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七、浜辺にてふたり

登場人物紹介

紅亜(くれあ)

 熊猫族。13歳。

 ただ今婚約者奪還計画を実行中。


珍彦(うずひこ)

 甲羅族。年齢不明。

 着物の大男。

「……遅い」


 深夜の潮風を肌に感じながら、あたしはそう呟き、鷹太郎の部屋から拝借してきた腕時計に視線を落とした。

 鷹太郎(ようたろう)と……あれん? だっけか。……が竜宮城に侵入してから、二十分が過ぎていた。


「もしかして、術に失敗したんじゃ……!?」


 今更になって、ウズヒコさんが言っていたセリフが頭に浮かんでくる。


―――失敗すればこの2人が木端微塵になるか、水没死してしまう恐れがありますので……


 あたしは救いを求めるように、砂浜に胡坐(あぐら)をかいて座っているウズヒコさんを見つめる。

 ウズヒコさんは鷹太郎達を竜宮城へ転送してから、何かを考えるようにずっと瞼を閉じて、その場から動かない。まるで出来の良い石像みたいだ。

 するとウズヒコさんはあたしの視線に気づいたのか、眼をつむったまま顔をこちらに向け、あたしの心配事を察するように「大丈夫ですよ」と静かに呟いた。


「ちゃんと術は成功したはずです。いまのところは、あのお二方を信じて待つのみですよ」


「それにしても、遅くないですか? もう二十分も経ってるのに……」


 そう言うと、ウズヒコさんは何故か「は?」と間の抜けたような声を発し、首をかしげた。


「冗談ですか?」


「え?」


 問われた言葉に、こちらは訳が分からず聞き返す。


「……もし、先程の言葉が冗談ではないとしたら……失礼ですが、紅亜様(くれあさま)竜宮族(りゅうぐうぞく)を甘く見すぎだと思いますよ」


「甘く……見すぎ?」


「ええ」


 ウズヒコさんは瞼をゆっくりと開き、こちらを見据える。


「確かに、竜宮族は以前より遥かに衰退しました。はっきり言って雑魚一族です。ですが、雑魚は雑魚でも雑魚なりの意地というものがあるのです」


 えげつないくらいに『雑魚』という言葉を多用するウズヒコさん。

 顔もいつになく険しいような気がする。うん、気がするだけだけど……。


「雑魚なりの意地?」


「そうです。まず紅亜(くれあ)様はなぜ、竜宮族が昔より衰退していったのか、ご存じですか?」


「ええと……たしか……その、それで……それで……あーだこーだあって……はい、わかりません」


 正直にお手上げしました。知ったかぶりを通せる雰囲気じゃなかったからね。


「簡潔に言えば、一族内部での分裂がきっかけとなります。それにより竜宮族は力を失っていき、今では雑魚一族。……ですが、再び、竜宮族は力を取り戻しつつあるのです。なぜだか分かりま……失礼、分かりませんよね」


 聞かれる前に諦められたっ!

 そんなショックをうけるあたしに脇目もふらず、ウズヒコさんは話を続ける。ひどいよ。


「竜宮族に、一度は分裂したはずの一族が、最近になって再び結合しはじめたからです」


「……それって、どういう……?」


「その結合した一族というのが、海豚族(いるかぞく)という一族でして。知っていますか?」


 と、なんかあたしの言葉をスル―された気がしないでもないけど、気を取り直してウズヒコさんの言葉にこたえる。


「確か、異能者(いのうしゃ)の一族の中でもダントツで魔力を扱うのに()けている一族が、海豚族……とかなんとか、おばあちゃんから教えてもらったような気が……」


 曖昧な記憶を頭の中から掘り当て、自信なさげに口に出してみる。

 するとウズヒコさんは「その通りです」と頷いた。


「その一族が、竜宮族の元に還ったのです。それだけではありません。他の一族も、着実に竜宮族と結合をはじめているのです。それ故、甘く見すぎている、と言ったのです」


 これで話は終了です、と言わんばかりにさっとウズヒコさんは顔をもとの位置に戻すと、再び瞼を閉じた。

 なるほどね。つまり、竜宮族の力を推し量ることが不可能になったので、くれぐれも油断はするな、ってことか。

 それなら最初からそう言えばいいのに、と心の中でひとりごちてから、腕時計に目を移す。


「……まだかなぁ、鷹太郎」


 自然と口から零れる言葉。

 すると、ウズヒコさんがはっとするように、肩を震わせた。


「……もしかすると……」


「え?」


「あ、いえ。……鷹太郎様と吾煉様を転送した、『結界操作施設(けっかいそうさしせつ)』にいる輩のことです」


「それって、鷹太郎たちの敵のことですか?」


「……ええ。その敵ですが……少々厄介な相手かもしれません」


 厄介な相手? どういうことだろう。


「私の予想が正しければ……『結界操作施設』にいるのは、海豚族の者です」


「海豚族……って、さっきの?」


「はい。先程紅亜様が(おっしゃ)った通り、海豚(いるか)の者は魔術の扱いに長けています。それ故、強力で、しかも巨大な結界を形成するというならば、もっとも海豚の一族の者が適任です。そして……」


「そして?」


「……私は昔一度、海豚族の強力な術師に出会ったことがあるのです。もしかするとその術師たちが『結界操作施設』にいるかもしれません」


 強力な術師。こんなおっきくて強そうな人がそう言うと、出会ったこともないのにその術師が本当に強力だったんだろうなぁと思えてくる。確かにそれは厄介そうだなぁ。

 ……? ということは、ウズヒコさんはその人と戦ったことがあるのかな?

 ……あたしとどっちが強いんだろ。


「それで、その強力な術師っていうのは?」


「はい。……ええと、確か……」


 ウズヒコさんは腕を組み、


双子蓮(ふたごはす)……双蓮(そうれん)の兄妹、兄の(はかな)と、妹の……白琶(しらは)でしたね」


 その名を述べた。

 何故かその時、ウズヒコさんの顔が、嬉しそうに(ゆが)んだ気がした。

 そう、気がしただけ、だけど。


「特に妹の白琶の方は、なかなかの手練(てだ)れでした。なにせ彼女は……」


 それに続く言葉は、海が運んでくる潮風にかき消され、あたしの耳には届かなかった。

 ただ、なんとなくその続きを聞いてはいけない気がして、あたしは口を閉じた。

 ……それにしても……はぁ。


 ……ホットケーキ食べたい。





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