第9話 ――それでも、親友だから
「ねえ、透。今日、時間ある?」
昼休み。
購買のパンとペットボトルを両手にぶら下げたまま、みな子が言った。
「放課後、ちょっと付き合ってほしいんだけど」
その言い方は、いつもと同じ。
でも、目だけが違った。
「……どこ行くの」
「決まってるでしょ」
みな子は、ミルクティーを僕の頬に押し付けながらにっと笑う。
「買い物」
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放課後の駅前は、人が多かった。
ブレザーのスカートのまま歩くのは、少し落ち着かない。
「はい、これ持って」
いつの間にか、私の腕には紙袋が増えている。
「ちょ、みな子……」
「いいからいいから。ほら、次」
連れ込まれたのは、
女子向けの服が並ぶ店だった。
鏡。
ハンガー。
柔らかい色。
逃げ場は、ない。
「とりあえず、練習試合。これ着てみ」
差し出されたのは、
シンプルなワンピース。
「……練習?」
「そ。可愛い服着る練習」
軽い口調。
試着室で着替える。
鏡の中の私は、
思ったより、違和感がなかった。
「……どう?」
カーテンを少し開けると、
みな子が腕を組んで見ていた。
「うん」
一拍置いて、言う。
「似合ってる」
その一言が、胸に刺さる。
……それが、一番、困る。
「ねえ、透」
店を出て、少し歩いたところで、
みな子が足を止めた。
さっきまでの軽さが、消えている。
「正直に聞くね」
私は、黙って頷いた。
「あんた、あの子のこと――ひなたのこと、どうするつもり?」
心臓が、跳ねた。
「……どう、って」
逃げる?
それとも、受け止める?」
一直線の視線。
幼馴染だからこそ、誤魔化しがきかない。
「優しくするだけなら、誰でもできるよ」
みな子は、静かに続ける。
「でもさ、優しいまま曖昧なのって、一番残酷」
言葉が、喉に詰まる。
「ひなた、待ってるよ」
その一言で、逃げ場がなくなる。
「透はさ」
みな子は、少しだけ声を落とした。
「変わったよ。」
責める響きは、ない。
「でも、前から、そうだった気もする」
――クローゼットの中の服が、頭をよぎる。
「私は、透の味方だよ」
みな子は、そう言ってから、
はっきりと言った。
「でも、だからこそ言う」
一歩、近づいて。
「覚悟、決めなよ」
胸が、ぎゅっと縮む。
「女だからとか、関係ない」
「ひなたを好きなら、
その気持ちに、責任持ちな」
風が吹いて、
髪が揺れる。
通り過ぎる人たちは、
誰も、私たちを気に留めない。
でも、世界が、ここだけ止まっているみたいだった。
私は、息を吸って、吐いた。
逃げられない。
逃げたくない。
「……ありがとう」
それだけ言うと、
みな子は、いつもの調子で肩を叩いた。
「はいはい。
じゃ、決戦は近いね」
「決戦って……」
「ひなたと話すんでしょ」
にやっと笑う。
「ちゃんと、向き合ってきな」




