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episode1.錯覚平和

お試し投稿です。

そのため、次話を投稿するかもわかりません。

いつか、正規の作品を投稿したいと思っています。

0/7


無から有は生まれないという

では

弱き者から強き者はうまれるのだろうか?

人から人以上のものがうまれるのだろうか?

僕には、不思議で仕方がない




1/7


「車両が止まります、ご注意ください」


機会音声のアナウンスが流れた。

聞いていた音楽を止めイヤホンを外し、席を立つ。そして車外へと足を動かす。バスが停まったのはシナンセ駅。この都市で二番目に大きい駅だ。


「ありがとうございました」


無人バスにお礼を言った。

自動化された交通機関にお礼を言うのは、もう癖になっている。この島では、機械が社会形成の一端を担っている。バス停を後にし、階段を登る、通路に入り、そのまま大通りに出る。

この駅は雑貨がたくさん売っていて若い層から人気を集めている。大通りは常に人で溢れかえっている。今日は休日なので尚更だ。

俺はこの賑やかさをとても気に入っている。ふと顔を上げると電子掲示板が目に入る。複数個設置されていてさまざまな報道が流れているようだ。その中でもひときわ目につく程の大きさの電子掲示板ではなく端にある小さな電子掲示板に目が入った。普段なら目にもつかないが今日はなぜかそこに視線が動いた。なにやら聖者について議論しているようだ。

画面に左に映る、いかにも博識に見える眼鏡をかけた人が話している。


「聖者というのは人間とは思えない超常的な能力を持ち、社会秩序を担ってくれているのです」


聖者は異能力を持っている人々で、俺は勝手に魔法使いのような存在だと思っている。こんなにも話題に上がっているから、ネットに写真くらい上がっていそうなものだが、検索しても何も出てこない。この目で見たこともない。画面右の人が話し出した。


「どうでしょうか?彼らは政府の元で動いていない組織、いわば非政府組織なのでしょう?果たして本当に正しい組織なのでしょうか?しかも、非認可の武器を常備しているという…非政府である上、武装組織…これは危険ではありませんか?」


見慣れた言葉の羅列

正義、救済、異能力

そう見慣れている、でもどれもまるで現実感がない単語だ。

正面に視線を戻し、歩き出した。大通りの終わりにある駅カフェに入る。外のテラス一番奥のテーブルへ迷わず足を動かす。そこには彼女がいた。


「おはよう、一花(いちか)


座っている彼女は、こちらを見て笑顔で返答してくれた。


「おはよ、(ゆう)


一花は同じ高校の同級生だ。悠は一花の対となる席についた。

テーブルには備え付けの通信機器がついている。動画が流れているようだ。


「何見てるの?」

「なんかね、まーた聖者さんがきたんだって」


一花は動画に映る山に指を刺している。

近所の山だ。確か名前は子守山(こもりやま)。昔に人工的に作られた山だそうだ。それを見て悠は妙な不安感に襲われた。視界が白く染まり、音が消えるあたりにいる人だけがぼんやりとした輪郭を描き目に入る。


“この映画つまらなかったな”

“遅いな〜”

“どうしたの?”

“これおいしい”

“疲れたー”

“新発売のやつ買えてよかった〜”


「……悠、悠」

「っ!」


我に帰ると一花が心配そうにこちらを見ていた。


「あ…ごめん…ぼーっとしちゃった」

「もうっ…だいじょうぶ?」

「あ、うん、だいじょぶ…」


時折変な感覚に見舞われる。自分の意識を含む全ての意識をまるで神かの如く俯瞰しているような感覚。周りの人の感情がノイズのように流れ込んでくるような感覚。いや本当はわかっているのかもしれない。

きっと俺はそれを…


「その動画にでてきてるのって近所の山だよね?」


一花は画面をポチポチしながら返答した。


「…うんそお、なんか山の調査に来ました〜とかなんとか、これで何度目なの?」

「…子守山、あそこになんかあるのかな?」

「聖者さんってなんかすごい人なんでしょ、みんな助けてくれる〜みたいな」


実際のところ、聖者は政府機関からほとんど情報が出ていない謎の存在だ。ただ一つ出ている情報として、政府から独立した組織と声明が出ているくらいだ。現社会のほとんどは国が管轄を持っており、政府から独立している組織はこれが唯一と言っていい。


「悠はどう思う?」

「…え?」

「聖者さんだよ、いい人たちなのかな?」

「…彼らだって人間だよ、悪い人だっているんじゃないかな」


口にした瞬間、妙に胸がざわつくのを感じた。一花は少しうつむいた。


「そっか〜、ちょっと会ってみたいな〜」

「っま、方法なんてわかんないけど実際に会ってみないと、よくわからないよね」

「そうだね〜」


次の瞬間、悠のはっきりとしていた意識は再びぼやけ出した。

“たんのしみ〜、これから何が起こるかな〜”

心に誰かの声が響く

“あれ?君すごいね私に気づくとは”


「!」


――俺に?

あたりを見渡すがそれらしい人はいない。

“私を観測することはできないよ……それに君が知る必要はない、忘れた方がいいよ…それじゃ、さようなら”

明らかに俺に語りかけてきた何者かはふらりと消えていってしまったように思える。今まで、気づかれたことは一度もなかった。幼い女の子の声だった。彼女は違った、観測されていることに気づいているのだ。

悠は、彼女の声が何か空虚で空っぽで、だんだん冷淡な声になっていった気がした。


「……ねえ〜、悠ってば!」


我にかえると一花がムスッとした表情でこちらを見ていた。


「ん⁉︎ごめん…なになに?」

「ここんとこなんかちょっと変だよ悠、なんかあったの?」


一花の表情はだんだん悠を心配している表情に変わる。一花にはいつも心配をかけてしまい、申し訳ないと悠は思った。


「……いや、特に何もないよ、ただぼーっとしちゃうことが増えちゃって……」


自分でも雑な言い訳だと感じる。どう説明すれば良いのかわからないからだ。


「ま、それならいいんだけどさ〜私は心配だよ〜」


一花は気をつかってくれたのか、それ以上は聞かないでくれた。


「そ、それで結局のところなんで俺を呼んだの?」

「え…えっと。。」


一花は少し困ったような表情をした。

自動ドアが開く。店内に入った。


「って漫画の買い物に付き合って欲しかっただけか〜」

「そうなんだよ〜」


“本当はね私ーー”


一花の感情だと感じすぐ気をそらした。

知人だったり、身近にいる人の感情が流れ込んできた時、少し後ろめたくなってしまう。当然、知らない人の感情が流れ込んだ時も後ろめたく感じはするが、知人となると尚のことだ。


「それならそう言ってよね」

「だって秘密にしといた方が悠は気になってくれるでしょ」


俺の一歩先を歩く一花は、腰を低くしてこちらを覗き込む。その顔には、何も疑っていないような笑みが浮かんでいた。


「まったく」


悠は一花の隣に並び笑い返した。




2/7


「感度、良好」


わずかな沈黙の後に通信機越しに声が聞こえる。


「エクステリアの流動がおかしい。供給塔に流れるはずが、誰か個人に向かって流れている、明確な流動位置置は不明だが、予測通りだ」

「了解した。各員に通達、予定に変更はない、明確に場所を突き止める」


闇の中で画面の光で表情が映る。通信機から声を発していた男の口は笑っている。


「僕は知りたい、期待外れにならないで欲しい」




自動ドアが開き、本屋を後にした。


「よかった〜これこれこの漫画がほしかったんだ〜」

「よかったね、買えて」


一花はまたニコッと笑ってくれた。その笑顔に自然とこちらも笑顔になる。


「おっなかへった〜」


一花はお腹を抑えながら言った。


「そうだね、どこかでご飯食べようか?」

「そうしよ!」


2人はフードコートに入り、それぞれ食べたいものを頼み席についた。


「うっわ、おいしそうなハンバーガーじゃん!いいな〜」

「だったら一花も頼めばよかったのに」

「いやいや、こーゆーのは私みて楽しむ派なんよっ!今日はサラダで我慢〜」


そう言いながら、一花は悠のトレーに手を伸ばし、ポテトを一本口に放り込んだ。


「…あ、これはノーカウント、事故だから」


ニンマリとした一花は今日も楽しそうだ。


「はいはい、事故ね事故」


そう言って、俺は一花に笑い返した。


「ねえ、論文書いた〜?」

「いや、それがさ〜エクステリアについて書こうと思っているんだけどさ」


エクステリア。今の社会に必要不可欠な粒子だ。万能資源で、この社会を生きる人々の生活はエクステリアによってほとんどが賄われている。通信機器、自動車、電気などそれらすべてだ。当然、俺が使っている携帯端末にもエクステリアは使われている。


「正直、どこから書けばいいのやら」

「なるほどね〜、身近なことだけど身近すぎるもんね」

「どうしよ〜なんか、エクステリアの全都市導入でネット回線がとんでもなく良くなったらしいからそれについて書こうかな〜」


悠たちが住んでいるのは第二都市である。全都市内で最も人口の多い都市だ。エクステリアは人の感情から生まれる粒子である。故に第二都市は最も人口が多い都市であると同時にエクステリアの生成量も全都市で最も多いのだ。


「一花はどんなテーマにしたの?論文」

「私はね〜、聖者さんについて書いてみようかなって思ってるの」

「一花らしいね、でもあんまり先生目線で書いてほしくないものでしょそーゆーの」

「政府に認可されていない組織」


この社会では全ての組織、企業は政府の管轄下に置かれている。そのため、聖者が属する組織は政府が管轄下においてない唯一の組織なのだ。

一花はワクワクしている様子だ。


「その構成員である聖者!めっちゃ面白そうじゃない?」

「確かにね」


一花はそう言って、サラダを口にした。


「うっわ、これおいし〜!」


俺もハンバーガーをかじり、ジュースを飲む。


「……ねえ、悠はさ高校卒業したらどうするの?」


ジュースを机に戻し、一花の問いに答える。


「それがなーんにも決まっていないんだよね〜」

「そっか〜」

「一花は何か決まってるの?」

「う〜ん…私も何も決まってなな〜」

「まあ、俺らはまだ2年生始まったばっかりだし」

「そうだね」


何でもない時間だ。でもそれ故、何にも変え難い時間。その時間が楽しいと思った。


「……なんだかさ、今ってすごく平和だよね」

「え……」


いきなり突拍子もないことを言われて少し驚いた。


「…そうだね」


いつまでもこの日々が続けばいいとそう思った。

食事を終えて、フードコートをでた。その時、誰かとすれ違った。人混みの多い場所だ、当然何人もの人とすれ違う。ただそのどれとも異なる違和感を感じた。引き込まれそうな黒いコートを纏った人。対して気には止めず、視線を正面に戻した。


「悠、今日はありがとう」

「急にどうした?」

「なんとなくだよっ、ありがとう」


一花は曖昧に笑い、先に歩き出した。

その背中は、いつもと変わらない。

悠は小走りで一花の隣に並んだ。

駅にある大時計は午後の7時を回っている。


「そろそろ帰ろうか」

「うん!」


駅から出ると肌寒い風が吹いていた。


「さっむいっ」


悠がそう言って身を震わせると、一花は肩をくっけてきた。


「これで寒くない」


一花のいきなりの行動と今までとは違う優しい声に少し反応に困ってしまう。


「……いや寒いよ」


俺はとっさに顔をそらしてしまった。

顔…絶対赤くなってる…。




3/7


大きな川、シナンセ川だ。今、俺たちはその川にかかる大きな橋の上で連絡を待っている。車の通行は止められている。頭上では複数の電視警備機が低く浮遊し、無機質な光を橋の上に落としていた。誰もいない橋の中央に、俺たちだけが立っていた。ここには人が川に落ちないための柵があったはずだ。根本だけが残り、金属は無理やり引き剥がされたように消えていた。


「…自動運転のバスがこんな事故り方するかな?」


隣で彼女は呟いた。

通信機越しに声が聞こえた。


「こちら、シナミチ…ポイント4にて怪しい奴らはっけ〜ん」


陽気な声だった。

――事前に聞いた話では、かなり危険な任務だと聞いているのだが。

首につけた通信機のボタンを押し、マイクをオンにする。霜月(しもつき)紫亜(しあ)は返答をした。


「こちら、霜月(しもつき)…わかりました…移動します」


顔を正面に戻すと、二人がこちらを見ている。


「移動するよ〜2人共」


こちらでも元気そうな声がする。紫乃(しの)はこちらを笑顔で見ている。彼女の手にはタバコが握られている。どんな状況下でも常に吸っていると言っても良い程だ。いわゆるヤニカスである。


「…うん」


小さな声で雌黄(しおう)は言った。メイド服とも言える白黒のスカートを着ていて、両手で抱える程の大きさのぬいぐるみを抱えている。こう見えて彼女は…いや彼は彼なのだ。顔立ちは整っていて見下ろせる程、身長が低い。


「わかりました」


遅れて反応し、紫亜は先を行く2人に着いて行く。今、紫亜に頼れるのは2人だけだ。

これからシナンセ駅へ向かう。




「悠〜、なんか今日バス遅いらしいよ」


一花が電子板をポチポチしながら、むすっとした顔をしている。


「あ、事故があったんだって〜」

「そっか、まあ気長に待とう」


一花は電子版の近くにあるベンチに座った。隣にこいと一花は悠に手招きをした。ベンチに座る。開けた空間であたりを見渡せるこのベンチは一花のお気に入りの場所の一つだ。


「疲れた〜」

「そうだね」


一花の一言に悠は同意した。


「「……」」


空は薄暗くなり、星が見え始めている。

時折、短い沈黙に覆われる。

静かな風の音

人混みのがやがや音

自動車の走行音

電子掲示板の流れる動画音

様々な音…意外と心地がいい沈黙だ。

その時だった。

“作戦開始、片っ端からーーー”


「え……」


この沈黙の終わりは今まで経験したことのないものだった…




4/7


「え……」


次の瞬間だった。

耳が痛くなるほどの大きな爆発音が響いた。咄嗟に一花に覆い被さる。煙が悠と一花を覆い込んだ。爆発の残響が耳に鳴り続け、何かが焦げた臭いが鼻を詰まらせる、そして埃や土の味が口を塞いだ。


「え…?」


視界が明らかになり目に入り込んできたのは人の死体だった。下半身が――ない、腕も途中から消えている。何が起きているのか理解できず混乱に陥った。視界が歪む。強張り、体が震え、動けなくなる。

視界が再び白く染まる。


“痛い!”

“死にたくない!”

“怖い”

“助けて”


大勢の人の感情が大量に流れ込んでくる。一花が顔を上げた。それをみて悠は手を掴み、走り出した。動きがおぼつかないのがわかる。


「ちょっ、悠なにが起こ…って…え」


自分の腕に負荷がかかり繋いでいた手が振り解かれてしまう。振り返ると、立ち止まっている一花がいた。その顔からは恐怖が読み取れる。一花が見ているのは今日、一花と会ったカフェだ。一緒に座っていた場所は見る影もなく崩れ火に包まれている。他にも雑貨店や日用品店など、至る所の建物が破壊され、倒壊している。一花の目からは雫が垂れ、やがて雫ではなくなった。


「ここにいちゃ危ないっ!一花っ!」


再び、一花の手を掴み走り出した。振り返ると悠に引っ張られ、顔を歪ませながら走る一花、地面へ水が流れ落ちている。その奥でさっきまでいたベンチへ建物の瓦礫が崩れ落ちているのが見える。


「なに…なにが起こったの?」


一花の声は震えているのがわかる。


「わからないっ、とりあえず逃げようっ」


フォローの仕方がわからない、とにかく逃げないといけない気がする。ここにいては危険だ。

人の悲鳴、建物の倒壊音、火が燃える音、焦げた臭い。

数十秒がものすごく長く感じる。

そして次の瞬間、銃声のような音が響いた。


「⁉︎」

「悠っ、悠っ、あれっ」


一花が切羽詰まった声で言った。

人が人を撃っている。距離が離れていてよく見えないが、明確にそうしていることを悠と一花は理解していた。周辺、そこかしこから銃声が聞こえ始めた。これまでの送ってきた人生は幻想だったのかと言えるくらい、その目には現実感のない光景が刻まれている。一花の掴む手の力が強まり、動かす足をもっと早く動かす。しかし、掴み直した一花の手がまた悠から離れてしまった。


「痛っ!」


ひときわ大きな銃声と一花の叫び声がした。

振り返ると、一花は両手で片方の耳を抑えていた。抑えている手から血が伝い、そして地面に滴り落ちている。


「一花!」


駆け寄り一花を近くで見ると、耳から血を流していた。悠は、元いた方向から誰かがこちらへ歩いてきていることに気づいた。ぱっと見は警備員かと思える。黒い服フードを着ていて、そのフードは深くまで被っている。表情が見えず、得体の知れない恐怖を感じる。静かで、こちらに歩み寄ってくるのに、存在感が薄い。まるでそこが空気が重くなっているみたいだった。ただコツン、コツンと足音だけを鳴らしている。全身を覆う黒い装備は、布というより、何か別の素材に見えた。金属のようにも、樹脂のようにも見えるのに、光を反射しない。胸元には見たことのない紋章が刻まれている。円その何に三角形の形をしている。見たことがなかった。


「対象を捕捉しました」


感情のない声だった。抑揚がない。

まるで用意された言葉をただ再生しているみたいだった。

俺たちとは決定的に、何かが違う。

悠はそう思った。

その人物の腕には、見たことのない形の銃を持っていた。銃口に向かうにつれて形が大きくなっている。どこか異常な形状をしている。あれが一花を撃ったのだ。状況証拠だけだが、確実にそうだろうという確信を持つには十分だった。

――逃げられない、そう確信した。




5/7


「……悠……」


一花は俺の袖を弱く掴んでいる。掴まれた部分は一花の血で滲んでいく。


「大丈夫、大丈夫だっ…」


そう言ったところで、どしよもない。何の根拠もない、自分でもわかっていた。

血が止まらない。

血が震える。

どうすればいいのかわからない。

迷いのない足音は一段と大きくなり、そして止まった。

黒く、無機質な銃。その銃口がゆっくりとこちらへと向けられた。

一瞬だが、理解できなかった。

なんで。どうして。


「……やめてくれ…」


声が出ていたのかもわからない。体が動かない。一花が、かすかに俺を見上げえた。

銃口が微動だにせずに向けられている。

そしてーー

乾いた音。

世界が止まった。

撃たれた。

そう思った。

一花を抱きしめる。

重いものが倒れる音がした。目の前で。黒い装備の人間は、胸から血を吹き出し、後ろに倒れていた。銃を向けていたはずの人間は今や死体に変わっていた。何が起きたのか、悠は理解できずにいた。遅れて真後ろから足音が聞こえた。


「いやー、間に合ってよかったわ」


場違いなほど軽い声だった。

反射的に振り向く。

そこに立っていたのは、金髪の男だった。髪の色に反して会社員のような服装をしていた。黒を基調としたスーツ姿に赤いネクタイが特徴的に思える。他の会社員と明確に特異な点は片手に銃を持っていることだ。さっきのものと同じ形をしている。ただこの人が持っていると、それはただの道具に見えた。肩の力が抜けていて緊張感がない。まるで日常を過ごしているかのようだ。倒れた人間を見下ろして金髪の男はいった。


「危ない危ない。あと少し遅れてたら終わってたね」


そんな金髪の男の顔は笑っている。こんな状況だというのに。

その隣にもう一人。女だった。黒髪で長髪の後ろ姿。彼女も両手に銃を持っている。さっきのものより小型のものだった。それなのに、その人が一番危険に見えた。何も喋らない、何も動かない。ただ、周囲の全てを観測しているみたいだった。感情がないと言ったら、それは嘘かもしれない。ただ、俺にはそう見えた。冷たい、目だけが生きていた。

金髪の男が、こちらを見る。そして屈んだ。


「大丈夫?」


まるで、普通の人の声だった。

でも、この人たちはさっき倒れた人間と同じ存在だ。

同じ銃、同じはずだが決定的に違う。この人たちは俺たちを守ってくれる存在だと、そう思った。

ようやく息ができた。


6/7


「一花、だいじょうぶ?」

「う、うん、なんとか」


一花の耳からは血が流れているが、出血に対して傷は浅いようだ。焦りが少し落ち着いた。

視界の端に足が映る。顔を上げると金髪の男がこちらを見下ろしていた。屈み、金髪の男は言った。


「さぁて、逃げようか白瀬(しろせ)悠くん」


金髪の男が手を伸ばしてきた。しかし、悠はその手を迷わずに握ることができなかった。というのも悠はこの金髪の男と当然ながら知り合いではない。だというのに金髪の男は自分の名前を知っていることに不安感に襲われたからだ。


「っと、まだ自己紹介してなかったね、俺はシナミチスマ…でこっちの静かなのは(おぼろ)っていうよろしくね」

「…え…よ、よろしく」


一花の体を支えながら悠は立ち上がった。


「悠…何がどうなってっ…」


一花が不安そうな声をあげてこちらを見ている。どう言えばいいのかわからない。悠も同じ疑問を抱いていたからだ。


「聖者のテロ行為だ」


冷淡な声。女性が答えた。


「テロ……?」

「え…」


悠の頭の中は、訳のわからない情報で混乱した。

一花へ視線を向けると、一花も俺と同じく混乱しているように見える。


「一旦まった、とりあえず逃げるよ」


スマが悠の思考を遮った。


「詳しいことは後で説明するからさ」


スマは歩き出した。朧、悠、一花はそれに続いた。少ししてスマへ朧が小走りで近づき、小声で言った。


「スマ、敵が来る」


その発言に一花が震えているのが支えている腕から悠に伝わった。朧は踵を返し、悠と一花とすれ違った。


「…あ、あの」


一花が震えた声で言った。


「どこへ行くんですか?」


悠は一花が言おうとしたであろう続きを発言した。


「敵が来るから対応する、だから早くどっか行け」


朧の冷たい物言いに悠は不快感を覚えた。一花も同様の反応だった。だが、味方でいることに多少の安堵もあった。スマは何も喋らずに先を進んでいる。悠は一花の手を掴み、スマの方向に体を戻し、再び歩き出した。駅の中を通り、反対へとでる。スマは小走りで壁に張り付き悠たちにこっちにこいと手を仰いでいる。悠、一花もそれに続いた。


「まずいね〜、挟まれてる」

「ど、どうすれば」


悠は言った。ただ言っただけだ。どうあれ自分たちにできることなどない、スマという男に従うしかない。


「ケホッ、ケホッ」


一花が咳をし出した。悠は背中を摩りながら、安否を確かめる。


「一花っ」

「ごめん、ちょっと気分が悪くなってきて……」


スマが小声で言った。


「エクステリアの超過反応だ」


スマの口調は軽くそのまま続けた。


「このままだと意識とんでそのまま死んじまうね」

「え」


思考が止まった。

――死ぬ?一花が?目の前で

悠は視線を下ろし、一花を見た。

一花が段々と自分に体を預けてきていると感じた。


「ど、どうすればいいですか?」


悠は焦ってスマに聞いた。


「ここじゃ、どーしよもないね〜」

「そんなっ」


悠はスマの軽い口調に若干の苛立ちを憶えた。エクステリアの超過反応、授業で学んだ記憶がある。でも、死ぬなんて聞いたことが……。スマの顔を見ると、先ほど同じ顔をしていた。こんな状況で笑っている。しかし次の瞬間、スマは驚いた顔をした。


「マズイっ」


スマは悠の胸元を突き飛ばした。悠は一花を抱えながら倒れていく。次の瞬間、張り付いていた壁が砕けるのが目に入った。砕け崩壊する壁による煙で再び悠と一花は覆われた。視界がぼやける。意識がとびそうだ。視界が少し明らかになると隣で一花が倒れていた。


「一花」


切羽詰まった声をだし、一花を抱える。幸い、意識を失っているだけのようだ。

悠は視界の半分が赤く染まっていくことに気付いた。


「え……」


目のあたりを触れる。触れた手を見て、悠は驚いた。血がついている。これは今の衝撃で頭から血が流れていることを意味していた。

ガツンと大きな足音がした。振り返ると男が立っていた。瞬時にその男が危険をだと感じた。胸元の紋章。円の中の三角。見覚えがあった。それに男の片腕は言うなれば異形。金属、いや、金属のようななにかが生えている。壁はそれによって簡単に砕かれたのだと悠は思った。


「っ……」


悠は息を呑み、どうにか逃げ出せないかを考えた。次の瞬間だった。大きな音が響いた。そしてそれは男の頭に命中しかけたが、男は瞬時に異形の腕でそれを防いだ。


「くそったれ」


スマが男に向かって撃ったのだ。スマも頭から血を流している。でも悠は迷わなかった。一花を抱えて走りだした。後ろからは銃声と恐らく異形の腕を振り回しているであろう轟音が聞こえる。振り向くとスマは一瞬よくやったという目でこちらを見て、視線をいぎょの男に戻した。


「はあ、はあっ」


咄嗟に走りだして危機を脱したとはいえ、悠にも意識を保つ限界がきていた。視界の外側が黒くなりだし、あたりの様子が伺えなくなっていく。足の動きも段々と鈍くなっていき、やがて力が抜け足が落ちる。視界が滲んでいる。悠は頬に地面の冷たい感触を憶えた。


「一花…」


一花を引き寄せようとするも当然力が入らない。そこに複数の足音が聞こえてきた。黒服でフードを被っている。危険なことはわかった。だが、今の悠にはそれを理解することしかできなかった。


「……」


銃口が向けられる。

しかし、その銃が撃たれることはなく、彼らは悠の目の前で倒れた。

次に目に入ったのは、黒い服を着ている男だった。フードは被っていない。今の悠では誰かわからなかった。


「見つけました」


その言葉を最後に悠の視界は完全黒く染まり、意識から切り離された。

平和だと思っていたこの世界が錯覚だったことを知った。


7/7


倒れる悠とそれを見る紫亜。そしてそれを観測している者がいた。幼い容姿の彼女は、紫亜のすぐ隣に立っている。しかし、誰も彼女に気づくことはない。彼女は、笑っていた。


「これは運命なのかな……ふふっ」


彼女は言った。

あたりに聞こえる声で……

そして誰にも聞こえない声で……


これが白瀬悠(しろせゆう)霜月紫亜(しもつきしあ)の初めての出会いだった。

読了、ありがとうございました。

もしよければ感想ください。わかりずらかったことや逆に良かったことなど、読んでくれた方がどう感じたかが知りたいです。

誤字報告もください。何回見直しても誤字修正ができてない自分がいます。

もし、次話以降の展開が気になる方がいたらすみません。今後も執筆はしていくつもりなのですが、とんでもなく長編になると想定しています。そのため、次話の投稿や正規の作品を投稿するのはかなり遅くなってしまうと思います。


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