表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/36

二、凡人の日常を破る招待状

主な登場人物

藤谷(ふじたに) 鷹太郎(ようたろう) ・望月(もちづき) 典馬(てんま)

紅亜(くれあ) ・笠井(かさい) 蛍冴(けいご)

藤谷(ふじたに) 美虎(みこ)

 気だるい授業を全て終え、放課後。

 俺がここ明桜高に入学してから、まだ一週間とちょっと。クラスのまだ顔も覚えていない同級生達は、これからどの部活を見学に行くか話しているようだ。俺は中学の時から続けていた卓球部に入部する事を決めていたから、今更見学がどうのという必要は無かった。


 

 生徒玄関から外へ出ると、校門の付近で望月と笠井が夕日に照らされながら俺を待っていることに気がついた。あいつら早いな。

 二人の下まで駆けて行く。てか、なんで二人して黄昏てんだよ。


「じゃあ行くぞ」


 俺がそう声をかけると、


「僕の『デストロイバリア』は一体どうなっているんだろうか……」


「いやぁ、タカの家行くの久しぶりだなー」


 各々俺の家への不安と期待を言い、歩き出した。



「そういや、タカさ。なんで部屋の扉、けいごに改造してもらったんだっけ」


 右隣の望月が自分の前髪をいじりながら聞いてくる。


「前言ったろ。妹の進撃を防ぐ為だ」


 すると望月は理解できないとでも言いたげに首を左右に振った。


「あんな美人な妹に攻められるのが、なんで嫌なんだか」


「あいつ、家に帰ってきてから俺にボディプレスするのが日課になってんだぞ」


「いいじゃん、相手が美人ならなんでも許せちゃうだろ。ま、俺は……」


「幼女が一番、だろ。そんなに好きなら保育園から出直して来い」


 こいつは自分の性癖をためらいも無しに人にさらけ出してしまう。だからモテないんだろうな。勿体無い勿体無い。


「にしても、藤谷の妹は本当に凄いな」


 さりげなく話をそらす様に笠井が呟く。笠井も望月と同じく小さい頃からの仲だから、過去に何度か美虎に会った事がある。


「初めて見たときからなにかオーラが違うと思っていたが……まさか、扉を蹴り飛ばすほどとは。次は蝶番(ちょうつがい)のところもしっかり強化しなければな……」


 笠井、お前キモい具合に顔がにやけているぞ。どんだけ改造好きなんだよ。

 ここだけの話、実際笠井も平均と比べれば顔は整っているほうだ。眼鏡をして、しかも前髪のカーテンを閉めているから、あまり女子からは注目されないが。しかも改造マニアという肩書きがある。自分から近寄ろうと思う人間は少ないだろう。


「にしても、羨ましいよなぁ~。女の子と一つ屋根の下で生活なんて」


 再び話をそっち方向へ戻す望月。


「なのに、タカいっつも言ってるよな。「妹が鬱陶しい」って」


「そりゃ四六時中ベタベタしてきたら、誰でもそう思うだろ」


 ましてや実の妹だ。顔は似てなくとも、血の繋がった家族。


「じゃあ、俺が奪っちゃおうかなぁー」


「できる事ならやってくれ。俺にはプライベートってもんが無いんだ。飯食べるときも一緒、登校する時も一緒、寝るときも一緒、風呂はいるぇぐべぇ!」


 言ってる途中で望月にぶん殴られた。こいつ、今本気でやったよな?


「羨ましいンだよぉぉ!!」


 俺に向けてじゃなく、夕日に向けて吼える望月。それを青春とばかりに眺める笠井。いや待て笠井! これは青春じゃなくただの嫉妬だ!



 しばらく時間が経ち、ようやく落ち着いた様子の望月は一つため息をつき、


「いいよ、いいもんどうせ。ぼくろりこんだもん……一生」


 と果てしなく気持ち悪いセリフを吐いていた。そんな望月(ロリコン)を俺は軽蔑の眼差しで見つめながら、


「ほら着いたぞ」


 と背中をドンと叩いてやった。町と町の境目に存在する、藤谷宅。


 

 玄関の鍵を開け、2人を家の中へと誘う。


「みぃーこぉーちゃん、もぉーいーかぁーい?」と言ったのが望月。家に美虎がいると思っているらしい。さっきピアノ教室があるって言ったろ。

「ピーンポーン、お邪魔します」と言って玄関に靴をしっかり揃えたのが笠井。何故チャイムを口で言うんだ。こいつ、今更だけど天然だよな。

 家の中は人の気配がなく、気味が悪いほど静まり返っていた。紅亜は居ないようだ。どこへ行ったのだろうか。

 俺は後ろに二人を連れて、二階へあがる。そのまま二階の廊下を進み、自分の部屋の前へ。


 

 が、俺はそこで絶句した。扉がないのは、もちろん美虎のせいだ。だが、その奥。俺の部屋の中。

 空き巣に荒らされたかの様に、部屋の中がめちゃくちゃになっていたのだ。後ろから望月と笠井もその光景を目の当たりにして、驚いている。

 恐る恐る部屋の中へ。机の下やベットの上に、切り裂かれた布団や枕から飛び出たであろう羽毛が散乱している。棚に収められていた漫画や小説なども、ひとつ残らず床に落ちている。

 と、そこで更にある異変に気づいた。壁や床のいたるところに、獣に引っかかれたような爪痕があるのだ。しかも、猫なんて比べ物にならないほどの、巨大な痕。


「お、おい、タカ。これはさすがに、美虎ちゃんの仕業じゃないよなぁ?」


 望月が震える声で聞いてくる。俺は、当たり前だ、と頷いてもう一度部屋の中を見渡した。

 そこで、笠井が俺に一切れの紙を見せてくる。


「これ、そこに落ちていた……いまいち意味はよく分からないが」


 俺はそれを受け取り、すばやくそこに書いてあった殴り書きの文字を読む。紙にはこう書かれてあった。



『熊猫族の女を返してほしいのなら、いますぐ天月公園へ来い。

 日が沈むまでに来なければ、こいつの命はないと思え』

 


 ドラマではありきたりではあるが、実際自分がその場面を体験することになると話は別だ。

 これはまさしく脅迫状。だが、身代金要求などではないようだ。俺自身に用があるらしい。


「どうする、藤谷。警察を呼ぶか?」


 笠井が制服のポケットから携帯電話を取り出す。だが、俺はそれを手で制した。


「いや、いい。俺一人で行ってくる」


「でも危ないぞ。どんな奴だかは分からないが、お前も殺されるかしれない」


 こんな状況でもいたって冷静な笠井。いや、俺もか。


「警察なんて呼んだのがバレたら、人質だって殺されるかもしれないだろ。大丈夫だって」


 笠井は俺の手が震えていることに気づいたようだが、そこからはもう反論しなかった。

 俺は二人は置いて、部屋を出た。次第に歩調が早くなっていく。階段を降り、玄関の扉を開いた頃には、俺は全力で走っていた。


 

 部屋中にあった獣の爪痕。脅迫状の内容。あれは空き巣の仕業なんかじゃない。



 あの脅迫状を書き、紅亜を誘拐したのは、紅亜と同じ、動物の力を持つ一族だ。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ