五、えー、これが最強武装?
主な登場人物
・藤谷 鷹太郎 ・藤谷 美虎
・紅亜
・望月 典馬 ・笠井 蛍冴
現在地、自分の部屋。カーペットが敷かれている床の上に座りながら、テレビのバラエティ番組を眺めていた。あの後すぐ帰ってきた美虎にスマイル全快の蹴りをくらった。すげぇ脇腹いたい。
そんな俺の横に鎮座するのは、リビングからついてきた紅亜。熱心にテレビと睨めっこしている。
「……なぁ。お前っていつまでこの家にいるんだ?」
その紅亜へ向けて、なんとなく気になった事を問いかけてみる。
「あ、そのことなんだけどね」
紅亜はテレビを見つめたまま、
「あたし、今日からここに住むことにした」
……予想はしてたけど。なんか心の底で喜んでいる自分が悔しいような。
「っていうか、あたりまえでしょ。鷹太郎もあたしと一緒に動物の一族達と戦うんだから、そうやすやすと別の所になんて……」
え、あれ?聞き間違いかな?なんかいま「一緒に戦う」って単語がでてきた気がするんですけど?
「あのぉ……今の言葉、もしかしてもしかすると、俺も戦う、って意味でしょうか?」
「?そうだけど……それがどうしたの?」
……あぁ、なるほど!「戦う」っていうのは、応援してやる、という事か!そうだよな、サッカーの試合だって観客と選手が一緒に戦っているって言うし……。
そんな俺の安堵の表情をなぜか不思議に思ったらしく、紅亜は
「鷹太郎、喧嘩とか好きなの?」
と聞いてきた。はい?喧嘩?
「何で?」
「だって「自分も戦う」って知って、嬉しそうな顔てたから」
「そりゃ、応援ぐらいなら俺にだってできるし」
と、そこで紅亜が眉を寄せて「?」と首を傾げる。え、何、その仕草。かわいいね。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、「戦う」っていうのはそのままの意味だよ?鷹太郎にも、あたしと一緒にライオンと戦ってもらうからね」
……はいぃ?
そこでさらに追い討ちをかけるべく、
「ライオン以外にも、きっとあたし達の目標の「飛翔族の頭首を倒して戦争終結」を邪魔してくる人達がいるだろうから、それも一緒に倒して行こうねっ!」
と張り切っている限りの言葉をぶつけられる。
こいつは馬鹿か。
というかまず何を根拠に。
「ちょ、ちょっと待て!絶対無理だろ!お前は最強パンダになれるからいいとして、俺は極一般な人間だ!ライオンにちょっと引っ掻かれただけでも死んじまうぞ!」
銃や刀を持っていればなんとかなるかもしれないが、そんなもん持って街中でライオンと乱闘なんてしてたら、銃刀法違反やら動物虐待やらで逮捕されちまう。
「ふっふー、そんなこともあろうかと、あたしも家から『最強の武装』を持ってきたんだー」
危なげな笑みを浮かべる紅亜。持ってきた、って、お前持ち物なにもなかっただろ。
「とくとご覧あれ!」
その言葉の末尾を言い終えると同時に、紅亜は左手の中指と親指を擦り合わせ、指パッチンをする。だが、その音が摩訶不思議なものだった。軽快なパチン、というものではなく、涼しげな風鈴の音色。
どういった構造なんだ、お前の指は。
そう思うより早く、いきなり紅亜のすぐ傍の床から黒煙が吹き起こるようにして現れる。待て待て待て、お前は次から次へと魔法使いか。
その黒煙を紅亜が息で吹き消すと、そこにはなにやら衣類のようなものが畳まれて置かれていた。
「じゃじゃーん!これぞ……なんだっけ?伝説のぉ……ホニャララ!」
名前も知らんのかい。
「熊猫族の前頭首が第一次動物大戦の時にどこかの一族から奪ったものらしいんだけど、熊猫族の誰が着てもなんにも効果がなかったらしいから、あたしが貰ったの」
紅亜は伝説のホニャララを手に取り、持ち上げて俺に見せてくる。どうやら上下でわかれているようだが……どう見てもジャージにしか見えない。前にファスナー着いてるし。
「これが、最強の武装?てか、誰が来ても効果がなかったんなら、俺でも効果はないだろ」
つかこれ、すごく胡散くせぇ。絶対ただのジャージだ。こんなん着ても機動性が良くなるだけだぞ。
「何その顔ぉ。そんなこと言うなら、ためしに着てみなよ」
ジャージを胸に押し付けられる。……まぁ、着るだけならいいだろう。動きやすかったら部屋着として使えばいい。
紅亜に後ろを向いてもらい、約20秒。あっという間に着替えてみたが、なんとこのジャージ、そんじょそこらのジャージではなかった。
上下を着た瞬間、体が浮いてると錯覚するくらい軽くなった。っていうか、ちょっと浮いてる気がする。ここで思いっきりジャンプすれば天井を突き抜けて大気圏突入できそうな程だ。
「おい、このジャージすげぇぞ!」
初めての感覚にテンションが急上昇した俺は、体の軽さを更に実感するべく、部屋の中を走り回ってみる。なんだこのジャージ!最高じゃねぇか!
「ど、どうしたの、鷹太郎。気持ち悪いよ」
その光景におもいっきり引く紅亜。
そこで我に返る俺。うわ、恥ずかしい、人の前で。
その感情を誤魔化すため、おとなしくジャージを脱ぐことにした。最近我を忘れてばっかだなぁ、俺。
「な、なっ、なななな……」
俺に視線を向けながらながら顔を真っ赤にする美少女。お前さんはすぐ顔を赤くするねぇ。どうしたんだい。
「ひゃ、へっ、へっ……」
「あ、くしゃみならあっち向いて……」
「へっ、変態だぁー!!」
……あ、やべ、普通に女子の前でパンツ姿晒しちゃったよ。……いや、普通そんぐらいで人を変態呼ばわりするか?
と思いふけっていると、後ろからトントン、と壁をノックする音。瞬間、背筋が凍りつく。
振り向けば、笑顔のまま氷点下の眼差しでこちらを見つめる妹が1人。美虎さん、目が笑っていません。
「兄さぁん、いたいけな女の子に自分の下着を見せつけて喜んじゃいけませんよぉ?」
「こっ、これはわざとじゃない!信じてくれ美虎!」
なおも冷たい眼差しで俺の顔を見つめてくる妹は、とても恐ろしかった。なんで笑顔なんだよ。笑顔が怖いんだよ。
「兄さぁん」
「……なんだ」
「写真撮ってもいいですかぁ?」
俺は振り向いて紅亜に問いかける。
「本当の変態はあいつだろ?」
「まっ、まず下を履けぇー!!」
おっと、そうだった。