表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/36

一、あなたがE太郎様ですね?

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

紅亜(クレア)

望月(もちづき) 典馬(てんま)  ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)

吾煉(アレン)  ・水紋上(みなもがみ) 珍彦(うずひこ)



 最初に言っておきます。この目の前に立つ大男は知り合いではありません。

 玄関に直立する、このご時世に近所などではあまり見かけない着物の大男。腰には鞘に収まった刀。長い黒髪は一つに束ねてあり、目付きが凄く厳しい。おもわず後ずさってしまうほどのオーラを持った男だった。

 それだけなら、「あ、家間違えてますよ?」で済む問題だったかもしれないが、どうやら今回はそうもいかないようだ。

 なにせ、背中から甲羅が見えてるんだもの。こいつもおそらくは紅亜やアレンと同じ、第二次動物大戦に絡んでいる『異能者』って奴なんだろう。この呼び方はあまり好きじゃないけどさ。

 というか、なんでさっきから直立したままなんだろう。しかもずっと俺から目を逸らさないし。

 大男はまじまじ観察している、という(てい)でもなく、ただじっと俺を見据えたまま、そこに立ち尽くしているのだった。正直、かなり不気味。


 …………。


 ひたすら、沈黙。

 最近、こういう気まずい空気の沈黙多いよな。主に美虎関係で。

 などとどうでもいいことをのんきに考えていると、唐突に男は口を開いた。


「あなたが、E太郎様ですね?」


「人違いです」


 すぐドアを閉めた。いやだって俺E太郎じゃないし。鷹太郎だし。

 が、すぐにドアチャイムが鳴る。ピンポピンポピンポーン、となにやらリズムを刻んで。うぜぇ。

 仕方なくドアを開けると、先程と全く同じ姿勢で男が直立。ほんとあなた直立が好きね。


「……なんすか」


「あなたがE――――」


「人違いです」


 すぐドアを閉めた。鍵もかけた。なんか今日は朝っぱらからバグループが多いな、はは。

 ……とまあ、どうせまたドアチャイムが鳴らされることは目に見えているので、鍵を開けてドアを開く。言うまでもないが、大男は直立。威風堂々とね。


「俺、E太郎じゃありませんけど」


 相手が聞いてくることを予想して前もって言っておく。

 すると大男は一ミリも表情を動かさず、


「えぇ!!なんだって!?」


 とオーバーリアクション。普通に考えて日本にE太郎なんて名前の奴はいないと思うけど……。


「では、あなたのお名前は?」


 なおも口調だけ焦った様子で名前を問い直してくる男に、


「藤谷っす。下の名前が鷹太郎で……」


 と答えてやると


「なッ、なんだって!?」


 と再び同じ反応。すると大男は懐からメモ帳を取り出し、しきりにページをめくる。似合わないことこの上ない。

 というか、これあと何回繰り返せばいいんだろう。

 もうすぐ家に望月や笠井だってくるだろうし、いつまでもここで立ち往生している訳にはいかない。

 さっさと話を切り上げて、帰ってもらおう。


「どちら様すか? もしかしたら、家間違えてるかもしれませんよ」


 すると大男はあるページに目を落とし、


「あ……失敬、鷹太郎様でした。失敬失敬」


 全然反省してねぇ。


「……で、もう一度お伺いしますが、どなたですか?」


「失敬失敬、自己紹介が遅れました。私は水紋上(みなもがみ) 珍彦(うずひこ)と言います。主に日本各地を拠点とする、甲羅族の者です」


 熊猫(くまねこ)獅子(しし)の次は(かめ)か。なんで(うち)にばっか集まるのかな、こういう奴らって。

 以前、アレンが紅亜を拐った日の夜の事。紅亜は確か「これからも戦争終結を邪魔しにたくさんの敵が現れる」なんてことを言っていた気がする。

 結果、理由はよくわからないがアレンは戦争を終わらせる為に俺を殺しに来たわけだが、今回は本当に、戦争集結を拒む輩の一人かもしれない。つまり、俺たちを殺しに来た。

 ……いやなんか、そんな雰囲気を微塵も感じさせない喋り方だけどさ。


「今日は鷹太郎様に、お願いがあって参りました」


「お願い?」


 珍彦と名乗る男は頷く。


「……私の、フィアンセが拐われたのです」


 俺の予想の斜め上をいきました。

 ……え、婚約者(フィアンセ)? どういうこと?


 大男は今までの厳しい表情とはうって変わって、何かを思い出すように悲しげに瞼を閉じる。


「あれは……そう、昨日の夜の事でした」


 結構最近だね。つか語り始めちゃったよ。もうすぐ望月達来るのに。


「私は、実家のとてもとても広い寝室のとてもとても大きいベットで眠っていました。隣には私の美しいフィアンセ。とても……幸せでした」


 なんかいちいちひっかかる物言いだなー……と、それはまぁ置いといて。


「しかぁし!そんな夢のような空間は、一夜で消え去ってしまいました。なんと、竜宮族の奴らが屋敷に忍び込み、あろうことか私のフィアンセを誘拐してしまったのです!」


「待て待て。その竜宮族っていうのは?」


 珍彦は首を微妙に傾げ、「知らないんですか?」とバカを見るような目で言った。知るわけねぇだろ。


「竜宮族というのは、主に海に関係した異能者たちの一族の事です。昔は最強を誇っていたのですが、今では雑魚一族ですね」


「? なんで弱くなったんだ?」


 いつの間にかタメ口だな、俺。

 というか雑魚一族にフィアンセ奪われるとか、しょうもないなこの男。


「竜宮族が色んな一族に分かれていったからです。元々『海の一族』にしては大きすぎたんですよ。そこから私たち亀の能力を持つ『甲羅族』や鯨の能力を持つ『鯨族(くじらぞく)』などに別れていって、結果いくつもの能力を失った竜宮族全体は、衰えていった、というわけです」


 つまり竜宮族が本家で、甲羅族が分家ってかんじか。と、それはともかくして。


「なんでその竜宮族に、甲羅族のお前がフィアンセをさらわれなくちゃいけないんだよ」


「そこがなにやら面倒でして。私のフィアンセ、名を啼草(なくさ)と申しますが、竜宮族のお姫様なんですよ。半ば強引に私が竜宮族から連れ去らったものなので、当然の如く竜宮族の長、つまり啼草の父が激怒し、まぁ、こんな状況になってしまった、というわけです」


 ……それ、お前が全部悪いんじゃないのか?

 そう言ってやると


「そうかもしれません。ですが、間違いなく私たちは相思相愛だったのです。なんとしても、再び啼草を私の手に戻したい。ということで……フィアンセ奪還計画に鷹太郎様も協力していただきたく、今日は参りました」


 いやいやいや待て待て待て!


「なんでそれに俺が参加しなきゃならないんだよ!いろんな奴にこれを言ってきたが、俺は極一般の男子高校生だぞ!お前らみたいにそんな力が――――」


「大丈夫です」


 俺の言葉を遮る、珍彦の自信に溢れた声。


「あなただけではダメです。わたしだけでもダメです。でも私たちなら――――あなたがたとえ一般人(・・・)だとしても、勝率はあります」


「……俺は相手に勝てるかどうかを聞いているんじゃない。なんでそれが俺じゃなきゃいけないのかを聞いてるんだよ」


 自分で言っていてわかる。俺の口調にやや焦りが混じってきていることを。

 こいつ、なにかがおかしい。格好とか外見面ではなく、内面の方で、何か違和感がある。

 気のせいなのか……?


「何故、私があなたを選んだのか……ですか。…………そうですね。あなたの家から、幾つかの『異能者反応』がでたからです。その家の長があなただった。家の長であるということは同時にその家に住む人々の中の長でもあります」


 こいつ、やっぱりこの家に紅亜達が住んでいるのを知ってたのか。そりゃそうか。じゃなきゃ理由もなくここを訪ねてこないだろうし。


「回りくどいな。何が言いたいんだよ」


「失敬失敬。つまり、あなたを含め、この家の全員で私のフィアンセ奪還計画に参加してもらいたいのです」


 この家の全員、ということは――――


「だったら俺は断るしかないな」


「えぇ、なんでですか!? お礼はたくさんだしますよ!」


「そうじゃなくて。この家には俺意外の一般人もいるんだ。そいつを巻き込むわけにはいかない」


 すると何故か、珍彦は険しい表情のまま微笑を浮かべて、自分の背後、外に視線を移す。


「……おや、誰か来ましたね」


 そしてそう呟いた。確かに、何かが道路の表面を削りそうな勢いでこちらに向かってくる音が聞こえる。しかも、だんだんこちらに近ずいてくるようだ。

 もしや望月たちが全力疾走しながらこちらに向かってくるのかと予想したが、俺たちの目の前に現れたのは、想像もしなかった奴だった。

 そこに登場したのは、一匹の獅子。つまり、アレンだった。

 相当な速さで走ってきたのか、呼吸がかなり荒い。


「どうしたアレン。お前美虎とどっかに――――」


 出かけてたんじゃないのか、という言葉を紡ぐ前に、言葉が途切れた。

 もしかして……。


「ねッ、姉さンがッ!変な奴らに……ッ」


 そうアレンが乱れた口調で言い終える前に、俺は男の胸ぐらを掴んでいた。


「――――てめぇ、俺の妹に何をしたッ!」


 だが珍彦は以前動揺した様子もなく、口を開く。


「何もしていない……と言えば嘘になりますが。どうですか? 自分の大事な人を奪われる気分は。決して清々しい気分ではないでしょう?」


 俺は自分の考えていることが怒りで整理できなくなった挙句、男の左頬を本気で殴っていた。

 が、珍彦は厳しい表情のまま、その場に固まって俺を見下ろしている。

 こいつ……鉄みたいに皮膚が硬い。


「あなたの妹さんは甲羅族が保護しました。これでこの家には、一般人(・・・)はあなたしかいないはずです。ではもう一度お願いします。どうか、私のフィアンセ奪還計画に協力してください、鷹太郎様」


 頭を僅かに下げる珍彦。

 お願いじゃなくて、脅迫だろ、クソ野郎。



 読んでくれてありがとうございます^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ