堕ちた精霊②
ルイとセレーナにエルゾアの対処を任せて、アイビー、ユフィア、グラニ、クルはロベリアと相対する。
「ロベリア、今回ばかりはもう封印では済まないわよ。今度こそアンタに引導を渡してやるわ!」
「まさかあの救世主じゃなくて貴女達が相手をすると言うの? この私も甘く見られたものね」
4対1という圧倒的に不利な状況なのにロベリアはまるで余裕そうな態度を見せる。
「その余裕、いつまで保つかしら!? ウッドタイタン!」
アイビーが魔法を発動すると、地面にから魔法陣が浮かび上がると、そこから巨大な樹巨人が出現し、ロベリアに目掛けてその巨腕を振り下ろす。
「ふん、ウッドアーム」
それに対してロベリアが発動した魔法はアイビーが召喚した樹の巨人よりも更に大きい巨大な樹の腕。
大魔法と中魔法。
本来なら大魔法を発動したアイビーに軍配が上なのだが、魔力で強化させたロベリアの魔法の方が上手だった。
樹の巨人は樹の巨腕に掴み上げられると、そのまま地面へと叩きつけられると、光の流出となって消滅してしまう。
「全盛期の力もない今の貴女じゃ、私には勝てないわよ!」
「--くっ」
ロベリアの言う通り、今のアイビーは本来の力を扱うだけの魔力がない。
「でしたら我々が力を貸します! ホーリーレイ!」
「ヒヒィィーンッ!」
「クルルルゥッ!」
ユフィア達の攻撃が一斉にロベリアに目掛けて放たれる。
「……鬱陶しい連中ね。ウッドウォール」
しかしユフィア達の攻撃もロベリアの発動した樹の壁によって防がれてしまう。
「貴女達はこいつらの相手でもしていなさい。ウッズタイタン」
そしてロベリアは複数の樹の巨人達を召喚する。しかもアイビーが召喚したものより一回りも巨躯だった。
ユフィア達は大量の樹の巨人に対処するのに精一杯になりアイビーの援護が出来なくなった。
「これで邪魔者はいなくなったわね。さあ、折角の姉妹同士の殺し合いを存分に楽しみましょう! リーフショット!」
「--っ!? リーフショット」
互いに発動した魔法が激突する。しかし同じ魔法でも魔力量の差によって威力も数も圧倒的にロベリアの方が上。当然アイビーは押し負けてしまう。
「--っ! ……きゅあっ!」
防ぎれなかった複数の鋭利葉がアイビーの身体を次々と切り裂いていく。幾重にも刻まれた傷から血が滴り落ちる。
「……まだ、まだ終わらないわよ」
本来なら致命傷である怪我を負いながらもアイビーはまだ立ち続けていた。しかし重傷を負っている為、立っていられるのがやっとの状態だった。
「ローズウィップ」
そんな状態のアイビーにロベリアは薔薇の棘の鞭で容赦なく痛めつける。無慈悲に鞭打つ彼女の表情はまさに狂気の沙汰だった。
「うっ……! あ、ぐぅっ……!?」
棘の鞭によってみるみるアイビーの身体は傷だらけになり、全身は傷と血でまみれる。
「どう痛い? 助かりたいなら頭を垂れて命乞いをしなさい。そしたら私の下僕として飼ってあげてもいいわよ?」
「冗談はよしなさいよ。誰がアンタなんかに命乞いなんてするもんですか……」
「ふん、その減らず口がいつまで続くかしら?」
それからロベリアは何度も棘の鞭でアイビーを痛めつける。しかし幾ら棘の鞭で打たれても決してアイビーは屈しなかった。
最初は楽しんでいたロベリアだが次第に飽きて来たのか、棘の鞭を止める。
「……つまらないわね。もうさっさと終わりにしてあげるわ」
冷めた眼差しを向けながらロベリアはとどめを刺すべく大魔法を発動する。これをまともに受ければ確実にアイビーの命はないだろう。
「ジャイアントプラント」
準備が整い巨大な魔法陣が出現する。そこから召喚されたのは巨大な黒花。先端の花の部分に大量の魔力が集中していく。
「遺言だけ聞いて上げるわ。言ってみなさいよ」
「……アンタ、本当に屑女ね」
「死になさい!」
最期まで生意気な口をきくアイビーに激昂したロベリアはとどめの一撃を放つ。
轟音と共に凄まじい威力の魔力はアイビーを包み込み、そのまま地面に巨大なクレーターを残す。
「本当に不愉快な女だったわ」
そう呟いて、ウッズタイタン達と交戦しているユフィア達を始末しようと向けようとしたその時、ドクンッと激しく脈動するのロベリアは感じた。それはかつて感じたことのある魔力の波長だった。
「まさか……!?」
視線をクレーターの方へ向けると、そこには丸い緑色の球体があるのに気付いた。ロベリアが感じた魔力はそこから放たれている。
そして緑色の球体が消えると、そこに立っていたのは神々しい光を放ち、薄桃色の艶やかな長髪をなびかせる妙齢の美女だった。
「……もしかしてアイビーさん?」
「ええ、そうよ」
ユフィアがそう呟くと美女--アイビーは小さく頷いた。そう、これが彼女の真の姿だった。
「そんな、どうして元の姿に……!? 全盛期までの力を取り戻すにはまだ何百年もかかるはずなのに、どうして……!?」
ロベリアは信じられないといった様子で呆然としてしまう。
「これのお陰よ」
「それは、世界樹の葉?」
そう言ってアイビーが見せたのは1枚の若葉。それは間違いなく世界樹の葉だった。そして枯れた葉ではなく魔力を宿した葉だった。
「この世界樹の葉のお陰で一時的だけど元の姿に戻ることが出来たみたいね」
「嘘よ、世界樹の葉は全て私の魔力を浴びて全て枯れ葉になっていた筈よ。それなのに用意できるなんてあり得ないわ!」
世界樹の葉は神聖な魔力を宿している特殊な素材だ。
しかしロベリアの封印が解けて10年、彼女の邪悪な魔力に触れたことにより世界樹は本来の機能を発揮出来ずにいた。それによって世界樹の葉は魔力を持たないただの葉へと変わり果てていた。
「もちろん、この葉はさっきまで魔力のないただの枯れ葉だったわ。でも丁度良いところにアンタの力を凌駕する常識離れした奴がいたからね」
「……まさか、あの男の魔力を世界樹の葉に注いだと言うの!?」
ロベリアの言う通り、アイビーが持っている世界樹の葉にはルイの魔力が施されていた。それにより世界樹の葉は本来の効力を取り戻したのだ。
「本当はあいつの力なんて借りたくなかったんだけどね。まったく、一時的とは言え私の本来の姿を取り戻させる程の魔力なんて、本当に何者よあいつは……」
「私の主に不可能はありませんよ」
自信を持って答えるユフィアにアイビーは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「さてと、時間もないことだしさっさと終わらせましょう」
そう言ってアイビーは視線をロベリアへと向ける。
「全盛期の力を取り戻したぐらいで良い気にならない方がいいわよ! 今度こそ仕留めてやるわ! ジャイアントプラント!」
先程よりも遥かに巨大な黒花が出現し、膨大な魔力がアイビーに放たれる。
「確かに全盛期のアタシでもアンタには敵わなかったでしょうね……」
しかし、アイビーは動じない。避けようとすらしない。余裕の笑みを浮かべながら手をロベリアの方へかざす。
「フォレストブレス」
今度はアイビーが魔法を発動すると周囲から複数の魔法陣が出現する。その魔法陣1つ1つから尋常ではないほどの魔力を感じる。
そして複数の魔法陣から高威力の魔力が一斉に放出され、黒薔薇から放たれる魔力を打ち消し、そのままロベリアに直撃する。
「きゃあああああああああっ!!」
ロベリアは咄嗟に自身の魔力を防壁にしてダメージを軽減することに成功したがそれでもかなりの重傷を与えた。
「……どうして? かつてと同じなら力なら私の方が上の筈よ。それなのにどうして私が打ち負けるの? こんなのあり得ないわ……」
「そんなの決まってるじゃない。今のアタシはかつてのアタシよりも強くなってるからに決まってるからでしょ?」
ルイが世界樹の葉に注ぎ込んだ魔力によって全盛期以上の力を得ていたアイビー。以前と同じだと勘違いしていた時点でロベリアは既に負けていたのだ。
「これで終わりね」
そう言ってとどめを刺そうとするアイビー。
「お願いアイビー……見逃してよ。私は、貴女の実の妹なのよ? 妹を手にかけるなんてこと、しないわよね?」
今更ながら命乞いを始めるロベリア。先程の余裕は微塵もなく、顔をぐしゃぐしゃにして助けを懇願する。
そんな醜態を晒す実妹に対してアイビーは哀れるような視線を送った。
「……妹ならいるわ。アタシの妹はセレーナだけよ。フォレストブレス!」
そう叫んでアイビーは再び魔法を発動。複数の魔法陣から高威力の魔力がロベリアへと降り注ぐ。
「嘘、私がこんなところで終わるなんて……嫌ああああああああああ!」
悲鳴を上げながらロベリアは放たれた魔力に包まれるのだった。
◆◆
「アアアアアアアア……」
エルゾアが両腕の蔓状触手を巧みに振るって俺とセレーナを襲ってくる。
「セレーナは後方で奴の注意を引いてくれ。その隙に俺が奴を仕留める」
「うん!」
二手に分かれて俺とセレーナはエルゾアに攻撃を仕掛ける。
セレーナが遠距離で矢放ってエルゾアの注意を引いている隙に俺は接近してレイヴェルで奴の蔓状触手を斬り伏せる。
しかし切断面からまた新たな蔓状触手が生えてくる。
「こいつ、再生するのか」
植物の再生能力が高いと言うが、どうやらエルゾアもその性質を持つようだ。何度繰り返しても奴は再生を続けてしまう。
これでは堂々巡りで埒が明かない。何か良い方法はないだろうか。
「ルイ、私に良い考えがあるよ! 5分だけでいいからエルゾアの注意を引いてて。それまでにあいつを倒す準備をするから!」
「分かった!」
この状況を打破するべくセレーナの言う通りに俺は単独でエルゾアの相手をすることになる。
「アアアアアアアア……!」
するとエルゾアの身体に再び異変が起きる。全身が更に肥大化し、身体中から蔓状触手が生え、辛うじて人型を保っていたのに今では四足歩行の醜悪な化け物へと成り果ててしまう。
「アギャアアアアアアアアッ!!」
しかも凶暴性も先程よりも増しており、全身から生えている無数の蔓状触手を伸ばして薙ぎ払ってくる。
「--ちっ!」
俺は舌打ちをしつつエルゾアの猛攻を受け止めながら反撃の機会を伺う。
「はあっ!」
そして一瞬の隙をついてエルゾアの頭部らしき部分をレイヴェルで貫くも、やはり大したダメージを与えることは出来るどころか怯む様子もない。どうやら今のこいつには急所と思われる部位はないようだ。
だが今はセレーナの言う通りこいつを足止めするしかない。俺はエルゾアの猛攻を防ぎ、回避しながら次々と攻撃を与える。傷つけては再生され、傷つけては再生され……それを繰り返し続けた。
「待たせたわねルイ!」
そしてようやく時間の5分が経過したようで、セレーナが弓を構えながら声をかけてきた。
「これでも食らえ!」
放たれた一閃がエルゾアに突き刺さる。この程度の攻撃では奴に致命傷を与えるとは到底思えなかったが、次の瞬間にそれは起きる。
「ギギャアアアアァァァァァァァァ!!」
突然エルゾアが激しい悲鳴を上げながらも踠き苦しみ始めるたのだ。あまりにも苦しいのかのた打ち回っている。
「セレーナ、一体何をしたんだ?」
「今私が放った矢の先端には強力な枯死剤を塗られているの。あれなら奴も一溜まりもない筈よ」
持ち前の再生力が追いつかない速さでエルゾアの全身を覆っている植物が次第に枯れ始めていく。そして全身の植物を失ったエルゾアもまるでミイラのように全身が朽ちかけていた。
「ニン、ゲンハ……ミナゴロシ、ニスル……」
ほんの僅かだがエルゾは意識を取り戻したようだが、最早虫の息状態だった。
こんな無惨な状態になりながらも人間族に対しての憎しみを露わにし続けているとは、凄まじい執念だ。
「……もう、逝きなさい」
流石のセレーナもそんなエルゾアを哀れに思ったのか弓を構えると、放たれた矢が奴の頭部を射抜き、絶命させる。
化け物になった影響なのかエルゾアの身体はみるみる溶けていいき、最後には骨すら残ることはなかった。
それを見届けたセレーナは小さく息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。
「お父さん、お母さん、仇は討てたよ」
こうしてセレーナの仇討ちは無事に果たせた。




