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六、必殺タイガーショック!

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

紅亜(くれあ)

望月(もちづき) 典馬(てんま)  ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)


 先程の俺の「女子に自分の下着を見せつけて楽しんでいた」という誤認された行動により、美虎はかなり機嫌が悪かった。

 8時。そんな険悪ムードのまま、夕食に。

「な、なぁ、美虎」

「なんですかぁ、兄さん」

 いつも通りの笑顔に見えるが、これは違う。俺もそんなに鈍感じゃない。

 美虎の口元がひきつっているのが見て取れる。

「……機嫌直してくれよ」

「なに言ってるんですかぁ兄さん。わたしはこの通り、とても機嫌がいいですよぉ?」

 更に自分の笑顔を最大限にしようと口元を広げる妹。正直、見てられない。

 俺のテーブル越しの右斜め前、美虎の隣の椅子に腰掛けている紅亜は、「あたしは関係ありません」とでも言うように、白々しく白米を口の中にかきこんでいた。

 こいつは俺を構う気などさらさらないようだ。

「兄さんも、はやくごはんを食べてくださぁい。冷めてしまいますよぉ」

 俺はひとまず弁明するのをあきらめ、右手に箸を持ち、皿に目を移す。うげぇ、やっぱ量が半端じゃない。

 だけどここでそんな態度をとったら「殺害」フラグがたってしまうので、できるだけ自然な表情を作って左手で茶碗を持ち上げる。

 早く親父たち帰ってきてくんないかなぁ。こんな高カロリーな食事を繰り返してたら、いつかどこぞのホニャララデラックスさんになりかねない。

 

 なんともいえない空気の中黙々と食事を続け、見事一番に食べ終わった紅亜。かなりの大食いらしい。

 紅亜は箸をテーブルの上に置くと、これから何をすればいいのだろうと俺の顔を見てきた。

 すると美虎がここぞとばかりに、

「ところでぇ、聞きたいことがあるんですが、いいですかぁ?」

 と紅亜と向き合うようにして体をずらした。俺にではなく、紅亜への質問のようだ。

「紅亜ちゃんはぁ、この後どうするのですかぁ?」

 聞かれた紅亜は「こっちが聞きたい」とでも言うように顔を悩ます。そして、再び俺の顔へ助けを求めてくる。大丈夫だ紅亜。お前が何を言おうと、結局は美虎の拳が俺の鳩尾を捉えるんだから。……いやいや、勘弁してください!

 当然ながらアイコンタクトでそんな意図が伝わるけないので、俺は仕方なく口を開く。

「紅亜はぁー……」

「変態兄さんには聞いてませぇん」

 ちょっと待てや!『兄さん』の前にいらない付属語が付いてるぞ!

 美虎は今一度問い直そうと紅亜の顔を見つめる。

 すると、紅亜はその言葉を遮るように、

「鷹太郎と、一緒に住む」

 とバカ正直に答えた。なんか言い回しがおかしいと思うんだけど?

 瞬間、美虎の体が痙攣したようにビクッと跳ね上がる。

「い……いっ、一緒にぃ……まさか!?」

 昨日の繰り返しの如く、美虎が目を見開く。その瞳の中には驚愕の渦。

「……そうですかぁ……一緒に、ですかぁ」

 自分を落ち着かせようとしているのか、瞼を閉じ、しばらく考えるように黙り込む。

 しばしの沈黙の後、美虎はゆっくりと顔を上げる。なんだあの顔。今から戦へいく戦国武将ばりにキリッとしている。

「彼女、ですもんねぇ……」

 美虎は、はっきりとそう口から洩らす。そうだ、紅亜にそのことについて話していなかった。昨日は都合よく逃げ切れたが……。

 この状況はまずいだろー。

「え?彼女?」

 ほら見ろ、紅亜が疑問符を浮かべて首を傾げてる。確実に良くない方向へ……

「彼女なんですよねぇ、兄さんの」

 と思ったのも束の間、ついに美虎から言い放たれた、紅亜への質問。絶対絶命。

 最初、頭が理解に追いつかなかった為か、ぼーっとしてた紅亜。だが数秒間をおいて、みるみる内に顔が美白から赤へと移り変わっていく。まるで春夏秋冬の季節の移り変わりをかんじさせるような……じゃなくて!

 このまま放置すれば、

「彼女じゃないもん!」

「これはどういうことでしょうか兄さぁん?」

「あ、実は昨日のあれ嘘で……」

「はい変態嘘吐きクズ兄さん地獄へ堕ちて帰ってこないで下さいばぁ~い」

 って構図が成り立ってしまう!ってか俺の想像の美虎毒舌すぎるだろ!

「み、美虎!」

 命の危機を感じ、俺は無意識に大きな音を立てて椅子から立ち上がっていた。美虎は俺のいきなりの行動に驚いて、こちらに釘付けになっている。

 ……俺は、この状況ををほぼ100%抜け出せる(すべ)を持っている。だが、それは使った後、使用者の寿命を大幅に削る諸刃の剣。……二度と使いたくはなかったが、仕方が無い。

「おっ、俺は紅亜も愛しているが……」

 もちろん嘘だ。可愛いとは思うけどな。

 ちらっと紅亜の顔を窺うと、今にも湯気が出そうなほど蒸気している。頼むから、今だけは叫ばないでくれ。

 俺は大きく息を吸い、紅亜に叫ばれる前に叫んだ。家中に、街中に響き渡るほどの声で。

「その何十倍も、お前のことを愛しているんだ!!」

 そう、叫んだのだった。美虎の目を半ば睨み付けるようにして視線を逸らさず、人生初の告白をした。大声で。しかも、実の妹に。

 案の定、兄から熱い告白をされた妹は驚いた表情で固まったまま、後ろへ椅子をひっくり返して倒れてしまった。

 念のため顔を覗き込んでみる。……気絶してる。どうやら助かったようだ。

「……ふぅ」

 安堵の息が口から零れ落ちる。これで妹をショックで気絶させるのは何度目だろうか。もうそろそろ技名でもつけた方がいいんじゃないのか。『タイガーショック』とか。ダサいな、はは。

 俺は極度の緊張から抜け出せた開放感で、椅子ではなくその場の床にへたりこんだ。

 と、そこで耳をつんざくような高い声がリビングに響き渡る。

「誰が彼女だぁーー!!」

 紅亜の声。

「く、紅亜、落ち着け。あれは……」

「うるさいうるさい!鷹太郎のばかぁー!」

 待て待て!なんで怒ってんだよ!驚きは怒りに変換しなくてもいいんだよ!

 俺は怒り狂う紅亜を後ろから羽交い絞めにして落ち着かせる。こいつパンダの時はあんなに強かったのに、元の姿に戻ると普通の女の子と同じぐらいの筋力になるんだな。

 

 必死になだめる事数分。ようやく落ち着きを取り戻した紅亜に訳を話す。

「そ、それなら早く言ってよ……もう」

 取り乱したのが今になって恥ずかしくなったらしく、そっぽを向いてそう言ってくる。

「だから、今度また美虎にそう聞かれたときには、ちゃんと「彼女です」って答えてくれ。いいな」

「やだ」

 きっぱりと断られたー!

 ……これ、けっこう辛いな。「やだ」って事はつまり俺の彼女と思われたくない、ってことだろ。

 そうやって落ち込んでいると、紅亜はしゅんとする俺を憐れに思ったのか、フォローの言葉を投げかけてきた。

「ち、違うよ?鷹太郎も見た目だけならカッコイイと思うよ?」

「じゃあ、なんで嫌なんだよ」

 拗ねた調子で聞いてみる。

「あたしは、強い人が好きなの。あたしより強い人。あたしがピンチになっても、いつでも助けにきてくれる人。だから……」

「だから?」

「もし次にライオンの子、アレンだっけ?が襲ってきたら、自分の力だけでアレンをやっつけてみて。それでもしやっつけることができたら、期間限定で鷹太郎の彼女になってあげる」

 んな無茶な。……でも、そうでもしなければ美虎に殺されてしまう。事実がばれて、八つ裂きだな。

 人生最大の選択。ライオンに八つ裂きにされるか、美虎に八つ裂きにされるか。

 間違った。ライオンと戦うか、美虎に殺されるか……ライオンだな、うん。

「分かった。ライオンは絶対、俺だけで倒してみせる」

 言っちゃったよ。決意しちゃったよ。もう後に引き返せないよ。

 紅亜はそれを聞くと満足そうに頷き、食器を片付けてリビングを後にした。


 静かになった空間。

「……美虎よりは、生還できる率が高そうだし」

 無理やり納得する俺なのであった。


 あ、結局まだ妹に「変態」って思われたままじゃん。

 

 

 




 


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