リスティング神聖国②
枢機卿について行き、俺は応接室へと案内される。
案内された部屋は豪華なテーブルと十数人が座れると思われる椅子が並んでいる。
部屋で待っていると扉が開き、聖王様と王妃様、そしてユフィアが入ってくる。
「ここは謁見の間ではない。座るとよいぞ」
「はい。失礼します」
そう言いながら聖王様は1番先に真ん中の椅子へと座り、それに続いて皆がそれぞれの椅子へと座り始める。
俺は枢機卿に促されて聖王様の対面に座ることになる。
「ルイ殿、まずは礼を言わせてくれ。我が愛娘であるユフィアを救ってくれたこと、本当に感謝している」
聖王様が頭を下げると、それに習って王妃様やユフィア、そして枢機卿も頭を下げ始める。
「皆様、頭を上げてください。自分は当然のことをしたまでです」
俺の言葉を聞いて皆、頭を上げる。
「ありがとう。だがこれは王としてではなく、1人の父親として礼を言わせてくれ」
どうやらこの聖王様はかなりの親バカ--人格者のようだ。それはユフィアを見れば一目瞭然か。
「さて、それではまずそなたに与えた【聖者】の称号について詳しく説明いたそう。枢機卿」
「畏まりました」
聖王様に促されて枢機卿が【聖者】の称号について説明してくれる。
【聖者】とはリスティング神聖国に対して高い功績を上げた者にのみ贈られる名誉ある称号のことらしい。
この称号を与えられた者は社会的地位が向上し、位の高い聖職者とある程度同じ立場を得ることができるらしい。
「しかし、信徒でもない自分がこのような名誉な称号を授かって本当によろしかったのでしょうか?」
謁見の間で唯一俺に【聖者】の称号を与えることに唯一反対していたデューク団長。彼のあの物言いからすると、この称号は本来信徒以外の者に与えられるのはあり得ないことのようにも思えた。
「うむ。確かに【聖者】の称号を与えた者達の殆どが信徒である。しかし謁見の間で言ったが、例外が無いわけでもない」
聖王様が言うにはリスティング神聖国の信徒以外で【聖者】の称号を与えられた人は過去に1人いるらしい。
その人物とはS等級冒険者にして冒険者ギルドのギルドマスターを務める男--ルーヴァス=ガオラその人だった。
ギルドマスターは20年程前にリスティング神聖国に攻めてきた大量の魔物をたった1人で殲滅して民を救った功績で【聖者】の称号を与えられたようだ。
その時の縁で聖王様とギルドマスターは仲が良いらしい。
「さて、【聖者】の称号についての説明も終わったところで別の話をしよう。単刀直入に言おう。ルイ殿、我が国に仕える気はないか?」
「え?」
突然の勧誘に俺は思わず息を呑む。
勿論、周囲の人達も驚いた顔をしている。
「もし其方が正式な信徒となりこの国に仕えてくれるのであれば心強い。どうだ、特別待遇で迎えるぞ」
まさか聖王様から直々に勧誘させるとは思いもよらなかったな。本来なら相当良いことなのだろう。だが俺にはやるべき事がある。
「有難い申し出ではありますが、お断りさせて頂きます。自分にはやるべき事がありますので」
そう、俺には女神様に与えられた大きな使命がある。だからこそ誰にも縛られず自由に行動できるオルフィンで冒険者として活動しているのだ。
「そうか。無理を言って済まなかったな」
潔く諦める聖王様。少しガッカリしている様子だ。
「それでルイ殿はいつまでこの聖都に滞在するつもりなのだ?」
「そうですね、この聖都に有名な観光名所があると聞きました。なので観光の為にしばらくは聖都に滞在しようかと思います」
「そうか。楽しむと良い」
「はい。ありがとうございます」
俺は聖王様に感謝の言葉を告げる。
「ではルイ殿、今日は其方を盛大に持てなそう」
こうして俺は聖王様が準備してくれた会合の後に、聖都で1番の宿屋を用意されてそこで一晩を明かすのだった。
◇◇
深夜の聖都ルーメル。
聖都の片隅に、周囲とは明らかに雰囲気が異なる廃れた豪邸が建っていた。
焼きレンガ等によって建てられているが、外壁には蔦が這い、ひび割れが目立つことからろくに手入れをされていないのが良く分かる。
到底人が住める状況ではないが、そんな建物の広場には周囲には全員が黒いローブを身に纏い、顔が分からないように黒い仮面を付けている謎の集団が集まっていた。
「皆、よくぞ集まってくれた」
そしてその中心には 1人だけ他の者とは違い白いローブと白色の仮面を付けた男--ロドスに聖女ユフィアを誘拐するように命じた人物だ。
やがて黒仮面達の視線が全て集まると、白仮面は再び言葉を発する。
「諸君、いよいよ我等の悲願が成就する時が来た。今、このリスティング神聖国は偽りの神を信仰している邪教徒の国へと成り下がっている。偽りの信仰を正す為に我々は立ち上がらなくてはならない」
白仮面の言葉に黒仮面達は身じろぎ一つせずに聞き入る。
「予定は少し狂ったが計画に支障はない。各自儀式の準備を整えておけ」
白仮面の指示を受けて黒仮面達は行動を開始する。すると1人の黒仮面が問う。
「ところであのD等級冒険者--ルイという人物は如何しましょう?」
「あの男か……」
その名前を聞いて、白仮面は忌々しそうに顔を歪める。
これまで白仮面の計画は全てD等級冒険者のルイによって邪魔をされた。今後も計画の邪魔になる可能性は大いにあった。
「奴は我々の邪魔になる可能性がある存在だ。念の為に消しておけ」
「分かりました」
そう言って黒仮面達は部屋を後にした。
「クソ、どうして計画がこうも上手くいかないのだ。これも全てあのD等級冒険者の仕業だ。奴さえいなければ今頃は……」
白仮面は湧き上がる怒りの衝動を何とか抑えると、視線を壁に飾られている黒剣へと向ける。
「かくなる上は最後の手段を使うことになるか」
触れてみるとより一層その禍々しさを肌で感じ取ると、白仮面は笑みを浮かべる。
「これを使って聖都を混乱の渦へと陥れてやる。そして我が主の悲願を必ず果たしてみせよう」
白仮面は不気味に光る黒剣を掲げながら不敵に笑うのだった。




