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救世のルファディア  作者: yato
第2章 世界樹編
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姉妹②

 明日の朝にこの住処を離れることを条件にここで寝泊まりする許可を貰った。


 ある程度2人と打ち解けたつもりだが、やはりアイビーは完全に俺達を信頼しているわけではないようだ。


 俺達はその条件を受け入れて今夜だけここに泊まらせて貰うことにした。このまま夜の森のど真ん中で眠るよりは遥かに良い。


 その代わりにセレーナはエルフィリオ大森林の外について色々と教えた。彼女は森の外から一度も出た事がないのでとても興味があるようだ。


 俺はこの世界に召喚されて日が浅いので詳しいことはユフィアが説明してくれた。


 セレーナは生まれてから1度も同年代の女性と話したことがなく、ユフィアも王女という立場状、友達と呼べる人がいなかったのでお互い楽しそうに話をしていた。


 それから暫くした後、話疲れたのか2人は眠ってしまったので俺も眠ることにした。


 それから数時間後。何か小さな物音がしたので目を覚ます。どうやらセレーナが起きたようだ。


 セレーナはそっと立ち上がると、そのまま外へと行ってしまう。


 何処に行くつもりなのだろうか?


 気になってセレーナに気づかれないように後を追うことにする。


 住処の老木から暫く歩き続ける。こんな真夜中にセレーナは何処に行くつもりなんだ?


 もしかして何か秘密でもあるのだろうか? だとしたら……って、セレーナは!? しまった、考え事をしている間に彼女を見失た。


 こんな真夜中の森の中で1人孤立してしまった。どうしよう……。


 まさかの事態に頭を悩ませていると、何処からともなく綺麗な音色が聞こえてきた。


 「こっちか……」


 その音色がする方へと進むと、そこには幻想的な光景だった。


 月明かりの下、湖面にある岩の上でセレーナは笛を吹いていた。


 その笛から奏でられるのはとても美しく、聴いているだけでとても心を落ち着かせる見事な音色だった。


 ……ん?


 何処からか現れた小さな光がスゥッ、と俺の真横を横切った。


 あれは、蛍か? いや、あれは蛍ではないな……。


 小さな光はセレーナへと近づき、まるで戯れるように彼女の周りを漂う。


 よく見ると小さな光は1つだけではない。1つ、また1つと次々にセレーナの側へと集まってくる。


 「みんな、今日も来てくれてありがとう!」


 まるで会話をしているためのようにセレーナが話しかけると、小さな光もまるで嬉しそうに飛び回る。


 「あれは一体……」


 「あれはこの森で生まれたばかりの精霊達よ」


 「--っ!?」


 突然の声に振り返ると、そこにはララがいた。


 「あれが精霊だって?」


 「ええ、そうよ」


 アイビーが言うには精霊族は自然の力が意思を持つことで誕生する存在のようだ。


 生まれたばかりの精霊はまだ魔力の調整が上手く出来ないので、人の姿になるまでには相当な時間がかかるらしい。


 「あの精霊達はセレーナが奏でる笛の音色が好きなのよ。だからセレーナは毎晩あそこで笛を吹きに来るの」


 なるほど。確かにあのような素晴らしい音色なら毎晩でも聴いてみたいものだ。


 「それで、覗きなんていい趣味してるわね? やっぱり人間族は最低ね」


 「人が気が悪いことを言うな。セレーナがこっそり出歩くから気になっただけだ」


 「それはアンタ達がこの森に来た事と関係しているのかしら?」


 「何だって?」


 「アンタ達はセレーナに薬草採取のためにこの森に入ったと言ったそうだけど、大抵の薬草は森の入口あたりで見つけられるはずよ。本当は別の目的があるんでしょ?」


 「……」


 どうやらアイビーには全てお見通しのようだ。


 「……分かった。全て話すよ」


 俺はアイビーに全てを話した。


 最近このエルフィリオ大森林で植物の巨人が人間を連れ去っていることを。そして俺達はその植物の巨人を操る黒幕を探していることを。


 「なるほどね。ところで私はその黒幕として疑われているのかしら?」


 「……いいや。最初はそう思ったがセレーナがあれ程慕っている君だからな」


 確かにアイビーはユフィアが見た植物の巨人を操ることが出来るが、彼女は俺達をこの森から追い出そうとしただけだった。


 もし彼女が黒幕だとしたら、今頃こんな風に話をしてはいられなかっただろう。

 

 「あらそう。それなら良いわ。やってもないことで因縁をつけられたらたまったもんじゃないわ」


 「だけど人間族を攫う黒幕が君ではないとしたら、誰がそんなことを? 君はこの森で生まれた精霊だ。何か知っているんじゃないか?」


 「そんなこと知らないわ。まあでも、人間族を憎む奴なんてこの森にはたくさんいるわよ。例えばエルフ族の連中とかね」


 「……エルフ族か」


 確かに20年前の侵攻によってエルフ族は人間族を毛嫌いするようになった。怨恨によってこの森に入って来た人間族を襲うのは十分あり得ることだ。


 それにアイビーと戦闘をして分かったことがある。


 それはあの植物の巨人はウッズタイタンという魔法で作られた物だと言うことだ。それなら森属性の適性があり、魔力が高く、その魔法を習得している者なら誰にでも可能だ。


 エルフ族は高い魔力を持つ種族だ。もしエルフの里の誰かが冒険者を襲っているという可能性も有り得る。


 そうと決まれば明日にでもエルフ族が住むとされる里にでも行くとするか。


 「人間族嫌いなエルフ族が住む里に赴くなんて自殺行為よ」


 俺の心を見透かしているかのようにそう答えるララ。


 「だとしたら何か良い方法を考えないとな。例えば……そうだ、セレーナに頼んでみよう」


 セレーナはエルフ族だ。同じエルフ族である彼女が居れば少しでも警戒心が薄れるかもしれない。


 「それは絶対に駄目」


 だが、アイビーははっきりとそれを拒否した。


 「セレーナはエルフの里には入れないのよ」


 アイビーの言葉に俺は思わず首を傾げてしまう。


 「どうしてだ? セレーナはエルフ族だろう? そもそもどうしてエルフ族である筈の彼女がこんなところで暮らしているんだ?」


 「それは……」


 俺の質問にアイビーは少し困ったような表情を浮かべるが、小さく溜息を吐いてその理由を告げた。


 「……セレーナはエルフ族と人間族との間に生まれた存在だからよ」


 そしてアイビーは昔の出来事を話し始める。


 今から20年程前、人間族が治る大国がエルフィリオ大森林に侵攻して来た後の出来事。


 エルフ族である男と人間族の女が恋に落ちた。


 人間族の女はエルフィリオ大森林には薬草を採取する為に訪れたそうだ。そんな彼女は魔物に襲われ重傷を負ってしまう。


 そこにエルフ族の男が魔物から女を救い、看護した。互いに敵同士だと思っていた両者だったが、次第に惹かれ合うようになった。


 しかしそんな2人の関係をエルフ族は快く思わなかった。


 元々エルフ族は純血を重んじる種族で他種族との恋愛は禁じられていた。それがエルフィリオ大森林を侵略しようとした人間族が相手なら尚更だった。


 男は同族に疎まれることになろうとも女との愛を選び、エルフの里を離れて森の外れでひっそりと暮らすようになった。


 結ばれて数年後に2人との間には可愛らしい女の子が生まれて名前をセレーナと名付けて親子3人は幸せな時間を過ごした。


 しかしその幸せも長くは続かなかった。


 セレーナが生まれて7年後に母親は不慮の事故で亡くなり、それから数日後に父親は行方不明になってしまった。


 まだ7歳であるセレーナだけでは危険な魔物が生息するこの森を生き抜く力は無く、そんな彼女を見かねたアイビーが手助けするようになり、いつしか2人は本当の姉妹のような関係になったそうだ。


 「人間族の血が混じっているセレーナはエルフ族にとって忌み嫌われる存在。そんな彼女がエルフの里に近づいたらどうなるか分かるでしょう? あの娘を危険に晒さないでよね」


 「ああ、分かったよ」


 それを聞いたら流石にセレーナに頼むことは出来ないな。俺達のせいで彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかないしな。


 「さて、どうしたもんかな……」


 思いの外困難な状況に俺は夜通し頭を悩ますことになるのだった。

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