第17話 ――理系なんて勘弁してくれよ、私
1学期中間テストまで、あと一週間。
教室の掲示板に貼り出された試験範囲表を見て、
私は静かに絶望した。
数学Ⅱ。物理。化学。
……なんで理系にしたんだろう。
去年の自分に問い詰めたい。
いや、去年の自分というのは、この世界線の「私」だ。
男だった頃の僕は文系だった。
古典も英語も、得意とは言わないまでも、なんとかなっていた。
それが今、目の前にあるのはわけわからん物体だ。
……なんとかならない。
昼休み。
みな子が弁当を広げながら、私の顔を見て笑った。
「死にそうな顔してるけど」
「死にそう」
「何が」
「理科」
みな子が、箸を止めた。
「あー……」
その一言に、すべてが詰まっている。
みな子は文系だ。
「えー、理系の理科は私助けられないよー」
分かっている。
分かっているから絶望しているんだ。
「英語と古典ならいくらでも付き合うけど」
「英語はこの前の補習でなんとか……」
「あ、ひなちゃんに教えてもらったんだっけ」
みな子が、にやっとした。
「……その顔やめて」
「何も言ってないけど」
「目が言ってる」
みな子は、おかずの卵焼きを口に放り込んで、
何事もなかったように続けた。
「じゃあ理科はどうするの」
「……気合い」
「気合いで酸化還元は解けないでしょ」
正論が、痛い。
◇
放課後。
鞄に教科書を詰めながら、物理の問題集をめくる。
なんて書いてるのかわからん。サンスクリット語だろうか。
よくわからないやじるしがいっぱい。やじるしいっぱいたのしいな。
隣の席の子が「透ちゃん、大丈夫?」と聞いてくる。
大丈夫じゃない。
けど、笑って「なんとかなる」と返す。
なんとかならない予感しかしない。
スマホが震えた。
みな子。
『日曜、勉強会しない?』
勉強会。
『英語と古典は私が見る。理科はひなちゃんに頼めば?』
……ひなた。
あの子は理科もできるんだろうか。
ふとあの横顔が頭に浮かぶ。
文系のイメージが強いけど、たしか理科も学年上位だと聞いた気がする。
『3人で?』
『嫌?』
嫌じゃない。
嫌じゃないけど、みな子とひなたが同じ空間にいるのは、
なんというか、別の緊張感がある。
『……いいけど』
『じゃあ私から声かけとくね』
返事を打つ前に、もう一通。
『場所はまた決める!』
みな子のこういうところは、昔から変わらない。
決めたら早い。
こっちの覚悟なんか待ってくれない。
物理の問題集を閉じて、鞄に入れた。
あと一週間。
理科だけが、どうにもならない。
でも、少しだけ。
日曜日が楽しみな自分がいることには、気づいていた。




