聖女②
ユフィアを連れて市場を歩く。
ちなみにグラニは俺達に気をつかってくれたのか、風見鶏亭で待機してくれている。本当に気の利くから助かる。
「見てくださいルイ様、あれは一体何でしょうか?」
「ん? 何だろうな」
視線を向けると、そこには変わった料理を作っている屋台を発見する。
屋台に掛けられている看板には『フルーネ』と書かれている。おそらくこれが料理の名前なのだろう。
「すいません、このフルーネとはどんな食べ物なんだ?」
興味が湧いた俺は店主に話しかける。
「フルーネは小麦粉や卵などを混ぜた薄くて焼いた生地を新鮮な木苺で巻いたもので、辺境にある俺の故郷に伝わる料理さ」
ふむ、見た感じだと地球でいうクレープに似た料理みたいだな。
「とても良い匂いがしますね」
「食べてみるか?」
「良いんですか!?」
「ああ、俺も少し小腹が空いたからな」
そう言って俺たちはフルーネ2つを店主から購入して、少し離れたベンチへと腰掛ける。
「ほら」
俺はフルーネをユフィアに手渡す。
「ありがとうございます! いただきますね!」
嬉しそうにユフィアはフルーネを受け取ると、可愛らしく食べる。
「ん〜!?」
ユフィアの表情が驚きに彩られ、興奮し始める。
「とても美味しいです!」
どうやら気に入ったようだな。さて、俺もいただきますか。
俺もフルーネを口にする。
ふむ、生地は少し硬めだがこれはこれで歯応えがあって良いな。
生地に包まれているのは木苺はとても甘酸っぱい。おそらく砂糖水を使って漬けているのだろう。
確かにこのフルーネは美味い。けれど少し物足りないな。
何故ならこのフルーネには生クリームが使われていないからだ。店主に聞くと生クリームのことは知らないようだ。
他にもチョコレートやカスタードクリーム等と言ったスイーツに必要な甘味はこの世界にはまだないようだ。
甘味好きな俺にとっては少し残念に思ってしまう。けれど無いものをねだっても仕方がないことだ。機会があれば作ってみたいな。
「それにしても美味しそうに食べるな。王女様のユフィアならもっと美味しい料理をたくさん食べてきているだろう?」
貴族や王族の料理はいつも豪華なイメージがある。
しかし俺の言葉にユフィアは小さく首を横に振るう。
「そんなことはありません。王族の食事は主に体調管理を重視した食事が多いですから、この串焼きのように味が濃すぎる食事を出されるのはとても稀です。それに食事の時間も決められていますから、こうして好きな時に食べることもできません」
そういうものなのか。やはり貴族や王族っていうのは窮屈なんだな。
「それにしても、こんなにのびのびと過ごせたのは初めてです。いつもなら執務や巡礼等の時間ですから」
やはり王女として生まれたユフィアは一般人では考えられない人生を歩んでいるのだろうな。こうして羽を伸ばすことも許されない程に。
「だからこうして、ルイ様と一緒にいられるのはとても楽しいです!」
「そうか……」
こんな俺と一緒にいられて楽しいか。そこまで言ってくれると嬉しく思ってしまうな。ならばせめてこの時間だけでも普通の女の子として楽しませてあげようじゃないか。
「よし、今日は思う存分楽しもうか」
「はい!」
それから俺達は色々な店を見て回った。
服屋に入ると修道服ではなく可愛らしい服装に着替えさせた。ユフィアは美人で気品があって華があって、おまけにスタイルも良いのでどんな服でも良く似合っていた。
面白そうな遊戯をしている店に訪れると存分に遊んだ。輪投げや的当て等といった祭りで出そうなものだったが、ユフィアはまるで子供のように楽しんでいる様子だった。
劇場に行くと最近流行っているとされる劇を見た。悲劇な運命を背負ったお姫様を勇気ある騎士に助けられて結ばれるという内容だった。それに感動したユフィアは最後の方泣いていた。
美味しそうな料理が売っている店を見つければその味に瞳を輝かせながら夢中になって頬張る様子はまるで栗鼠のようでとても可愛らしかった。
こうして俺達は有意義な時間を過ごしていった。しかし楽しい時間なんてあっという間に過ぎるさるかものだ。
「素敵な夕日です」
夕焼け色に染まっている空を眺めながらユフィアは呟いた。
賑やかだった市場に並んでいる露店の殆どはもう片付けを始めており、人もだいぶ少なくなっていた。
「ルイ様、今日は本当にありがとうございました。こんなに楽しい時間を過ごせたのは初めてです」
「構わないよ。俺も楽しい時間を過ごせたからな」
そう、本当に楽しかったのだ。この世界に転生して、知人もいないこの世界で誰かとこうして遊んだりするのは初めてだった。
まるで転生する前の高校生活を思い出させてくれるようだ。
それにユフィアがこんなにも喜んでくれたのなら俺も何だか嬉しく思ってしまう。
「ユフィア、これを受け取ってくれるか?」
この楽しい時間の締め括りとして俺は懐に収めていたそれをユフィアに渡す。
「これは?」
「今日の記念、てところかな」
俺がユフィアに渡したのは綺麗な青い宝石があしらわれた髪飾り。彼女が街の露店に目を奪われている隙にこっそりと買っておいたものだ。
「王女様が付けるには少し安物過ぎるかもしれないが、受け取ってくれると嬉しいかな」
「……そんなことありませんよ」
髪飾りを受け取ったユフィアは受け取った髪飾りを嬉しそうに見つめると、それを自身の髪へと付ける。
やはりユフィアの金色の髪によく似合っているな。
「綺麗だよ、ユフィア」
俺は思ったことをそのまま告げた。
「ありがとうございますルイ様。私はこれを一生大切にします」
夕日に照らされながら微笑むユフィアはとても美しく、目を奪われてしまう。
この時の聖女の笑顔を俺は生涯忘れることはないだろうと、そう思うのだった。




