朝の遅刻は大変です
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎
・紅亜
・藤谷 美虎
俺は一応、これでも高校生だ。高校生だからには、平日は学校に通わなくてはならない。
朝7時。重たい瞼をこすりながら、1階のリビングルームへ向かう。いつもより遅い起床だ。まぁ、家から学校までは徒歩30分。走れば10分で着く。なので、別に遅めに起きたところでどうってことはない。
階段を降りる途中で、昨日風呂に入っていなかった事を思い出し、目的地変更でバスルームに向かう。
バスルームに入ると案の定、暖かく少し湿った空気を感じる。妹がお湯を張ってくれたんだな。
妹は今リビングで朝食を作ってくれている。母さんの代わりだ。こればかりは頭が上がらない。
少し熱めのお湯につかりながら、視界に少し被る前髪を手で掻きあげ、息をつく。こうやっていると、昨日のことが嘘のようだ。いっそ、全部夢になってくれても構わないけど。
ゆったり20分間ほど浸かって、ようやく時間に余裕が無い事に気づいた。
「やばいやばい……」
急いで風呂からあがり、大雑把に体と頭を拭いて制服に着替える。
リビングに駆け込むと、すでに美虎は朝食を食べ終えたらしく、自分の食器を片付けていた。紅亜の姿はない。
「あらぁ、兄さぁん、おはようございますぅ。時間大丈夫ですかぁ?」
癒しスマイルをこちらへ向ける美虎。
「ん、おはよ。実際やばいと思うから、お前先行っててくれ」
俺の通う明楼高と美虎の通う天月中はほぼ隣合わせになっている為、俺はいつもこいつと一緒に登校をしている。
だが、さすがに今日は一緒にいけないだろう。
「え~……いやですぅ。だから兄さん、早く食べてくださぁい」
机の上の朝食を見て俺は首を横に振る。妹の料理には問題があるのだ。味じゃない。見た目でもない。量だ。アメリカ人ばりに凄い量の朝食が大きな皿の上に乗っかっている。
しかも残すと美虎が怒るから、全部食べなければいけない。怒るってあれだよ?お説教じゃなくて、ほら、例の。そう、プロレス技。
「先行ってくれ。優等生のお前が遅刻したら問題だろ」
少し皮肉を交えて言ったが、
「兄さんが食べ終えるまで家をでませんよぉ」
と笑顔で返された。くっ、さすが我が妹だ……。
というわけで、俺は特に味わいもせず、ひたすら食料を胃に流し込んだ。それをテーブルに頬杖をついてながめる妹。さらさらロングのややブロンド色の髪が揺れる。
「そういえばぁ、紅亜ちゃんはどうしましょうかぁ?」
俺の急ぎようにも動じないゆったり口調。口の中の物を飲みこむ。
「まだ寝てるんじゃないのか?」
「そうじゃなくてぇ、このままだとぉ、遅刻しちゃうんじゃないでしょうかぁ」
そういえば紅亜、あいつ学校通ってるのかな。
まぁ、ここは適当に辻褄合わせを。
「昨日言ったろ、ここから自分の家まで4時間かかるって。それに今日は休みらしいから、放っておいて大丈夫だ」
「う~ん、それならいいんですけどぉ……祝日でもないのに学校がお休みなんて、不思議ですねぇ」
どうやらまだ腑に落ちないようだが、俺は飯を食べないと学校へ行けないので、また食事に戻る。
紅亜は、これからどうするんだろう。あの第二次動物大戦とやらに、参戦するのだろうか。
――――それを聞いちゃったら、君も巻き込む事になるけど……それでもいいの?
お前は何者かと質問した際、パンダ姿の紅亜に言われた言葉が頭をよぎる。
……まさか、な。