聖都襲撃①
ユフィアと悲しい別れをした翌日。
俺は朝一から聖都を出て オルフィンへと向かうことにした。
それにこれ以上聖都にいるのは正直辛い。あそこにいるとどうしてもユフィアのことを考えてしまうからだ。
「ブルルゥ……」
グラニが「大丈夫?」とでも言うかのように目を細めながら喉を鳴らす。
それにグラニもユフィアと別れて寂しいようだ。
「俺は大丈夫だ。心配させてすまないな」
俺はグラニの頭を撫でていたその時だった。
--警告。敵意のある人物達がこちらに向かってきています。
「……グラニ、止まってくれ」
「ブルルゥ」
聖都を一望出来る見晴らしの良い丘でまでグラニを走らせたところで一度止まらせる。
「悪いがグラニ、少し離れていてくれ」
「ブルルゥ」
俺はグラニに指示を出して、追跡してくる奴らに備える。
丘の下から、全員同じような黒いローブを身に纏い、顔には素顔を隠すため奇妙な模様が描かれた黒い仮面を付けている者達の騎馬が丘を一列に登ってきていた。如何にも暗殺者みたいな格好だな。
「何だお前達は?」
『……』
俺の問いに沈黙を決め込む。だが俺に殺意があるのは間違いない。暗殺者と言うのはあながち間違ってないいないかもな。
一応、解析慧眼でこいつらのステータスを見てみるが表示されない。どうやら仮面には隠蔽機能があるのかもしれないな。
「……貴様にはここで死んで貰う」
次の瞬間、暗殺者の1人がそう呟くと同時に鞘の剣を抜くと、俺に襲いかかる。
「おっと」
俺はミスリルスピアでその一撃を防ぐ。よくみると暗殺者の剣の刀身は紫色をしていて、不気味な感じがする。鑑定してみるか。
ポイズンソード
刀身に猛毒が付与されている剣。この剣で傷を付けられると、猛毒が体内を侵食して命を削る。
どうやら俺を殺す気満々のようだ。ならばこちらもそのように対処するとしよう。
「死ね」
俺は強引に暗殺者の足を払ってバランスを崩させる。それによって生じた隙を狙ってそのまま暗殺者を両断する。
「まず1人」
そう呟きながら視線を他の暗殺者達に向ける。そして一瞬で2人目の暗殺者との間合いを詰めて心臓を一突きして、その命を終わらせる。
「2人目」
残りの暗殺者は2人。俺を警戒してるのか、2人で俺を取り囲むように少しずつ距離を縮めてくる。
けれど残念なことに俺にも相棒がいる。
「ヒヒィーン!!」
「がはっ!?」
グラニの強烈な突進により3人目の暗殺者が吹き飛ぶ。数メートルまで転がった暗殺者はそのままグラニに背中を踏み抜かれてしまう。
「ぎゃああああああっ!」
背骨をへし折られた暗殺者は悲鳴を上げながらしばらく痙攣をしていたが、やがてピタリと動きを止めて息を引き取る。
「ちっ……!?」
あまりにも悍ましい光景に最後の暗殺者が怖気ついたのか逃亡を図ろうとする。だが、そうはさせない。
「逃がすかよ。マナチェーン」
魔力の鎖が逃亡する暗殺者へと伸び、身柄を拘束する。こいつは生け捕りだ。何故俺の命を狙ったのかを聞き出さなくてはならないからな。
俺は捕らえた暗殺者に近づくと、質問をする。
「お前達は何故、俺を狙ったんだ? 目的は何だ?」
「……」
捕らえられてもなお口を閉ざす暗殺者。ならば少し強引なやり方になるな。
「……うぐ!」
すると、暗殺者が大きく痙攣を引き起こし始める。尋常ではない様子だ。
「--っ!? まさか毒か!?」
おそらく、万が一の為に毒を口の中に毒を仕込んでいたのだろう。気がついた時にはもう遅く、暗殺者は息絶えてしまう。
結局、情報は得られなかった。ならせめて、顔だけでも拝ませて貰おう。
俺は暗殺者が付けている仮面を取る。
「……こいつは!?」
仮面を外して暗殺者達の素顔を見て俺は思わず驚愕してしまう。何故なら暗殺者のうち2人はユフィアを迎えに来た使者である騎士だったからだ。
他の暗殺者達の仮面を外してみると、全員が謁見の間にいた騎士団員達だった。
どうしてこいつらが俺の命を狙っているんだ? 俺が一体何をしたのだろうか? まったくもって意味が分からない。
理解出来ない状況に混乱していると--
「ブルルゥッ!」
突然、グラニがある方向を向きながら唸り声を上げた。グラニの視線を追ってみると、聖都がある方角だった。
「何だ、あれは……?」
そこには異常な光景が目に入った。聖都の上空に不気味な魔法陣が浮かんでいる。何か尋常ではない様子だ。
「……ユフィア!」
次の瞬間、ユフィアの顔が脳裏に浮かんだ。ユフィアが危ない!
「聖都に戻るぞグラニ!」
「ヒヒィーンッ!」
俺は急いでグラニに跨り、全力で聖都へと向かうのだった。
◆◆
辿り着いた聖都の光景はまさに混乱と表現する状態だった。あれほど美しいかった街並みが荒らされており、一部の建物等が破壊されている。
その原因が大量の魔物に襲われているからだ。それも全てアンデッドのようだった。
スケルトン
種族:不死種
等級:E
魔力:100
スケルトン
アンデッド型の魔物。人間の白骨が瘴気を宿して魔物化した存在。非常に脆く、単純な行動しか出来ない。
ゾンビ
種族:不死種
等級:D
魔力:200
ゾンビ
アンデッド型の魔物。爛れた肉体のまま彷徨い続け、新鮮な肉を求めて人々を襲って食らい続ける。
グール
種族:不死種
等級:C
魔力:1500
グール
アンデッド型の魔物。肉体の殆どが再生している為、常人と変わらない身体能力を持つ。より食欲が増し、凶暴になっている。
主にこの3種類の魔物が街を襲っている。
「騎士団の誇りにかけて魔物を殲滅するぞ!」
『おう!』
大量の魔物は聖騎士団が対処しているようだ。そして住民達も瓶に入った水のような物を魔物達に振りかけており、それにより撃退しているようだ。
聖水
神聖な儀式によって生成される聖なる水。不死種の魔物を退け、浄化させる効果を持つ。
どうやら聖水はアンデッド達に強力な作用を持つアイテムのようだ。けれどあまりにも魔物の数が多すぎるので数が足らず、状況は芳しくないようだ。
このままでは被害者が出るのも時間の問題だろう。
「一気に片付けるぞグラニ!」
「ブルルゥッ!」
俺とグラニはアンデッド達の群れへと突撃する。
「カタカタっ!」
まずはスケルトン。まるで笑っているかのように骨を鳴らしながら動いている様子はまさに不気味な感じだな。
「カタカタッ!?」
そして俺に気がついたのか、1体のスケルトンが俺の方へと向かってくるが、動きはとても遅かった。
考えてみれば、当たり前の話かも知れないな。魔物とはいえスケルトンは骨だけの存在だ。生物は身体を筋肉などで動かしているから、それがないスケルトンの動きが遅いのは至極当然のことだろう。
「はあっ!」
俺はスケルトンへと一気に距離を縮めると、そのままミスリルスピアを振るう。
すると、バキバキッ、と嫌な音を立てながら次々とスケルトンの身体を構成する骨を砕いていく。
やはり骨だけの身体は耐久性がほぼ皆無のようだ。強い衝撃を与えるだけで意図も容易く骨が砕けるようだ。これなら素手でも倒せそうだ。
「カタカタッ!?」
まるで悲鳴のように骨を鳴らすスケルトン達。幾つもの骨が砕かれたせいで支えを失ったのか、バラバラとその場に崩れ落ちると、そのまま動かなくなってしまった。
「オオオォォォ……」
次はゾンビだ。
白骨だけのスケルトンと違い、全身に肉がついているのである程度人間に近い外見をしている。
ただし、普通の人のように綺麗な肌というわけではなく、身体の殆どが腐食しているので、悪臭がとても酷く、所々欠損箇所がある。
中には眼球が取れかけている個体もいるので、ホラーが嫌いな人がこれを見たら気絶するかもしれないな。
「オオオォォォ……」
まるで呻き声のような声を上げながらゾンビは剥き出しの歯で俺に噛みつこうとしてくる。
肉がついたお陰で流石にスケルトンのように耐久が低いわけではないようだが、それでも動きは遅い。
「ふんっ!」
簡単にゾンビの攻撃を回避すると、そのまま額をミスリルスピアで貫く。僅かに感じる肉が腐食したような感触が何とも気持ちが悪い。
額を貫かれたことでゾンビは倒れ、そのまま動かなくなる。
「アアァァァアッ!」
最後にグール。
腐敗していた肉が殆ど再生しており、褐色の皮膚に所々に水膨れのような腫れがあるだけでほぼ人と変わらない外見をしている。
特徴的なのは鋭い爪が生えているということだろう。それを振り回して街の人達の肉を切り裂こうとしている。
「させるかよ!」
街の人に被害が出る前に俺はグールに目掛けてミスリルスピアを振るう。
「アァアッ!?」
すると、グールは俺の攻撃に気付いたのかそれを回避して鋭い爪を振り下ろしてくる。
「おお?」
やはり動きはゾンビの時よりも素早く、しかも腕力も強くなっているようだ。これなら低等級冒険者では相手にならないだろう。
だが残念ながら、相手が悪かったようだな。
「そらっ!」
俺は強引にグールの足を払って地面へと倒し、そのままミスリルスピアを胸部へと突き刺す。
「アアアァァァッ!!」
けれどグールは突き刺されたミスリルスピアを引き抜こうと足掻き続ける。やはり頭部に致命傷を与えなければならないようだ。
俺はミスリルスピアを引き抜き、すぐさま頭部へと突き刺してとどめを刺す。
こんな感じで広場にはびこる魔物達を蹂躙していく。幸いこちらにはグラニがいたのでそれほど苦ではなかった。
俺とグラニで広場にいる魔物は全て片付けて終える頃には住民達の避難も無事に終わっていた。
「よし、ユフィアの元に行くぞ!」
だがそんな時、明らかに他の魔物とは別格の雰囲気を纏う異形の魔物が出現する。
2メートルはあろうかと思わせる体躯に毒々しい赤紫色の皮膚、肥大化した両腕には鋭い鉤爪が備わっており、かろうじて人型を保っているような外見をしている。
ドラウグ
種族:不死種
等級:B
魔力:4000
アンデッド型の魔物。強靭な肉体を持ち、戦闘能力が飛躍的に向上している。食欲よりも殺戮本能が強い。鋭く発達した鉤爪には毒があり、掠めただけでも生身を腐食させる。
B等級魔物か。それも2体いる。
「グラニ、片方は頼むぞ」
「ブルルゥッ!」
グラニは任せてくれと言いたげに喉を鳴らす。
「行くぞ!」
俺は片方のドラウグへと距離を詰め、ミスリルスピアを振るう。
するとドラウグはミスリルスピアを振り切る前に柄の部分をその左巨腕で受け止めると、もう片方の右巨腕を俺の頭頂部を狙い一点に振り下ろしてくる。
「--チッ」
舌打ちしながら俺は後方へと飛んでドラウグの攻撃を回避する。
振り下ろされた右巨腕の威力は凄まじく、小さなクレーターが作られる。もしあれが直撃したら重傷は免れないな。
「ウガアァァァァアッ!」
奇声のような雄叫びを上げながらドラウグはまたもや右巨腕をこちらへと振り下ろしてくると、今度は伸びてくる。
「何!?」
まさか腕が伸びるとは思わなかったので一瞬だけ判断が停止し、回避するのが遅れた。ドラウグの鋭い爪が俺の右頬を掠めると、僅かだが腐食している。
そういえば奴の鉤爪には腐食性の毒が含まれていたっけな。
だが、相手が悪かったようだな。俺にはどんな状態異常を無効化させる異常無効の加護があるからな。たとえどんな毒であっても俺には効かない。それに自動回復の加護のお陰で腐食した傷は瞬く間に回復していく。
「ウガァ!?」
自慢の毒も効かず傷も回復されて動揺する様に……いや、まるで恐怖する様に一歩引くドラウグ。
それを見逃す俺ではなかった。
「マナチェーン!」
魔力の鎖を出現させてドラウグを拘束する。
「ウガアァァァァァァアッ!!」
咆哮を上げながら強引にその怪力で自身を拘束している魔力の鎖を引き千切るドラウグ。やはり小魔法程度では奴を拘束し続けるのは不可能のようだ。
だが、僅かではあるが動きを止められたお陰で充分な間合いは詰められた。俺は渾身の力を込めてミスリルスピアを横薙ぎに振るって首を断つ。
「グガッ!?」
短い悲鳴と共にドラウグは絶命する。
「ヒヒーンッ!!」
いななきと共にグラニは前足を振り下ろして地面へと倒れているドラウグの頭部を踏み潰している。どうやらグラニの方も無事に片付けたようだな。
これでユフィアの元に行ける。
そう思っていたのだが、まるで俺達が魔物を倒すのを見越していたかのように地面に次々と魔法陣が出現。そしてその中から複数のドラウグが姿を現す。
「マジかよ……」
どうやらまだまだユフィアの元へは行けそうにないようだ。
「必ず向かうからな、ユフィア!」




