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八、『今』の自分を見放せばいい!

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

紅亜(くれあ)

望月(もちづき) 典馬(てんま)  ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)



「俺は……」


 言葉を口に出そうとした、その時。

 部屋に、一人の訪問者が。


「よーたろー。起きてた?」


 軽やかなご機嫌ステップを踏みながら紅亜が俺の部屋にやってきたのだ。

 タイミング悪っ!

 紅亜は床に正座している俺と、ベットの上で正座している美虎を見比べて、「やってもーた」というような顔をした。へぇ、お前そんな面白い顔できんだ~……。


「あの……しつれいしましたっ」


 逃げ出す紅亜に、


「待ってくださぁい」


 引き止める美虎。

 うわ~なんだこの状況。完全な修羅場だろ。

 妻と浮気相手、夫はどちらを選ぶのか、みたいな。


「あぅ、はい……」


 その浮気相手もなぜか正座をする。お前は別にどっしり構えてていいんだよ。


「今、兄さんにわたしと紅亜ちゃん、どっちを取るか聞いているんですぅ」


 紅亜は何を言われているか分からない様子。


「どっちと結婚するか、ということです」


 いや違ぇだろ!俺は結婚を前提にしてプロポーズ(嘘)をしたわけじゃねぇぞ!

 ちらと隣に正座する紅亜の顔を窺う。今回はちゃんと状況を理解できたらしく、いきなり顔を赤くしたりはしない。

 で、さっきの質問の返答か。美虎も「早く答えて」とこちらに目配せをしてくる。

 ……ほんと、朝から俺らは何やってんだよ。


「俺は、昨日言ったとおり、紅亜も美虎も好きだ。だけど、2人の好きは違う」


「……どういうことでしょうかぁ」


 美虎の表情は変わらない。


「紅亜に対する好きは、異性としての好きだ。だけど、美虎に対する好きは、家族、兄妹としての好きなんだよ。その2人の中から1人を選ぶなんてできない」


 よく俺は真顔で好き好き言えるなぁ。一休さんもびっくりだよ。


「それでは、昨日の告白ぅ、あれは嘘なのでしょうかぁ?」


「いや、だから……」


「兄さんの告白の言葉はぁ、紅亜ちゃんに対する恋愛感情よりもわたしに対する恋愛感情の方が大きぃ、という意味にしか読み取れませんがぁ?」


 はぁ? 意味が分からない。という顔を俺はしていたんだろう。

 そんな俺の表情を見て、美虎は今までのつくり笑顔を取り消し、怪訝な顔をした。久しぶりに見たな、あの顔。


「もぅ……兄さんなんていいですぅ。ばぁーか!」


 そういい残し、美虎は部屋を飛び出して行ってしまった。

 その姿を唖然として見送る俺。


「鷹太郎は、馬鹿だよ」


 ぽつりとつぶやく、紅亜。


「……なんで」


「はっきりしないから。どっちが好きかって聞かれてるのに、「家族だから」とか「兄妹だから」とか。美虎さんが聞いてるのは、単純に「異性としてどっちが好きか」ってことなんだよ?」


 そりゃ、分かってるけども。でも、家族を傷つけたくないから。


「傷つけたくないからって嘘で誤魔化してちゃ、ずっと苦しみから逃げられないよ。それに、鷹太郎が本当に傷つけたくないと思ってるのは、自分自身でしょ」


 自分自身。今の自分を助け、後の自分を見放す。でも、俺はずっと違反をし続けていた。

 今の自分を助けて、嘘を利用して後の自分も助けていた。それが間違いだった。


「……はっきり自分の答えを美虎さんに言って。そして、今の自分を見放せばいい」


 …………。


 あの……そんな簡単に言いますけど、美虎さんの一撃は天へ旅立てるほどの威力を持っているんですよ?今の自分を見放せば、もう後の自分なんて存在しませんよ。きっと。

 ……でも、まぁ。言うしかないか。正直な事。


「ってか、なぁ」


 いまだ隣で正座を続けていた紅亜が顔をこちらへ向ける。俺がそのままスムーズに美虎の元へ向かうと思っていたらしく、虚をつかれたように首を傾げた。


「なに?」


「考えてみれば、美虎にお前の正体を正直に明かせば、全てまるくおさまるんじゃないのか?」


 一昨日の夜、美虎に「あの女は何者だ」と聞かれたとき、俺はどうせ本当の事を言っても信じてもらえないだろうと思って「おとしもの」と答えた。結果マッハパンチを鳩尾に喰らう羽目になったが、あの時無理にでも美虎を説得していれば、こんな修羅場は展開されなかったはずなんだ。


「そしたら、美虎さんも巻き込むことになるけど」


 巻き込む。またそれか。


「それ、前も不思議に思ったんだけど。なんでお前の秘密を知ったぐらいでその相手を巻き込むことになるんだよ」

「……世界にとってあたし達は、『異能者』だから」


 紅亜はどこか寂しそうに、そう答えた。


「異能者は常識から省かれる存在。あたし達は、本当は世界に存在しちゃいけない人間なの。そんな『異能者』達の存在が世間に知れ渡ってしまったら、もうあたし達の生きる場所はなくなってしまう。だから力を持たない人間に、無暗に秘密を教え……ちゃ……いけない……」


 世界に存在してはいけない人間。異能者。

 そんなの悲しすぎるだろ。

 いつの間にか隣の幼げな少女は俺から顔を背け、嗚咽をもらしていた。

 それでも、続きを語ろうと少女は言葉を紡ぎだす。


「それに……もし秘密を知られた場合、知ってしまった人間は必ず殺さなければいけないって掟があるの。秘密を伝染させない為に……」


「じゃあ、なんで俺は生かされてるんだ?」


「……それは、秘密。ほ、ほら、早く美虎さんのところへ行ってきてよ」


 しっしっ、と野良犬に「あっちいけ」をするように手を振ってくる紅亜に後押しされ、俺は立ち上がった。

 と、そこで背後から声が掛けられる。


「あ、今日は特訓するからね。よろしくー」


 ちょっとそこまでコンビ二行ってくる、ぐらいの気軽さで。

 

 ……特訓て、何?

 



 


 


 

 

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