初めての街①
オルフィンに到着したのは夕日が沈む間際の頃で、もう少し遅ければ門が封鎖されるところだったので本当によかった。
俺とユフィアは冒険者証を見せ、今回初めてオルフィンに入国するセレーナとアイビーには入国料を支払わせて門を潜る。
「うわー! 石の建物がいっぱいだ!!」
「へえ、結構賑わっているのね……」
初めての街に目を輝かせるセレーナ。彼女程ではないが流石のアイビーも圧倒的な人々の多さに驚いている様子だ。
さてと、時間も時間だし今日はもう冒険者ギルドでは2人の冒険者登録をして風見鶏亭に行くとしよう。
こうして俺達は冒険者ギルドに向かうことにした。
「ねえルイあれは何? 何か美味しそうな匂いがするよ!」
「あれはイカ焼きの屋台だな」
「イカ焼きって何?」
「海にいる魚とは違う生き物だな。美味いぞ」
「あれは? キラキラしてるよ!」
「アクセサリー屋だな。鉱石や金属を加工した物を売り買いする店だ」
セレーナはこんな感じで見るもの全てが新鮮らしく質問の嵐を連発する。
まあ、長年憧れていた街にようやく訪れることが出来たのだから仕方がないか。
「……何これ? こんなのが本当に食べられるの?」
「これはキャベツですね。瑞々しくてシャキシャキとした食感が特徴の野菜ですね」
「これは果物? やけに皮が厚そうね……」
「オレンジですね。皮は剥いて中身の果肉を食べるんです。甘酸っぱくて美味しいです。勿論、皮も色々な調理法で美味しくできますよ」
流石は木精霊と言ったところだろうか。アイビーは森にはない果物や野菜に興味津々のようだ。
「観光はまた今度。今は冒険者ギルドに向かうぞ」
楽しんでいるところ悪いが、早くしないと冒険者ギルドが閉まってしまう。冒険者証を作るのにそこそこ時間がかかるから急ぐとしよう。
俺は楽しんでいる2人を強引に連れて冒険者ギルドへと向かう。
……それにしても、やはり目立つか。
視線を周囲に向けると、殆どの人達がこちらに向けられている。正確にはセレーナとアイビーにだ。
セレーナはエルフ族だからだろう。エルフ族は皆容姿端麗で森から出ない種族として有名だ。多くの種族がいるこのオルフィンでさえもエルフ族見ることは非常に稀なので珍しいのだろう。
そしてアイビー。彼女はその美貌のせいだろう。美しい容姿のうえに出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるグラマラスの美貌に多くの男性は魅了され、女性は嫉妬している。
そしてそんな2人を連れている俺には悪意のような視線を感じるけど、気にしないでおこう……。
そんなこんなでようやく目的の冒険者ギルドへと到達。中に入ると、やはりと言うべきか視線がこちらへと向けられる。
「あ、お久しぶりですね、ルイさん」
そんな中、出迎えてくれたのは受付嬢のアリスさん。この人だけはいつも変わらない対応をしてくれるのでホッとする。
「お久しぶりです、アリスさん。色々な魔物を討伐したのでその売却とこの2人の冒険者登録をお願いしたいんですが」
「エルフ族の方とは珍しいですね。分かりました。では討伐した魔物はこちらへお出し下さい。お2人はこの冒険者登録用紙に記入をお願いします」
アリスさんの指示に従って俺は討伐した魔物を空間収納から取り出し、セレーナとアイビーには冒険者登録をせていると、もう1人見慣れた顔の人物が現れた。
「ルイじゃないか!」
話しかけてきたのはギルドマスターだった。
「凄い筋肉だね……」
「只者ではないような……」
どうやらセレーナとアイビーも一眼見ただけでギルドマスターの圧倒的な実力を理解したようだ。
「おいおい、久しぶりに顔を見せに来たと思ったらまた美人達を連れて戻って来やがって! 羨ましい限りだな!」
背中を叩きながら豪快に笑うギルドマスター。
「それにしてもエルフ族とは珍しいな。さてはお前、エルフィリオ大森林に行って来たな?」
「ちょっと興味がありましてね」
「興味か……。色々と聞きたいことがあるから応接室に来て貰おうか」
「分かりました。ユフィアは2人に付き添ってあげてくれ」
「かしこまりました」
セレーナとアイビーをユフィアに任せて俺はギルドマスターと共に2階の応接室に行くと、互いに向かい合う形でソファーに座る。
「それで、どうしてエルフィリオ大森林なんかに行ったんだ? アリスから聞いたと思うが、あそこはとても危険な場所だぞ?」
やはり報告はされていたか。まあアリスさんは職務を真っ当しているだけなので仕方がないな。
「先程も言いましたが興味が出来たんです。それに危険な場所ではありますが立ち入り禁止と言う訳ではないですよね?」
「ああ。立ち入るか立ち入らないかは個人の自由だ。最近のエルフィリオ大森林は危険な魔物が出現する噂があって多くの冒険者が行方不明になっている。そんな森に入ってよく無事に戻って来れたな」
ギルドマスターによると調査の為にエルフィリオ大森林に入った冒険者の殆どは行方不明になっており、生還したのはごく少数。行方不明になった冒険者の中にはA等級冒険者もいたそうだ。
「自分は運が良かっただけですよ。道に迷いそうになったところをセレーナ達に助けられました」
「さっきのエルフ族の娘か。噂では人間族に恨みを持つエルフ族が襲っていると言うものもあるが、これは真実だったのか?」
やはりそう言う話になるか。本来なら嘘で誤魔化すところだが、この人にそんな小細工は通用しないと直感で分かる。
「はい、実はですね……」
俺はギルドマスターに話した。エルフ族が20年間どうなっていたのかを。勿論邪神に関することは省いている。
「なるほどな。エルフ族が20年間も姿を見せなかったのはそう言った事情があったのか……」
予想以上の出来事に流石のギルドマスターも頭を悩ませている。
「それとギルドマスターにお願いがあるんですが」
「お願い?」
俺は空間収納から剣や防具等の装備品を取り出す。
「これは?」
「行方不明の冒険者達の装備品です」
これはエルゾアによって洗脳され、助けられなかった冒険者達の物だ。遺体は流石に持ってかえることは出来ないのでせめて装備品だけでも遺族に返そうと思ってこうして持って帰って来たのだ。
ちなみに亡くなった冒険者達の遺体はエルフィリオ大森林で丁重に供養している。
「せめて遺品だけでも遺族の方々に返してほしいんです。お願いします」
それが彼らを助けられなかった俺には出来る精一杯のことだ。
「分かった。手配しよう」
ギルドマスターはそう言って鈴を鳴らすと、1人のギルド職員が執務室へと入って来た。
「急いでこの装備品の確認をしてくれ。確認が取れ次第遺族に装備品を返品するんだ」
「分かりました、ギルドマスター」
そう言ってギルド職員は装備品を持って執務室を出て行く。
「ありがとなルイ。エルフィリオ大森林で行方不明になった冒険者の捜索に関する依頼は何件かあってな。確認が取れ次第、報酬を渡そう」
「ありがとうございます。報告はこれぐらいです」
「ああ。協力に感謝する」
「いえいえ、お役に立てて良かったです。では失礼します」
こうして俺とギルドマスターとの対談は幕を閉じた。




