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九、こっからが本番だ

◇登場人物◇

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう)

 15歳。高校生。


紅亜(くれあ)

 13歳。熊猫族の少女。パンダに変化することができる。


吾煉(あれん)

 年齢不明。獅子族の少年。ライオンに変化することができる。


水紋上(みなもがみ) 珍彦(うずひこ)

 年齢不明。巨体。亀の甲羅を背負っている。

「……ぅ……よぅ……ぉきて……」


 少女の声が聞こえる。まだ幼さが残った、キーの高い声。まるで天使のような声だ。というか、天使じゃね?


 ……って、んな馬鹿な。


 俺は右往左往(うおうさおう)する頭をどうにかたたき起こし、重たい瞼を持ち上げる。

 そこにいたのは、こちらを心配そうに覗き込む小柄な和服少女、紅亜(くれあ)

 いつのまにか眠ってしまっていたようだ。


「よかったぁ、生きてたんだね……」


「ん……ふぁぁ……まぁな」


 欠伸(あくび)をしながら立ち上がると、紅亜が俺の体に異常がないか確かめ始めた。


「いや、大丈夫だから。俺全然戦ってないし」


 ぺたぺたぺた。


「なかなか危ない状況だったけどさ」


 ぺたぺたぺた。


「なんというか、アレンのおかげで助かっ……触りすぎだろお前!」


(さわ)ってるんじゃなくて、()れてるんだよっ」


「それって同じことじゃ……ってどこ触ってんだよ!」


 なにやら紅亜が怪しいところに手を伸ばしたので、それを必死に制す。


「うん、異常なし、と。それどころか、完璧無傷だね。ほんとに戦ったの?」


「だから戦ってないって。それっぽい状況になったりはしたけど、結局俺がしたのは首筋にチョップぐらいのもんだよ」


 あとはびびったり、うごけなくなったり、土下座したりはしたけど。

 これは言うと本当にしょうもない事になりそうなので、控えておこう。


「首筋……ああ、気絶させたんだね」


 紅亜がいつの間にやら縄でぐるぐる巻きにされていた白琶を眺めて、唸る。


「うぅん、でも……それじゃあ、納得できない人もいるみたいだよ」


「え?」


「ほら」


 そう言って、紅亜は目であっちを向けと示す。

 その先にいたのは、初対面の時よりさらに険しい表情をしていた珍彦(うずひこ)だった。

 何事かを思案するように、下を向いてぶつぶつと呟いている。


「まさか本当に……いや、これは都合が……のちに……それでも……」


 俺が不思議そうに珍彦の様子を見つめていると、あちらも俺の視線に気づいたのか、顔をあげて睨みつけるようにして、


「おきましたか、鷹太郎様」


 不機嫌そうな声でそう言った。


「失礼ですが、鷹太郎様。私は先程、鷹太郎様に守り人を『殺せ』と言ったはずですが……これはどういうことでしょうか」


「えーと、それは……」


 珍彦のものすごい剣幕に、思わず言葉が詰まってしまう。いや、確実に殺せと言われたわけじゃあるまいし、とも思うが、確かに危険性を考えれば殺すのは当たり前か、とも思う。

 でも……非日常の中にいるとはいえ、そうやすやすと人を殺すのは躊躇(ためら)われるわけで。

 なにせ、俺はごく一般的な高校生なのだから。

 仕方なく、俺は先に目覚めていたアレンに助けを求める。

 するとどうだろうか、アレンは気持ち悪いウインクをこちらに放ち、


「俺は『殺せ』と言ッたぜェ……目で」


 と何食わぬ顔で言って見せた。しかも最後の方はめっちゃ小声で。

 俺は裏切りによる悲しみに心を痛めながら、珍彦の方に視線を戻す。

 うっわすげぇ顔してるよ。


「お、俺は人を殺すなんて、そういうのは……」


 弱気な発言。

 というか、それなら自分で殺せばいいのでは? とも思ったが、目の前で人が死ぬのを見たくないので、一旦その言葉は胸に留めておく。

 珍彦は恐ろしい顔でしばらく俺を睨みつけていたが、ついには諦めたように険しい表情のまま器用にため息をつき、眉間の(しわ)を減らした。


「……一応、筋力、魔力をともに封印する縄で二人を縛り上げてもらいましたが、所詮この兄妹の前では飾りに過ぎません。まだ作戦は始まったばかりですし、ここで殺しておくのが得策なのですが……。鷹太郎様、吾煉様ともにこの二人を殺す気がないようですので、諦めましょう」


「そンなに殺してェなら、お前が殺せばいいじゃねェか」


 っ、余計なことを……!

 アレンを睨むが、あちらはわざとらしく口笛を吹きながら俺の視線に気づかないふりをする。

 ところが、アレンの意見から返ってきたのは、以外な言葉だった。


「それは不可能です。竜宮族(りゅうぐうぞく)といちど縁を切った一族は、その体に触れることのできない呪いをかけられております。啼草(なくさ)は例外でしたが……。故に、この兄妹や竜宮族の者どもは私の体に触れることが出来ますが、私がその者達に触れることは不可能なのです。……だからといって、このような美しい少女の手を汚してしまうのも躊躇われたわけでして」


 美しい少女、という言葉に頬を染めながら照れ笑いをする紅亜。なにひとんちの人間をナチュラルに口説いてんだよおっさん!


「……と、時間があまりなくなってまいりました。急ぎ足でこれからするべきことを説明します」


 仕切りなおすように咳を一つして、珍彦は内容を告げる。


「鷹太郎様のご自宅でも言った通り、この『結界操作施設(けっかいそうさしせつ)』は竜宮城のほぼ中央に位置します。そこから遥か真上、最上階の啼草の眠っている部屋まで向かい、奪還。そこで脱出するための簡易魔術を使い、地上へ。それが今回の具体的な流れとなります。まず『結界操作施設』の扉を強制的に開錠したのち、そのまま廊下を突き進み、ひたすら最上階を目指します。その道中、侵入者撃退用の人形や、警報でたたき起こされた竜宮族の者たちが立ちはだかるでしょうから、その時は私と紅亜様で敵を一掃する強力な魔術に時間費やしますので、鷹太郎様と亜煉様はその間、敵の攻撃から私たちを守ってください。いいですね?」


 俺を含め、三人が一斉に頷く。

 こっからが、本番だ。

 俺は気を引き締めるように、両頬を両手ではる。


「では……行きましょうか」






 

 

 

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