男子生徒がこちらに振り向き、快活な笑顔で声をかけてきた。
「おーす、タカ。お前が遅刻スレスレなんて珍しいな」
俺をタカと呼ぶこの男子生徒は、望月 典馬。小さい頃からの幼なじみだ。
ダークブラウンの髪に、アイドルの様に整った顔立ち。体格は俺より少し長身で、引き締まっている。だが、極度のロリコンの為、女子からの好感度はあまり良くない。宝の持ち腐れってやつだ。
「どうせ妹と朝からいちゃいちゃしてたんだろーけど?」
からかうように性悪な笑顔をうかべる望月。
「んなわけねぇだろ。ちょっと寝坊しただけだ」
「寝坊……なるほど。昨日は深夜まで美虎ちゃんと……」
「お前の想像力は壮大だな……」
この会話はいつも通りのことなので、適当にあしらっておく。いちいち相手にしてたら体がもたない。
それから間もなくして担任が教室の扉を豪快に開け、HRが始まった。
◇ ◇ ◇
昼休み。俺は教室で望月ともう一人の男子生徒、笠井 蛍冴と昼食を共にしていた。この笠井こそ、俺の部屋の扉を改造してくれた改造マニアだ。まぁ、実際あんま役にたたなかったけどな。
「おい笠井。お前の作ってくれた扉、美虎に吹っ飛ばされて粉砕したぞ」
笠井は目を見開き、箸で挟んでいた玉子焼きを落とす。
「ば……馬鹿な……そんなわけが……」
そんなにショックをうけることだろうか。俺は大体予想してたぞ。
「僕の作った『デストロイバリア』が、たかが人間ごときに負けるなんて……しかも、一昨日藤谷の部屋に取り付けたばかりたぞ……」
「あの扉そんな名前だったのかよ。いや、まず俺の妹は人間じゃないぞ。鬼だ。もしくは虎」
「美しく、なおかつ強い。最高だな美虎ちゃん。ま、でもやっぱ幼女だよなぁ~」
菓子パンを頬張りながらそう洩らす望月。話をずらすなロリコン。
「僕がもう一度作り直そう。藤谷」
「いや、いいよ。どうせまた、あいつのキックで吹っ飛ばされるだけだから」
そう言うと、笠井は自分の持っている箸をこちらに向け、
「失敗は成功の為にある!こんなところで人間……いや、虎になんか負けていられるか!」
と格好よく決意する。プライドの高い奴だな。しかも男前。それでこそ笠井なのだが。
「じゃあどうすんだよ」
「なぜ『デストロイバリア』が負けたのか、調査することにした。まだ粉砕されたバリアの部品は捨てていないか?」
「あー、確か部屋の隅にあったかな」
「それを押収し、家で調べる事にする。というわけで、今日は放課後藤谷の家にお邪魔する事にしよう。なに、心配するな。『デストロイバリア』の進化形態『デストロイヤーバリア』が完成した暁には、それを無料で藤谷にプレゼントしよう。もちろん、取り付けも僕が行う」
君はなんて優しいんだ笠井!実際どんなものでも美虎の前では無意味になると思いながらも、俺は笠井と熱い握手を交わした。
「あ、じゃあ俺もタカの家行く」
そこで望月が元気よく手を挙げた。
「久しぶりに美虎ちゃんと会いたいし」
「忘れたのかよ。美虎はピアノ教室があるから、帰ってもいないぞ」
「えーじゃあ、女たらしのタカが何人家に女を匿っているか調査してやるよ」
おい、なんか聞き捨てならない単語がはいってるぞ。
そういう話に免疫のない笠井は、弁当を食べ終えたのを機会に、俺に「じゃあ、放課後」と言い残してそそくさと自分の席へと帰ってしまった。
「俺は女たらしじゃないぞ。それに、両親がいないからって俺がそこらへんの女を家に連れ込むわけが……」
……あったな。紅亜を自分の家に半ば強引に連れ込んだ。
ま、まぁあれは、美虎のせいっていうか、不可抗力っていうか。
「その反応……まさか、お前……」
そんな俺の表情を鋭い洞察力で見破る望月。
俺はすぐに爽やかな作り笑顔を見せて、
「お、俺が家に女を連れ込めるほどの肝っ玉があると思うか?」
とごまかす。
「……じゃあ、お前の家、行ってもいい?」
「お、おう、別にいいぞ。放課後な」
どうせ笠井も来るんだ。パッと自分の部屋に案内して、パッと帰ってもらえばいい。
でも、そんな上手い具合には、俺の人生はできていなかったんだよな……はぁ。