世界樹①
無事にエイクスュルニルの洗脳を解いた俺達はエルフの里で休養をとっていた。
「おお、あれほど減っていた魔力がみるみる回復していく」
流石はエルフの里と言ったところか、特殊な薬草を調合した丸薬によって大量に消費した筈の魔力をある程度は回復出来た。
「はい、終わりましたよ」
「ブルルゥッ!」
脚に怪我を負っていたグラニもユフィアの回復魔法によって完全に完治して嬉しそうにしている。
エイクスュルニルは身体の方は自慢の回復力で完治しているので命に別状はないようだが、まだ意識を失ったままのそうだ。
おそらくあの目玉花に洗脳されていた影響だと思われる。今は里のエルフ達によって丁重に看護されている。
そして強硬派エルフ全員には里の地下牢で拘束されている。
奴隷にされていたエルフ全員の奴隷紋がない以上、奴らには命令を下すことは出来ない。それに魔法を扱えないように特別な処置を行なっているそうなので大丈夫だろう。
それにしてもS等級の魔物であるエイクスュルニルを洗脳していたあの目玉花、一体何だったんだ? あれも今回の黒幕であるエルゾアによるものだったのだろうか。
それを知るために里長であるエルシュさんの家で話を聞くことにした。彼女なら何か知っているだろう。
エルシュさんの話によると事の発端はやはり20年前に起きた人間族が治る大国の侵攻が原因だった。
圧倒的な兵の数を誇る大国からの侵攻を見事阻止した後、エルフの里は2つの派閥に分かれることになった。
1つは人間族とは極力関わず、争わないことを主張するエルシュさんが率いる穏健派。
もう 1つは人間族に深い恨みを持ち、根絶するべきだと訴えるエルゾアが率いる強硬派。
強硬派は大国の侵攻の際に家族を殺害されたり奴隷にされてしまったことで人間族に深い恨みを持っているエルフ達の集まりだった。
しかし数では圧倒的に穏健派の方が優っていたため、強硬派はいつしか同族からも疎まれる存在となった。
そんなある日、理由は不明だがエルゾアは突然強大な力を得た。彼は瞬く間にエルフの里を掌握し、穏健派エルフ達をまるで奴隷のように使役するようになった。
来るべき人間族の根絶のために……。
そしてその現状を打破するべく立ち上がったのが里を離れていたセレーナの父親だった。彼は妻の死がエルゾアによって引き起こされたことを独自で突き止めたのだ。
以前からエルゾアはエルフィリオ大森林で暮らしている人間族の母親を疎んでいた。しかし母親もA等級冒険者であったことから迂闊に手を出せずにいた。
しかし強大な力を得たエルゾア相手に母親は成す術なく殺されてしまい、怒る父親は仇を討つべく単身で挑むも返り討ちに遭い、見せしめの為に里のエルフ達の前で処刑した。
「これが貴方方が知りたがっていた真実です」
『………………』
重たい雰囲気が部屋を支配する。想像以上のことに俺達は思わず沈黙してしまう。
「嘘!」
最後の言葉言われる前にセレーナがバンッと机を叩きながら席を立つ。普段の彼女から考えられないほど動揺している。
「そんな、そんなの嘘よ……!」
そう言ってセレーナは家から飛び出してしまう。
「待ちなさいセレーナ!」
アイビーも続いてセレーナを追いかける為に出て行った。心配だがここは彼女に任せるとしよう。
「それでエルゾアは今何処に?」
「彼なら世界樹にいます。そこで人間族を根絶する為の準備をしている筈です」
どうやらエルゾアは里の統括を配下の強硬派エルフ達に任せて自身は世界樹で妖しげな実験をするようになった。
エイクスュルニルを洗脳していたと思われる目玉花もエルゾアの実験物であるとエルシュさんは答える。
そして奴は実験の 1つとして森の魔物達を捕獲させては世界樹へと運ばせ、時には森に入ってきた人間族でさえも捕らえて連れて行くようになったそうだ。
その捕えた人間族はこの森で行方不明になった人達で間違いないだろう。彼らの安否を確かめる為にも世界樹に行く必要があるようだ。
「俺達はエルゾアの野望を阻止しなくてはならない。世界樹の元へ行かせても貰う」
「……分かりました、許可しましょう。本来世界樹は我々エルフ族にとって聖地。外部の者に足を踏み入らせる訳にはいかないのですが、エルゾアの野望を止められるのは貴方方しかいないと思われます。ならばこれをお貸しします」
エルシュさんは机に変わった形のカンテラを置いた。どうやら普通のカンテラではないようで、魔力を感じられる。おそらくマジックアイテムの類だろう。
「これは導きのカンテラです。世界樹の周辺には道を迷わす霧が発生していて辿り着けることは不可能です。ですがこれがあれば無事に世界樹の元へ辿り着ける筈です」
「それは助かる」
俺は導きのカンテラを受け取り、空間収納にしまっておく。
「それと頼みがあるんだが、戦闘経験のあるエルフ達も世界樹に連れて行くことは可能だろうか?」
エルゾアと接触することになれば戦闘は必至だろう。相手の戦力は未知数だ。こちらも戦力は多いに越したことはない。
「……申し訳ありませんが、今の我々ではエルゾアと対面するだけで足が竦んでしまいます。戦闘のお役には立てそうにありません」
「……そうか」
まあ10年もの間奴隷にされた挙句に過酷な強制労働で苦しめられてきたんだ、恐怖を感じるのも仕方がないか。
「本来なら我々エルフ族で解決しなければならない案件なのに、貴方方にお任せして申し訳ありません。どうかエルゾアの野望を阻止し、このエルフィリオ大森林に平和を取り戻して下さい。お願いします」
「ああ、必ず阻止してみせる」
そう言って俺達はエルシュさんの家から出ることにした。
いつまで経っても戻ってこないので心配になった俺達はセレーナ達を探すことにした。
しかし何処を探しても見つからない。もしかしてもうエルフの里にはいないのだろうか?
そう思っていると、何処からともなく笛の音色が聞こえてくる。これは間違いなくセレーナのものだ。しかし、今聞こえる音色は何処か悲しげに感じる。
音色を頼りに森へと向かうと、そこにはまるで気持ちを落ち着かせるように笛を吹いているセレーナを見つけた。そしてそんな彼女をアイビーは只々静観している。
そして笛の音が鳴り止むと、セレーナは小さく息を吐く。
「落ち着かない時はこの笛を吹くの」
セレーナの笛は母親の形見で、そして笛の吹き方は父親に教わった。つまりこの笛を吹くことは家族との思い出を感じさせることのようだ。
それでもまだ焦操感は消えていないように思える。
まあ、すぐに落ち着けなんて無理な話だよな。
母親は事故ではなく他殺であったこと、そして10年も待ち続けた父親も既に無くなっていると知ればこうなるよな。
けれど今は一刻も早く世界樹へと向かわなければならない。
「俺達はこれからエルゾアの野望を阻止しに世界樹へと向かう。2人はどうする?」
戦力が多いことに越したことはないのだが、今のセレーナは精神が不安定な様子だ。そんな状況ではまともな戦闘を行うことは出来ないだろう。
「……行く。お母さんやお父さんを死なせたエルゾアを絶対に許すわけにはいかないわ!」
「セレーナが行くならアタシも行くわよ!」
どうやらいらぬ心配だったようだ。これなら連れて行っても問題ないなさそうだ。
「分かった。それじゃあ行くとしよう」
俺達はエルゾアに会うべく、世界樹の元へ向かうのだった。




