奴の背中は甲羅です
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎 ・藤谷 美虎
・紅亜
・望月 典馬 ・笠井 蛍冴
・吾煉
熊の博士との戦い、幻獣に乗った少年の襲来、妹のボディプレス炸裂から一週間と一日。
「先週はいろんなことがあったなぁ……」
俺はリビングのソファに体をあずけながら、気だるげに欠伸をした。
日曜日。特にすることもなく、美虎の用意してくれた朝食を無理やり胃に詰め、俺はぼーっとテレビの画面を眺めていた。
美虎は早朝からアレンを連れて出かけてしまったし、何故か紅亜も家中どこにも見当たらない。散歩でも行ったのかな。
上半身を起こし、俺はテーブルの上の携帯電話を手に取る。暇だから、望月とか笠井でも呼んでみるか。
この二人には学校ですごく心配された。そりゃ、同級生の部屋があんな有様ならその反応も仕方ないか。
先週の月曜日、登校して教室に入るなり無言で望月が抱きついてきた。うぜぇ。
「無事生還したか、藤谷」
その後ろから笠井。お前は戦線メンバーか。
ま、どちらもいい奴なのは確かだった。
一夜漬けであの部屋の有様の言い訳を考えたのに、二人はあえてそれに触れず、ただ俺の身の安全だけを考えてくれた。
いい仲間を持った事と運命に感謝しつつ、俺はまず望月に電話をかけた。
ワンコールで相手と繋がる。
『うぃーっす。今日も今日とて萌え萌えきゅーんの望月でーす』
めっちゃ前言撤回したくなる。堪えろ、俺。
「おはようロリコン。今日も元気だな」
『そりゃ、タカから電話なんて滅多にないから、嬉しくなるわな』
「そうだったか?2ヶ月に一回はお前にメールするだろ?」
『いやそんな「え?めっちゃ頻繁にお前と通信してんじゃん」みたいに言われても。んで、なんの幼児?あ、ごめん。何の――――』
通話終了。おつかれさまでした。
と思ったら今度はあちらから着信がきた。
「悪い悪い、手が滑ってな。ついでに爆ぜろロリコンって言いたくなったよ」
『口もすべっておりますがな。で、何の幼女? 間違えた。何の――――』
再び通話終了。おつかれさまでした。
と思ったらまたあちらから着信。
『うぃーっす。今日も今日とて萌え萌えきゅーんの望月でーす』
「名前変えろ。今日からお前はロリペドだ」
『で、何の――――』
「繰り返したら殺すぞ」
『わ、分かってるって。怖いな、ほんとに。で、何の用事?』
イラつく気持ちを落ち着かせるために、一度深呼吸。
「……お前今暇?」
『暇っちゃあ暇かな』
「なら遊びにこいよ。俺も暇なんだ」
『え、マジで!? 行っていいの!?』
喜びを隠しきれない望月。それもそのはず、こいつは美虎のこと大好き(?)だからな。つか、年下全般にだな。
今、家に居ないけどさ。
「おう、美虎が「お菓子つくってまってまぁ~す」って言ってるぞ。あ、ついでに笠井も誘っておいてくれ」
『おけおけ、いますぐ行くからなー!』
通話が切れる。
とほぼ同時に、家のドアチャイムが鳴った。早っ!
俺は急いでソファから立ち上がりリビングを出て、玄関のドアを開いた。
「お前らなんでそんなに早……いんだ……よ?」
が、そこにいたのは、俺のよく知る馴染み深い連中ではなかった。
身の丈2メートルほどもある体に竜胆色の着物を着付けた、大男。腰には刀。
だが銃刀法違反の前に、もう一つかなり気になるところがあった。
逞しい体にくっついている、奇妙なそれ。
亀の甲羅だった。
……コスプレ?