十一、獅子の襲来
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎 ・藤谷 美虎
・紅亜
・望月 典馬 ・笠井 蛍冴
「ひひっ、見つけたァ!」
頭上から少年の声を認識した瞬間、俺の体は宙に浮き、道路に叩きつけられていた。
背中に鋭い痛みが走る。苦痛に顔を歪ませながら、俺は頭を持ち上げて道路の先をみつめる。
そこには一人の少年がいた。身長は俺より少し低いぐらい。褐色の肌に翡翠色の瞳、明らかに日本人ではないだろう。
紅亜は俺の前に立ちふさがり、少年を威嚇するように唸る。
「なんだ、またおめぇかよ。昨日はよくもやってくれたなァ」
少年は露骨に嫌そうな表情をした。どうやら、この少年が紅亜の話していた『獅子族のアレン』という奴らしい。思ったより小さかったな。
「またあたしにやられにきたの?」
アレンに対して挑発的な言葉を発する紅亜。
「おめェに用はねェ。今日はその後ろの奴に用があってきたンだ」
俺に用、ですか。絶対ロクな用じゃないだろ。
紅亜はちらと後ろの俺を見やり、それから前へ向く。
「決闘でもしにきたの?だったらまたこんどにして」
するとアレンは高らかに笑い、
「決闘? ちげェちげェ! ただそいつを殺しにきただけだ!」
こ……殺しに? 俺を? 何故そんなこと思い立ったのですか君は。
そんな俺の視線に気づいたのか、アレンは顔をこちらに向け、
「この胸糞悪ィ戦を終わらせるためだ。そン為には、テメェを殺さないといけねェンだよ」
いやなんで!?戦を終わらせるためになんで俺が犠牲になんの!?……まさか、生贄?俺を動物の神やらに捧げるとこの戦争が終わるの?……んな馬鹿なことあるか!
「自覚がねェみたいだから……殺すのは簡単そうだなァ」
自覚……?まぁ良く分からないが、そりゃ簡単だろうよ。人間だもの。
紅亜はそうはさせまいと少年に向かって再び唸ってみせる。
「鷹太郎、下がってて!」
だがアレンは依然として余裕の表情だ。
昨日やられたばかりの相手だというのに、何故こんな顔ができるんだ?
その答えは、すぐに分かった。
「熊猫の相手はオレじゃねェ。……お前ら、出て来い!!」
アレンがそう号令をかけた瞬間、激しい土煙が紅亜の前に5つ出現し、それぞれの煙からライオンが一匹ずつ姿を現した。
「さァお前ら!その熊猫を噛み殺してやれ!」
その言葉に答えるように5匹の獅子は天に向けて咆え、紅亜目掛けて襲いかかってきた。
撒き沿いになりたくないので、俺はすかさず横へとび回避する。
……いや、このライオン達、俺は眼中にないようだ。こちらを見向きもしない。
「さァて。じゃ、殺りますかァ!」
アレンの声。刹那、俺の右腕が体から離れる。
食い千切られたようだ。ライオンとなったアレンに。速すぎだろ、あれ。動きがほとんど見えなかった。
「……ちっ、超速硬化か。熊猫め……」
俺の後ろでアレンが憎げに声をあげる。そう、俺が腕を食い千切られても平気でいられるのは、紅亜の《超速硬化》という術のお陰だ。クマーク博士との死闘の後、紅亜に「念の為」といわれてかけてもらったんだ。
肉体の切断された部位を瞬間的に硬化させるので、痛みも出血もない。
が、この術はあくまで切断にしか対応しないらしく、打撃を受けたら普通に痛みは感じるらしい。
アレンもその事については知っていたようだ。後ろを振り向くと、ライオンから少年の姿に戻っていた。
「獅子の体よりこっちの体の方が殴りやすいからな。覚悟しろよ」
アレンは殺気に満ちた瞳をこちらに向け、胸の前で腕を構える。本気で俺を殺る気のようだ。
それに負けじと俺も左腕を胸の前に構える。そして、アレンの顔をにらみつけ虚勢を張る。
横幅3メートル程の狭い道路。背後ではライオンの悲鳴が聞こえる。紅亜が頑張っているようだ。
ならば、俺だって。
前方5メートルのアレンの下へ駆けていく。一方あちらはファイティングポーズのまま微動だにしない。くそ、なめやがって。
俺は勢いをつけた脚で残りの距離を一気につめ、左拳を少年の腹に叩き込んだ。
……はず、なのに。そこに少年の姿はなかった。
「っ……?」
呆けたのもつかの間。背後に殺気を感じたときにはもう遅かった。
後ろを振り返る事さえ許されず、俺はハンマーにでも殴られたかの様な衝撃を背中に受けて、吹っ飛ばされていた。
「知ってるか、これ。舞爛拳っていうんだぜェ。相手の隙を突いて背後に回りこみ……」
「強烈な一撃を叩きこむ、だろ……」
自慢げに話すアレンの言葉を遮り、俺はどうにか立ち上がる。背骨はまだ生きてるみたいだが……
勝てそうもねぇぞ、これ。