四、おとしもの、かなっ!
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎
・パンダの女の子
・藤谷 美虎
俺の部屋の扉はかなり改造されている。
その理由はもちろん、妹に侵入されない為だ。
俺以外がドアノブに触れば電流が流れるとか、どんな衝撃にも耐え抜く素材を扉の材料として使うとか……一般人の部屋の扉とは思えないほど、かなりの装甲が施されている。
元々は何の変哲もないただの扉だったのを、改造オタの同級生に頼んだところ、こうなったのだ。
だがその扉も、我が妹の前では無能に終わった。
なんであいつ、ドアノブを触って平気でいられたんだ?
なんであいつ、あんな最強装甲の扉を蹴りで開けることができたんだ?
そりゃ、藤谷 美虎だからだ……って、あれ?俺、生きてるな……すげぇ。
俺はまだフラフラする頭を手で押さえながら、上半身を起こした。自分の部屋。どうやらベットに寝ていたようだ。結局あいつ、ボディプレスしてたな。なんか腹の中心が痛ぇ。
「おはよう、兄さぁん。っていてもぉ、もう8時ですがぁ」
隣に当然のようにねっころがる美虎。自分の言った言葉の矛盾をクスクスと笑っている。
大丈夫。今更驚かない。
「お前が俺をノックアウトさせたんだろ。腹が凄ぇ痛いんだけど」
「あらぁ、それは大変ですねぇ。では、トイレへ連れて行ってあげますぅ」
「ちげぇよ!お前のせいでだ!」
「ほらほらぁ、こんなとこで漏らさないでくださいよぉ?」
「話を聞けぇ!」
だめだ、この天然に一々付き合ってられるか。
美虎はまたクスクスと俺の顔を見て笑い、「すいませぇん」とつぶやいた。
「……で、あの女の子はどうした?」
「女の子、っていうと、あの着物を着た子の事ですかぁ?」
「それ以外いないだろ。どこにいるんだ?」
部屋を見回してみるが、朱色の女の子はどこにも居ない。
「その前に一つ聞きたいことがあります」
瞬間、背筋の凍る感覚。この声の音程。地獄から響く悪魔の囁き。
美虎の喋り方がのったりではなくなったら、それは危険信号だ。
怒ってるぞ、こいつ。しかも、かなり。
「な……なんでしょうか」
こういう時は下手に喋って逆鱗に触れると怖いので、敬語で話すようにしています。
恐る恐る顔を上げれば、満面の笑みがこちらに降り注がれている。だめだ、めっちゃ怒っとる。
「あの女は兄さんとどういったご関係なのですか?」
そんなこと、俺だって知らねぇよ、なんて言ったら、マッハのパンチが俺の鳩尾にジャストするだろう。以前、そんなことがあったから。いやぁ、あの時は……冥界を彷徨ったなぁ……。
「それは……ですねぇ」
手に汗握る場面、とはまさにこういった状況なのだろうか。冷汗だけどさ。
そもそも、なんでこういう拷問的なものをよりにもよってベットの上でされているんだ。しかも正座で向かい合って。
「おと……」
もだち、と言おうとした瞬間、美虎の右腕がピクッ、と震えた。
敵、臨戦態勢突入。敵、臨戦態勢突入。今すぐここから逃げてください。
脳がそう訴えているのに、なかなか体は動かない。……いや、逃げても追いつかれるだけだ。ここは、やっぱり言葉だけで凌ぐしかない。
「おとしもの、かなっ!」
今までで一番爽やかにいえたと思う。俺、カッコイイ!ってふいに思ってしまうほどだ。
そのカッコイイ俺の鳩尾に、今までで一番強烈なマッハパンチが入る。
その一撃をくらった俺の体が、『く』の字に曲がったまま後ろに吹き飛び、ベットの下に落ちた。
「ぐべっ」
口から情けない声が出る。くあぁ~……お、でも、今回は……なんとか意識があるぞ。
俺は必死に呼吸しながら、再び美虎へと顔を向ける。
妹はそれでもなお笑っていた。それが余計怖いんだよ。
「兄さん、聞き間違いですか?」
「あっはい、聞き間違いだと思います!」
妹に顔を向けたまま、後ろへと下がっていく。どうせ距離をとっても仕方がないが、気休めにはなる。
「では、もう一度お聞きします。あの女は、兄さんとどういったご関係なのですか?」
関係……家の前にパンダが倒れていてあーだこーだ、と今まであったことを全て話しても、信じてもらえるはずが無い。だったら、
「……言っても、驚かないでくださいよ」
相手をショックさせて、逃げ切るのみ。
「あの子は……その、俺の彼女です!」
そう大きな声で、言い切った。ぼそぼそ言ったら嘘だと見破られる恐れがあるから、誤魔化すように、大きな声で、豪快に。
すると妹は、笑顔の表情で固まったまま、ベットの上に倒れてしまった。
一応顔を覗いてみるが、どうやら気絶しているだけのようだ。というか、これだけで気絶って。
前に友達の女子を家に呼んだときも、この方法で逃げ切った。だが、この技は諸刃の剣。100%成功するが、その後ネタばらしをすると、笑顔でマッハパンチ100連発をお見舞いされることになる。
気絶した妹はそのまま放っておいて、パンダの女の子を探しに部屋を出る。すると、なにやら下の階から焦げ臭い匂いが漂ってきた。美虎、魚でも焼いてたのか?
階段を1段飛ばしで降りて行き、廊下を進んでリビングに入る。
中を見渡して、キッチンに人影があるのに気づく。
……まさか、と思いながら、そこへ向かう。キッチンに立っていたのは、朱色の着物の上にピンクのエプロンをしていた、パンダの女の子だった。
「おい、お前なにしてんだよ」
声をかけるとこちらへ振り向き、
「ほっ、ほっとけーきが……上手に作れないぃ……」
と泣きながら訴えてきた。いや、知らねぇよ!
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