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十六、説明please☆

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

紅亜(クレア)

望月(もちづき) 典馬(てんま)  ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)

吾煉(アレン)


 何故、こうなった?……なんてことは、もはやどうでもいい。

 俺はただ、はやくこの状況に終止符を打ちたかった。

 この状況、というと。

 ダブルベットの上に俺と紅亜が並んで正座。向かい合うは本当に珍しく無表情の美虎。背後に立つのは今だ縄で縛られた体たらくのアレン。

 なんだこれ、といわざるを得ない状況の中、まず口を開いたのはやはり美虎だった。


「兄さぁん、説明していただけますかぁ?」


 ゆったり口調。これにはひとまず安心。無表情でこの口調が封印されていたら、間違いなく俺の命は危うかっただろう。

 俺は少々しどろもどろになりながらも、「あ、はいっ」と返事をした。もはやこの状況下、ここにいる美虎以外の三人に拒否権はない。


「はは……なんか、道端でこいつが倒れててさ。あ、その時にはすでに縄でしばられてたんだ。どうしてだろうな。うん。で、そのまま放っておくと野良犬にでも喰われそうだったんで、家に持って帰ったんだ。体調悪そうだったから、ベットで寝かせてさ。したら、急にこいつが「てめェ、ふざけたツラしやがッて」って襲いかかってきて、んで俺が取り押さえようとしたところ、丁度お前が帰ってきたってわけだ。つまり、紅亜のさっきの発言はただの誤解だ」


 中々上手く誤魔化せたと思った。が、思ったより我が妹は強敵だったようだ。

 俺の後ろで震えるアレンに目をやり、


「その子を縛っているその縄跳びの縄、わたしのなんですけどぉ?」


 と指摘してきた。くっ、なかなか鋭いじゃないか。

 だが、俺だってこんなもんじゃないぞ。


「証拠でもあんのか?」


 そう言ってやった。言ったあとに気づいた。これじゃまるで犯人が探偵の推理から逃れようとしてるみたいじゃんか。


「名前、書いてありますよぉ」


 しかも逃れられなかったし。


「あー、同姓同名。こんなこともあるんだな。こいつを縛った奴、お前とおんなじ藤谷(ふじたに)美虎(みこ)って名前なんだ。なるほど」


 だが、めげないのが俺だ。

 諦めが悪い、とも言うが。

 そんな俺のしらじらしい態度に呆れてか、美虎は短いため息をついた。


「本当のことを言ってくださいよぉ、兄さぁん……」


 どこか悲しげにも聞こえるその声に、少し罪悪感を覚える。

 でも、いいかい、美虎。君に本当の事をいえば、どうせ返ってくる言葉は「頭大丈夫ですか?」っていうのが予想できているんだ。

 そこらへん歩いてる一般人に「道端でいきなりライオンに襲われた」なんていっても、信じる奴はほとんどいないだろう。

 どうしたものか、とさりげに横へ視線を流すと、紅亜は直ぐ様こちらに向けていた視線を逸らしてきた。あたしに助けをもとめないで、とでもいいたげだな、おい。この状況はお前のせいで悪化したんだよアホ。

 俺は諦めの混じったため息をわざとらしく吐き、真剣にこちらを見つめる美虎に顔を向ける。


「……わかった。正直に言う。実はこいつ――――」


 後ろでガクガク震えるアレンを親指で指し、


「お前のファンなんだ」


 そう言ってやった。

 案の定、美虎は肩透かしでもくらったかのように「は?」という顔になる。


「ファン、ですかぁ?」


「そう、ファンだ。お前のファン。この町で密かに栄えている『I♥MIKO』っていうファンクラブの会長らしい」


 もちろんそんなのは(俺の知る限り)ないのだが、もはやこれ意外の嘘は浮かばなかった。


「わ、わたしにファンクラブなんてあるんですかぁ?」


 驚愕に目を見開く美虎。そんなに驚くことでもないだろ。眉目秀麗な我が妹ならそんなファンクラブがあってもおかしくはない。


 ……むしろありそうだ。


「その証拠として、こいつがここにいるんだ。なんとこいつ、(うち)の前でお前のこと待ち伏せしてたんだよ。所謂、ストーカーって奴。だから俺がお前の身を案じてこいつを捕まえ、縄で縛り上げ、ベットに寝かせ……寝かせ?……寝かせ……て、一体美虎にどんな要件があったのか聞いてたんだよ」


 いやそれ寝かせる必要ねぇだろ、と自分につっこむ。


「したらこいつ、突然「美虎さんの全部が好きだ!召使いにしてもらいにきた!」って言ってきてよ」


「ま、待ってくださぁい、兄さぁん」


 美虎が話を一旦止めにかかった。やっぱり急展開には弱いらしい。


「ん、なんだ」


「それはつまりぃ……この子を、わたしの召使いにしたい、ってことですかぁ?」


 いや急展開に弱すぎんだろ妹。てか俺のホモ疑惑どこにいった。助かったけど。

 けどまぁ、召使いか。それも悪くないな。

 このまま逃がすとまた仲間を大勢連れて逆襲しにくるかもしれないし、なにより、まだこいつに聞いてないことが山ほどある。


「ああ、まぁ、そういうことだ。悪くないだろ?召使い」


「悪くはないですけどぉ……うぅ~ん……」


 悩む美虎。返事を待つ俺。こちらも急展開についていけない紅亜。ひたすら震えるアレン。

 そんな奇妙な奴らが集まった寝室に、秒針の音だけが響く。

 もうひと押し……ってところか。

 あー……やべぇ、汗が止まらない。

 ハヤク外の空気吸いたい。

 ので、ボソッとこういう単語をつぶやいてみる。


「…………ボディプレス」


 その場にいた一人が過剰に反応する。俺の意図を読み取ったらしい。

 そいつは体の震えを必死に抑えながら、美虎に頭を下げてこう叫んだ。


「オッ、オレを召使い……いや、弟子にしてくだせェ、姉貴!!」


 いやそれはないだろー。


「そこまでいうならぁ……」


 いやあったよー。


「そんなにわたしの事を愛してくれる人はぁ、兄さん以外だと、あなたがはじめてですよぉ~。よろしくお願いしますぅ」


 両手をベットの上に添え、ていねいに頭を下げる美虎。

 え……なんだこれ。自分で言うのもなんだけど、ほんと……なんだこれ。って展開だった。

 でもまあ、これでひとまずは一件落着だな。

 そう安心して寝室を出ようとする俺。


「待ってくださぁい、兄さぁん」


 を呼び止める美虎。ええ、分かっていましたとも、この展開。


「兄さんまたわたしに……嘘、つきましたねぇ」


「……ぽん」


「かわいいキャラつくってもだめですよぉ?ほんともう兄さんったらぁ……」


「ボク日本語わかんないポン。それでは失礼するポン……え、ちょっ、まっ……なにその構え!美虎さん、なんかあたらしい技を会得しようとしてない!?やっ、ま……ぎぃやあぁああぁぁあ!!」




 その日の夕方、町中に、男の叫び声が轟いたという。

 警察? いえいえ、それよりも救急車が必要そうです。



 

 

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