第15話 ――まだ、知らないこと
教室の窓際で、ひなたはぼんやりと外を見ていた。
昼休み。
お弁当は、もう食べ終わった。
隣で友達が何か話しているけれど、
半分くらいしか耳に入ってこない。
……先輩、今頃なにしてるかな。
昨日の放課後を、思い出す。
補習の教室。
一人で英語のプリントと格闘していた先輩は、
ドアを開けた瞬間、少し驚いた顔をした。
「……なんで、ここに」
嫌そうじゃなかった。
むしろ、ほっとしたような顔だった。
勉強を教えているとき、
先輩は、ときどきこっちを見ていた。
プリントじゃなくて、私を。
気づいていないと思っているみたいだったけど、
全部、分かっていた。
……ずるい。
前にも、同じことを思った。
でも、あのときと今では、意味が違う。
あのときは、期待させないでほしかった。
今は。
もっと見ていてほしい、と思ってしまう。
◇
帰り道。
イヤホンから流れる音楽が、いつもより明るく聞こえる。
先輩は、好きだと言ってくれた。
展望台で。
夜の空気の中で。
声は、震えていた。
でも、目はまっすぐだった。
それだけで、十分だったはずなのに。
――普通じゃない。
先輩は、あの夜、そう言った。
自分が誰なのかも、
何者なのかも、
分からなくなる、と。
あのとき、「それ、理由になります?」と返した。
本心だった。
今も、変わらない。
でも。
「普通じゃない」の中身を、
先輩は、まだ教えてくれていない。
何が、普通じゃないのか。
何と、戦っているのか。
聞いたら、答えてくれるだろうか。
それとも――
また、あの遠い目をするんだろうか。
◇
布団に入って、天井を見る。
好き、という気持ちは変わらない。
先輩が何を抱えていても、
好きになったのは東雲透だ。
それは、昨日も、今日も、同じ。
でも。
知りたい、と思ってしまう。
先輩の「普通じゃない」を。
先輩が見ている景色を。
隣に立つだけじゃなくて、
同じものを見たい。
それは、わがままだろうか。
スマホが、震えた。
反射的に、画面を見る。
透先輩――じゃない。
表示されていたのは。
小笹みな子、という名前だった。
『ひなちゃん、ちょっと話したいことがあるんだけど』
……え?




