使者③
オルフィンを出立し8日が経過した。
スティールクロウの群れに衝撃されて以降、魔物の警戒は怠らないようにしながらリスティング神聖国に向かっている。
それに敵は魔物だけとら限らない。例えば盗賊とか。
--警告。盗賊が近くに潜んでいます。
どうやらお出ましのようだ。
「全員止まれ。近くに盗賊が潜んでいるらしい」
『--ッ!?』
俺の言葉に騎士達は馬を止める。
街道の脇からあきらかに盗賊っぽい格好をした輩が10人、いや15人程の数が馬車の前に姿を現す。
「ほう、まさか気づいていたのか? なかなか勘が鋭いんだな、お前……」
如何にも盗賊のリーダーっぽくて顔に傷がある男が話しかけてくる。手には両刃の曲剣を持っている。
「馬車の中にいる【聖女】を俺達に差し出しな。そうすれば楽に殺してもやるぞ」
どうやらこいつらの狙いはユフィアのようだ。おそらく身代金目的に誘拐するつもりなのだろう。
「まさかあの男、ゴドスか?」
騎士の1人が盗賊リーダーの顔を見るとそう呟いた。
あの盗賊リーダーは相当名が知れ渡っている奴らしい。一応ステータスを見させて貰おうかな。
名前:ゴドス
種族:人間族
適性:雷属性
魔力:6700
魔法: サンダーアロー(小)・サンダージャベリン・(中)
加護:なし
賞金:3000000リル
なるほど。流石は盗賊のリーダーを務めていると言ったところか。なかなかのステータスのようだな。
ん? 今回のステータスには賞金という項目があるな。あいつには賞金がかけられているのか。
しかもその金額はなんと3000000リルだった! こいつは何としても欲しい!
でもこういう場合はどうすればいいのだろうか? 相手は魔物ではない。人だ。生け捕りにした方がいいのだろうか?
「あの、1つ聞きたいのですが?」
俺は隣にいた騎士に話しかける。
「何だ、こんな時に……!」
「盗賊を殺したら罪になるんですか?」
「そんなことも知らないのか? そんなの罪になるわけないだろう!」
罪にはならないのか。それなら。
「遠慮はいらないな」
瞬きの間に1番近くにいた盗賊に急接近して俺はミスリルスピアを振るう。
「がっ!?」
ミスリルスピアが盗賊の首を捉えると頭が撥ね飛ぶ。残された首元から赤い血が吹き出しながら倒れる。
……初めて人を殺した。初めて魔物を殺した時もそうだったが恐怖感や罪悪感は一切感じられない。やはり状態無効の加護が影響しているのだろうか?
だが今はそれでいい。殺らなければこちらが殺られる状況なんだ。それに相手は極悪非道の盗賊だ。罪悪感なんて感じる必要はない。
「まず1人」
俺はミスリルスピアに付いた血を振り払うと、次の標的へと視線を向ける。
「来いよ」
「な、舐めるんじゃねえ!」
「ふんっ」
「ぎゃあっ!?」
俺の挑発に腹を立てた2人目の盗賊が剣を振り回しながらこちらに迫ってくる。盗賊の剣の腕はお世辞にも上手くないので容易く屠ることができた。
「このガキがっ!」
「ぶっ殺してやる!」
まだ実力の差を理解していない盗賊達が怒りに身を任せながら攻めてくる。けれど次の瞬間にはその命を散らすことになる。
「くそ、【聖女】を人質にとれ!」
正攻法では俺に勝てないと判断したのか、ゴドスが部下に指示を出してユフィアを狙おうとする。盗賊らしい姑息な手だが奴らがユフィアに指一本すら触れることはなかった。
「ブルルゥッ!」
「ぐげっ!」
馬車付近に待機していたグラニによる強力な後ろ蹴りをもろに受けた盗賊が数メートル先まで吹っ飛んでしまい、少し痙攣を引き起こした後、完全に動かなくなってしまう。
「ナイスだグラニ。ユフィアを頼むぞ」
「ブルルゥ!」
グラニは任せてくれと言わんばかりに声を上げると、期待に応えて次々と盗賊達を蹴散らしていく。
「……っ! 我々もユフィア様をお守りするのだ!」
「「はっ!!」」
ようやく我に返ったデューク団長が他の騎士達と共に戦闘を開始する。
どうやらこの盗賊団はリーダーであるゴドス以外は大した程ではないようだな。ならば雑魚達は騎士達に任せて俺は本命のゴドスを狙うとしようか。
俺は視線をゴドスの方へと向けると、奴の姿がなかった。よく見ると既に離れた場所まで走り去っていた。
「逃げたか!」
どうやら状況が不利だと判断して逃走したようだ。くそ、仲間を置いて逃げるなんて盗賊というのはそれ程仲間意識が薄いもののようだな。
「グラニ!」
「ブルゥッ!」
俺はすぐさまグラニに跨り、残りの盗賊を騎士達に任せてゴドスを追跡する。
既にかなりの距離まで逃げられていたがグラニの疾走の方が断然速く、瞬く間にゴドスに追いつくことができた。
「くそ、D等級冒険者風情が調子に乗るなよ! サンダージャベリン!」
往生際の悪いゴドスは雷属性魔法を発動する。奴の前に魔法陣が出現し、そこから雷の槍が放たれる。
しかしそれが俺に当たることはなかった。
「マジックキャンセル」
俺の魔法が発動すると、こちらに迫ってくる雷の槍が一瞬にして消えてしまう。
「何!?」
自慢の魔法が不発に終わってしまい、ゴドスは驚愕の表情を見せるがすぐに曲剣をこちらに向けて叫ぶ。
「くそが! こんなところで……このまま終わってたまるかよ! 俺の人生はまだまだこれからなんだよ!」
ゴドスはこちらに大きく跳んで曲剣を振るってくる。
「はあっ!」
俺はそれを迎撃する為にミスリルスピアを振るうと、ゴドスの曲剣はパキンッ、と音を立てながら折れてしまう。
「う、嘘だろ!?」
「終わりだ」
驚愕の表情を浮かべるゴドスに目掛けて俺はミスリルスピアを突き出すと穂先がゴドスの胸部を貫いた。
「がっ!?」
ゴドスは苦しげな表情を浮かべると口から吐血して、膝を地面につく。
「くそ、あの野郎、話が、違うじゃねえ、か……」
そう言い残してゴドスは事切れた。
「ふう、何とか取り逃さずに済んだな」
あのままこいつに逃げられていたら賞金が貰えなくなるからな。仕留められて本当に良かった。
馬車の方を見ると残りの盗賊達も騎士達に一掃されている。
俺はゴドスの死体を空間収納で回収し、馬車の方へと戻る。
しかし、今思えば今回の盗賊による襲撃は少し不自然に思える。
なぜ、ゴドスはあの馬車にユフィアが乗っていることを盗賊達は知っていたのだろうか?
どうして俺のことをD等級冒険者だと知っていたのだろうか?
そして死ぬ間際にゴドスが言っていた言葉。何者かがユフィアに関する情報を漏洩したとでも言うのか?
どうやらこの一件、何か裏があるのかもしれないな……。




