聖都襲撃③
俺は数多くのアンデッドを討ちながらユフィアがいると思われる聖城へと赴いていた。
城内には何人ものの兵士や騎士団員が何者かによって斬り伏せられており、非常事態が起きていることを示唆させる。
『アガアアアァァァッ!』
すると、既に息がないはずの兵士や騎士団員達に異変が起きる。聖都の広場にいたアンデッドのような姿で襲い掛かってきた。
「--ちっ! こいつらもアンデッドなのか!?」
舌打ちしながら、既に意志なきアンデッドとなった兵士や騎士団員達を次々と殲滅していきながら、おそらくユフィアがいるであろう玉座の間へと向かう。
「ようやく着いたぞ」
玉座の間に辿り着くと、黒肌の男が禍々しい雰囲気を放つ黒剣をユフィアへと振り下ろそうとしている状況を目にする。
俺は魔力纏鎧で身体能力を底上げするとユフィアと男との間に割って入り、ミスリルスピアを振るってその凶刃ごと男を弾き飛ばす。
「何とか間に合ったみたいだな」
思わず安堵の声を漏らしながら視線をユフィアへと向ける。
「大丈夫か? ユフィア」
「はい、ルイ様!」
良かった。少しばかり服などがボロボロになってはいるが怪我はそこまでしていないようで何よりだ。
けれど安心と同時に怒りの感情が湧いてくる。おそらくユフィアをこんな目に遭わせたのは目の前の人物で間違いないだろう。
俺は男に鋭い視線を向けると、忌々しいそうに男は表情を曇らせていた。
「貴様、生きていたのか……」
ん? 男の声は何処かで聞いたことがあるぞ。もしかしてこいつはデュークか? しかし外見が随分と変わっているな。
「ルイ様、デューク騎士団長は邪神側に寝返ってしまいました。今の彼は邪神の眷属です
! 逃げて下さい!」
「何!?」
ユフィアの言葉に俺は驚嘆する。この世界に来てようやく掴んだ邪神の情報。まさかこんなところで邪神の眷属に出会えるなんて俺はツイているぞ。
「グラニ、ユフィアを頼むぞ」
「ブルルゥッ!」
任せろと言わんばかりにグラニは喉を鳴らす。
「私の部下が貴様を始末しに行ったはずだ。どうして生きている?」
「生憎、その部下なら全員倒させて貰ったよ。まさかはと思っていたが、まさかお前がこの騒動の黒幕だったようだな」
「そうだ。偉大なる邪神様に頂いたこの魔剣の力を駆使してこの聖都に混乱をもたらしたのは私だ」
まるで自慢するかのように手にしている黒剣を見せてくる。
魔剣オーメンス
遥か昔に『禁忌の魔剣』と呼ばれた邪神の遺産。死者をアンデッドに変化させて思いのまま操ることができる。
どうやらあの魔剣がこの騒動の原因のようだな。邪神の遺産というだけあって不気味な雰囲気を感じるな。
「この力で聖都を見事に陥落させた時、再び邪神様は姿をお見せして下さると約束された。その時こそ私は邪神様の側近として永劫にお仕えすることになっているのだ! ははは、これでエルゾアやゴーガ達よりも上になれるぞ!」
なるほど、こいつの言う通りならこいつは邪神の居場所を知らないようだな。まだ邪神の眷属となってまだ日が浅いのかもしれない。
それにエルゾアとゴウガ。おそらくこいつと同じく邪神の眷属の名だろう。これは良い情報を手に入れたぞ。
「お前にはもっと情報を吐いて貰うぞ」
そう言って俺はミスリルスピアを渾身の力で振るう。
「がはっ!?」
ミスリルスピアの柄による強烈な一撃が鎧を破損させながらデュークに直撃すると、奴は苦痛の表情を浮かべながら吐血した。おそらく今の肋骨が折れただろうが、命に別状はないだろう。
「……なかなかやるな。今度はこちらの番だ!」
しかしデュークはそんな怪我など意に介さぬ様子で魔剣を振り払ってきた。
「ぐっ」
俺はミスリルスピアでそれ防ぐが、予想以上の怪力に弾き飛ばされてしまう。
何だ今の一撃は? 重傷を負っているはずなのにあれ程の攻撃が可能なのか?
もしかして回復系のアイテムでも所持していたのかもしれない。
「だったらこれならどうだ!」
俺はミスリルスピアでデュークに目掛けて絶え間なく突き続ける。高速で放たれる刺突の数々がデュークの身体を貫き、至る所に風穴を作っていく。致命傷は避けているから命に別状ないだろうけど、これで奴はもう身動き取れないだろう。
「ははははは、痛い、痛いぞぉぉっ……!」
血を撒き散らしながらもデュークはまだ笑い悶えている。
「おいおい、気でも狂っているのか?」
デュークの言動に不気味さを感じていると、奴の身体に異変が起きる。ミスリルスピアによって風穴だらけになった奴の傷が、まるで粘着質な音を立てながら塞がっていく。
「無駄だ、この程度の攻撃で不死身となった私を殺すことは不可能だ」
「不死身だと?」
デュークの言葉に俺は思わず眉を顰める。俺はあらためて奴のステータスを見てみることにした。
名前:デューク=カルストル
種族:人間族
適性:火属性
魔力:200000
魔法: ファイアショット(小)・ファイアジャベリン(中)・エクスプロージョン(大)
加護:不朽腐敗
不朽腐敗
自身をアンデッドにする代わりに不死身の肉体を与え、触れる物を腐敗させる。
やはり奴のステータスが更に変化していた。
しかも種族が人間族になっている。恐らく奴は魔剣の力で自らをアンデッドにすることで生きている時よりも高い身体能力を得たようだ。
そして不朽腐敗という加護。これが1番厄介だ。説明文通りなら今のこいつを倒すことは不可能だと言うことだ。
「さあ、不死身のアンデッドとなった私に絶望しながら死ぬがいい!」
そう言ってデュークは魔剣を横薙ぎに振るうと、そこから放たれるのは黒い斬撃。俺はミスリルスピアでそれを防ぐが奴の攻撃は続く。
「ちっ!」
俺は舌打ちしながらミスリルスピアを振り払うと、奴の胴体を真っ二つに両断した。
けれど胴体を切断されたデュークだが、それでも余裕の笑みは消えることはなく、まるで磁石のようにくっついてしまう。
しかしそれだけではなかった。
ふと違和感を感じてミスリルスピアを見てみると、穂先が徐々に腐敗していたのだ! まさかミスリル製でも腐敗させてしまうのか!
「私の身体は不死身だけではない。私の肉体を傷つけようとするものは全て腐敗させる。貴様の自慢の槍もそれでは使い物にならないな」
そんなの有りかよ。大切なミスリルスピアをこんなにしやがって。絶対にこいつだけは許さない。
「アンデッドなら浄化系の魔法で倒せる筈です。ターンアンデット」
魔法を発動したユフィアから聖なる光がデュークへと放たれる。アンデッドとなった奴なら効果は高い筈だ。
しかし、それでも奴は余裕の笑みを浮かべている。
「だから無駄だ。この魔剣の力で私は強力なアンデッドとなったのだ。普通のアンデッドとは格が違う。浄化魔法では倒せんよ」
やはりその程度では奴を倒すことは出来ないようだな。予想以上に厄介な相手だ。さて、どうしたものか……。
どうやってデュークを倒そうかと頭を悩ませせているその時だった。
--我の……。
何だ? 突然頭の中に声が聞こえた。
--我の名を呼べ……。
名を呼べだって? 一体誰なんだ? それにどこにいるんだ?
--我が名はレイヴェル。遥か昔より其方を待っていた存在。
俺を待っていただって? それに何故だか、この声の主の名を知っているような気がした。
「来い、レイヴェル!」
まるで導かれるように、俺はその名を叫んでいた。
すると女神像に亀裂が走り、瞬く間に全体へと広がっていくと、音を立てながら粉々になってしまう。
だが、壊れた女神様のあった場所には黄金の槍が宙を浮いていた。黄金の魔力を纏っているその槍を見ているだけで圧倒される程の神聖さを感じさせる。
なるほど、俺に語りかけてきたのはあの槍だったのか。
すると、槍は俺の方へと近づいてきた。まるで俺に使えと言っているようだ。
俺は直感に従い、その槍に手を振れる。手にするだけでも分かる尋常ではないほどの神聖な魔力に思わず身震いしてしまう。
一度、この槍について知る為に鑑定慧眼を発動する。
神槍レイヴェル
古の時代に女神レイシアによって生み出された神器の1つにして伝説の槍。幻の金属であるオリハルコンで造られており決して破壊することは不可能。規格外な神聖を有しており如何なる不浄な存在をも浄化する破魔覆滅の加護を持つ。
おいおい、こいつはとんでもないチート武器ではないか! これなら不死身のデューク相手でも対処することが出来るかもしれないぞ!
「何だ、その槍は!?」
デュークも突然の出来事に動揺が隠しきれていない様子で隙だらけだ。
「はあっ!」
俺は直ぐ様デュークへと接近して神槍を振るうと、奴の左腕を容易く切断する。
「ぎゃああああああっ!!」
切断面から大量の血を噴出させながらデュークが断末魔の悲鳴を上げる。
「何だこの激痛は!? それに何故腕が再生しない!?」
やはりアンデッドとなったデュークに神槍の一撃は想像以上のダメージを与えられているようだ。それに神槍によって奴の加護が無力化されて再生の力が発揮出来ていないようだ。これなら奴を倒せるぞ。
「ふざけるなよ冒険者風情が!!」
すると再びデュークの身体に異変が起きる。奴の肉体は徐々に肥大化していきまるで20メートル近くはある巨人型アンデッドへと姿を変貌した。その代償なのかそのせいか生前とは掛け離れた醜い容姿へと変わっている。
「シネ、ボウケンシャアァァァァァッ!!」
もはや理性が暴走しているのかデュークは手当たり次第に暴れ始める。そしてその巨腕を俺に目掛けて振り下ろしてくる。
俺はその巨腕による一撃を回避すると同時に神槍を振るって反撃をする。
しかし肥大化しただけでなく予想以上に硬く、切断する程の傷は与えられなかった。神槍のお陰で再生はしていないようだが、あの巨体を仕留めるにはかなり骨が折れそうだ。
俺が頭を悩ませていると、再び神槍から僅かな光が放たれる。それは魔力を込めろと言っているようだった。
「分かったよ」
俺は神槍を信じてありったけの魔力を神槍へと込め始める。すると俺の魔力に呼応するかのように神槍が尋常ではないほどの輝きを発する。
そして俺は神槍の穂先をデュークへと向けると、そこから金色の光線が放たれる。
「ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!?」
神槍から放たれた金色の光線を浴びた瞬間、尋常ではない断末魔を上げるデューク。あらゆる不浄をも浄化させる聖なる力が瞬く間に奴の腐敗した巨体を光の粒子にして消滅させていく。
「オタスケクダサイ、ジャシンサマァァァァァァァッ!!」
邪神に救いを求めるデュークだがそんな都合の良いことが起きるはずも無く、奴は恐怖と絶望を含めた表情を浮かべながら完全に消滅した。
それによりアンデッド発生の原因であるデュークが消滅したからなのか、玉座の間にいたアンデッド達も倒れ、そのまま消滅してしまった。この様子だと聖都中のアンデッドも消滅しているだろう。
「ふう」
俺は一安心してその場に座り込む。先程の一撃を放つのにかなりの魔力を消費したからな。疲れた。
「ルイ様!」
そんな俺へとユフィアが駆け寄ってくる。
「これで一件落着だな」
「はい、ありがとうございます! ルイ様!」
こうして邪神側へと寝返った反逆者デュークが巻き起こした聖都への襲撃を無事に解決することが出来たのだった。




