森の外①
魔物化したロベリアを無事に討伐した俺達はエルフの里--ではなくセレーナの住居にいた。
「何よアイツら! 折角この森を救った恩人を蔑ろにするなんて!」
「まあまあ、姉さん落ち着いて」
激しく憤慨するアイビーをセレーナが鎮める。まあ、アイビーが憤慨するのも仕方がないことだ。
本来なら森の危機を救った俺達に対して、里の総力を上げて宴を開いて盛大に盛り上がる流れだと思ったのだが、現実はそう単純ではなかったようだ。
今回の騒動でエルフの里はほぼ壊滅状態となり、少なからず死傷者が出てしまったからな。宴より葬儀といった感じだな。
俺達はその葬儀には参加しなかった。いや、参加出来なかった。
どうやら今回の騒動は俺達のせいだと責め立てるエルフ達が続出したらしい。当然それを言っているのは今回の騒動で身内を失った遺族のエルフ達だ。
勿論、それはただの八つ当たりだと彼らは理解しているようだ。理解はしているのだがどうにも遣る瀬無いと言った感じだろう。
今回の騒動を招いた原因であるエルゾアやロベリアはもういない。だとしたらその怒りの矛先は俺達へと向けられるのは必然だろう。
なのでこれ以上騒動を大ごとにするわけにはいかないと判断した俺達はこうしてセレーナの住居へと避難することになった。
そうそう、葬儀と言えばセレーナの父親についてだ。どうやら彼の遺体はエルゾアが見せしめの為に跡形もなく消滅させられたそうだ。
しかし彼が死ぬ間際まで所持していた形見の弓は残っていたようで、エルシュさんが大切に残してくれていたそうだ。それを譲り受けてセレーナの母親が眠る墓の横に新しい墓を作って供養した。
仲の良かった両親だと聞いているからな。これで安らかに眠ることが出来るだろう。
そして深夜。誰もが寝静まった頃にセレーナが起き上がると、そのまま外へ出てしまう。おそらくいつもの日課をしに行くのだろう。
心配になり後をつけてると、やはり湖面の岩の上でセレーナは笛を吹いていた。そして笛の音色につられて精霊たちがふよふよと寄っていく。
「今日もありがとうみんな。でもこの笛の音を聴かせて上げられるのももう少しで最後なんだけどね」
もう少しで最後? まるでもう少しすればお別れするみたいな言い方だぞ?
「そこにいるのは分かってるよルイ。出てきたらどう?」
どうやら気づかれていたようだな。俺は茂みから出てセレーナに近づく。
「それで、さっきの最後ってどういう意味なんだ?」
「………………そのままの意味だよ。この子達に笛を聴かせられるのはこれでお終い。私はこの森を出ることにしたから」
「何?」
するとセレーナは幼少の頃のことを語りだす。
彼女は母親の冒険譚を聞かせて欲しいとせがんでは目を輝かせていた。
空高く聳え立つ山、湖よりも遥かに広い海、そして人々によって作られた人工の街、それらはこの森には決してない未知なる存在だった。
いつしかセレーナは母親のような冒険者になることを夢見るようになった。
だが両親はそれを許さなかった。
エルフ族は良くも悪くも目立つ存在だ。しかも大国との戦争後ということもあって余計に森の外へ出ることは危険だと思ったらしい。
こうして冒険者となる憧憬は儚いものとなった。
しかし、今日の出来事で再び冒険者になることを決意したそうだ。
元々セレーナがこのエルフィリオ大森林に留まっていたのは行方不明になっていた父親の帰りを待っていたからだ。その父親も母親と共に安らかに眠りついたことで彼女がこの森に留まる理由はもうない。
それに里のエルフ達による不本意な報復もないとは限らない。身の安全も兼ねてこの森から出ていくことを決めたようだ。
「しかし、そんなことよくアイビー何許したな」
「……姉さんには伝えないつもり。言えば絶対に反対すると思うから」
「確かにな」
あの過保護なツンデレ精霊のことだ。セレーナが冒険者になると言った瞬間に猛反対しそうだ。
「だから姉さんにはこのことを黙っておいて! お願--」
「誰に黙ってるですって?」
「ひぃっ!?」
まるで亡霊の如く背後に立っていたアイビーの声にセレーナが小さく悲鳴を上げる。
「姉さん、今のは、その……」
どうにか誤魔化そうとしているセレーナだが、そんな小細工がアイビーに通じるわけもなく正座させられる羽目になってしまう。
「まさか、このアタシに内緒でこの森を出ようとするなんて、いい根性してるわね、セレーナ?」
「ひぃ、ごめんなさい!」
まるで般若でも出そうな雰囲気に為す術なく圧倒させれるセレーナ。
「黙って出て行こうとしたのは謝るよ。でも姉さんは絶対に反対するでしょう!?」
「当たり前よ。森の外の常識を知らないアンタが通用するとは思えないわ。1人でこの森を出て行こうとするなんて絶対に許さないわよ」
「そ、そんな〜……」
エルフィリオ大森林から出ることを許してくれないアイビーにセレーナは涙目になってしまう。
ん? 1人で? 何だかアイビーの言葉に違和感を感じたぞ。
「なあアイビー。今1人でと言ったな? つまりそれはこの森の外の者と同行を共にすれば良いということか?」
俺の言葉にセレーナはハッとした表情でアイビーを見やる。そしてアイビーは小さく溜息を吐く。
「もう、アンタが先に気づいてどうするのよ。ええ、そうよ。それなら世間知らずのこの娘も苦労はしないでしょう?」
「ならここに適任者がいるよ! ルイ、私を仲間に入れてよ!」
やはりそういう流れになるよな。
「悪いがそれは出来ない」
俺ははっきりとセレーナの申し出を断った。
「ど、どうして……?」
まさか断られるとは思ってもいなかったようで、セレーナが声を震えさせて理由を聞いてくる。
もう隠していても仕方がないので、俺は女神様の代行としてこの世界に召喚された存在だと告げた。そして邪神がこの世界を破滅させない為にもエルゾアやロベリアのような邪神の使徒とこれからも戦い続けなければならないということを。
「つまりこれからも今回のように危険な戦いを強いられることになるんだ。だから君を連れていくわけにはいかない。分かってくれるな?」
「うん分かった。それでも良いから連れて行って」
うん、全然分かってないな。
「だったらセレーナをアンタの眷属にしなさいよ。ユフィアと同じようにね」
「……気づいていたのか?」
「これでも女神様と面識があるのよ? ユフィアの手の甲にある紋章は間違いなく女神様の紋章よ。つまりあの娘はアンタの眷属なんでしょ?」
流石は数千年間は生きていると思われる精霊。脱帽だ。
「セレーナはアンタにとって大切な存在なんだろう? そんな彼女を危険な目に遭わせてもいいのか?」
「勿論嫌よ。だからアタシもアンタの眷属にしなさい」
「はい?」
ロベリアのまさかの言葉にまたしても目を丸くしてしまう。
「姉さんも一緒に来てくれるの?」
「当たり前よ。アンタだけ行かせたら心配になって落ち着かないわ。だからアタシも付いて行ってあげるわよ」
「わーい! ありがとう姉さん!」
おいおい、俺はまだ同行を許可した覚えはないんだが……?
「ほら、早くアンタの眷属にしなさいよ」
「早く早く!」
完全に2人を眷属にする流れになってしまったな。
「……分かったよ」
断りきれずに渋々承諾することにした。
「じゃあいくぞ。眷属契約、発動!」
俺は加護を加護が発動すると、セレーナとアイビーの身体が淡く輝き始めた。
そして暫くするとその輝きは徐々に薄れていき、彼女らの左手の甲に眷属の紋章が浮かび上がる。どうやら無事に成功したようだ。
--眷属を得たことにより新たな加護を獲得しました。
お、加護が増えたようだな。早速ステータスの確認をしよう。
名前:ルイ
種族:人間
適性:無属性
魔力:2500000
魔法: マナチェーン(小)・マナバレット(中)・マジックキャンセル(大)
加護:鑑定慧眼・危機察知・魔力纏鎧・異常無効・空間収納・自己回復・禁忌解呪・眷属契約・眷属念話・真偽看破・広域探索
真偽看破
対象者の嘘を見抜くことが出来る。
広域探索
広範囲に存在する人物や魔物、物質等の位置を特定する。
ふむ、今回は2人を眷属にしたことで魔力が大幅に増えただけでなく2つも新しい加護を獲得することが出来たぞ。
「姉さん、私のステータスが凄いくらい変化したよ!」
「はしゃがないの、見っともない」
どうやら彼女達のステータスも大幅に向上したようだな。どれどれ……。
名前:セレーナ
種族:エルフ族
適性:風属性
魔力:100000
魔法: ウィンドボール(小)・ウィンドアロー(小)・ウィンドプレス(中)・エアレイド(中)
加護:万能調薬・十連矢射
十連矢射
一度の狙撃に10の矢を放つことが出来る、
名前:アイビー
種族:精霊族(木精霊)
適性:森属性
魔力:600000
魔法: ウッドショット(小)・ソーンバインド(中)・ウッドアーム(中)・リーフショット(中)・ウッズタイタン(大)・ フォレストブレス(大)
加護:植物促進
植物促進
植物の成長を促進させる。
どうやらユフィアの時と同じように彼女達のステータスが強化されたようだ。
「これからもよろしくな、2人共」
「よろしく!」
「ふん、このアタシが眷属になってあげることを光栄に思いなさいよ!」
こうして俺に新たな眷属が増えるのだった。




