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四、つまらないよりはマシなんだよ

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

紅亜(くれあ)

望月(もちづき) 典馬(てんま)  ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)

「で、何故ああなった」


 俺はある程度真剣な面持ちで目の前の椅子に座る少女に問いかけた。ここは藤谷宅リビングルーム。すでに望月と笠井は帰っていたので、俺は電話で2人に「無事だ」とだけ伝えた。


「ああなった、って?」


 美虎の白いワンピースに身を包んだ紅亜は首をかしげた。


「じゃあ、まず確かめておこうか。あのライオンはなんだ」


「俺は獅子族のアレンだいー、とか言ってた」


「分かった。本題に戻ろう。じゃあ何故お前は、あんな公衆の面前でどこぞのライオンとじゃれていたんだ」


 時刻はそろそろ7時をまわる。妹がいつ帰ってきてもおかしくない。早くこの話を打ち切らなければ。


「話、長くなってもいい?」


「できれば要約してくれ」


「えー……うん、分かった。なんかお昼頃にね、鷹太郎の部屋漁ってたら……」


 この際つっこむのは無しにしよう。


「突然ライオンに乗った男の子が部屋に入ってきて、「ちっ、熊猫しかいねぇのかよ」とか言って襲いかかってきて……」


 熊猫しか……ということは、さっきの脅迫状から読み取るように、俺にも用があったのか。


「あたしその時油断しててね、頑張ったんだけど、捕まっちゃって……。それで、公園に連れて行かれて「お前なんかエマルノスも必要ねぇ」とか言って乗ってたライオンをどっかに逃がして……」


 エマルノスというのはアレンとかいう奴の乗っていたライオンの名前だろう。ということは……


「それで、あっ、これチャンスだ!と思ってパンダに変化して、男の子をボコボコにしてあげたの。あっちもライオンに変化したけど、すっっっごく弱かった!」


 笑顔でVサインを作る紅亜。違う、きっとお前が強いんだ。

 つまり、ライオンさえどっかに逃がさなければ紅亜にチャンスを与えずに済んだのに、という話だ。

 アレンという奴も馬鹿だな。


「で、アレンって子と戦ってたら鷹太郎が来たの」


「なるほどな……あいつ、死んでなきゃいいけど」


 俺が心配するようにそう言うと、紅亜は少し顔を伏せ


「あたしも、できれば飛翔族以外の一族とは戦いたくないんだけどね……」


 とトーンをおとした声でつぶやいた。


 嘘つけ。ノリノリでライオンにボディプレスきめていただろうが。 


「まぁ、無事でなによりだ。すっげぇ心配したけどな」


 しょぼ暮れた紅亜に笑い飛ばすように言う。


「べっ、別に、こなくても良かったのに……」


 照れを隠すようにそっぽを向く紅亜。赤くなったみみたぶが隠れていませんよ。

 また変なとこでツンのスキルを発揮してくるなぁ、こいつは。


「アホか。あのまま続けてたらアレンっていうの死んでたぞ」


 俺があのまま放置してたら、冗談じゃ済まされない結果になっていたかもしれない。


「それはぁ……うん。ごめんなさい」


 素直に頭を下げる。よし、良い子だ。


「……分かれば良し。一応、お前も誘拐された身だしな」


 と、そこで少し気まずい空気が流れる。お互い何を話せばいいか分からないんだ。こういうときに美虎が帰ってきてくれれば良い……いやよくないよくない。どうせ兄貴虐待劇が始まるんだから。

 俺はそんな空気に耐え切れなく、頭の中をまさぐって話題を探す。


「あー……そうだ。もしかしたら、またそいつここに戻ってくるんじゃないか?」


「そいつ、ってアレンって子?」


「そう。なんか良く分からんけど俺にも用事があったみたいだから」


 そもそも、狙っていたのは紅亜じゃなくて、俺だったんじゃないか?と今までのことを思い出すと、そう思ってしまう。

 そのことを紅亜に話すと、


「あたしもそう思う。公園に向かう途中で何度も「なんであいつがいねぇんだよ」ってぐちぐち言ってたから」


 だけど、そこで疑問が生じる。なんで俺を狙うのか。


「俺はごく一般な男子高校生だから、動物の一族なんかに狙われる理由なんてないはずなんだけどな」


 そこで、紅亜はなにやら渋い表情を見せる。


「……実はあたし、心当たりがあるの。鷹太郎が狙われる理由に」


「心当たり?一体どんな?」


 気になって少し身を乗り出す。だが、よほどいいにくいことなのか、口を噤んだまま話さない。


「あたしは……信じてないけどね」


 紅亜はまるで自分に言い聞かせるようにしてボソッと呟いた。信じてない? だめだ、全く話が見えないぞ。


「俺には、教えてもらえないのか?」


 静かに問う。すると椅子に座った少女はコクリと頷く。


「そうか……なら、今は良い。じゃあ、次にライオンの少年が襲ってきたときの為の対策を考えようか」


 仕方なく了承し、俺は雰囲気を変えるべく話題を切り替える。なんか今日は湿っぽい空気になってばかりだな。


「なんか……鷹太郎、巻き込んじゃってるね」


 ? 何言ってんだ、こいつ。


「お前、忘れたのか?」


「へ?」


「俺がお前と初めて会ったとき、昨日な。お前に「巻き込んじゃうけどいい?」って聞かれて、俺は「どんなことでも~」って答えたじゃねぇか」


 ちょっと内容は違うが、そんな感じだったはずだ。


「そ、そうだけど……またさっきのライオンとか来たとき、今度は鷹太郎、殺されちゃうのかもしれないんだよ?」


 こいつ、昨日は完全「藤谷巻き込む事決定」みたいに納得してたのに、今になって俺の心配をしてきやがる。あの時と立場が真逆だな。俺が巻き込まれることを望み、紅亜が俺を巻き込むことを躊躇(ちゅうちょ)している。


「どんなことでも、つまらないよりはマシなんだよ」


 いつか言った言葉を繰り返す。あ、昨日か。

 すると紅亜は悩ましい顔を満面の笑顔に変え、


「じゃあ、どんなことがあっても逃げないでよね!」


 そう元気な声で告げた。

 今思えば理不尽な話だが、俺はそれが心地良いと思っている。

 俺は元々、そこら辺に生息する極一般な高校生だったんだ。ただ、家の前に怪我をしたジャイアントパンダが転がっていただけ(?)で、それをそのまま放置する道だってあったはずだ。まぁ、放置したところで邪魔になって家の中に入れないし、妹に発見されるだろうけど。

 それを、故意は無いとはいえ、わざわざ自分から危険な道へ進むことを決めたのだ。パンダに正体を聞き、それによって俺はそっちの道へと足を踏み入れてしまった。今日の朝までは、それを後悔し続けていた。

 だけど今は違う。俺はこれからの展開を受け入れるつもりでいる。

 まぁ簡単に言えば、ここまできちゃったんだから、最後までいくしかないっしょ、という前向きかつヤケクソなのが今の俺だ。最後というのが、どこまでかは測り損ねるが。



 更に簡単に言ってしまえば、もーちょい紅亜と付き合ってみたい、ということだった。

 




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