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第13話 ――聞いたよ?

放課後。


「ねえねえ、聞いたよ?」


心臓が、止まった。


みな子が、教室の出口で待ち構えていた。


目が、にやにやしている。


ひなたの件。


バレた。


誰から。岡沢? それとも――


「英語の小テスト」


「……え?」


「唯一の赤点。来週補習だって?」




……あ。


心臓が、元の位置に戻る。


そっちか。


「先生がさ、『東雲さんらしくないですね』って。珍しく名指しだったよ」


みな子が、おかしそうに笑う。


「……たまたまだよ」


「たまたまで唯一の赤点は取らないでしょ」


返す言葉がない。


正直、今日は何も頭に入らなかった。


英語だけじゃない。数学も、古典も、全部、上の空で。


理由は——言えない。


「はいはい。慰めてあげるから、お茶しよ」


みな子は、鞄を肩に掛けて、出口を顎でしゃくった。


「おごりね」


「なんで私のおごり……」


「赤点の罰」



駅前の喫茶店は、思ったより空いていた。


窓際の席に、向かい合って座る。


みな子はアイスのカフェラテ。


私はミルクティー。


店内のBGMが、小さく流れている。




みな子がストローをくるくる回しながら、

何気なく言った。


「で」


「……で?」


「ひなたとは?」


来た。


さっきのフェイントは、全部これのためだ。


胸が、少し跳ねる。


でも、さっきほどじゃない。


「……うまく、いった。と思う」


自分でも、曖昧な答えだと分かっている。


みな子は、一口飲んでから、

私の顔をじっと見た。


「ふうん」


それだけ。


追い詰めない。


でも、見逃さない。


「顔、昨日と違うもん」


「……そう?」


「うん。ちょっとだけ、ゆるんでる」


恥ずかしくて、ミルクティーに目を落とす。


氷が溶けかけて、少しだけ薄くなっていた。


「まあ」


みな子は、ストローから口を離して、笑った。


「よかったんじゃない」


それ以上は、聞かなかった。




窓の外を、学生たちが通り過ぎていく。


みな子は、もうスマホに目を落としている。


こうしていると、

何も変わっていないみたいだ。


放課後。


寄り道。


どうでもいい話。


変わったはずなのに、

変わらないものが、ちゃんとある。


「補習、ちゃんと出なよ」


「……分かってるって」


「英語で留年とか、シャレにならないからね」


「一回で留年しないでしょ」


「さあ、どうだろ」


軽い口調。


いつもの調子。


それが、少しだけ救いだった。

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