十五、ボディプレス恐怖症
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎 ・藤谷 美虎
・紅亜
・望月 典馬 ・笠井 蛍冴
・吾煉
「ン?あ、え?おいなンだその顔は。なに「やべっ、忘れてた☆」みたいな顔してンだよ」
恐ろしく鋭いな、こいつ。
「……まさかたァ思うが、おめェら……」
「……忘れて来ちゃったよ。てへっ☆」
紅亜が可愛らしくほっぺに手をあてて言った。
するとアレンは憤怒。活きのいい魚ばりにベットの上で跳ねてきた。
「こンのバカ野郎!あいつらァ下僕は下僕でも大切な下僕だ!なんてことしてくれたンだ!」
「知らねぇよ!お前が勝手にあいつらを無駄死にさせたんだろ!」
「そもそもそこの熊猫が強すぎんのがわりィンだ! なンでライオン5匹をあンな短時間で倒すンだよ!」
なんか理不尽な方向に怒りが向いてるんだけど!
つか、なんで俺らが敵の下僕の世話までみないといけないんだよ。
「強くないもん。あのライオンと試練君が弱いだけだもん」
「試練じゃねェよ吾煉だ! てめェ名前ぐらい覚えやがれ!」
「アレンよりシレンの方がかっこいいし!」
「ンだとォ!?表でやがれこのクソアマ……ちょ、なんで熊猫になッてンだよ!!あッ、いや、勘弁してくれ、いや待てボディプレスは待て待て待てそれくらッたら天に召されるからァいやァァァァァァァァ!!……」
数時間後。俺が横になっていたベットには、アレンが寝ていた。
「うァ……もう……いやァ……その技だけはァ――――……」
さっきからずっとうなされているが、大丈夫だろうか。
まぁ、縄で縛られているにも関わらず、一度ボコボコにされた相手を罵倒するとは……アレン、お前はなかなか英雄だった。
まるで美虎にマッハパンチをくらった後の俺を見ているようで、少々背中に寒気を覚える。
時は夕暮れ。そろそろ友達の家に遊びに行った美虎が帰ってくるだろう。
そしたら、このベットに横たわる少年をなんて説明すればいいのやら。
「はぁ……」
ちなみに、紅亜は少し早めに風呂に浸かっている。調子に乗って「一緒に入るか?」と言ったら顔を真っ赤にしてぶん殴られた。
……望月に紅亜を見せたらどういう反応をすんのかな。などとどうでもいい事を考えていると、後ろの方で扉の開く音。
――――美虎!
俺の勘が、そう叫んだ。
まず俺がとっていた行動は、アレンを隠すこと。俺はすぐさまアレンの上に馬乗りになって、覆いかぶさるようにしてアレンの体を隠した。それで上から布団をかぶれば完璧だったが、そんな時間はない
。
はたから見れば、俺が男を襲っているように見えなくもないのだが……。
「兄さぁん、ただいまぁ~!」
ニッコニッコしながら正真正銘の我が妹、美虎がこちらに駆けてくる。勘大当り。
……!この流れは、まさか……!
自身に身についた究極の防衛本能により、俺はすかさず体を横へ転がした。
案の定、俺が一秒前にいた場所――――つまりアレンの体の上に、つか体に、美虎の隕石の如きボディプレスが炸裂した。
「ぐぼっ!!」
おそらくプレスに耐性のない少年の体には、この必殺技はキツイだろう。俺だってキツイんだから。
「あれぇ、兄さぁん?」
尻の下でのびている少年に疑問符を浮かべ、美虎は首を傾げる。
……誤魔化すのは、大変そうだ。
◇ ◇ ◇
「…………」
「…………」
美虎が、俺を見つめている。その瞳に映るのは、俺の姿か、はたまた軽蔑か。
寝室のベットの上で、正座の姿勢で美虎と向かい合っていた。光景自体は悲しくもよくあるものなのだが、今回はちょっと違った。
部屋中を満たす沈黙に、今までにないほどの緊張を覚える。
「兄さぁん……」
「……なんだ」
美虎がらしくない様子で控えめに俺を呼ぶ。そして、目線を少しずらし、俺の後ろで縄に縛られて立っているアレンに目をやる。
「なんでその子はぁ、しばられているんですかぁ?」
「……話すと、長くなるんだ」
「そんなのあたりまえじゃないですかぁ。逆にぃ、長くなかったら問題ですぅ」
珍しく今回の美虎に笑みはない。目線を再び俺に合わせる。
「……聞いてもいいか、美虎」
「……なんですかぁ?」
「……今のところ、お前はなんであんな状況になったのか。見当がつくか?」
俺が問うと、美虎はわざとらしく考える素振りをしてから、
「少し」
と呟いた。
「先に言っておく。それは誤解だ」
「わたしの考えているコトが、わかるんですかぁ?」
「大体な。……でも、一応、確かめておこう。お前の予想を聞かせてくれ」
「兄さんが道端で知り合った男の子を家に連れ込み、寝室のベットの上で特殊なプレ……」
「OK。わかった。今一度言おう。それは誤解だ」
やっぱり変な誤解をされてた。
確かに、ベットの上で縄跳びで縛られてアレンの上に覆いかぶさった。……あぁ、それが間違いだった。あの行動さえ取らなければ、まだ今より脱出が楽な状況になっていたかもしれないのに。
このままでは、女だけでなく男にもそういった興味がある見境なしの変態として認識されそうだ。
「俺は男に興味はない」
なので、きっぱりと言い切る。これだけは、自信をもって言えるぞ。お兄ちゃんにそんな趣味はない。
「でもぉ、わたしが考える限り、その予想が一番しっくりくるのですがぁ……」
「しっくりってなんだ! お前俺にそういう趣味があると思ってたのか!?」
「少し」
「んなことあるかァ!俺は紅亜一筋、女子一筋だ!男子に特別な興味を持つような人間じゃない!」
それなのに、美虎ときたら考える素振りを見せる。勘弁してくれ、妹様。
助けを求めるように後ろを振り向くと、アレンは美虎を直視しながら、ぶるぶると震えていた。どうやらボディプレス恐怖症に陥ったようだ。紫色に変色した唇でぼそぼそと「ボディボディボディ……」とつぶやいている。変態にしか見えないからやめてくれ。
にしても、どう誤魔化そうか。道端で行き倒れしていたから、家に連れて帰って面倒みていた、とか?無理だ。なんで親切に家に連れてって縄でしばんないといけないんだ。鬼か俺は。
だったら、コンビニかどっかでこいつが強盗していたのを、俺が勇敢に戦って捕まえた、とか?馬鹿言うな。そんな状況だったらまっさきに警察に通報するだろ、普通。
……結論。逃げ場なし、か。
――――いや、まだ策はあるはずだ。考えろ、考えるんだ……。
と、そんな緊迫した状況の中。
けたたましいドアを開け放つ音と共に、空気の読めない奴が登場。
「鷹太郎~、お風呂あがったよ~」
風呂上がりの紅亜だ。
上機嫌だった笑顔が、寝室に足を踏み入れた瞬間、「あぁ、やってもーた」という顔になる。
徐々に表情が感情を失っていき、ついには無表情になった。え、怖っ!その顔!
……にしてもタイミング悪いなこいつ、と心の中で舌打ちをした俺だったが、いや、これはもしや、と直ぐ様ひらめいた。
ここで紅亜が「あ~。縄跳びぐ~るぐるごっこ面白かったね!また三人でやりたいね!」みたいな意味不な事を言ってくれれば、突然の事に弱い美虎をなんとかまるめこむことができるかもしれない。そこで俺が「三人で」のところを強調すれば、万事解決にはならずとも、この状況を打破することはできるはずだ。
そんな俺を含むみんなの視線が集まる中、紅亜が言ったのは。
「よっ、鷹太郎のばかぁ!浮気者ぉ!」
それだった。
って、さらなる修羅場作ってどうすんだこの馬鹿ぁー!!